(肛門直腸疾患の評価およびAmerican Society of Colon and Rectal Surgeonsの「Practice parameters for the management of hemorrhoids」も参照のこと。)
肛門直腸領域の静脈内の圧力上昇により痔核が生じる。この圧は,妊娠,重い物を頻繁に持ち上げること,または排便時のいきみの繰返し(例,便秘による)が原因で生じる。痔核は外痔核または内痔核のことがある。少数の人では,直腸静脈瘤が門脈の血圧上昇によって生じ,これらは痔核とは別である。
外痔核は,歯状線より下方に位置し,扁平上皮に覆われている。
内痔核は歯状線の上方に位置し,直腸粘膜で裏打ちされている。痔核は典型的には右前方,右後方,および左側に起こる。痔核は成人および小児に起こる。
症状と徴候
痔核はしばしば無症候性であり,突出するだけのこともある。肛門そう痒症は,痔核が著明に脱出しない限り,痔核によって引き起こされることはまれである。
外痔核は血栓を形成することがあり,有痛性の紫色の腫脹を生じる。まれに,外痔核が潰瘍化し,小出血を来す。肛門領域の洗浄は困難なことがある。
内痔核は典型的には排便後の出血として発症し,患者はトイレットペーパーや,ときに便器の中を見て出血に気づく。内痔核は不快なこともあるが,血栓性外痔核ほど痛みはない。内痔核はときに粘液分泌および残便感を引き起こす。
突出および収縮によって血液供給が妨げられると,痔核嵌頓が起こる。痔核嵌頓は疼痛を引き起こし,ときにそれに続いて壊死および潰瘍化が起こる。
診断
治療
通常は痔核の対症療法だけで十分である。対症療法としては,便軟化剤(例,ジオクチルソジウムスルホサクシネート,オオバコ),排便後毎回および必要に応じて温坐浴(すなわち,耐えられる熱さのお湯を入れた浴槽に10分間座る),リドカイン含有麻酔軟膏,またはマンサク(ハマメリス)の湿布(機序は不明であるが緩和する)がある。血栓性外痔核に起因する疼痛はNSAIDで治療できる。まれに,外痔核の単純切除術が行われ,これにより痛みが素早く緩和することがある;1%リドカインによる浸潤麻酔後に痔核の血栓部を切除し,欠損部は吸収糸で閉鎖する。
出血性内痔核は,5%フェノールを植物油または他の硬化剤に溶解した溶液による注射硬化療法で治療できる。出血は少なくとも一時的には止まるはずである。
より大きな脱出性の内痔核,または保存的管理に反応しない痔核には,ゴム輪結紮術を行う。内外痔核については,内痔核に対してのみゴム輪結紮術を行うべきである。直径0.5cmのゴム輪を引き伸ばし,その中から内痔核をつまんで引き出した後に,ゴム輪を開放して痔核を結紮することで,痔核は壊死し脱落する。典型的には,2週間毎に1つの痔核を結紮し,3~6回の治療が必要になることがある。ときに,複数の痔核を1回の受診で結紮することが可能である。外痔核にはゴム輪結紮は行うべきでない。
赤外線光凝固術は,脱出していない出血性内痔核,痛覚感受性が高くゴム輪結紮術を施行できない痔核,またはゴム輪結紮術では治癒しない痔核の切除に有用である。
ドプラ超音波ガイド下の痔核動脈結紮術は,縫合結紮すべき血管を経直腸的超音波プローブを用いて同定するもので,有望ではあるが,総合的な有用性を判断するにはさらなる研究が必要である。レーザー破壊,凍結療法,および様々な種類の電気破壊は効果が証明されていない。
他の治療法に反応しない患者には外科的痔核切除術が必要となる。重大な術後疼痛がよくみられ,同様に尿閉と便秘もよくみられる。自動縫合器による痔核切除術(stapled hemorrhoidopexy)は,全周性の痔核に対する代替手技であり,従来の外科的痔核切除術と比べて術後疼痛は少ないが再発および合併症発生率は高い。