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急性肝不全

(劇症肝不全)

執筆者:

Steven K. Herrine

, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University

最終査読/改訂年月 2016年 5月
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急性肝不全は,薬物および肝炎ウイルスによって引き起こされる場合が最も多い。主な臨床像は,黄疸,凝固障害,および脳症である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法が中心であるが,ときに肝移植および/または特異的な治療(例,アセトアミノフェンの毒性に対するN-アセチルシステイン)も行う。

肝不全には,いくつかの分類法があるが,普遍的に受け入れられているものはない( 肝不全の分類*)。

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肝不全の分類*

重症度

説明

一般的所見

急性(劇症)

門脈大循環性脳症が以下の時期に発生する。

  • 黄疸の出現後2週間以内

  • 肝疾患の病歴のない患者で8週間以内

しばしば脳浮腫

亜急性(亜劇症)

脳症は6カ月以内に発生するが,急性肝不全より遅い。

腎不全,門脈圧亢進症(急性肝不全の場合より多くみられる)

慢性

脳症は6カ月以降に発生する。

しばしば,肝硬変により引き起こされる

*普遍的に受け入れられている分類法はない。

病因

全体でみると,急性肝不全の最も一般的な原因は以下のものである:

  • ウイルス

  • 薬物および毒性物質

通常,発展途上国では,ウイルス性肝炎が最も一般的な原因と考えられ,先進国では毒性物質が最も一般的な原因と考えられている。

全体でみると,最も一般的な原因ウイルスはB型肝炎ウイルスであり,C型肝炎は一般的な原因ではない。他に原因となりうるウイルスには,サイトメガロウイルス,エプスタイン-バーウイルス,単純ヘルペスウイルス,ヒトヘルペスウイルス6型,パルボウイルスB19,水痘帯状疱疹ウイルス,A型肝炎ウイルス(まれ),E型肝炎ウイルス(特に妊娠中に接触した場合),出血熱を引き起こすウイルスなどがある( アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症の概要)。

最も一般的な毒性物質はアセトアミノフェンであり,その毒性は用量と関連する。アセトアミノフェンによる肝不全に対する素因には,既存の肝疾患,慢性飲酒,チトクロムP450酵素を誘導する薬物(例,抗てんかん薬)の使用などがある。その他の毒性物質としては,アモキシシリン/クラブラン酸,ハロタン,鉄化合物,イソニアジド,NSAID,ハーブ製品に含まれる一部の化合物,タマゴテングタケ,キノコなどがある( 薬物による肝障害)。薬物の反応には特異体質性のものもある。

比較的まれな原因としては以下のものがある:

  • 血管疾患

  • 代謝性疾患

血管性の原因には,肝静脈血栓症(バッド-キアリ症候群),虚血性肝炎,門脈血栓症,類洞閉塞症候群(肝中心静脈閉塞症とも呼ばれ,ときに薬物または毒性物質が原因となる)などがある。代謝性の原因には,急性妊娠性脂肪肝,HELLP症候群(溶血,肝機能検査高値,血小板低値),ライ症候群ウィルソン病などがある。その他の原因には,自己免疫性肝炎,癌の肝転移,熱中症,敗血症などがある。原因を確定できない症例は20%に上る。

病態生理

急性肝不全では,多くの器官系が機能不全に陥るが,その原因や機序はしばしば不明である。障害される系統には以下のものがある:

  • 肝臓:初診時にほぼ全例で高ビリルビン血症がみられる。高ビリルビン血症の程度は,肝不全の重症度の1つの指標である。肝臓での凝固因子の合成障害により,凝固障害がよくみられる。肝細胞壊死がみられ,これはアミノトランスフェラーゼ値の上昇で示される。

  • 心血管系:末梢の血管抵抗と血圧が低下し,心拍数および心拍出量の増加を伴う血流亢進が引き起こされる。

  • 脳:おそらくは消化管内の窒素性物質によるアンモニア産生により,門脈大循環性脳症が生じる。急性肝不全に続発して重度の脳症を起こした患者では,脳浮腫がよくみられる;鉤回ヘルニアの可能性があり,通常は致死的となる。

  • 腎臓:理由は不明であるが,急性腎障害が最大50%の患者に起こる。BUN値は肝臓での合成能に依存するため,低値により解釈を誤る可能性があり,そのため腎障害の指標としてはクレアチニン値の方が適切である。肝腎症候群の場合と同様に,たとえ利尿薬を使用していなくとも尿中ナトリウム濃度とナトリウム排泄率が減少し,尿細管障害はみられない(アセトアミノフェンの毒性が原因である場合に起こりうる)。

  • 免疫系:オプソニン化の異常,補体の欠乏,白血球およびキラー細胞の機能障害など,免疫系の異常が発生する。消化管からの腸内細菌の移行が増加する。気道および尿路感染症と敗血症がよくみられ,細菌,ウイルス,真菌が病原体となりうる。

  • 代謝:代謝性および呼吸性アルカローシスが早期に起こる可能性がある。ショックが発生した場合は,代謝性アシドーシスが続発することがある。低カリウム血症がよくみられ,交感神経緊張の低下や利尿薬の使用が部分的に関与している。低リン血症および低マグネシウム血症が発生することもある。肝臓のグルカゴンが枯渇し,糖新生と インスリン分解が障害されるため,低血糖が起こることがある。

  • 肺:非心原性肺水腫が発生することがある。

症状と徴候

特徴的な臨床像は,精神状態の変化(通常は門脈大循環性脳症の一部),出血,紫斑,黄疸腹水である。その他の症状は非特異的なもの(例,倦怠感,食欲不振)か,あるいは原因となった疾患の結果である。肝性口臭(かび臭い,または甘い口臭)と運動機能不全がよくみられる。頻脈,頻呼吸,低血圧がみられ,敗血症を伴うこともある。脳浮腫の徴候には,昏睡を含む意識障害,徐脈,高血圧などがある。感染症のある患者では,ときに局所症状(例,咳嗽,排尿困難)がみられることもあるが,無症状の場合もある。

診断

  • 高ビリルビン血症がある患者でのPT延長および/または脳症の臨床像と,アミノトランスフェラーゼ値の上昇

  • 原因を同定するため:薬物使用歴,毒性物質への曝露歴,肝炎ウイルスの血清学的検査,自己免疫マーカー,臨床的な疑いに基づくその他の検査

急性黄疸,原因不明の出血,または精神状態の変化(脳症の可能性を示唆する)がみられた場合,もしくは,すでに肝疾患の存在が判明している患者で急な増悪がみられた場合には,急性肝不全を疑うべきである。

肝不全の有無および重症度を確認すための臨床検査項目には,肝酵素,ビリルビン,PTがある。急性肝障害の臨床症状や臨床検査値異常がみられる患者において,感覚器官の異常,4秒を超えるPT延長,またはIND > 1.5の所見がみられた場合は,通常,急性肝不全が確認されたと判断する。肝硬変の所見は,肝不全が慢性であることを示唆する。

急性肝不全の患者には,合併症の検査を行うべきである。初期評価で通常実施される検査には,血算,血清電解質(カルシウム,リン,マグネシウム),腎機能検査,尿検査などがある。急性肝不全が確認された場合は,動脈血ガス,アミラーゼ,リパーゼの測定とtype and screenも施行する。血漿アンモニア値は,ときに脳症の診断や重症度のモニタリングに推奨されることがある。循環亢進や頻呼吸がある場合は,培養(血液,尿,腹水)と胸部X線を施行して感染を除外するべきである。精神状態の異常や悪化がみられる場合,とりわけ凝固障害のある患者では,頭蓋内出血を除外するため,頭部CTを施行する。

急性肝不全の原因を同定するため,処方薬,OTC薬,ハーブ製品,栄養補助食品を含めた毒性物質について,完全な摂取歴を調べるべきである。原因を同定するためにルーチンで施行される検査としては以下のものがある:

  • ウイルス性肝炎の血清学的検査(例,A型肝炎ウイルスに対するIgM抗体[IgM-HAV抗体],B型肝炎表面抗原[HBs抗原],B型肝炎抗原に対するIgM抗体[IgM-HBc抗体],C型肝炎ウイルスに対する抗体[HCV抗体])

  • 自己免疫マーカー(例,抗核抗体[ANA],抗平滑筋抗体,免疫グロブリン値)

所見と臨床的な疑いに基づいて施行されるその他の検査としては以下のものがある:

  • 最近の発展途上国への旅行:A型,B型,D型,およびE型肝炎に対する検査

  • 妊娠可能年齢の女性:妊娠検査

  • 40歳未満でアミノトランスフェラーゼ値が比較的正常な場合:ウィルソン病の確認のためのセルロプラスミン値

  • 構造的異常を伴う疾患 (例,バッド-キアリ症候群,門脈血栓症,肝転移)が疑われる場合:超音波検査および,ときにその他の画像検査

合併症(例,感染症と一致するバイタルサインの微妙な変化)が発生していないか,注意深く患者をモニタリングすべきであり,検査を必要と判定する閾値は低く設定すべきである。例えば,精神状態の悪化がみられても脳症によるものと推測すべきではない;このような場合は,頭部CTやベッドサイドでの頻回の血糖値検査を施行すべきである。ほとんどの症例で,ルーチンの臨床検査(例,PT,血清電解質,腎機能検査,血糖値,動脈血ガスなどを連日測定する)を頻回に繰り返すべきである。しかしながら,さらに頻回の検査が必要となる場合もある(例,重度の脳症がある患者では,2時間毎に血糖値を測定する)。

予後

予後予測は困難となることがある。重要な予測因子としては以下のものがある:

  • 脳症の程度:脳症が重度の場合は予後不良

  • 患者の年齢:10歳未満または40歳以上の場合は予後不良

  • PT:PTの延長がみられる場合は予後不良

  • 急性肝不全の原因:アセトアミノフェンの毒性,A型肝炎,またはB型肝炎の場合,特異体質性の薬物反応やウィルソン病と比較して予後良好

様々なスコア(通常,King's College基準またはAcute Physiologic Assessment and Chronic Health Evaluation II [APACHE II]スコア)により集団レベルでの予後を予測することができるが,個々の患者レベルでの予測精度は高くない。

治療

  • 支持療法

  • アセトアミノフェンの毒性に対するN‐アセチルシステイン

  • ときに肝移植

(American Association for the Study of Liver Diseaseの診療ガイドライン,Management of Acute Liver Failure: Update 2011も参照のこと。)

可能な限り,肝移植が可能な施設のICUで治療を行うべきである。状態の悪化は急速に進むことがあり,肝不全の進行とともに合併症(例,出血,誤嚥,進行性のショック)が起こりやすくなるため,患者の搬送を可能な限り早く行うべきである。

集中的な支持療法が治療の中心である。急性肝不全の症状(例,低血圧,鎮静)を悪化させる薬剤は,使用を控えるか,可能な限り低用量で使用すべきである。

低血圧および急性腎障害では,組織灌流を最大限に促進させることが治療の目標となる。治療には,輸液と通常は抗菌薬の経験的投与(敗血症が除外されるまで)が含まれる。低血圧が約20mL/kgの晶質液に反応しない場合は,輸液療法の参考にするため,肺毛細血管楔入圧の測定を考慮すべきである。充満圧が十分であるにもかかわらず低血圧が持続する場合は,昇圧薬(例,ドパミン,アドレナリン,ノルアドレナリン)の使用を考慮すべきである。

脳症では,ベッドの頭側を30°挙上して誤嚥のリスクを下げる;挿管を早期に考慮すべきである。薬剤とその用量を選択する際には,脳症の重症度をモニタリングできるように,鎮静を最小限に抑えるよう努めるべきである。頭蓋内圧亢進を予防し,作用の持続時間が短く,鎮静からの回復が迅速であることから,挿管のための誘導剤としては通常,プロポフォールが使用される。ラクツロースは脳症に有用となりうるが,精神状態の変化がみられる患者には,挿管しない限り,経口または経鼻胃管で投与することはできない;1日2回以上の排便がみられる場合の用量は,1~2時間毎に50mLを経口投与するか,300mLを1Lの生理食塩水に希釈して直腸内に投与する。頭蓋内圧の亢進および脳灌流圧の低下を回避するための対策を講じる:

  • 頭蓋内圧の急激な上昇を回避する:バルサルバ効果を招く可能性のある刺激は避ける(例,咽頭反射を予防するため,気管内吸引の前にリドカインを投与する)。

  • 脳血流を一時的に減少させる:浸透圧利尿を誘導するためマンニトール(0.5~1g/kg,必要に応じて1または2回繰り返す)を投与し,おそらくは短時間の過換気を行うことができる(特にヘルニアが疑われる場合)。

  • 頭蓋内圧のモニタリング:頭蓋内圧のモニタリングに伴うリスク(例,感染,出血)が,脳浮腫の早期発見やICPを参考にした輸液および昇圧療法の開始というベネフィットを上回るかどうか,上回るとしてそれはどのような場合かは明らかにされておらず,脳症が重度の場合にのみモニタリングを推奨する専門家もいる。治療の目標は,頭蓋内圧20mmHg未満かつ脳灌流圧50mmHg以上にすることである。

痙攣発作はフェニトインで治療する;ベンゾジアゼピン系薬剤は鎮静作用があるため,使用を控えるか,低用量でのみ使用する。

感染症は抗菌薬および/または抗真菌薬で治療する;何らかの感染徴候(例,発熱,局所的徴候,血行動態,精神状態または腎機能の悪化)がみられたらすぐに治療を開始する。感染症の徴候は急性肝不全の徴候と重複するため,感染症治療は培養の結果が出るまで過剰治療となる可能性が高い。

電解質欠乏のため,ナトリウム,カリウム,リン,またはマグネシウムの補給が必要になる場合がある。

低血糖はブドウ糖の持続静注(例,10%ブドウ糖)で治療するが,脳症が低血糖症状をマスクする可能性があるため,血糖値を頻繁にモニタリングすべきである。

凝固障害については,出血が起きた場合,侵襲的な処置を予定している場合,また凝固障害が重度(例,INR > 7)の場合にも,新鮮凍結血漿で治療する。新鮮凍結血漿は体液量過剰を招き,脳浮腫を悪化させる可能性があるため,この状況以外では使用を控えるべきである。また新鮮凍結血漿を使用する場合には,PT(急性肝不全の重症度の重要な指標で,ときに肝移植の基準としても用いられる)の変化もモニタリングできなくなる。体液量過剰のある患者には,ときに遺伝子組換え第VII因子を新鮮凍結血漿の代わりに,または新鮮凍結血漿と併用して使用する。その役割については検討中である。消化管出血の予防にH2受容体拮抗薬が役立つことがある。

食事の取れない患者では,栄養サポートが必要となる。厳しいタンパク制限は必要なく,1日当たり60gの摂取が推奨される。

アセトアミノフェンの急性過量投与は,N‐アセチルシステインで治療する。慢性アセトアミノフェン中毒の診断は困難な場合もあるため,急性肝不全の原因が認められない場合は,N‐アセチルシステインの使用を考慮すべきである。N‐アセチルシステインが,他の病態により急性肝不全を起こした患者にもわずかに有益となるかどうかは,まだ検討中である。

肝移植を行えば,平均で約80%の1年生存率が得られる。したがって,移植なしの方が予後が不良になる場合には,移植が推奨される。ただし,予測は困難であり,King's College基準やAPACHE II などのスコア判定も,肝移植の唯一の基準として用いるには感度・特異度とも十分ではない;したがって,これらは臨床判断(例,危険因子に基づく判断)の補足情報として用いられる。

要点

  • 急性肝不全の原因として最も頻度が高いものは,ウイルス性肝炎(発展途上国)と薬物および毒性物質(先進国)である。

  • 急性肝不全は,黄疸,凝固障害,および脳症を特徴とする。

  • 高ビリルビン血症とアミノトランスフェラーゼ高値を認める患者において,PTの延長または脳症の臨床像を確認することにより,本症の診断を確定する。

  • 薬物使用歴および毒性物質への曝露歴,肝炎ウイルスの血清学的検査,自己免疫マーカー,臨床的な疑いに基づくその他の検査で評価することにより,原因を同定する。

  • 通常はICUで,集中的に合併症の治療を行う。

  • アセトアミノフェンによる肝不全にはN‐アセチルシステインを,予後不良因子(例,年齢10歳未満または40歳以上,重度の脳症,重度のPT延長,特異体質性薬物反応,ウィルソン病)のある患者には肝移植を考慮する。

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