Msd マニュアル

Please confirm that you are a health care professional

読み込んでいます

吸収不良の概要

執筆者:

Atenodoro R. Ruiz, Jr.

, MD, The Medical City, Pasig City, Metro-Manila, Philippines

最終査読/改訂年月 2016年 5月
本ページのリソース

吸収不良とは,食物中の物質が十分に同化されない状態であり,消化,吸収,または輸送の障害に起因する。

吸収不良は,多量栄養素(例,タンパク質,炭水化物,脂肪),微量栄養素(例,ビタミン,ミネラル),またはその両方に影響を及ぼすことがあり,結果として便中への過剰排泄,栄養欠乏,および消化管症状が起こる。吸収不良は,ほぼ全ての栄養素の吸収障害を伴う全体的なものと,特定の栄養素だけの吸収不良を伴う部分的(単独的)なものがある。

病態生理

消化および吸収は次の3段階で起こる:

  • 腔内での酵素による脂肪,タンパク質,炭水化物の加水分解—この段階で胆汁酸塩は脂肪の可溶化を促進する

  • 刷子縁酵素による消化および最終産物の取り込み

  • 栄養素のリンパ輸送

一般に,これらの段階のいずれが障害されても吸収不良という言葉が用いられるが,厳密に言うなら,第1段階の障害は吸収不良ではなく消化不良である。

脂肪の消化

長鎖脂肪酸トリグリセリドは,膵酵素(リパーゼおよびコリパーゼ)によって脂肪酸とモノグリセリドに分解され,これらが胆汁酸およびリン脂質と結合することにより,空腸細胞を通過できるミセルが形成される。吸収された脂肪酸は再合成され,タンパク質,コレステロール,およびリン脂質と結合してカイロミクロンを形成し,これがリンパ系を経由して輸送される。中鎖脂肪酸トリグリセリドは直接吸収される。

吸収されない脂肪は,脂溶性ビタミン(A,D,E,K)と,おそらく一部のミネラルを捕捉し,欠乏症を引き起こす。細菌の異常増殖によって胆汁酸塩の脱抱合および脱水酸化が起こり,脂肪の吸収が抑制される。吸収されなかった胆汁酸塩は結腸で水分の分泌を刺激するため,下痢が起こる。

炭水化物の消化

炭水化物および二糖類は,膵酵素のアミラーゼと微絨毛上の刷子縁酵素によって構成単糖類に分解される。吸収されなかった炭水化物は,結腸細菌による発酵を受けて二酸化炭素,メタン,水素,および短鎖脂肪酸(酪酸,プロピオン酸,酢酸,乳酸)に分解される。これらの脂肪酸は下痢の原因となる。ガスは腹部の膨隆および膨満を引き起こす。

タンパク質の消化

タンパク質の消化は,胃においてペプシンにより開始される(ペプシンはさらに,膵酵素の分泌に極めて重要なコレシストキニンの分泌を刺激する)。刷子縁酵素であるエンテロキナーゼは,トリプシノーゲンをトリプシンへと活性化し,これが多くの膵プロテアーゼを活性型に変換する。活性型膵酵素はタンパク質をオリゴペプチドに加水分解し,オリゴペプチドは直接吸収されるか,アミノ酸まで加水分解される。

病因

吸収不良には多くの原因がある( 吸収不良の原因)。いくつかの吸収不良疾患(例,セリアック病)は,大半の栄養素,ビタミン,および微量ミネラルの吸収を障害するのに対し(global malabsorption),他の吸収不良疾患(例,悪性貧血)は,より選択的である。

膵機能不全では,機能喪失が90%を上回ると吸収不良が生じる。管腔内の酸度の上昇(例,ゾリンジャー-エリソン症候群)によって,リパーゼおよび脂肪の消化が阻害される。肝硬変および胆汁うっ滞によって,肝内胆汁の合成または十二指腸への胆汁酸塩の排出が減少し,吸収不良が起こる。その他の原因については,本節の別の箇所で考察されている。

細菌,ウイルス,および寄生虫の急性感染症では,一過性の吸収不良が生じることがあり(胃腸炎の概要も参照のこと),これはおそらく,絨毛および微絨毛の表面が一時的に損傷する結果と考えられる。小腸の慢性細菌感染は,盲係蹄,全身性強皮症憩室を除けば,まれである。腸内細菌は食物中のビタミンB12および他の栄養素を消費し,場合によっては酵素系に干渉し,粘膜損傷を引き起こす可能性がある。

icon

吸収不良の原因

機序

原因

胃での混合が不十分,迅速な排出,またはその両方

Billroth II法胃切除術

胃結腸瘻

胃腸吻合術

消化物質の不足

胆道閉塞および胆汁うっ滞

コレスチラミンによる胆汁酸減少

膵切除術

スクラーゼ-イソマルターゼ欠損症

異常環境

糖尿病,強皮症,甲状腺機能低下症,または甲状腺機能亢進症に続発する異常運動性

盲係蹄に起因する腸内細菌異常増殖(胆汁酸塩の脱抱合),小腸憩室

ゾリンジャー-エリソン症候群(十二指腸の低pH)

粘膜上皮の急性異常

急性腸管感染症

アルコール

ネオマイシン

粘膜上皮の慢性異常

アミロイドーシス

虚血

放射線腸炎

腸管切除(例,クローン病,腸捻転,腸重積症,梗塞によるもの)

肥満に対する空回腸バイパス

輸送障害

リンパ腫または結核による乳び管閉塞

内因子欠乏症(悪性貧血など)

症状と徴候

吸収されなかった物質がもたらす影響として,特に全般的な吸収不良(global malabsorption)では,下痢,脂肪便,腹部膨満,ガスなどがある。その他の症状は栄養欠乏に起因する。十分な食物摂取にもかかわらず,しばしば体重が減少する。

最もよくみられる症状は慢性下痢症であり,通常はこれが患者を評価するきっかけとなる。脂肪の排泄が7g/日を上回ると,脂肪便(過度の脂肪を含む便で吸収不良の特徴)が発生する。脂肪便は,悪臭を放つ蒼白色の量の多い高脂肪分の便である。

進行した吸収不良では,重度のビタミンおよびミネラル欠乏が起こり,症状は特定栄養素の欠乏に関連する( 吸収不良の症状)。ビタミンB12欠乏症は盲係蹄症候群で発生する場合や,遠位回腸または胃の広範囲切除後にみられる場合がある。鉄欠乏症は,軽度の吸収不良患者における唯一の症状となることがある。

icon

吸収不良の症状

症状

吸収不良の栄養素

貧血(低色素性,小球性)

貧血(大球性)

ビタミンB12,葉酸

出血,皮下出血,点状出血

ビタミンKおよびC

手足の攣縮

カルシウム,マグネシウム

浮腫

タンパク質

舌炎

ビタミンB2およびB12,葉酸,ナイアシン,鉄

夜盲症

ビタミンA

四肢,骨の疼痛,病的骨折

カリウム,マグネシウム,カルシウム,ビタミンD

末梢神経障害

ビタミンB1,B6,B12

無月経は低栄養によって生じることがあり,若年女性におけるセリアック病の重要な臨床像である。

診断

  • 診断は典型的には詳細な病歴から臨床的に明らかとなる。

  • 吸収不良がもたらす結果をスクリーニングするための血液検査

  • 吸収不良を確定診断するための便中脂肪検査(診断が不明確な場合)

  • 原因の診断は内視鏡検査,造影X線検査,または所見に基づいた他の検査による

慢性下痢,体重減少,および貧血がみられる患者では,吸収不良が疑われる。病因はときに明らかである。例えば,慢性膵炎に起因する吸収不良の患者では,通常は急性膵炎発作の既往がある。セリアック病患者では,グルテン含有食品により増悪する古典的な下痢が生涯にわたってみられ,疱疹状皮膚炎を呈することもある。肝硬変および膵癌の患者では,黄疸がみられることがある。炭水化物摂取から30~90分後に起こる腹部膨隆,過剰放屁,水様性下痢は,二糖類分解酵素欠損症,通常はラクターゼ欠乏症を示唆する。複数に及ぶ腹部手術の既往は短腸症候群を示唆する。

既往歴から具体的な原因が示唆される場合は,その疾患を対象とする検査を行うべきである( 推奨される吸収不良の評価)。原因を容易に判断できない場合は,血液検査をスクリーニングの手段として用いることができる(例,血算,赤血球指数,フェリチン,ビタミンB12,葉酸,カルシウム,アルブミン,コレステロール,プロトロンビン時間)。検査結果から何らかの診断が示唆され,さらなる検査の方向が示されることがある。

推奨される吸収不良の評価

推奨される吸収不良の評価

大球性貧血を認めた場合は,葉酸およびビタミンB12の血清中濃度を測定すべきである。葉酸欠乏症は,上部小腸が侵される粘膜疾患(例,セリアック病熱帯性スプルーホイップル病)でよくみられる。ビタミンB12低値は,悪性貧血,慢性膵炎,腸内細菌異常増殖,および回腸末端部の疾患でみられる。腸内細菌はビタミンB12を利用して葉酸を合成することから,ビタミンB12低値と葉酸高値が同時に認められる場合は,腸内細菌異常増殖が示唆される。

小球性貧血は鉄欠乏症を示唆するが,これはセリアック病で生じることがある。アルブミンは栄養状態の一般的な指標である。アルブミン低値は,摂取不足,肝硬変における合成低下,またはタンパク消耗により発生する可能性がある。血清カロテン(ビタミンAの前駆体)低値は,摂取が十分である場合は,吸収不良を示唆する。

吸収不良の確認

吸収不良を確認するための検査は,症状が漠然としていて,病因が明らかでない場合に適応となる。大半の吸収不良検査では脂肪吸収不良を評価するが,これは脂肪吸収の測定が比較的容易であるためである。脂肪便が確認されれば,炭水化物吸収不良の確認は意味がなくなる。糞便中の窒素定量は困難であるため,タンパク質吸収不良の検査はまれにしか行われない。

72時間蓄便による便中脂肪量の直接測定は,脂肪便を確定診断する検査のゴールドスタンダードであるが,原因が明らかな肉眼的脂肪便には不要である。しかしながら,この検査をルーチンに施行できる施設はごく少数である。便を3日間採取し,患者はこの期間中に100g/日以上の脂肪を摂取する。便中総脂肪量を測定する。便中脂肪量が7g/日を上回る場合は異常である。重度の脂肪吸収不良(便中脂肪量40g/日以上)は,膵機能不全または小腸粘膜疾患を示唆するが,この検査では吸収不良の特異的原因は特定できない。この検査は汚く,不快で,時間がかかるため,ほとんどの患者に受け入れられず,実施は困難である。

便塗抹標本のズダンIII染色は,便中脂肪に対して簡便で直接的であるが,非定量的なスクリーニング検査である。ステアトクリット法は,1つの便検体で行われる重量測定法であり,感度および特異度ともに高いと報告されている(72時間蓄便を基準として使用)。近赤外分光分析法(NIRA)は,便中の脂肪,窒素,および炭水化物を同時に測定する方法で,将来的には推奨の検査法になると考えられるが,現時点でこの検査を実施できる施設は数カ所のみである。

便中のエラスターゼおよびキモトリプシンの測定も膵臓起因と腸管起因の吸収不良を鑑別する上で役立つ可能性があり,膵外分泌機能不全ではいずれも低下するが,腸管が原因の吸収不良ではいずれも正常である。

D-キシロース吸収試験も病因が明らかでない場合には施行できるが,内視鏡検査と画像検査が進歩したことで,この検査は現在ほとんど使用されていない。D-キシロース吸収試験は,腸管粘膜の完全性を非侵襲的に評価し,粘膜疾患と膵疾患を鑑別する上で役立つ可能性があるが,この検査で異常がみられた場合には内視鏡検査と小腸粘膜生検が必要となる。そのため,腸粘膜疾患の確定診断を目的とする場合は,この検査は小腸生検に取って代わられている。

D-キシロースは,受動拡散によって吸収され,消化に膵酵素を必要としない。中等度から重度の脂肪便の存在下でD-キシロース試験の結果が正常である場合は,小腸粘膜疾患ではなく膵外分泌機能不全が示唆される。腸内細菌はペントースを代謝し,吸収可能なD-キシロースを減少させるため,腸内細菌異常増殖症候群により異常な結果がもたらされる可能性がある。

絶食後,D-キシロース25gを水200~300mLに溶解して経口投与する。尿を5時間にわたり採取し,1時間後に静脈血検体を採取する。血清D-キシロース20mg/dL未満または尿検体中4g未満は吸収異常を示唆する。偽低値は腎疾患,門脈圧亢進症,腹水,または胃排出遅延でも発生する可能性がある。

吸収不良の原因の診断

吸収不良のいくつかの原因を診断するためには,より特異的な診断検査(例,上部消化管内視鏡検査,大腸内視鏡検査,バリウムによるおX線撮影)が適応となる。

小腸粘膜疾患が疑われる場合または大量の脂肪便を認める患者でD-キシロース試験の結果が異常の場合には,上部消化管内視鏡検査と小腸生検を行う。内視鏡検査により,小腸粘膜を視覚的に評価できるとともに,生検時に病変部に誘導することが可能である。腸内細菌の異常増殖が臨床的に疑われる場合は,細菌の異常増殖を確認するため,小腸吸引液を細菌培養およびコロニー計数に送ることができる。通常の内視鏡では到達できない小腸遠位部を調べるため,現在ではビデオカプセル内視鏡検査を使用することができる。小腸生検での組織学的特徴( 特定の吸収不良疾患における小腸粘膜の組織学的所見)によって,特定の粘膜疾患を確認できる。

icon

特定の吸収不良疾患における小腸粘膜の組織学的所見

疾患

組織学的特徴

正常

絨毛:陰窩比が約4:1の指状絨毛;多数の微絨毛(刷子縁)を規則的に有する円柱上皮細胞;粘膜固有層の軽度の円形細胞浸潤

セリアック病(未治療)

絨毛の事実上の喪失と陰窩の伸長;粘膜固有層における上皮内リンパ球と円形細胞(特に形質細胞)の増加;まばらで不規則な微絨毛を有する立方上皮細胞

粘膜内リンパ管の拡大と拡張

範囲は,絨毛高の微小な変化および上皮細胞の中等度傷害から,絨毛の実質的な消失および粘膜固有層におけるリンパ球浸潤を伴う陰窩の伸長まで様々

粘膜固有層にPAS(過ヨウ素酸シッフ)染色陽性のマクロファージが高密度に浸潤;重症病変では絨毛構造が消失する可能性

小腸X線検査(例,経口小腸造影,ゾンデ法による小腸造影,CT小腸造影)で腸内細菌異常増殖の素因である器質的所見を検出できる。具体的には,空腸憩室,瘻孔,外科的に作られた盲係蹄や吻合,潰瘍,狭窄などがある。腹部臥位X線で慢性膵炎を示唆する膵臓の石灰化を認めることがある。小腸バリウム造影検査は,感度も特異度も低いが,粘膜疾患を示唆する所見(例,拡張した小腸係蹄,菲薄化または肥厚した粘膜ヒダ,バリウム塊の粗大な断裂)が認められることがある。CT,磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP),およびERCPによって慢性膵炎の診断を確定できる。

膵機能不全の検査(例,セクレチン負荷試験,ベンチロミド試験,Pancreolauryl試験,血清トリプシノーゲン,便中エラスターゼ,便中キモトリプシン)は,既往歴で示唆される場合に行うが,軽症の膵疾患に対する感度は低い。

14Cキシロース呼気試験は,腸内細菌異常増殖の診断に役立つ。14Cキシロースを経口投与し,呼気中の14CO2濃度を測定する。摂取したキシロースが微生物叢の異常増殖により異化されることで,14CO2が呼気中に出現する。

水素呼気試験は,細菌による炭水化物の分解によって生じる呼気中のH2を測定する。二糖類分解酵素欠損症の患者では,腸内細菌が結腸内の吸収されなかった炭水化物を分解するため,呼気中の水素が増加する。乳糖水素呼気試験は,ラクターゼ欠乏症の確定診断にのみ有用であり,吸収不良の評価での初期診断検査としては用いられない。腸内細菌異常増殖症候群の診断では,内視鏡検査時に採取した吸引物の細菌培養に代わって,14Cキシロースおよび水素呼気試験が用いられている。

シリング試験では,ビタミンB12の吸収不良を評価する。この検査では,欠乏の原因が悪性貧血,膵外分泌機能不全,腸内細菌異常増殖,回腸疾患のいずれであるかを4段階で同定する。

  • 第1段階:放射性標識したシアノコバラミン1μgの経口投与と,肝臓中の結合部位を飽和させるための非標識コバラミン1000μgの筋肉内投与を同時に行う。24時間蓄尿により放射能を測定し,尿中排泄率が経口投与量の8%を下回る場合は,コバラミンの吸収不良が示唆される。

  • 第2段階:第1段階で異常が認められた場合は,内因子を加えて試験を繰り返す。内因子の投与で吸収が正常化した場合は,悪性貧血が存在する。

  • 第3段階:第3段階は膵酵素を追加して行うが,この段階での正常化は,コバラミン吸収不良が膵機能不全に続発したものであることを示唆する。

  • 第4段階:第4段階は嫌気性菌をカバーする抗菌薬を投与してから行うが,抗菌薬投与後の正常化は腸内細菌異常増殖を示唆する。

回腸疾患または回腸切除に続発するコバラミン欠乏症では,全ての段階で異常となる。

吸収不良の比較的まれな原因の検査として,血清ガストリン(ゾリンジャー-エリソン症候群),内因子および壁細胞抗体(悪性貧血),汗中塩化物イオン(嚢胞性線維症),リポタンパク電気泳動(無βリポタンパク血症),血清コルチゾール(アジソン病)がある。

回腸末端の疾患(例,クローン病,回腸末端の広範切除)に伴って起こりうる胆汁酸吸収不良を診断するためには,胆汁酸吸着レジン(例,コレスチラミン)による治療を試験的に行うことができる。あるいは,SeHCAT(selenium homocholic acid taurine)試験を行うことができる。この検査では,75Se標識合成胆汁酸を経口投与し,7日後に残存している胆汁酸を全身スキャンまたはガンマカメラで測定する。胆汁酸吸収に異常がある場合,貯留は5%未満となる。

ここをクリックすると家庭版へ移動します
よく一緒に読まれているトピック

おすすめコンテンツ

ソーシャルメディア

TOP