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過敏性腸症候群(IBS)

(Spastic Colon)

執筆者:

Stephanie M. Moleski

, MD,

  • Associate Professor of Medicine, Division of Gastroenterology & Hepatology
  • Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University

最終査読/改訂年月 2016年 4月
本ページのリソース

過敏性腸症候群(IBS)は,繰り返す腹部不快感または腹痛を特徴とし,排便による軽快,排便頻度の変化,便の硬さの変化のうち少なくとも2つが認められる。原因は不明であり,病態生理も完全には解明されていない。診断は臨床的に行う。治療は対症療法であり,食事管理と薬剤投与(抗コリン薬やセロトニン受容体に作用する薬剤など)で構成される。

病因

IBSの原因は不明である。臨床検査,X線撮影,生検では器質的原因は認められない。感情的要素,食事,薬物,またはホルモンが消化管症状を誘発または悪化させることがある。歴史的には,本疾患はしばしば純粋に心因性の病態と考えられていた。心理社会的因子が関与しているが,IBSは心理社会的因子と生理学的因子の混合として理解した方が適切である。

心理社会的因子

心理的苦痛はIBS患者によくみられ,特に医療機関を受診する患者で認められる。患者によっては不安症,抑うつ,または身体化障害がみられる。睡眠障害も併存する。しかしながら,ストレスや情緒的葛藤が必ずしも時期的に症状の出現や再発と一致するとは限らない。一部のIBS患者は,学習された異常な疾患関連行動をとるようである(すなわち,情緒的葛藤を消化管の愁訴,通常は腹痛として訴える)。IBS患者,特に難治性の症状がある患者を評価する場合は,性的または身体的虐待の可能性など,未解決の心理的問題がないか調べるべきである。心理社会的因子はIBSの転帰にも影響を与える。

生理学的因子

IBSの症状には様々な生理学的因子が関与しているようである。具体的な因子としては,運動異常,内臓痛覚過敏,様々な遺伝および環境因子などがある。

内臓痛覚過敏とは,正常量の管腔内膨張に対する過敏性や正常量の腸内ガスの存在下での痛覚過敏を指し,脳腸相関における神経経路のリモデリングの結果として生じる可能性がある。一部の患者(おそらく7人に1人)は,IBS症状が急性胃腸炎のエピソード後に始まったと報告している(感染後IBSと呼ばれる)。IBS患者の一部では自律神経機能不全がみられる。しかしながら,多くの患者では明らかな異常が認められず,また明らかな異常が認められる患者でも,異常が症状と相関していないことがある。

便秘は結腸の通過が緩徐になることで,下痢は結腸の通過が急速になることで説明できる。一部の便秘患者では,結腸内容をいくつかの分節にわたって遠位に移動させるHAPC(high amplitude-propagated contraction)が少なくなっている。一方,過剰なS状結腸運動活性は機能的便秘において通過を遅延させることがある。

食後腹部不快感は,過剰な胃結腸反射(食事に対する結腸の収縮反応),結腸のHAPCの存在,腸管感受性の増加(内臓痛覚過敏),またはこれらの因子の組合せに起因する場合がある。脂肪摂取によって腸透過性が増加し,過敏性が悪化することがある。発酵性のオリゴ糖,二糖類,単糖,およびポリオール(総じてFODMAPと呼ばれる)に富んだ食物の摂取は,小腸では吸収されにくく,結腸の運動および分泌を増加させることがある。

女性ではホルモン分泌の変動が腸管の機能に影響する。月経時には直腸の感受性が亢進するが,月経周期の他の相では同様の現象はみられない。性ステロイドが消化管通過に及ぼす影響はわずかである。IBSにおける小腸細菌異常増殖の役割については議論がある。

症状と徴候

IBSは青年期から20代にかけて発症する傾向があり,発作性の症状が不規則に再発する。成人後期での発症は,それほど多くはないが,まれでもない。睡眠中の患者が症状によって目覚めることはまれである。食物(特に脂肪)またはストレスによって症状が誘発されることがある。

患者は腹部不快感を訴え,かなり個人差があるがしばしば下腹部にみられ,持続性または痙攣性で,排便によって軽減する。さらに,腹部不快感は排便回数の変化(下痢型IBSでは増加し,便秘型IBSでは減少する)および便の硬さの変化(例,軟便または塊が多く硬い)と時間的に関連している。排便に関連した疼痛または不快感は腸管由来である可能性が高い一方,労作,運動,排尿,または月経に伴うものについては,通常は別の原因が存在する。

排便パターンは大半の患者で比較的一貫しているが,便秘と下痢が交互に生じることがまれではない。便排出異常の症状(いきみ,便意切迫,残便感),粘液排出,または腹部の膨満もしくは膨隆を訴えることもある。多くの患者では消化不良の症状もみられる。腸管外症状(例,疲労,線維筋痛症,睡眠障害,慢性頭痛)もよくみられる。

診断

  • Rome基準に基づく臨床的評価

  • 基本的臨床検査およびS状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査による器質的原因のスクリーニング

  • レッドフラグサイン(下血,体重減少,発熱)を有する患者には他の検査

IBSの診断は,特徴的な排便パターンと疼痛の時間および性質を基準としつつ,身体診察とルーチンの診断検査によって他の疾患を除外することによる。

警戒すべき事項(Red Flag)

最初の症状出現時でも,診断後のいかなる時点でも,以下に示す警戒すべき因子が認められる場合は,より集中的な診断検査を行うべきである:

  • 高齢

  • 発熱

  • 体重減少

  • 下血

  • 嘔吐

鑑別診断

IBS患者は器質的疾患を発症することがあるため,IBSの経過中に警告症状や著しく異なった症状を認める場合は,他の疾患に対する検査も考慮すべきである。IBSと混同される可能性のある一般的な疾患としては以下のものがある:

ただし,炎症のない大腸憩室は無症状であり,その存在を原因とみなすべきではない。

炎症性腸疾患患者の年齢は二峰性分布を示すため,若年患者と高齢患者の両方を評価する必要がある。急性症状を伴う60歳以上の患者については,虚血性大腸炎を考慮すべきである。器質的病変が認められない便秘患者については,甲状腺機能低下症および副甲状腺機能亢進症の評価を行うべきである。症状から吸収不良が示唆される場合は,熱帯性スプルーセリアック病,およびホイップル病を考慮する必要がある。排便困難の症状を訴える患者では,便秘の原因として排泄障害を考慮すべきである。

下痢のまれな原因として,甲状腺機能亢進症甲状腺髄様癌カルチノイド症候群ガストリノーマVIPomaなどがある。しかしながら,血管作動性腸管ペプチド(VIP),カルシトニン,またはガストリンが原因の分泌性下痢は,典型的には1日1000mL以上の便量を伴う。

パール&ピットフォール

  • 炎症のない大腸憩室は無症状であり,その存在を原因とみなすべきではない。

病歴

疼痛の性質,排便習慣,家族の相互関係,ならびに薬歴および食事歴に特に注意すべきである。患者の全般的な感情状態,個人的問題に対する患者の解釈,および生活の質も同様に重要である。患者と医師の相互関係の質が有効な診断および治療の鍵となる。

Rome基準は,症状に基づく標準化されたIBSの診断基準である。Rome基準では,過去3カ月間に腹痛が1週間当たり1日以上存在していたことに加え,以下のうち少なくとも2つの条件を満たす必要がある(1):

  • 排便に関連した疼痛がある。

  • 疼痛が排便回数の変化を伴っている。

  • 疼痛が便の硬さの変化を伴っている。

身体診察

一般に患者は健康そうに見える。腹部触診では,圧痛を特に左下腹部に認めることがあり,ときに圧痛を呈する触知可能なS状結腸が関連する。便潜血検査を含む直腸指診を全ての患者に行うべきである。女性では卵巣腫瘍,卵巣嚢胞,子宮内膜症がIBSに似た症状を呈することがあり,これらの疾患の除外には内診が役立つ。

検査

IBSの診断は,下血,体重減少,発熱などのレッドフラグサインや別の病因を示唆する他の所見が認められない限り,Rome基準を用いて適切に下すことができる。多くのIBS患者に必要以上の検査が行われているが,血算,生化学検査(肝機能検査など),赤沈,寄生虫の虫卵または虫体に対する便検査(下痢型の患者),便秘患者に対する甲状腺刺激ホルモンとカルシウム,ならびにS状結腸内視鏡検査または大腸内視鏡検査は施行すべきである。

軟性ファイバースコープを用いた直腸S状結腸内視鏡検査では,内視鏡の挿入および送気により,しばしば腸管の痙攣および疼痛が誘発される。IBSの粘膜像および血管像は通常,正常に見える。排便習慣の変化が認められる50歳以上の患者,特にIBS症状の既往がない患者については,結腸ポリープおよび結腸腫瘍を除外するため大腸内視鏡検査を行うことが望ましい。慢性下痢患者,特に高齢女性では,粘膜生検で顕微鏡的大腸炎の可能性を除外できる。

他に他覚的異常が認められる場合に限り,追加検査(超音波検査,CT,下部消化管造影,上部消化管内視鏡検査,小腸X線検査など)を行うべきである。脂肪便の懸念がある場合には,便中脂肪排泄量を測定すべきである。吸収不良が疑われる場合は,セリアック病の検査および小腸X線検査が推奨される。しかるべき状況においては,炭水化物不耐症または小腸細菌異常増殖の検査を考慮すべきである。

併発疾患

IBS患者は引き続いて別の消化管疾患を発症することがあるため,患者の愁訴を簡単に軽視してはならない。症状の変化(例,疼痛の部位,種類,または強度,排便習慣,便秘および下痢)ならびに新たな症状または愁訴(例,夜間下痢)は他の疾患過程を示唆している場合がある。検査を必要とする他の症状として,鮮血便,体重減少,非常に重度の腹痛または異常な腹部膨隆,脂肪便または著明な悪臭便,発熱または悪寒,持続性の嘔吐,吐血,患者を眠りから覚ます症状(例,疼痛,便意切迫),症状の着実な進行性悪化などがある。40歳以上の患者は,若年患者と比較して器質的疾患を併発する可能性が高い。

診断に関する参考文献

治療

  • 支援と理解

  • 通常の食事で,ガスおよび下痢を生じる食物は避ける

  • 便秘に対して繊維摂取量の増加

  • 主要な症状に対する薬物療法

治療は特異的な症状に対して行われる。IBSの効果的な管理には,効果的な治療関係が不可欠である。患者には,症状だけではなく,症状や医療従事者への受診を促す理由(例,重篤な疾患の恐れ)に関する患者の理解も報告するように導くべきである。疾患について患者を教育し(例,正常な腸管の生理機能およびストレスや食物に対する腸管の過敏性),適切な検査の後,重篤あるいは生命を脅かす疾患ではないと告げて安心させるべきである。適切な治療目標(例,症状の正常な経過または変動,薬剤の有害作用,医者と患者間の適切で利用できる機能的な関係性に関して期待されるもの)を確立すべきである。

最終的には,病状の管理に患者が積極的に参加することで,患者に有益となる可能性がある。成功すれば,これによって患者は治療を遵守し,より前向きな医師患者関係を育み,最も慢性的に受動的な患者においても対処手段を行使する動機を高めることができる。精神的ストレス,不安,気分障害を同定,評価,治療すべきである。規則的な身体活動はストレス軽減を促進し,特に便秘患者では腸管の機能を助ける。

食事

一般に,通常の食事が摂取可能である。食事は過剰に摂らず,ゆっくり時間をかけて摂るべきである。腹部膨隆と鼓腸の増強がみられる患者では,豆,キャベツ,発酵性炭水化物を含む他の食品を減量または除去することが有益となりうる。自然食品および加工食品(例,リンゴおよびブドウジュース,バナナ,ナッツ,レーズン)の構成成分である甘味料(例,ソルビトール,マンニトール,フルクトース)の摂取を減らすことで,鼓腸,腹部膨満,および下痢が軽減することがある。乳糖不耐症の所見がみられる患者は,牛乳および乳製品の摂取を減らすべきである。低脂肪食により食後の腹部症状が軽減する可能性がある。

食物繊維サプリメントは便を軟らかくし,排便のしやすさを改善することがある。刺激のない膨張性下剤を使用してもよい(例,生のブランを毎食時15mL[テーブルスプーン1杯]から開始し,水分摂取量の増加により補助)。代わりに,オオバコ親水性粘漿薬をコップ2杯の水で服用してもよい。しかしながら,食物繊維の過剰摂取は腹部膨満と下痢につながる可能性があるため,食物繊維の摂取量は患者ごとに決定する必要がある。ときに,合成食物繊維(例,メチルセルロース)に切り替えることで鼓腸が緩和する。

薬物療法

(American Gastroenterological Associationの過敏性腸症候群の薬理的管理に関するテクニカルレビューおよびガイドラインも参照のこと。)

薬物療法は主要症状に対して行う。鎮痙作用を目的として抗コリン薬(例,ヒヨスチアミン0.125mg,経口,食前30~60分)を使用してもよい。

便秘型IBS(IBS-C)患者では,塩化物イオンチャネルアクチベーターであるルビプロストン(8μgまたは24μg,経口,1日2回)とグアニル酸シクラーゼC受容体アゴニストであるリナクロチド(145μgまたは290μg,経口,1日1回)が役立つ可能性がある。ポリエチレングリコールの下剤については,IBSを対象とした研究が十分に行われていない。しかしながら,慢性便秘に対する使用と大腸内視鏡検査前の腸洗浄については効果的であることが示されており,そのためIBC-Cに対してはしばしば用いられる。

下痢型IBS(IBS-D)患者には,diphenoxylate 2.5~5mgまたはロペラミド2~4mgを食前に経口投与してもよい。ロペラミドの用量は,便秘を回避しながら下痢を軽減するように漸増すべきである。リファキシミンは抗菌薬であるが,腹部膨満および腹痛を緩和するとともに,IBS-D患者の軟便を軽減するのに役立つことが示されている。IBS-Dに対するリファキシミンの推奨用量は550mg,経口,1日3回,14日間である。alosetronは,他の薬剤に抵抗性を示す重度IBS-Dの女性患者に有益となる可能性がある5-ヒドロキシトリプタミン3(5HT3)(セロトニン)受容体拮抗薬である。alosetronは虚血性大腸炎との関連が報告されているため,米国では限定処方プログラムの下で使用されている。eluxadolineは複数のオピオイド受容体活性を併せもつ薬剤であり,IBS-Dの治療が適応である。

多くの患者では,三環系抗うつ薬(TCA)が下痢,腹痛,および腹部膨満の症状緩和に役立つ。これらの薬剤は,腸管から脊髄および大脳皮質の求心路の活動を抑制することにより,疼痛を緩和すると考えられる。第二級アミンのTCA(例,ノルトリプチリン,デシプラミン)は,抗コリン性,鎮静作用を伴う抗ヒスタミン性,およびα-アドレナリン性の有害作用が少ないため,親化合物の第三級アミン(例,アミトリプチリン,イミプラミン,ドキセピン)と比較してしばしば耐容性が高い。治療は,ごく低用量のTCA(例,デシプラミン10~25mg,1日1回,就寝時)から始め,必要性と耐容性に応じて最大100~150mgを1日1回まで漸増する。

ときに不安や感情障害のある患者にはSSRIが使用されるが,IBS患者に対する有意な効果は示されておらず,下痢を増悪させる可能性がある。

予備的なデータから,特定のプロバイオティクス(例,Bifidobacterium infantis)がIBS症状,特に腹部膨満を緩和することが示唆されている。プロバイオティクスの有益な効果は,菌種全体に共通するものではなく,特定の菌株に特異的なものである。患者によっては,特定の芳香油(駆風薬)で,平滑筋が弛緩し,痙攣に起因する疼痛が緩和する。ハッカ油はこのクラスで最も頻用されている薬剤である。

精神療法

一部のIBS患者では,認知行動療法,標準的な精神療法,および催眠療法が助けとなる場合がある。

要点

  • IBSでは,繰り返す腹部不快感または腹痛に加えて,排便による軽快,排便頻度の変化(下痢または便秘),または便の硬さの変化のうち少なくとも2つが認められる。

  • 病因は不明であるが,心理社会的因子および生理学的因子の両方が関与しているようである。

  • より危険な疾患を検査で除外する(特に高齢,発熱,体重減少,下血,嘔吐などのレッドフラグサインを認める場合)。

  • IBSと混同される可能性がある一般的な疾患としては,乳糖不耐症,薬剤性の下痢,胆嚢摘除後の下痢,下剤乱用,寄生虫症,好酸球性胃炎または腸炎,顕微鏡的大腸炎,小腸細菌異常増殖,セリアック病,早期の炎症性腸疾患などがある。

  • 典型的な検査としては,血算,生化学検査(肝機能検査など),赤沈,寄生虫の虫卵または虫体に対する便検査(下痢型の患者),便秘患者に対する甲状腺刺激ホルモンとカルシウム,S状結腸内視鏡検査または大腸内視鏡検査などがある。

  • 理解を示す支持的な治療関係が必須であり,薬物療法は主要な症状を対象として行う。

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