(肝臓の構造および機能 肝臓の構造および機能 肝臓は代謝的に複雑な臓器である。肝細胞(肝実質細胞)は以下の肝代謝機能を担っている: ビリルビン代謝の一段階としての胆汁の産生および排泄( ビリルビン代謝の概要を参照) 炭水化物のホメオスタシスの調節 脂質合成と血漿リポタンパク質の分泌 コレステロール代謝の調節 さらに読む と 肝疾患を有する患者の評価 肝疾患を有する患者の評価 病歴聴取と身体診察により,しばしば肝疾患の原因が示唆され, 肝胆道疾患の検査の範囲が絞り込まれる。 様々な症状が発生しうるが,肝疾患に特異的なものはほとんどない: よくみられる非特異的な症状として,疲労,食欲不振,悪心,また特に重度の疾患ではときに嘔吐がみられる。 脂肪性の軟便(脂肪便)は,胆汁うっ滞により十分な胆汁が腸管に到達しない場合にみられる。脂肪便がみられる患者では,脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の欠乏症のリスクがある。よくみ... さらに読む も参照のこと。)
急性肝不全の病因
全体でみると,急性肝不全の最も一般的な原因は以下のものである:
ウイルス,主にB型肝炎
薬物および毒性物質,アセトアミノフェンが最も多い
通常,発展途上国では,ウイルス性肝炎が最も一般的な原因と考えられ,先進国では毒性物質が最も一般的な原因と考えられている。
全体でみると,最も一般的な原因ウイルスは B型肝炎 B型肝炎,急性 B型肝炎は,しばしば血液感染するDNAウイルスによって引き起こされる。食欲不振,倦怠感,黄疸など,ウイルス性肝炎の典型症状がみられる。劇症肝炎や死に至ることがある。慢性肝炎は肝硬変および/または肝細胞癌につながる可能性がある。診断は血清学的検査による。治療は支持療法である。ワクチン接種で予防可能であり,曝露後もB型肝炎免疫グロブリンを使用することで発症を予防できるか,臨床症状を軽減することができる。... さらに読む ウイルス(D型肝炎 D型肝炎 D型肝炎は,B型肝炎ウイルスの存在下でしか複製できない不完全なRNAウイルス(δ因子)によって引き起こされる。頻度は高くないが,B型急性肝炎との同時感染またはB型慢性肝炎への重複感染として発生する。 ( 肝炎の原因, 急性ウイルス性肝炎の概要,および 慢性肝炎の概要も参照のこと。) D型肝炎は通常,血液感染か汚染された血液または体液の粘膜接触によって伝播する。感染した肝細胞内にはB型肝炎表面抗原(HBs抗原)で覆われたδ粒子がみられる。... さらに読む との同時感染が多い)であり,C型肝炎は一般的な原因ではない。他に原因となりうるウイルスとしては, サイトメガロウイルス サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス(CMV,ヒトヘルペスウイルス5型)は,重症度に大きな幅のある感染症を引き起こす。伝染性単核球症に類似するが重度の咽頭炎を欠いた症候群がよくみられる。HIV感染患者,臓器移植レシピエント,およびその他の易感染性患者において,網膜炎など重度の局所疾患が生じうる。新生児および易感染性患者では,重度の全身性疾患が発生することがある。臨床検査による診断は重症例において役に立ち,培養,血清学的検査,生検,抗原または核酸の検出な... さらに読む , エプスタイン-バーウイルス 伝染性単核球症 伝染性単核球症は,エプスタイン-バーウイルス(EBV,ヒトヘルペスウイルス4型)により引き起こされ,疲労,発熱,咽頭炎,およびリンパ節腫脹を特徴とする。疲労は数週間から数カ月間続くことがある。気道閉塞,脾破裂,および神経症候群などの重症合併症がときに起こる。診断は臨床的に,またはEBVの血清学的検査により行う。治療は支持療法による。 EBVは5歳未満の50%の小児が感染するヘルペスウイルスである。成人は90%以上がEBVに対して血清反応... さらに読む , 単純ヘルペスウイルス 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 単純ヘルペスウイルス(ヒトヘルペスウイルス1型および2型)は一般的に,皮膚,口腔,口唇,眼,および性器を侵す反復性感染症を引き起こす。頻度の高い重症感染症としては,脳炎,髄膜炎,新生児ヘルペスなどがあり,易感染性患者では播種性感染症もある。皮膚粘膜感染症では,紅斑上に集簇する有痛性の小水疱が生じる。診断は臨床的に行う;培養,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査,直接蛍光抗体法,または血清学的検査により確定診断が可能である。治療は対症療法で... さらに読む
,ヒトヘルペスウイルス6型, パルボウイルスB19 伝染性紅斑 伝染性紅斑は,パルボウイルスB19による急性感染症であり,軽度の全身症状と頬部から始まって主に四肢の露出部へ拡大する斑状または斑状丘疹状の発疹が生じる。診断は臨床的に行い,一般に治療は不要である。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼ... さらに読む
, 水痘帯状疱疹ウイルス 水痘 水痘は,通常は小児期にみられる急性の全身感染症であり,水痘帯状疱疹ウイルス(ヒトヘルペスウイルス3型)によって引き起こされる。通常は軽度の全身症状から始まり,その後すぐに斑状疹,丘疹,小水疱,および痂皮を特徴とする皮膚病変が群発して現れる。重度の神経系またはその他の全身性合併症(例,肺炎)のリスクのある患者は,成人,新生児,および易感染性患者,または特定の基礎疾患を有する患者などである。診断は臨床的に行う。重症合併症のリスクのある患者は... さらに読む
,A型肝炎ウイルス(まれ),E型肝炎ウイルス(特に妊娠中に感染した場合),出血熱を引き起こすウイルスなどがある(ウイルス性出血熱に関連するウイルスの大半は… アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症の概要 を参照)。
最も一般的な毒性物質は アセトアミノフェン アセトアミノフェン中毒 アセトアミノフェン中毒は,摂取から数時間以内に胃腸炎,および1~3日後に肝毒性を引き起こしうる。単回急性過剰摂取後の肝毒性の重症度は,血清アセトアミノフェン濃度から予測される。治療は,肝毒性を予防するかまたは最小限に抑えるN-アセチルシステインによる。 ( 中毒の一般原則も参照のこと。) アセトアミノフェンはOTC医薬品として販売されている100種類を超える製品に含まれている。製品には多数の小児用の液剤,錠剤,およびカプセ... さらに読む であり,その毒性は用量と関連する。アセトアミノフェンによる肝不全に対する素因には,既存の肝疾患,慢性飲酒,チトクロムP450酵素を誘導する薬物(例,抗てんかん薬)の使用などがある。その他の毒性物質としては,アモキシシリン/クラブラン酸,ハロタン,鉄化合物,イソニアジド,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),ハーブ製品に含まれる一部の化合物,タマゴテングタケ,キノコなどがある(薬物により引き起こされる肝障害 薬物により引き起こされる肝障害 多くの薬物(例,スタチン系薬剤)により,無症状の肝酵素値(アラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT],アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST],アルカリホスファターゼ)の上昇がよく引き起こされる。一方,臨床的に重大な肝障害(例,黄疸,腹痛,そう痒),すなわちタンパク質合成が障害される肝機能障害(例,プロトロンビン時間[PT]延長,低アルブミン血症)はまれである。 薬剤性肝障害(drug-induced... さらに読む を参照)。薬物の反応には特異体質性のものもある。
比較的まれな原因としては以下のものがある:
血管疾患
代謝性疾患
自己免疫性肝炎
血管性の原因には,肝静脈血栓症(バッド-キアリ症候群 バッド-キアリ症候群 バッド-キアリ症候群は,肝臓内の細い肝静脈から下大静脈,右房に至るまでのいずれかの部位で肝静脈流出路が閉塞する病態である。その臨床像は多様で,無症状のこともあれば,劇症肝不全に至ることもある。診断は超音波検査に基づく。治療には支持療法のほか,血栓溶解療法,シャントによる減圧および長期的な抗凝固療法のように静脈開存性を確立し,維持する方法がある。 ( 肝臓の血管障害の概要も参照のこと。)... さらに読む ), 虚血性肝炎 虚血性肝炎 虚血性肝炎は,血液または酸素の供給不足によりびまん性の肝傷害が生じる病態である。 ( 肝臓の血管障害の概要も参照のこと。) ほとんどの場合,原因は全身性の異常である: 肝灌流の障害(例, 心不全または急性低血圧によるもの) 低酸素血症(例, 呼吸不全または 一酸化炭素中毒によるもの) さらに読む , 門脈血栓症 門脈血栓症 門脈血栓症は,門脈圧亢進症を引き起こし,それにより通常は下部食道または胃の静脈瘤からの消化管出血を引き起こす。診断は超音波検査に基づく。治療としては,静脈瘤出血を(通常は内視鏡的結紮術,オクトレオチドの静注,またはその両方で)制御するとともに,β遮断薬のほか,ときには外科的シャントや急性血栓症に対する血栓溶解療法を用いて再発を予防する。 ( 肝臓の血管障害の概要も参照のこと。)... さらに読む ,類洞閉塞症候群(肝中心静脈閉塞症 類洞閉塞症候群 類洞閉塞症候群は,内皮細胞の損傷によって引き起こされ,肝静脈や下大静脈( バッド-キアリ症候群で障害される)よりむしろ,中心静脈および類洞の非血栓性閉塞が生じる。 ( 肝臓の血管障害の概要も参照のこと。) 静脈うっ滞により 門脈圧亢進症と虚血性壊死( 肝硬変につながる)が引き起こされる。 一般的な原因には以下のものがある: 放射線照射 さらに読む とも呼ばれ,ときに薬物または毒性物質が原因となる)などがある。代謝性の原因には, 急性妊娠性脂肪肝 妊娠脂肪肝 妊娠中の肝疾患は以下の可能性がある: 妊娠に特有 既存 妊娠と同時に生じ,おそらく妊娠により増悪 黄疸は,産科以外の病態によって起こることもあれば,産科の病態によって起こることもある。 さらに読む ,HELLP症候群(溶血,肝機能検査値上昇,血小板数低値), ライ症候群 ライ症候群 ライ症候群は,ある種の急性ウイルス感染に続発する傾向のある(特にサリチル酸系薬剤が使用された場合に多い),急性脳症と肝臓の脂肪浸潤のまれな病型である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。 ライ症候群の原因は不明であるが,症例の多くは A型もしくはB型インフルエンザまたは 水痘の感染に続発するようである。これらの疾病治療中にサリチル酸系薬剤(一般的にアスピリン)を使用した場合,発生リスクが35倍に上昇する。この知見により,米国では1... さらに読む , ウィルソン病 ウィルソン病 ウィルソン病では,結果として肝および他の臓器に銅が蓄積する。肝症状または神経症状が出現する。診断は,血清セルロプラスミン濃度の低値,銅の尿中排泄量の高値,およびときに肝生検の結果に基づく。治療は,低銅食およびペニシラミンまたはトリエンチンなどの薬物から成る。 ウィルソン病は,男女ともに罹患する銅代謝の障害であり,約30,000人中1人にみられる。罹患者は,13番染色体に位置する劣性遺伝子変異体がホモ接合型である。人口の約1... さらに読む などがある。その他の原因としては, 自己免疫性肝炎 慢性肝炎の概要 慢性肝炎は肝炎が6カ月以上続く場合をいう。一般的な原因としては,B型およびC型肝炎ウイルス,非アルコール性脂肪肝炎(NASH),アルコール性肝疾患,自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎)などがある。多くの患者では急性肝炎の病歴がなく,最初の徴候は無症候性のアミノトランスフェラーゼ高値である。受診時から肝硬変やその合併症(例,門脈圧亢進症)がみられる場合もある。確定診断とグレードおよび病期の判定のために,ときに生検が必要となる。治療は合併症と... さらに読む ,がんの肝転移,熱中症,敗血症などがある。原因を確定できない症例は20%に上る。
急性肝不全の病態生理
急性肝不全では,多くの器官系が機能不全に陥るが,その原因や機序はしばしば不明である。障害される系統には以下のものがある:
肝臓:初診時にほぼ全例で高ビリルビン血症がみられる。 高ビリルビン血症 高ビリルビン血症を引き起こす先天性代謝疾患 遺伝性または先天性代謝疾患では,非抱合型と抱合型のどちらの高ビリルビン血症も生じうる( ビリルビン代謝の概要を参照)。 非抱合型高ビリルビン血症:クリグラー-ナジャー症候群,ジルベール症候群,および原発性シャント高ビリルビン血症 抱合型高ビリルビン血症:デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) このまれな遺伝性肝疾患は,ビリルビンの(主にビリルビンジグルクロニド... さらに読む の程度は,肝不全の重症度の1つの指標である。肝臓での凝固因子の合成障害により,凝固障害がよくみられる。肝細胞壊死がみられ,これはアミノトランスフェラーゼ値の上昇で示される。
心血管系:末梢血管抵抗と血圧が低下し,心拍数および心拍出量の増加を伴う血流亢進が引き起こされる。
脳:,門脈大循環性脳症が生じる(可能性としては消化管内の窒素性物質によるアンモニア産生増加に続発)。急性肝不全に続発して重度の脳症を起こした患者では,脳浮腫がよくみられる;鉤回ヘルニアの可能性があり,通常は致死的となる。
腎臓:理由は不明であるが, 急性腎障害 急性腎障害(AKI) 急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣... さらに読む が最大50%の患者に起こる。血中尿素窒素(BUN)値は肝臓での合成能に依存するため,低値により解釈を誤る可能性があり,そのため腎障害の指標としてはクレアチニン値の方が適切である。 肝腎症候群 肝腎症候群 肝疾患はしばしば全身性の症状や異常を引き起こす。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 進行した肝不全では,低血圧によって腎機能障害が生じることがある。進行した肝不全または 肝硬変で生じる血流亢進(心拍出量および心拍数の増加)と低血圧の発生機序については,あまり解明されていないが,部分的には広範囲に及ぶ末梢血管拡張(splanchnic vasodilation)の代償機構である。肝硬変に寄与しうる因子と... さらに読む の場合と同様に,たとえ利尿薬を使用していなくとも尿中ナトリウム濃度とナトリウム排泄率が減少し,尿細管障害はみられない(アセトアミノフェン中毒が原因である場合に起こりうる)。
免疫系:オプソニン化の異常,補体の欠乏,白血球およびキラー細胞の機能障害など,免疫系の異常が発生する。消化管からの腸内細菌の移行が増加する。気道および 尿路感染症 尿路感染症 (UTI) に関する序論 尿路感染症(UTI)は,腎臓( 腎盂腎炎)が侵される上部尿路感染症と,膀胱( 膀胱炎),尿道( 尿道炎),および前立腺( 前立腺炎)が侵される下部尿路感染症に分類される。しかしながら,実際には(特に小児では)感染部位の鑑別が困難または不可能な場合もある。さらに,感染はしばしば1つの領域から別の領域へと拡大する。尿道炎と前立腺炎も尿路が侵さ... さらに読む と 敗血症 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む がよくみられ,細菌,ウイルス,真菌が病原体となりうる。
代謝: 代謝性 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の増加で,二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の上昇を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値またはほぼ正常範囲内である。一般的な原因としては,遷延性の嘔吐,循環血液量減少,利尿薬の使用,低カリウム血症などがある。アルカローシスが持続するためには,腎臓からのHCO3−の排泄障害が存在しなければならない。重症例の症状および徴候には,頭痛,嗜... さらに読む および 呼吸性アルカローシス 呼吸性アルカローシス 呼吸性アルカローシスは二酸化炭素分圧(Pco2)の一次性低下で,重炭酸イオン(HCO3−)の代償性の減少を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値または正常範囲に近い。原因は呼吸数の増加,呼吸量の増加(過換気),またはその両方である。呼吸性アルカローシスには急性の場合と慢性の場合とがある。慢性型は無症状であるが,急性型ではふらつき,錯乱,錯感覚,筋痙攣,および失神が生じる。徴候には過呼吸または頻呼吸および手足の攣... さらに読む の両方が早期に起こる可能性がある。ショックが発生した場合は, 代謝性アシドーシス 代謝性アシドーシス 代謝性アシドーシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の減少で,通常は二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の低下を伴う;pHは著明に低下するか,またはわずかに正常範囲を下回る。代謝性アシドーシスは,血清中の未測定陰イオンの有無に基づいて高アニオンギャップまたはアニオンギャップ正常に分類される。原因には,ケトン体および乳酸の蓄積,腎不全,薬物または毒素の摂取(高アニオンギャップ),消化管または腎からのHCO3... さらに読む が続発することがある。 低カリウム血症 低カリウム血症 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む がよくみられ,交感神経緊張の低下や利尿薬の使用が部分的に関与している。 低リン血症 低リン血症 低リン血症とは,血清リン濃度が2.5mg/dL(0.81mmol/L)未満となった状態である。原因にはアルコール使用障害,熱傷,飢餓,および利尿薬の使用がある。臨床的特徴としては,筋力低下,呼吸不全,心不全などがあり,痙攣や昏睡が起こる可能性もある。診断は血清リン濃度による。治療はリンの補給である。 ( リン濃度の異常の概要も参照のこと。) 低リン血症は入院患者の2%に生じるが,特定の集団では有病率が高くなる(例,入院中のアルコール使用... さらに読む および 低マグネシウム血症 低マグネシウム血症 低マグネシウム血症とは,血清マグネシウム濃度が1.8mg/dL(0.70mmol/L)未満となった状態である。原因には,マグネシウムの摂取不足および吸収不足や,高カルシウム血症またはフロセミドなどの薬物による排泄増加がある。臨床的特徴はしばしば随伴する低カリウム血症や低カルシウム血症によるものであり,嗜眠,振戦,テタニー,痙攣,不整脈がある。治療はマグネシウムの補充による。 (... さらに読む が発生することもある。肝臓のグルカゴンが枯渇し,糖新生とインスリン分解が障害されるため, 低血糖 低血糖 外因性のインスリン療法と無関係な低血糖は,血漿血糖値の低下,症候性の交感神経系刺激,および中枢神経系機能障害を特徴とするまれな臨床症候群である。多数の薬剤および疾患が原因となる。診断には,症状発生時または72時間絶食中の血液検査の施行を要する。治療はブドウ糖投与と基礎疾患の治療とを組み合わせて行う。 症候性低血糖は 糖尿病の薬物治療の合併症であることが最も多い。経口血糖降下薬またはインスリンが関与する場合がある。... さらに読む が起こることがある。
肺:非心原性肺水腫が発生することがある。
急性肝不全の症状と徴候
特徴的な臨床像は,精神状態の変化(通常は 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症は,肝疾患患者に発生することがある精神神経症状の症候群である。ほとんどの場合,門脈大循環シャントが形成された患者において,腸管内タンパク質の増加または急性の代謝ストレス(例,消化管出血,感染,電解質異常)の結果として発生する。主に精神神経症状がみられる(例,錯乱,羽ばたき振戦,昏睡)。診断は臨床所見に基づく。治療法は通常,原因となっている急性の病態の是正,ラクツロースの経口投与,ならびにリファキシミンなど非吸収性抗菌薬の... さらに読む の一部)と 黄疸 黄疸 黄疸とは,高ビリルビン血症によって皮膚および粘膜が黄色化した状態である。ビリルビン値が約2~3mg/dL(34~51μmol/L)になると,肉眼的に黄疸が明らかとなる。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) ビリルビンの大半は,ヘモグロビンが非抱合型ビリルビン(と他の物質)に分解される際に生成される。非抱合型ビリルビンは,血中でアルブミンと結合して肝臓に輸送され,肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受け... さらに読む である。 腹水 腹水 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む などの慢性肝疾患の臨床像は,本症が急性の病態であることに相反するが,亜急性の肝不全でみられることがある。その他の症状は非特異的なもの(例,倦怠感,食欲不振)か,あるいは原因となった疾患の結果である。肝性口臭(かび臭い,または甘い口臭)と運動機能不全がよくみられる。頻脈,頻呼吸,低血圧がみられ,敗血症を伴うこともある。脳浮腫の徴候には,昏睡を含む意識障害,徐脈,高血圧などがある。感染症のある患者では,ときに局所症状(例,咳嗽, 排尿困難 排尿困難 排尿困難とは,排尿に疼痛または不快感を伴うことであり,典型的には鋭い灼熱感が生じる。一部の疾患では膀胱または会陰部に強い疼痛が生じる。排尿困難は女性では極めて頻度の高い症状であるが,男性にもみられ,年齢を問わず生じる。 排尿困難は膀胱三角部または尿道の刺激によって生じる。尿道の炎症または... さらに読む )がみられることもあるが,無症状の場合もある。国際標準化比(INR)が高値となるが, 播種性血管内凝固症候群 播種性血管内凝固症候群(DIC) 播種性血管内凝固症候群(DIC)は,循環血中のトロンビンおよびフィブリンの異常な過剰生成に関係する。その過程で血小板凝集および凝固因子消費が亢進する。緩徐に(数週間または数カ月かけて)進行するDICでは,主に静脈の血栓性および塞栓性の症状がみられる;急速に(数時間または数日で)進行するDICでは,主に出血が生じる。重度で急速進行性のDICは,血小板減少症,部分トロンボプラスチン時間およびプロトロンビン時間の延長,血漿Dダイマー(または血... さらに読む (DIC)の状態でない限り,出血はまれである。これは,急性肝不全患者では凝固促進因子と抗凝固因子の分布が均衡を取り戻しており,そのような患者は凝固亢進状態にあることの方が多いためである(1,2 症状と徴候に関する参考文献 急性肝不全は,薬物および肝炎ウイルスによって引き起こされる場合が最も多い。主な臨床像は,黄疸,凝固障害,および脳症である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法が中心であるが,ときに肝移植および/または特異的な治療(例,アセトアミノフェン中毒に対するN-アセチルシステイン)も行う。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 肝不全には,いくつかの分類法があるが,普遍的に受け入れられているものはない(... さらに読む )。
症状と徴候に関する参考文献
1.Hugenholtz GC, Adelmeijer J, Meijers JC, et al: An unbalance between von Willebrand factor and ADAMTS13 in acute liver failure: Implications for hemostasis and clinical outcome.Hepatology 2013;58:752–761.
2.Lisman T, Bakhtiari K, Adelmeijer J, et al: Intact thrombin generation and decreased fibrinolytic capacity in patients with acute liver injury or acute liver failure.J Thromb Haemost10(7):1312–1319, 2012.doi: 10.1111/j.1538-7836.2012.04770.x.
急性肝不全の診断
高ビリルビン血症がある患者でのプロトロンビン時間(PT)延長および/または脳症の臨床像と,アミノトランスフェラーゼ値の上昇
原因を同定するため:薬物使用歴,毒性物質への曝露歴, 肝炎ウイルスの血清学的検査 血清学的検査 急性ウイルス性肝炎は,多様な伝播様式と疫学的性質を有する一群の肝親和性ウイルスによって引き起こされる,肝臓のびまん性炎症である。ウイルス感染による非特異的な前駆症状に続いて,食欲不振,悪心,しばしば発熱または右上腹部痛がみられる。黄疸がしばしばがみられ,典型的には他の症状が消失し始める頃に発生する。ほとんどの症例で自然消失するが,慢性肝炎に進行する場合もある。ときに,急性ウイルス性肝炎から急性肝不全に進行する(劇症肝炎を示唆する)。診断... さらに読む ,自己免疫マーカー,臨床的な疑いに基づくその他の検査
基礎に慢性肝疾患も肝硬変もない患者において,凝固障害と精神状態の変化を伴って黄疸および/またはトランスアミナーゼ値の上昇が急性に生じた場合は, 急性肝不全 急性肝不全 急性肝不全は,薬物および肝炎ウイルスによって引き起こされる場合が最も多い。主な臨床像は,黄疸,凝固障害,および脳症である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法が中心であるが,ときに肝移植および/または特異的な治療(例,アセトアミノフェン中毒に対するN-アセチルシステイン)も行う。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 肝不全には,いくつかの分類法があるが,普遍的に受け入れられているものはない(... さらに読む を疑うべきである。肝疾患の存在が判明していて,急性の代償不全がみられる患者は,急性肝不全ではなく,これとは病態生理の異なるacute-on-chronic liver failureとみなされる。
肝不全の有無および重症度を確認すための臨床検査項目には,肝酵素,ビリルビン,PTがある。急性肝障害の臨床症状や臨床検査値異常がみられる患者において,感覚器官の異常,4秒を超えるPT延長,またはINR > 1.5の所見がみられた場合は,通常,急性肝不全が確認されたと判断する。肝硬変の所見は,肝不全が慢性であることを示唆する。
急性肝不全の患者には,合併症の検査を行うべきである。初期評価で通常実施される検査には,血算,血清電解質(カルシウム,リン,マグネシウム),腎機能検査,尿検査などがある。急性肝不全が確認された場合は,動脈血ガス,アミラーゼ,リパーゼの測定とタイプアンドスクリーンも行う。血漿アンモニア値は,ときに脳症の診断や重症度のモニタリングに推奨されることがある。循環亢進や頻呼吸がある場合は,培養(血液,尿,腹水)と胸部X線を施行して感染を除外するべきである。精神状態の異常や悪化がみられる場合,とりわけ凝固障害のある患者では,脳浮腫と可能性は比較的低いが頭蓋内出血を除外するため,頭部CTを施行する。
急性肝不全の原因を同定するため,処方薬,OTC医薬品,ハーブ製品,栄養補助食品を含めた毒性物質について,詳細な摂取歴を調べるべきである。原因を同定するためにルーチンで施行される検査としては以下のものがある:
ウイルス性肝炎の血清学的検査 血清学的検査 急性ウイルス性肝炎は,多様な伝播様式と疫学的性質を有する一群の肝親和性ウイルスによって引き起こされる,肝臓のびまん性炎症である。ウイルス感染による非特異的な前駆症状に続いて,食欲不振,悪心,しばしば発熱または右上腹部痛がみられる。黄疸がしばしばがみられ,典型的には他の症状が消失し始める頃に発生する。ほとんどの症例で自然消失するが,慢性肝炎に進行する場合もある。ときに,急性ウイルス性肝炎から急性肝不全に進行する(劇症肝炎を示唆する)。診断... さらに読む (例,A型肝炎ウイルスに対するIgM抗体[IgM-HAV抗体],B型肝炎表面抗原[HBs抗原],B型肝炎抗原に対するIgM抗体[IgM-HBc抗体],C型肝炎ウイルスに対する抗体[HCV抗体])
自己免疫マーカー(例,抗核抗体,抗平滑筋抗体,免疫グロブリン値)
所見と臨床的な疑いに基づいて施行されるその他の検査としては以下のものがある:
妊娠可能年齢の女性:妊娠検査
40歳未満で,溶血性貧血を認め,アルカリホスファターゼ/総ビリルビン比が4未満,アルカリホスファターゼが低値で,アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値よりアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)値が高く,ALTおよびASTの上昇を認めるパターン(ただし通常は2000未満):セルロプラスミン濃度を測定して, ウィルソン病 ウィルソン病 ウィルソン病では,結果として肝および他の臓器に銅が蓄積する。肝症状または神経症状が出現する。診断は,血清セルロプラスミン濃度の低値,銅の尿中排泄量の高値,およびときに肝生検の結果に基づく。治療は,低銅食およびペニシラミンまたはトリエンチンなどの薬物から成る。 ウィルソン病は,男女ともに罹患する銅代謝の障害であり,約30,000人中1人にみられる。罹患者は,13番染色体に位置する劣性遺伝子変異体がホモ接合型である。人口の約1... さらに読む
がないか確認する
構造的異常を伴う疾患(例, バッド-キアリ症候群 バッド-キアリ症候群 バッド-キアリ症候群は,肝臓内の細い肝静脈から下大静脈,右房に至るまでのいずれかの部位で肝静脈流出路が閉塞する病態である。その臨床像は多様で,無症状のこともあれば,劇症肝不全に至ることもある。診断は超音波検査に基づく。治療には支持療法のほか,血栓溶解療法,シャントによる減圧および長期的な抗凝固療法のように静脈開存性を確立し,維持する方法がある。 ( 肝臓の血管障害の概要も参照のこと。)... さらに読む , 門脈血栓症 門脈血栓症 門脈血栓症は,門脈圧亢進症を引き起こし,それにより通常は下部食道または胃の静脈瘤からの消化管出血を引き起こす。診断は超音波検査に基づく。治療としては,静脈瘤出血を(通常は内視鏡的結紮術,オクトレオチドの静注,またはその両方で)制御するとともに,β遮断薬のほか,ときには外科的シャントや急性血栓症に対する血栓溶解療法を用いて再発を予防する。 ( 肝臓の血管障害の概要も参照のこと。)... さらに読む , 肝転移 転移性肝癌 肝転移は多くの種類のがんでよくみられ,特に消化管,乳房,肺,膵臓に発生したがんでの頻度が高い。転移の初期症状は通常,非特異的(例,体重減少,右上腹部不快感)であるが,ときに原発がんの初期症状のこともある。体重減少と肝腫大がみられる患者,および肝臓に転移する可能性が高い原発腫瘍がある患者では,肝転移を疑う。通常は画像検査で診断の裏付けが得られ,超音波検査,造影ヘリカルCT,または造影MRIが最も多い。治療では通常,緩和的化学療法を行う。... さらに読む
)が疑われる場合:超音波検査および,ときにその他の画像検査
合併症(例,感染症と一致するバイタルサインの微妙な変化)が発生していないか,注意深く患者をモニタリングすべきであり,検査を必要と判定する閾値は低く設定すべきである。例えば,精神状態の悪化がみられても脳症によるものと推測すべきではない;このような場合は,頭部CTやベッドサイドでの頻回の血糖値検査を施行すべきである。感染リスクが高いことから,American Association for the Study of Liver Diseases(AASLD)は48時間毎の血液培養によるサーベイランスを考慮することを勧めている。ほとんどの症例で,ルーチンの臨床検査(例,PT,血清電解質,腎機能検査,血糖値,動脈血ガスなどを連日測定する)を頻回に繰り返すべきである。しかしながら,さらに頻回の検査が必要になる場合もある(例,重度の脳症がある患者では2時間毎に血糖値を測定する)。
急性肝不全の予後
予後予測は困難となることがある。重要な予測因子としては以下のものがある:
脳症の程度:脳症が重度の場合は予後不良
患者の年齢:10歳未満または40歳以上の場合は予後不良
PT:PTの延長がみられる場合は予後不良
急性肝不全の原因: アセトアミノフェン中毒 アセトアミノフェン中毒 アセトアミノフェン中毒は,摂取から数時間以内に胃腸炎,および1~3日後に肝毒性を引き起こしうる。単回急性過剰摂取後の肝毒性の重症度は,血清アセトアミノフェン濃度から予測される。治療は,肝毒性を予防するかまたは最小限に抑えるN-アセチルシステインによる。 ( 中毒の一般原則も参照のこと。) アセトアミノフェンはOTC医薬品として販売されている100種類を超える製品に含まれている。製品には多数の小児用の液剤,錠剤,およびカプセ... さらに読む , A型肝炎 A型肝炎 A型肝炎は,糞口感染で伝播するRNAウイルスにより引き起こされる疾患であり,年長の小児と成人では,食欲不振,倦怠感,黄疸などウイルス性肝炎の典型的な症状を引き起こす。幼児では無症状の場合がある。先進国では劇症肝炎や死亡はまれである。慢性肝炎は起こらない。診断は抗体検査による。治療は支持療法である。予防接種と過去の感染が防御的に働く。 ( 肝炎の原因および 急性ウイルス性肝炎の概要も参照のこと。)... さらに読む ,または B型肝炎 B型肝炎,急性 B型肝炎は,しばしば血液感染するDNAウイルスによって引き起こされる。食欲不振,倦怠感,黄疸など,ウイルス性肝炎の典型症状がみられる。劇症肝炎や死に至ることがある。慢性肝炎は肝硬変および/または肝細胞癌につながる可能性がある。診断は血清学的検査による。治療は支持療法である。ワクチン接種で予防可能であり,曝露後もB型肝炎免疫グロブリンを使用することで発症を予防できるか,臨床症状を軽減することができる。... さらに読む の場合, 特異体質性の薬物反応 薬物有害反応 薬物有害反応(adverse drug reaction[ADR];または薬物有害作用[adverse drug effect])は,ある薬物が示す可能性のある,望ましくない,不快な,または危険な作用を指す広義の用語である。 薬物有害反応は毒性の一形態とみなすことができるが,毒性(toxicity)という用語は,... さらに読む や ウィルソン病 ウィルソン病 ウィルソン病では,結果として肝および他の臓器に銅が蓄積する。肝症状または神経症状が出現する。診断は,血清セルロプラスミン濃度の低値,銅の尿中排泄量の高値,およびときに肝生検の結果に基づく。治療は,低銅食およびペニシラミンまたはトリエンチンなどの薬物から成る。 ウィルソン病は,男女ともに罹患する銅代謝の障害であり,約30,000人中1人にみられる。罹患者は,13番染色体に位置する劣性遺伝子変異体がホモ接合型である。人口の約1... さらに読む
と比較して予後良好
様々なスコア(例えば,King's College基準またはAcute Physiologic Assessment and Chronic Health Evaluation II [APACHE II]スコア)により集団レベルの予後を予測することができるが,個々の患者レベルでの予測精度は高くない。
急性肝不全の治療
支持療法
ときに肝移植
(American Association for the Study of Liver Diseases[AASLD]の診療ガイドライン,Management of Acute Liver Failure: Update 2011とEuropean Association for the Study of the LiverのPractical Guidelines on the Management of Acute [Fulminant] Liver Failureも参照のこと。)
可能な限り, 肝移植 肝移植 肝移植は,実質臓器の移植の中で2番目に多い。( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植の適応としては以下のものがある: 肝硬変(米国では移植全体の70%;そのうち60~70%がC型肝炎によるもの) 劇症型の肝壊死(fulminant hepatic necrosis)(約8%) 肝細胞癌(約7%) さらに読む が可能な施設の集中治療室で治療を行うべきである。状態の悪化は急速に進むことがあり,肝不全の進行とともに合併症(例,出血,誤嚥,進行性のショック)が起こりやすくなるため,患者の搬送を可能な限り早く行うべきである。
集中的な支持療法が治療の中心である。急性肝不全の症状(例,低血圧,鎮静)を悪化させる薬剤は,使用を控えるか,可能な限り低用量で使用すべきである。
低血圧および急性腎障害では,組織灌流を最大限に促進させることが治療の目標となる。治療には,輸液と通常は抗菌薬の経験的投与(敗血症が除外されるまで)が含まれる。低血圧が約20mL/kgの電解質輸液に反応しない場合は,輸液療法の参考にするため,肺毛細血管楔入圧の測定を考慮すべきである。充満圧が十分であるにもかかわらず低血圧が持続する場合は,昇圧薬(例,ドパミン,アドレナリン,ノルアドレナリン)の使用を考慮すべきである。
脳症では,ベッドの頭側を30°挙上して誤嚥のリスクを下げる;挿管を早期に考慮すべきである。薬剤とその用量を選択する際には,脳症の重症度をモニタリングできるように,鎮静を最小限に抑えるよう努めるべきである。頭蓋内圧亢進を予防し,作用の持続時間が短く,鎮静からの回復が迅速であることから,挿管のための誘導剤としては通常,プロポフォールが使用される。ラクツロースやリファキシミンなどによる治療は 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症は,肝疾患患者に発生することがある精神神経症状の症候群である。ほとんどの場合,門脈大循環シャントが形成された患者において,腸管内タンパク質の増加または急性の代謝ストレス(例,消化管出血,感染,電解質異常)の結果として発生する。主に精神神経症状がみられる(例,錯乱,羽ばたき振戦,昏睡)。診断は臨床所見に基づく。治療法は通常,原因となっている急性の病態の是正,ラクツロースの経口投与,ならびにリファキシミンなど非吸収性抗菌薬の... さらに読む に有用であるが,急性肝不全における脳症の軽減に役立つことを示したエビデンスはない。また,ラクツロースは イレウス イレウス イレウスとは,腸蠕動が一時的に停止した状態である。腹部手術後,特に腸管に操作を加えた場合に最もよくみられる。症状は悪心,嘔吐,および漠然とした腹部不快感である。診断はX線所見および臨床像に基づく。治療は支持療法であり,経鼻胃管吸引と輸液を行う。 イレウスの最も一般的な原因は以下のものである: 腹部手術 その他の原因としては以下のものがある: 腹腔内または後腹膜炎症(例, 虫垂炎,... さらに読む を引き起こし,腸管を拡張させるガスを産生する可能性があり,これは開腹が必要な場合(例,肝移植のため)に問題となりうる(1 治療に関する参考文献 急性肝不全は,薬物および肝炎ウイルスによって引き起こされる場合が最も多い。主な臨床像は,黄疸,凝固障害,および脳症である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法が中心であるが,ときに肝移植および/または特異的な治療(例,アセトアミノフェン中毒に対するN-アセチルシステイン)も行う。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 肝不全には,いくつかの分類法があるが,普遍的に受け入れられているものはない(... さらに読む )。頭蓋内圧の亢進および脳灌流圧の低下を回避するための対策を講じる:
頭蓋内圧の急激な上昇を回避する:バルサルバ効果を招く可能性のある刺激は避ける(例,咽頭反射を予防するため,気管内吸引の前にリドカインを投与する)。
脳血流を一時的に減少させる:浸透圧利尿を誘導するためマンニトール(0.5~1g/kg,必要に応じて1または2回繰り返す)を投与し,おそらくは短時間の過換気を行うことができる(特にヘルニアが疑われる場合)。(ただし,マンニトールは急性腎障害がある場合は禁忌であり,2回目の投与前に血清浸透圧を確認しなければならない。)
頭蓋内圧のモニタリング:頭蓋内圧のモニタリングに伴うリスク(例,感染,出血)が,脳浮腫の早期発見やICPを参考にした輸液および昇圧療法の開始というベネフィットを上回るかどうか,上回るとしてそれはどのような場合かは明らかにされておらず,脳症が重度の場合にのみモニタリングを推奨する専門家もいる。しかしながら,頭蓋内圧のモニタリングが死亡率に影響を及ぼすと示唆するデータはない(2 治療に関する参考文献 急性肝不全は,薬物および肝炎ウイルスによって引き起こされる場合が最も多い。主な臨床像は,黄疸,凝固障害,および脳症である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法が中心であるが,ときに肝移植および/または特異的な治療(例,アセトアミノフェン中毒に対するN-アセチルシステイン)も行う。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 肝不全には,いくつかの分類法があるが,普遍的に受け入れられているものはない(... さらに読む )。治療の目標は,頭蓋内圧20mmHg未満かつ脳灌流圧50mmHg以上にすることである。
痙攣発作はフェニトインで治療する;ベンゾジアゼピン系薬剤は鎮静作用があるため,使用を控えるか,低用量でのみ使用する。
感染症は抗菌薬および/または抗真菌薬で治療する;何らかの感染徴候(例,発熱,局所的徴候,血行動態,精神状態または腎機能の悪化)がみられたらすぐに治療を開始する。感染症の徴候は急性肝不全の徴候と重複するため,感染症治療は培養の結果が出るまで過剰治療となる可能性が高い。
電解質欠乏のため,ナトリウム,カリウム,リン,またはマグネシウムの補給が必要になる場合がある。
低血糖はブドウ糖の持続静注(例,10%ブドウ糖)で治療するが,脳症が低血糖症状をマスクする可能性があるため,血糖値を頻繁にモニタリングすべきである。
凝固障害については,出血が起きた場合,侵襲的な処置を予定している場合,また凝固障害が重度(例,国際標準化比[INR] > 7)の場合にも,新鮮凍結血漿で治療する。新鮮凍結血漿は体液量過剰を招き,脳浮腫を悪化させる可能性があるため,この状況以外では使用を控えるべきである。また新鮮凍結血漿を使用する場合には,PT(急性肝不全の重症度の重要な指標で,ときに肝移植の基準としても用いられる)の変化もモニタリングできなくなる。体液量過剰のある患者には,ときに遺伝子組換え第VII因子を新鮮凍結血漿の代わりに,または新鮮凍結血漿と併用して使用する。その役割については検討中である。消化管出血の予防にH2受容体拮抗薬が役立つことがある。
食事の取れない患者では,栄養サポートが必要となる。厳しいタンパク質制限は必要なく,1日当たり60gの摂取が推奨される。
急性アセトアミノフェン中毒 治療 アセトアミノフェン中毒は,摂取から数時間以内に胃腸炎,および1~3日後に肝毒性を引き起こしうる。単回急性過剰摂取後の肝毒性の重症度は,血清アセトアミノフェン濃度から予測される。治療は,肝毒性を予防するかまたは最小限に抑えるN-アセチルシステインによる。 ( 中毒の一般原則も参照のこと。) アセトアミノフェンはOTC医薬品として販売されている100種類を超える製品に含まれている。製品には多数の小児用の液剤,錠剤,およびカプセ... さらに読む は,N‐アセチルシステインで治療する。慢性アセトアミノフェン中毒の診断は困難な場合もあるため,急性肝不全の原因が認められない場合は,N‐アセチルシステインの使用を考慮すべきである。N‐アセチルシステインが,他の病態により急性肝不全を起こした患者にもわずかに有益となるかどうかは,まだ検討中である。
肝移植 肝移植 肝移植は,実質臓器の移植の中で2番目に多い。( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植の適応としては以下のものがある: 肝硬変(米国では移植全体の70%;そのうち60~70%がC型肝炎によるもの) 劇症型の肝壊死(fulminant hepatic necrosis)(約8%) 肝細胞癌(約7%) さらに読む を行えば,平均で約80%の1年生存率が得られる。したがって,移植なしの方が予後が不良になる場合には,移植が推奨される。ただし,予測は困難であり,King's College基準やAPACHE II(Acute Physiologic Assessment and Chronic Health Evaluation II)などのスコア判定も,肝移植の唯一の基準として用いるには感度と特異度ともに十分な水準になく,そのため,これらは臨床判断(例,危険因子に基づく判断)の補足情報として用いられる。
急性肝不全に関する詳細な情報がEuropean Association for the Study of the Liver(EASL)のガイドラインに記載されている。
治療に関する参考文献
1.European Association for the Study of the Liver: EASL Clinical practical guidelines on the management of acute (fulminant) liver failure.J Hepatology 66:1047−1081, 2017.
2.Karvellas CJ, Fix OK, Battenhouse H, et al: Outcomes and complications of intracranial pressure monitoring in acute liver failure: A retrospective cohort study.Crit Care Med 42:1157–1167, 2014.doi: 10.1097/CCM.0000000000000144.
急性肝不全の要点
急性肝不全の原因として最も頻度が高いものは,ウイルス性肝炎(発展途上国)と薬物および毒性物質(先進国)である。
急性肝不全は,黄疸,凝固障害,および脳症を特徴とする。
高ビリルビン血症とアミノトランスフェラーゼ高値を認める患者において,PTの延長または脳症の臨床像を確認することにより,本症の診断を確定する。
薬物使用歴および毒性物質への曝露歴,肝炎ウイルスの血清学的検査,自己免疫マーカー,臨床的な疑いに基づくその他の検査で評価することにより,原因を同定する。
急性肝不全は集中治療室で管理すべきであり,移植センターへの紹介に速やかに着手すべきである。
アセトアミノフェンによる肝不全にはN‐アセチルシステインを,予後不良因子(例,年齢10歳未満または40歳以上,重度の脳症,重度のPT延長,特異体質性薬物反応,ウィルソン病)のある患者には肝移植を考慮する。