精巣腫瘍は15~35歳の男性で最も頻度の高い固形腫瘍であり,年間約8000例が罹患するが,死亡は約400例のみである。発生率は停留精巣を呈する患者で2.5~20倍高い。この過剰リスクは,10歳未満で精巣固定術が施行された場合は低下または消失する。癌は正常に下降した対側精巣にも発生しうる。精巣腫瘍の原因は不明である。
大部分の精巣腫瘍は原始胚細胞から始まる。胚細胞腫瘍はセミノーマ(40%)または非セミノーマ(何らかの非セミノーマ性の成分を含む腫瘍)に分類される。非セミノーマには,奇形腫,胚性癌腫,内胚葉洞腫瘍(卵黄嚢腫瘍),絨毛癌などがある。組織型の混在がよくみられる(例,奇形癌腫は奇形腫と胚性癌腫を含む)。精巣の機能的間質細胞癌はまれである。
腫瘍が限局しているように見える患者でも,潜在性にリンパ節または内臓転移を来している場合がある。例えば,精巣摘除後に治療が行わない場合,非セミノーマ患者のほぼ30%がリンパ節または内臓転移により再発する。転移のリスクは,絨毛癌で最も高く,奇形腫で最も低い。
精巣上体,精巣垂,精索で発生する腫瘍は,通常は良性線維腫,線維腺腫,腺腫様腫瘍,脂肪腫である。ときに肉腫が発生し,最も頻度が高いのは横紋筋肉腫で,主に小児で認められる。
症状と徴候
診断
多くの患者は自己検診中に腫瘤を発見する。若年男性には月1回の自己検診を奨励すべきである。
大部分の精巣腫瘤は悪性であるのに対し,大半の精巣外腫瘤は悪性ではないため,陰嚢腫瘤の原発部位と性質を正確に決定しなくてはならないが,これら2種の身体診察中の鑑別は困難なことがある。陰嚢超音波検査により精巣由来を確認できる。精巣腫瘤が確定された場合,血清マーカーのα-フェトプロテインとβ-ヒト絨毛性ゴナドトロピンを測定し,胸部X線を施行すべきである。その後は鼠径部の試験切開が適応となり,異常な精巣を操作する前には精索を露出しクランプする。
癌と確定された場合は,標準のTNM(tumor, node, metastasis)分類による臨床病期診断を行うため,腹部,骨盤,および胸部CTが必要となる( 精巣腫瘍のAJCC/TNM*病期分類および 精巣腫瘍のTNM分類および血清マーカーの定義)。治療中(通常は根治的高位精巣摘除術)に得られた組織は,重要な病理組織学的情報,特に各組織型の割合および腫瘍内への血管またはリンパ管の進入の有無について情報が得られる。これらの情報により潜在性リンパ節転移および内臓転移のリスクを予測することができる。非セミノーマ患者は,X線および血清マーカーが正常であり,限局性疾患を有しているとみられる場合にも,約30%の再発リスクを有する。セミノーマはこれらの患者の約15%で再発する。
精巣腫瘍のAJCC/TNM*病期分類
病期 |
原発腫瘍 |
所属リンパ節転移 |
遠隔転移 |
血清腫瘍マーカー |
0期 |
pTis |
N0 |
M0 |
S0 |
I期 |
pT1~pT4 |
N0 |
M0 |
SX |
IA期 |
pT1 |
N0 |
M0 |
S0 |
IB期 |
pT2 |
N0 |
M0 |
S0 |
pT3 |
N0 |
M0 |
S0 |
|
pT4 |
N0 |
M0 |
S0 |
|
IS期 |
pT/pTXは問わない |
N0 |
M0 |
S1~S3 |
II期 |
pT/pTXは問わない |
N1~N3 |
M0 |
SX |
IIA期 |
pT/pTXは問わない |
N1 |
M0 |
S0 |
pT/pTXは問わない |
N1 |
M0 |
S1 |
|
IIB期 |
pT/pTXは問わない |
N2 |
M0 |
S0 |
pT/pTXは問わない |
N2 |
M0 |
S1 |
|
IIC期 |
pT/pTXは問わない |
N3 |
M0 |
S0 |
pT/pTXは問わない |
N3 |
M0 |
S1 |
|
III期 |
pT/pTXは問わない |
Nは問わない |
M1 |
SX |
IIIA期 |
pT/pTXは問わない |
Nは問わない |
M1a |
S0~S1 |
IIIB期 |
pT/pTXは問わない |
N1~N3 |
M0 |
S2 |
pT/pTXは問わない |
Nは問わない |
M1a |
S2 |
|
IIIC期 |
pT/pTXは問わない |
N1~N3 |
M0 |
S3 |
pT/pTXは問わない |
Nは問わない |
M1a |
S3 |
|
pT/pTXは問わない |
Nは問わない |
M1b |
Sは問わない |
|
*AJCC/TNMの病期分類の定義については, 精巣腫瘍のTNM分類および血清マーカーの定義を参照のこと。 |
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Adapted from Edge SB, Byrd DR, Compton CC, et al: AJCC Cancer Staging Manual, 7th edition. New York, Springer, 2010. |
精巣腫瘍のTNM分類および血清マーカーの定義
予後
治療
根治的高位精巣摘除術が治療の基本であり,診断に重要な情報を得る上で有用であると同時に,その後の治療計画を立てる上でも役立つ。精巣摘除術の際に,美容整形として精巣プロステーシスを埋め込むこともある。シリコン製プロステーシスは,シリコン乳房インプラントに関する問題のために普及していない。一方,生理食塩水インプラントが開発されている。放射線療法または化学療法が予測される場合,生殖能力の保持を希望する男性には精子バンクを利用できる可能性がある。
放射線療法
リンパ節郭清術
非セミノーマに対しては,多くの専門家が後腹膜リンパ節郭清術を標準治療とみなしている。再発を予測する予後因子がない患者の臨床病期1期の腫瘍では,代替治療法は積極的なサーベイランスである(頻回の血清マーカーの測定,胸部X線,CT)。中等大の後腹膜リンパ節腫瘤を有する患者には,後腹膜リンパ節郭清および化学療法(例,ブレオマイシン,エトポシド,シスプラチン)が必要となる場合があるが,至適な順序は確立されていない。
一部の医療施設では腹腔鏡下でリンパ節郭清術が施行されている。全体としてリンパ節郭清術の最も頻度の高い有害作用は,射精障害である。しかしながら,神経温存郭清が可能であることも多く(特に早期の腫瘍),通常は射精機能を温存できる。