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糖尿病性腎症

執筆者:

Navin Jaipaul

, MD, MHS, Loma Linda University School of Medicine

最終査読/改訂年月 2018年 1月
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糖尿病性腎症は,糖尿病による代謝および血行動態の変化に起因する糸球体の硬化および線維化である。悪化する高血圧および腎機能不全を伴って緩徐に進行するアルブミン尿として発症する。診断は病歴,身体診察,尿検査および尿中アルブミン/クレアチニン比に基づく。治療は厳格な血糖コントロール,アンジオテンシン阻害(ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬を使用),ならびに血圧および脂質のコントロールによる。

糖尿病性腎症は成人のネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群の概要 ネフローゼ症候群では,糸球体疾患が原因で尿タンパク排泄量が3g/日を超え,これに浮腫および低アルブミン血症が伴う。小児でより多くみられ,原発性および続発性いずれの原因もある。診断は随時尿検体の尿タンパク/クレアチニン比測定または24時間蓄尿での尿タンパクの測定により,原因は病歴,身体診察,血清学的検査,腎生検に基づき診断される。予後および治療は原因によって異なる。 (糸球体疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む の最も一般的な原因である。糖尿病性腎症は米国での末期腎臓病の最も一般的な原因でもあり,症例の最大80%の原因である。腎不全の有病率は1型糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病(DM)はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリンお... さらに読む 患者ではおそらく約40%である。2型糖尿病患者の腎不全の有病率は,通常は20~30%とされているが,この数値は低い可能性がある。腎不全は特定の人種グループで特によくみられ,例として黒人,メキシコ系アメリカ人,ポリネシア人,ピマ族インディアンなどが挙げられる。その他の危険因子としては以下のものがある:

  • 高血糖の期間および程度

  • 高血圧

  • 脂質異常症

  • 喫煙

  • レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系に影響を及ぼす特定の遺伝子多型

  • 糖尿病性腎症の家族歴

  • 遺伝的変異(糸球体数の減少)

2型糖尿病はしばしば認識される数年前から存在するため,腎症は糖尿病の診断から10年未満で発生することが多い。

腎症の発生から腎不全に至るまでには通常10年以上を要する。

病態生理

発生機序は小血管疾患から始まる。病態生理は複雑であり,タンパク質の糖鎖付加,ホルモンに影響されたサイトカイン放出(例,形質転換増殖因子β),メサンギウム基質の沈着,糸球体血行動態の変化が関与する。過剰濾過は早期の機能異常であり,腎不全の発生に関する相対的な予測因子でしかない。

高血糖が原因で起こる糸球体タンパク質の糖鎖付加は,メサンギウム細胞の増殖および基質拡大ならびに血管内皮の損傷をもたらしている可能性がある。糸球体基底膜は古典的には肥厚する。

びまん性または結節性の毛細血管内糸球体硬化症の病変は特徴的であり,結節性糸球体硬化症の領域は,Kimmelstiel-Wilson病変と呼ばれることもある。輸入細動脈および輸出細動脈に著明な硝子化および動脈硬化が認められ,間質線維化および尿細管萎縮が存在する場合がある。メサンギウム基質の拡大のみが末期腎臓病への進行と相関するようにみえる。

糖尿病性腎症の説明

糖尿病性腎症は糸球体過剰濾過(GFR上昇)として始まり,GFRは早期の腎障害 急性腎障害(AKI) 急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣... さらに読む および軽症高血圧 高血圧の概要 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,または原発性アルドステロン症に起因する。高血圧は重症となるか長期間持続しない限... さらに読む 高血圧の概要 に伴い正常化し,時間とともに悪化する。その後,微量アルブミン尿(尿中へのアルブミン排泄,範囲30~300mg/日)が発生する。これらの濃度の尿中アルブミンが微量アルブミン尿と呼ばれる理由は,ルーチンの尿検査の尿試験紙でタンパク尿を検出するためには通常アルブミン300mg/日超が必要であることによる。微量アルブミン尿は,通常は数年かけて顕性アルブミン尿に進行する(様々な経過でタンパク尿が300mg/日を超える)。ネフローゼ症候群(タンパク尿3g/日以上)は平均約3~5年で末期腎臓病に進行するが,この期間にも大きなばらつきがある。

一般的に糖尿病性腎症に併発し,腎機能の低下を加速しうるその他の尿路異常には,乳頭壊死,4型尿細管性アシドーシス 尿細管性アシドーシス 尿細管性アシドーシス(RTA)は,腎臓における水素イオンの排泄障害(1型),重炭酸塩の再吸収障害(2型),またはアルドステロンの産生もしくは反応の異常(4型)によってアシドーシスと電解質異常が生じる病態である。(3型は極めてまれであるため,ここでは考察しない。)無症状の場合もあれば,電解質異常の症候を呈する場合や,慢性腎臓病に進行する場合もある。診断は,誘発試験に反応した尿pHおよび電解質の特徴的な変化に基づく。治療はpHおよび電解質平... さらに読む UTI 尿路感染症(UTI)に関する序論 尿路感染症(UTI)は,腎臓(腎盂腎炎)が侵される上部尿路感染症と,膀胱(膀胱炎),尿道(尿道炎),および前立腺(前立腺炎)が侵される下部尿路感染症に分類される。しかしながら,実際には(特に小児では)感染部位の鑑別が困難または不可能な場合もある。さらに,感染はしばしば1つの領域から別の領域へと拡大する。尿道炎と前立腺炎も尿路が侵される感染... さらに読む がある。糖尿病性腎症では通常,腎臓の大きさは正常以上(長さ10~12cm以上)である。

症状と徴候

糖尿病性腎症は早期には無症状である。持続的な微量アルブミン尿が最初期の警告的徴候である。未治療の患者の大半では,最終的に高血圧とある程度の就下性の浮腫(dependent edema)が出現する。

後期段階では,尿毒症の症候(例,悪心,嘔吐,食欲不振)が糖尿病性腎症のない患者と比べて早く(すなわち,GFRがより高い時期から)出現することがあり,これはおそらく糖尿病に起因する末梢臓器障害(例,神経障害)と腎不全の併発が症状を悪化させるためである。

診断

  • 糖尿病患者の全例で随時尿の尿中アルブミン/クレアチニン比の年1回スクリーニング

  • その他の腎疾患の徴候に対する尿検査(例,血尿,赤血球円柱)

  • 糖尿病の病歴がごく短く重度のタンパク尿

  • 糖尿病網膜症が存在しない

  • 重度のタンパク尿の急速な発症

  • 肉眼的血尿

  • 赤血球円柱

  • GFRの急速な低下

  • 腎臓が小さい

尿タンパク

ルーチンの尿検査でタンパク尿を検査し,タンパク尿が認められる場合,患者がすでに糖尿病性腎症を示唆する顕性アルブミン尿を有することから,微量アルブミン尿の検査は不要である。尿検査でタンパク尿が認められない患者では,アルブミン/クレアチニン比を朝の尿検体から算出すべきである。3~6カ月以内に3回採取した検体のうち2回以上で比が0.03mg/mg以上(30mg/g以上)となり,かつ感染症または運動によって説明されない場合は,微量アルブミン尿が示唆される。

一部の専門家は24時間蓄尿による微量アルブミン尿の測定を推奨するが,このアプローチは簡便性が低く,多くの患者は検体の正確な採取が困難である。随時尿によるアルブミン/クレアチニン比は,65歳以上の患者の最高30%において24時間蓄尿による微量アルブミン尿を過大評価し,これは筋肉量の低下によりクレアチニン産生が低下するためである。不正確な結果は極めて筋肉質の患者または尿採取前に激しい運動をした場合にも引き起こされる可能性がある。

タンパク尿を呈する糖尿病患者のほとんどでは,診断は臨床的である。腎生検により診断の確定が可能であるが必要になることはまれである。

スクリーニング

既知の腎疾患がない1型糖尿病患者は,タンパク尿および(ルーチンの尿検査でタンパク尿が認められない場合は)微量アルブミン尿のスクリーニングを診断の5年後から開始し,その後は少なくとも年1回の頻度で施行すべきである。

2型糖尿病の患者は,診断時およびその後毎年スクリーニングすべきである。

予後

綿密な治療とモニタリングを受けた患者は予後が良好である。しかしながら,このようなケアは実際にはしばしば困難であり,大部分の患者は緩徐に腎機能を失い,さらに高血圧前症(血圧120~139/80~89mmHg)またはステージ1高血圧(血圧140~159/90~99mmHg)ですら障害を加速する可能性がある。全身性の動脈硬化性疾患 アテローム性動脈硬化 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む アテローム性動脈硬化 (脳卒中,心筋梗塞,末梢動脈疾患)は,死亡率上昇の予測因子である。

治療

  • 糖化ヘモグロビン(HbA1c)を7.0以下に維持する

  • 積極的な血圧コントロールをアンジオテンシン阻害により開始する

血糖コントロール

主な治療はHbA1c値7.0以下を維持するための厳格な血糖コントロールであり,正常血糖の維持により微量アルブミン尿は減少するものの,糖尿病性腎症が十分に確立した後では疾患の進行は遅延しないことがある。

血圧コントロール

血糖コントロールには,血圧130/80mmHg未満への厳格なコントロールも伴わなければならないが,一部の専門家は現在,血圧140/90mmHg未満を推奨している。血圧を110~120/65~80mmHg未満にすべきであり,特にタンパク質排泄量が1g/日を上回る患者はすべきであるという提案もあるが,血圧120/85mmHg未満は心血管死亡および心不全の上昇と関連するとの主張もある。

アンジオテンシン阻害が第1選択の治療法である。このため,ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬が第1選択の降圧薬であり,これらの薬剤により血圧およびタンパク尿が軽減され,糖尿病性腎症の進行が遅延する。ACE阻害薬は通常費用がより低いが,ACE阻害薬により持続性咳嗽がもたらされる場合は代替としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬を使用することができる。微量アルブミン尿が検出された場合,高血圧の有無にかかわらず治療を開始すべきであり,一部の専門家は,腎疾患の徴候が出現する以前であっても薬剤の使用を推奨する。

ほとんどの患者では,目標血圧を達成するためにアンジオテンシン阻害に加えて利尿薬も必要となる。起立性低血圧の症状が出現するか,血清クレアチニン値が30%を超えて上昇した場合は,用量を減量すべきである。

非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ジルチアゼムおよびベラパミル)もタンパク尿低下作用および腎保護作用を有しており,目標血圧を達成した際にタンパク尿に意味のある低下がみられない場合,またはACE阻害薬もしくはアンジオテンシンII受容体拮抗薬に対して高カリウム血症またはその他の禁忌を有する患者に使用することができる。

一方,ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(例,ニフェジピン,フェロジピン,アムロジピン)は,タンパク尿を軽減しないが,これらの薬剤は血圧コントロールでの有用な補助薬であり,ACE阻害薬との併用で心保護作用を示す可能性がある。ACE阻害薬と非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の併用により,タンパク尿低下作用および腎保護作用が亢進し,またこれらの薬剤のタンパク尿低下作用はナトリウム摂取制限によって強化される。非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬はβ遮断薬を投与されている患者では徐脈を増悪させる可能性があることから,慎重に使用すべきである。

脂質異常症

脂質異常症も治療すべきである。

糖尿病性腎症患者の脂質異常症治療では,スタチン系薬剤により心血管死亡率および尿タンパクが低下することから,同薬剤を第1選択の治療として使用すべきである。

その他の治療法

タンパク質の食事制限がもたらす結果は様々である。American Diabetes Associationは糖尿病および顕性腎症を有する患者に対して,タンパク質摂取量を0.8~1.2g/kg/日に制限するよう推奨している。有意なタンパク質制限は推奨されない。

ビタミンD補給は,一般的にコレカルシフェロール(ビタミンD3)による。

炭酸水素ナトリウムは,血清重炭酸濃度を22mEq/L超に維持するために投与し,これにより慢性腎臓病および代謝性アシドーシスの患者において疾患の進行が遅くなることがある。

浮腫に対する治療法としては以下のものがある:

  • 食事からのナトリウム摂取制限(例,2g/日未満)

  • 水分制限

  • 必要に応じてループ利尿薬(循環血液量減少を避けるため慎重に用量調節する)

腎移植

腎移植 腎移植 腎移植は最もよく行われる実質臓器移植である。(移植の概要も参照のこと。) 腎移植の主な適応は以下の通りである: 末期腎不全 絶対的禁忌としては以下のものがある: 移植片の生着を危うくしかねない併存症(例,重度の心疾患,悪性腫瘍),これらは徹底的なスクリーニングにより検出可能 さらに読む は,膵臓移植 膵臓移植 膵臓移植は,膵β細胞補充の一種で,糖尿病患者を正常血糖値に回復させることができる。(移植の概要も参照のこと。) レシピエントではインスリン注射のリスクが免疫抑制のリスクに変わるため,適格となるのは主に以下の患者に限られる: 1型糖尿病に腎不全を併発し,腎移植の候補である 膵臓移植の90%を超える症例で,腎臓が同時に移植される。 多くの施設で,標準的治療による血糖コントロールの度重なる失敗および無自覚性低血糖の発症も適格基準となっている。 さらに読む の同時または腎移植後施行の有無にかかわらず,末期腎臓病患者では1つの選択肢である。腎移植を受けた2型糖尿病患者の5年生存率はほぼ60%であるのに対し,腎移植を受けない透析依存患者の5年生存率は2%である(ただし,この統計はおそらくかなりの選択バイアスを示している)。2年後の腎同種移植片生着率は85%超である。

要点

  • 糖尿病性腎症は極めて一般的であり,後期まで無症状に経過することから,全ての糖尿病患者で考慮すべきである。

  • 全ての糖尿病患者を定期的に尿検査でスクリーニングし,タンパク尿がみられない場合は,朝の尿検体からアルブミン/クレアチニン比を算出する。

  • 血圧を積極的に治療し,通常はアンジオテンシン阻害により開始する。

  • 血糖をコントロールし,HbA1c値を7.0以下に維持する。

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