米国では,大腸癌の年間症例数は推定134,490例,年間死亡数は49,190例である(1)。欧米では,結腸および直腸の癌の年間新規症例数は,肺癌を除けば,いずれの解剖学的部位の癌よりも多い。発生率は40歳で上昇し始め,60~75歳でピークに達する。全症例の70%が直腸およびS状結腸で発生し,95%は腺癌である。結腸癌は女性に多く,直腸癌は男性に多い。同時性重複癌(2つ以上)が患者の5%で発生する。
総論の参考文献
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1.Siegel RL, Miller KD, Jemal A: Cancer statistics 2016. CA Cancer J Clin 66(1):7–30, 2016. doi: 10.3322/caac.21332.
病因
大腸癌は,ほとんどの場合,腺腫性ポリープ内の形質転換として発生する。鋸歯状腺腫はまれであるが,悪性化という点で特に進行が速い。約80%の症例が散発性であり,20%が遺伝的要素を有する。素因として,慢性の潰瘍性大腸炎や大腸クローン病などがあり,これらの疾患の罹病期間が長くなるほど癌のリスクが増大する。
大腸癌の発生率が高い集団の患者は,動物性タンパク,脂肪および精製炭水化物を多く含む低繊維食を食べている。発癌物質は食事から摂取される可能性もあるが,食物中の物質,胆汁,または腸分泌物に対する細菌の作用により産生される可能性の方が高い。正確な機序は不明である。
大腸癌の進展には,腸壁を貫通する直接浸潤,血行性転移,所属リンパ節転移,神経周囲浸潤,管内転移がある。
症状と徴候
大腸腺癌は増殖が遅く,症状が出現するほど増大するまでに長い期間が経過する。症状は,病変の部位,種類,進展範囲,および合併症により異なる。
右側結腸は内腔が広く,壁が薄く,腸内容も液状であるため,閉塞は経過の後期に発生する事象である。出血は通常,潜血である。重度の貧血による疲労と脱力が唯一の愁訴となる場合もある。腫瘍はときに大きく成長し,他の症状が現れる前に,腹壁を通して触知できることがある。
左側結腸は内腔が狭く,便は半固形状で,癌は全周性の傾向があるため,便秘と排便回数の増加または下痢が交互に起こる。仙痛性の腹痛を伴う部分閉塞または完全閉塞が初発症状のことがある。血液が便に縞状に付着,または混入することがある。一部の患者は穿孔の症状を呈し,通常は被覆穿孔で(限局性の疼痛および圧痛),またはまれにびまん性腹膜炎を呈する。
直腸癌で最もよくみられる初期症状は,排便時の出血である。下血がみられた際には,たとえ明らかな痔核や既知の憩室性疾患がある場合でも,常に癌の併存を除外する必要がある。しぶり腹または残便感を呈することがある。直腸周囲が罹患している場合には疼痛を伴うことが多い。
一部の患者は転移病変の症状と徴候(例,肝腫大,腹水,鎖骨上リンパ節腫大)を最初に呈する。
診断
スクリーニング検査
平均的なリスクの患者に対しては,50歳で大腸癌のスクリーニングを開始して75歳まで継続すべきである。黒人では,スクリーニングを45歳で開始すべきである。76~85歳の成人では,大腸癌のスクリーニングを行うかどうかの判断は,患者の全体的健康状態および以前のスクリーニング歴を考慮して個々に行うべきである(2,3)。
大腸癌のスクリーニングには,以下を始めとする複数の選択肢がある:
American College of Gastroenterologyのガイドラインでは,望ましいスクリーニング検査として大腸内視鏡検査を推奨している。大腸内視鏡検査を断る患者または経済的問題が大腸内視鏡検査を妨げる患者に対しては,代替的な大腸癌スクリーニング検査が可能である(3)。家族歴が陽性の患者(例,大腸癌早期発生または進行した腺腫性ポリープの第1度近親者がいる)は,スクリーニングをさらに若年からより高い頻度で行うべきである。高リスク疾患(例,潰瘍性大腸炎)を有する患者のスクリーニングは,特定の条件下で検討される。
CTコロノグラフィー(virtual colonoscopy)では,マルチスライスCTおよび経口造影剤と結腸のガス拡張の組合せにより,結腸の3次元および2次元画像を作製する。高分解能の3次元画像は,光学内視鏡での映像を再現したように見えることから,この名称が付けられた。この検査は,大腸内視鏡検査を受けることができない,または受けることを拒否する人に対するスクリーニング検査として,ある程度期待できるが,感度が低く,解釈する者によって結果が大きく異なる。この検査では鎮静は必要ないが,徹底的な腸管前処理は依然として必要であり,ガス拡張が不快なことがある。さらに,光学大腸内視鏡検査と異なり,診断時に病変の生検ができない。
結腸のビデオカプセル内視鏡検査は,多くの技術的問題を含んでおり,現時点でスクリーニング検査としては受け入れられない。
診断検査
便潜血検査で陽性の患者は,S状結腸鏡検査または画像検査で病変を認められた患者同様,大腸内視鏡検査が必要である。組織学的検査のために,全ての病変を完全に切除すべきである。病変が無茎性または大腸内視鏡検査時に切除できない場合は,外科的切除を強く考慮すべきである。
下部消化管造影(特に二重造影法)は,多くの病変を発見できるが,大腸内視鏡検査と比較してやや精度が低く,便潜血陽性のフォローアップとしては望ましくない。
癌と診断された時点で,腹部CT,胸部X線,およびルーチンの臨床検査を行い,転移病変と貧血を検索し,全身状態を評価すべきである。
血清癌胎児性抗原(CEA)は大腸癌患者の70%で高値を示すが,本検査は特異的ではないため,スクリーニング検査としては推奨されない。しかしながら,CEAが術前に高値を示し,結腸腫瘍切除後に低下した場合には,CEAのモニタリングが再発の早期発見に役立つことがある。同様に用いることが可能な他の腫瘍マーカーとして,CA19-9およびCA125がある。
診断に関する参考文献
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2.US Preventive Services Task Force, Bibbins-Domingo K, Grossman DC, et al: Screening for colorectal cancer: US Preventive Services Task Force recommendation statement. JAMA 315(23):2564–2575, 2016. doi: 10.1001/jama.2016.5989.
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3.Rex DK, Johnson DA, Anderson JC, et al: American College of Gastroenterology guidelines for colorectal cancer screening 2009 (corrected). Am J Gastroenterol104:739–750, 2009. doi: 10.1038/ajg.2009.104.
予後
予後は病期により大きく異なる( 大腸癌の病期分類*)。10年生存率は,癌が粘膜に限局している場合はほぼ90%に達し,腸壁を越えて進展している場合は70~80%,リンパ節転移陽性の場合は30~50%,遠隔転移がある場合は20%未満である。
治療
手術
術後補助療法
フォローアップ
治療としての大腸癌の外科的切除後には,サーベイランスとしての大腸内視鏡検査を術後1年時点あるいは術前大腸内視鏡検査の1年後に行うべきである(4)。2回目のサーベイランス大腸内視鏡検査は,1年後のサーベイランス大腸内視鏡検査でポリープや腫瘍が認められなければ3年後に行うべきである。その後,サーベイランス大腸内視鏡検査は5年毎に行うべきである。閉塞性の癌のために術前の大腸内視鏡検査が不完全に終わった場合は,同時性重複癌の有無を調べると同時に,前癌性ポリープがあれば検知して切除するために,手術の3~6カ月後に全大腸内視鏡検査を施行すべきである(4)。
再発を検出するための追加スクリーニングとして,病歴聴取,身体診察,および臨床検査(例,血算,肝機能検査)を,最初の3年間は3カ月毎に,その後の2年間は6カ月毎に行うべきである。画像検査(CTまたはMRI)の1年毎の施行がしばしば推奨されるが,診察や血液検査で異常がみられない場合にルーチンのフォローアップとして有益となるかどうかは不明である。
緩和療法
根治手術が不可能な場合,または患者に容認できない手術リスクがある場合には,限られた緩和手術(例,閉塞の解除または穿孔部位の切除を目的とする)が適応の場合があり,生存期間の中央値は7カ月である。一部の閉塞性腫瘍は,内視鏡的レーザー治療もしくは電気凝固術により縮小させるか,またはステントによって開存性を維持することができる。化学療法により,腫瘍が縮小し,生存期間が数カ月間延長することがある。
単剤または併用で使用される比較的新しい薬剤として,カペシタビン(フルオロウラシルの前駆体),イリノテカン,オキサリプラチンなどがある。ベバシズマブ,セツキシマブ,パニツムマブなどのモノクローナル抗体も使用されており,ある程度の有効性を示す。遠隔転移のある大腸癌患者の生存期間延長という点で明らかに他より効果的なレジメンは存在しないが,一部は病勢の進行を遅らせることが示されている。進行結腸癌の化学療法は,研究段階の薬剤を扱える経験豊富な化学療法医が管理すべきである。
転移が肝臓に限局している場合には,フロクスウリジンまたは放射性マイクロスフェアの肝動脈注入療法(放射線科で間欠的に施行するか,皮下埋め込み式ポンプまたはベルト装着式の外部ポンプを通して持続的に施行する)が全身化学療法より有効となりうるが,これらの治療法の有益性は不明である。転移が肝外にもある場合は,全身化学療法と比較して肝動注化学療法がもたらす利点はない。
治療に関する参考文献
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4.Kahi CJ, Boland R, Dominitz JA, et al: Colonoscopy surveillance after colorectal cancer resection: Recommendations of the US multi-society task force on colorectal cancer. Gastroenterology 150:758–768, 2016. doi: 10.1053/j.gastro.2016.01.001.
要点
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大腸癌は欧米では2番目に多い癌であり,典型的には腺腫性ポリープ内に発生する。
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右側大腸の病変は症状として通常出血および貧血を,左側大腸の病変は通常閉塞症状(例,排便回数の変化,腹部仙痛)を引き起こす。
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平均的なリスクの患者では50歳からルーチンのスクリーニングを開始すべきであり,その典型的な方法として,大腸内視鏡検査,便潜血検査,S状結腸内視鏡検査,または後者2つの併用がある。
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血清中の癌胎児性抗原(CEA)値はしばしば上昇しているが,スクリーニングに使用できるほど特異的ではない;しかしながら,治療後のCEA値モニタリングは再発を検出する上で役立つことがある。
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治療は外科的切除により行い,ときに化学療法および/または放射線療法を併用する;転帰は病期によって幅広く異なる。