(膵内分泌腫瘍の概要も参照のこと。)
ガストリノーマは,膵島細胞から発生する膵内分泌腫瘍の一種であるが,十二指腸および,はるかにまれであるが,体内の他の部位のガストリン産生細胞から発生することもある。ガストリノーマの80~90%は膵臓または十二指腸壁に発生する。残りは脾門,腸間膜,胃,リンパ節,または卵巣に発生する。約50%の患者では複数の腫瘍がみられる。ガストリノーマは通常,小さく(直径1cm未満),増殖は緩徐である。約50%は悪性である。ガストリノーマ患者の約40~60%に多発性内分泌腫瘍症(MEN)が認められる。
症状と徴候
診断
ガストリノーマは病歴によって疑われ,特に症状が標準的な胃酸分泌抑制療法に抵抗性を示す場合に疑われる。
最も信頼できる検査は血清ガストリンである。全ての患者が150pg/mL超を示し,診断は著しい高値(1000pg/mL超)が,臨床的特徴に矛盾がなく胃酸の過剰分泌(15mEq/時を超える)を示す患者でみられた場合に確定される。しかしながら,中等度の高ガストリン血症は,低酸状態(例,悪性貧血,慢性胃炎,プロトンポンプ阻害薬の使用),ガストリンクリアランスの低下を伴う腎機能不全,広範囲の腸切除,褐色細胞腫において起こりうる。
ガストリン濃度が1000pg/mL未満の患者では,セクレチン負荷試験が有用な可能性がある。セクレチン2μg/kgを急速静注で投与し,血清ガストリン濃度を継続的に測定する(投与の10分前,1分前,2分後,5分後,10分後,15分後,20分後,30分後)。ガストリノーマに特徴的な反応は,ガストリン濃度の上昇で,この反応は胃前庭部のG細胞過形成または典型的な消化性潰瘍の患者で起こる反応とは逆である。また,Helicobacter pylori感染の評価を行うべきであり,この感染症では一般的に消化性潰瘍と中等度のガストリン過剰分泌が引き起こされる。
ガストリノーマの診断が確定した時点で,腫瘍の局在診断を行う必要がある。最初の検査は腹部CTまたはソマトスタチン受容体シンチグラフィーであり,これらにより原発巣と転移巣を同定できることがある。PETまたは拡大およびサブトラクションを伴う選択的動脈造影も有用である。転移の徴候が認められず,原発巣が不明である場合は,超音波内視鏡検査を行うべきである。代わりの方法として選択的動脈内セクレチン注入法がある。
予後
治療
胃酸分泌抑制
プロトンポンプ阻害薬が第1選択薬である(例,オメプラゾールまたはエソメプラゾールを40mg,経口,1日2回)。症状が消失し,胃酸分泌が低下した時点で,用量を漸減してもよい。維持量を投与する必要があり,患者は手術を受けなければ,これらの薬剤を無期限に服用する必要がある。
オクトレオチド注射剤100~500μg,皮下,1日2回~1日3回の投与によっても胃酸分泌が低下することがあり,プロトンポンプ阻害薬があまり奏効しない患者において症状が緩和する可能性がある。長時間作用型オクトレオチド製剤(20~30mg,筋注,月1回)を使用してもよい。