慢性膵炎

執筆者:Michael Bartel, MD, PhD, Fox Chase Cancer Center, Temple University
レビュー/改訂 2020年 9月
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慢性膵炎は,膵臓の持続性炎症で,膵線維化および膵管狭窄を伴う永続的な構造的障害に続いて膵内外分泌機能の低下(膵機能不全)をもたらす。飲酒および喫煙は主な危険因子の2つである。腹痛はほとんどの患者において主たる症状である。診断は通常,画像検査および膵機能検査による。治療は主に疼痛コントロールおよび膵機能不全の管理などである。

膵炎の概要および急性膵炎も参照のこと。)

炎症と繰り返す膵損傷に起因する線維化は,慢性膵炎の特徴であるが,老化や糖尿病性の膵疾患に起因する線維化と鑑別すべきである。

慢性膵炎は,膵実質の石灰化,膵管内の結石形成,またはその両方のほか,膵萎縮も引き起こす可能性がある。

慢性膵炎の発生機序

慢性膵炎の発生機序は十分には解明されていない。いくつかの機序が提唱されている。

膵石および膵管閉塞を病因とする仮説では,タンパク質と重炭酸塩のバランスが崩れる結果としてタンパク質を豊富に含む栓が形成されることで,膵管閉塞により疾患が発生すると考える。これらの栓は石灰化し,最終的に膵管内で結石を形成することがある。閉塞が長期にわたると,持続性炎症によって線維化,膵管の変形,狭窄,および萎縮に至る。進行性線維化および萎縮の結果として,数年後,内外分泌機能が喪失する。

壊死‐線維症仮説では,壊死を伴う急性膵炎の度重なる発作が慢性膵炎の発生機序の鍵であると推測されている。数年にわたり,治癒の過程で壊死組織が線維組織に置換され,慢性膵炎の発症につながる。

神経鞘の肥厚および神経周囲炎が起こり,慢性疼痛に寄与することがある。

慢性膵炎の病因

米国では,慢性膵炎症例の約50%が大量飲酒に起因しており,慢性膵炎は女性より男性で頻度が高い。しかしながら,飲酒を継続する人のうち最終的に慢性膵炎を発症するのはごく少数であり,顕性の疾患が惹起されるには他の補助因子も必要であることが示唆される。喫煙は慢性膵炎発生の独立した用量依存性危険因子である(1)。大量飲酒と喫煙は,どちらも進行のリスクを高め,それらのリスクは付加的である可能性が高い。慢性膵炎症例の大多数は特発性である。

熱帯性膵炎は,インド,インドネシア,ナイジェリアなどの熱帯地域に住む小児および若年成人が発症する特発性の慢性膵炎である。熱帯性膵炎は,発症年齢の低さ,大きな膵管結石,疾患経過の加速,高い膵癌リスクを特徴とする。

慢性膵炎の比較的まれな原因としては,遺伝性疾患,全身性疾患,および狭窄,結石,またはがんによる膵管閉塞などがある(慢性膵炎の原因の表を参照)。

表&コラム

病因論に関する参考文献

  1. 1.Yadav D, Gawes RH, Brand RE, et al: Alcohol consumption, cigarette smoking, and the risk of recurrent acute and chronic pancreatitis.Arch Intern Med 169:1035–1045, 2009. doi: 10.1001/archinternmed.2009.125.Clarification and additional information.Arch Intern Med 171(7):710, 2011. doi:10.1001/archinternmed.2011.124

慢性膵炎の合併症

リパーゼおよびプロテアーゼの分泌が正常の10%未満に減少すると,脂肪便,脂肪分の多い便の排泄,場合によっては水に浮いて洗い流しにくい油滴を特徴とする吸収不良が生じる。重症例では,低栄養,体重減少,および脂溶性ビタミン(A,D,E,およびK)の吸収不良も生じることがある。

耐糖能障害はいかなる時期にも現れる可能性があるが,顕性の糖尿病(膵性糖尿病または3c型糖尿病)は慢性膵炎の後期に発生するのが通常である。グルカゴン(拮抗ホルモン)を産生する膵α細胞が失われるため,低血糖を生じるリスクもある。

慢性膵炎のその他の合併症としては以下のものがある:

  • 仮性嚢胞の形成

  • 胆管および十二指腸の閉塞

  • 膵管の断裂(腹水または胸水をもたらす)

  • 脾静脈血栓症(胃静脈瘤の原因となりうる)

  • 膵臓に近い動脈の仮性動脈瘤または仮性嚢胞

慢性膵炎の患者は膵腺癌を発症するリスクが高く,このリスクは遺伝性および熱帯性膵炎の患者で最も高いと思われる。

慢性膵炎の症状と徴候

腹痛および膵機能不全が慢性膵炎の主な臨床像である。画像検査で膵臓の明らかな構造的異常が出現する前の慢性膵炎初期に,疼痛が生じる可能性がある。疼痛は慢性膵炎における主な症状であることが多く,ほとんどの患者で発現する。疼痛は通常食後に心窩部に生じ,上体を起こすか前方に傾けるとある程度軽減する。疼痛発作は最初は間欠的であるが,その後は継続的になる傾向がある。

約10~15%の患者では疼痛なしに,吸収不良の症状が認められる。膵機能不全の臨床像としては,鼓腸,腹部膨隆,脂肪便,低栄養,体重減少,疲労などがある。

慢性膵炎の診断

  • 画像検査

  • 膵機能検査

膵機能が著明に低下するため,アミラーゼおよびリパーゼはしばしば正常値を示し,慢性膵炎の診断が困難なことがある。診断には臨床的評価,画像検査,膵機能検査を必要とする。

原因不明または持続的な症状の悪化がある患者では,膵癌について評価すべきであり,特に評価で膵管狭窄が認められる場合にこれが重要である。評価には,狭窄に対するブラシ擦過細胞診や血清マーカー(例,CA19-9,がん胎児性抗原)測定がある。

画像検査

大量飲酒と急性膵炎の再発という典型的病歴がある患者では,腹部単純X線による膵石灰化の検出で十分である可能性がある。しかしながら,そのような石灰化は典型的には疾患の後期に起こり,さらに観察できるのは全患者の約30%に過ぎない。大量飲酒歴のある患者において単純X線で診断に至らない場合には,CTも利用可能である。

典型的な既往はないが症状が慢性膵炎を示唆している患者に対しては,疼痛の原因として膵癌を除外する上で腹部CTが典型的に推奨される。石灰化および他の膵臓の異常(例,仮性嚢胞または膵管拡張)の検出には腹部CTを利用できるが,疾患の初期では依然として正常像を呈することがある。

現在ではMRI装置を用いた磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)が診断に用いられることも多く,膵臓の腫瘤を描出できるほか,慢性膵炎に一致する膵管の変化を最も良好に描出できる。MRCP中にセクレチンを静注することにより,膵管異常の検出感度が高まり,慢性膵炎患者の機能的評価も可能になる。MRIはCTよりもさらに正確で,患者を放射線に曝露しない。

内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)は侵襲的検査であり,慢性膵炎の診断に用いられることはまれである。慢性膵炎初期の患者では,ERCPの所見は正常なことがある。ERCPは治療的介入が必要な可能性のある患者に対してのみ行うべきである。

超音波内視鏡検査は,より侵襲性が低く,膵実質内や膵管内の微妙な異常も検出することができる。この画像検査法は感度が高いものの,特異度が限定的である。

膵機能検査

最も一般的な膵機能検査は,軽症から中等症の膵外分泌機能不全の検出に十分な正確性をもたない。疾患の後期には,膵外分泌機能検査でより確実に異常が検出される。

膵機能検査は以下のように分類される:

  • 直接:膵外分泌産物(重炭酸塩および酵素)の実際の分泌をモニタリングする。

  • 間接:膵酵素欠乏による二次的影響(例,脂肪吸収不良)を測定する。

直接膵機能検査は画像検査で診断に至らない比較的初期の慢性膵炎患者において最も有用である。直接検査では,消化酵素の分泌を測定するためのコレシストキニンの点滴静注や重炭酸塩の分泌を測定するためのセクレチン注入などを行う。十二指腸分泌物を胃十二指腸液採取用のダブルルーメンチューブか内視鏡を用いて採取する。直接検査は煩雑で時間がかかり,十分標準化されていない。直接膵機能検査は臨床現場ではほとんど廃止されており,数少ない専門医療機関でのみ行われている。

間接膵機能検査は,慢性膵炎の比較的初期には診断精度がより低い。具体的には血液検査や便検査が行われる。血清トリプシノーゲン検査は安価な検査であり,一般検査施設で実施可能である。血清トリプシノーゲンの非常な低値(20ng/mL未満)は慢性膵炎に極めて特異的である。患者に高脂肪食を摂取させ,72時間蓄便によって便脂肪量を測定する検査は,脂肪便の診断に有用である。この検査はかなり信頼できるが吸収不良の原因は確定できない。他の検査では,キモトリプシンおよびエラスターゼの便中濃度が低下することがある。間接検査は広く利用可能であり,侵襲性が低く,高価でなく,直接検査よりも実施が容易である。

慢性膵炎の治療

  • 疼痛コントロール

  • 膵酵素のサプリメント

  • 糖尿病の管理

  • 他の合併症の管理

慢性膵炎の予後は様々である。

疼痛コントロール

疼痛コントロールは慢性膵炎患者の管理における最も困難な課題である。第一に,可及的速やかに疾患の進行を遅らせる取り組みとして慢性膵炎患者に対しては,禁煙および禁酒を奨励する精力的な働きかけと適切な紹介を行うべきである。第二に,同様な症状を引き起こす可能性のある慢性膵炎の治療可能な合併症を検索すべきである。患者は膵酵素の分泌を抑制するため,低脂肪(25g/日未満)食を摂取するべきである。慢性膵炎患者に対しては,健康的な生活習慣について教育すべきであり,診療の度にこれを強化すべきである。

膵酵素の補充は,十二指腸からのコレシストキニンの分泌を抑制することにより,膵酵素の分泌を低下させる結果,慢性疼痛を軽減できる可能性がある。酵素治療は,疾患がそれほど進行していない患者,女性,および特発性膵炎の患者(アルコール性膵炎の患者との比較)において成功する可能性が高い。酵素治療はその安全性と有害作用が最小限にとどまるため,しばしば試みられるが,疼痛改善において実質的な効果はない可能性がある。

これらの方法では鎮痛効果が得られない場合がしばしばあり,そのためオピオイドの増量が必要となるが,依存のリスクが高くなる。慢性疼痛を管理するため,三環系抗うつ薬,ガバペンチン,プレガバリン,選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの補助的な鎮痛薬が単独投与またはオピオイドと併用されてきたが,成績は様々である。慢性膵炎の疼痛に対する薬物療法は不十分になることが多い。

自己免疫性膵炎の治療にはグルココルチコイドを使用してもよい。

他の治療方法としては,内視鏡的治療,砕石術,腹腔神経叢の神経ブロック,手術などがある。

内視鏡的治療は,狭窄,結石,またはその両方で閉塞した膵管の減圧を目的とし,適切な膵管解剖に基づいて慎重に選択された患者の疼痛緩和につながることがある。乳頭または膵管遠位部に有意な狭窄を認める場合は,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)と乳頭括約筋切開術,ステント留置術,または拡張術の同時施行が効果的な可能性がある。仮性嚢胞は慢性疼痛を引き起こす可能性がある。一部の仮性嚢胞では,内視鏡的ドレナージが可能である。

大きな膵石や嵌頓した膵石の治療には通常,砕石術(体外衝撃波砕石術または膵管内砕石術)が必要となる。

コルチコステロイドおよび長時間作用型麻酔薬を用いた腹腔神経叢の経皮的または内視鏡的超音波ガイド下神経ブロックは,一部の慢性膵炎患者に対して短期的疼痛緩和をもたらす可能性がある。

外科的治療が疼痛緩和に効果的となる場合がある。外科的な選択肢は,禁酒していてかつ膵切除により悪化する恐れがある糖尿病を管理できる患者に限定すべきである。外科的選択肢の種類としては,切除術および/または減圧術などがある。外科的手技の選択は,膵管の解剖,局所合併症の検討,患者の手術歴,および各医療施設の経験に依存する。例えば,主膵管の拡張が5~8mmを上回っている場合,膵管空腸側側吻合術(Puestow手術)またはPartington-Rochelleにより改変されたPuestow手術により約70~80%の患者で疼痛緩和が得られる。膵管が拡張していない場合,V-plastyまたはHamburg手術と呼ばれる改変Puestow手術の変形を用いることが可能である。

他の外科的アプローチとしては,膵尾部切除術(膵尾部の広範な疾患に対して),Whipple手術(膵頭部の広範な疾患に対して),幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(Whipple手術と類似の術式),十二指腸温存膵頭切除術(Beger手術),膵島自家移植術を併施する膵全摘術などがある。全体として,閉塞の緩和および疼痛緩和の達成において,外科的ドレナージは内視鏡的アプローチと比べより効果的である(1)。

膵酵素補充療法

膵外分泌機能不全患者では,タンパク質および炭水化物の吸収不良と比較して脂肪の吸収不良はより重症である。脂肪の吸収不良は,脂溶性ビタミン(A,D,E,およびK)の欠乏症にもつながる。膵酵素補充療法(膵機能不全治療のための欠乏ホルモン補充)は脂肪便の治療に用いられる。様々な製剤が使用可能であり,適切な脂肪吸収には1食当たり75,000~150,000USP(United States Pharmacopeia[米国薬局方])単位(25,000~50,000国際単位)のリパーゼと,軽食としてその半量の投与が必要である。治療は低用量から開始すべきであり,その後の用量調節は臨床反応に基づいて行う。製剤は食事とともに服用すべきである。非腸溶製剤を服用している患者には,酵素が酸により分解されることを予防するため,H2受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬を投与すべきである。

良好な臨床反応として,体重増加,排便回数の減少,油滴漏出の消失,脂溶性ビタミン値の上昇,全身状態の改善がある。臨床反応は,酵素補充療法後の便中脂肪量の減少によって確認できる。脂肪便が特に重症で,これらの治療法に抵抗性の場合には,膵酵素がなくても吸収される中鎖脂肪酸トリグリセリドを脂肪源として補給できるので,それに応じて他の食物性脂肪は減少させるべきである。脂溶性ビタミンA,D,E,Kの補給を行うべきであり,これによって炎症が最小限に抑えられる可能性がある。

糖尿病の管理

糖尿病の管理については,患者を内分泌専門医に紹介すべきである。同時に起きるα細胞からのグルカゴン分泌の減少により,対抗する要因なく長時間持続する低血糖(膵性糖尿病[3c型糖尿病]の特徴)が生じる可能性があるため,インスリンは慎重に投与すべきである。慢性膵炎に起因する糖尿病の治療に経口血糖降下薬が役立つことはまれである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Cahen DL, Gouma DJ, Nio Y, et al: Endoscopic versus surgical drainage of the pancreatic duct in chronic pancreatitis.N Engl J Med 356:676–684, 2007.doi: 10.1056/NEJMoa060610

慢性膵炎の要点

  • 急性膵炎の発作を繰り返すと,持続性の慢性炎症,膵管の損傷,そして最終的には線維化が生じ,慢性膵炎に至る可能性がある。

  • 患者には発作性の腹痛がみられ,続いて疾患の後期になると吸収不良の臨床像を呈する。

  • 診断は臨床像,画像検査,および膵機能検査に基づく。

  • 慢性膵炎の治療は主に,疼痛コントロールおよび膵機能不全などの合併症の管理などである。

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