この病気は、正期産児または過期産児に重度の呼吸困難(呼吸窮迫)を引き起こします。
呼吸は速く、皮膚や唇は青みがかった色(または灰色がかった蒼白)になります。
診断は心エコー検査で確定します。
高濃度の酸素投与によって肺につながる動脈を開く(拡張する)治療を行いますが、多くは新生児の呼吸を人工呼吸器で補助しながら行います。
肺の動脈の拡張を助けるため、新生児が吸う酸素の中に一酸化窒素ガスを微量加えることもあります。
最重症例では体外式膜型人工肺(ECMO)を使用する場合もあります。
(新生児の一般的な問題の概要 新生児の一般的な問題の概要 新生児の問題は、以下の時期に生じることがあります。 胎児として成長している出生前 陣痛および分娩時 出生後 新生児の約9%は、 早産児であること、胎児期から新生児期への移行時に起きる問題、低血糖、呼吸困難、感染症などの異常ゆえに、出生後に特別なケアを必要とします。専門的なケアは、しばしば... さらに読む も参照のこと。)
正常な場合、出生前の胎児の肺につながる血管はきつく収縮しています。生まれる前は、胎児の肺ではなく母親の胎盤が二酸化炭素を排出して酸素を胎児に運ぶ役割をしているため、胎児の肺は大量の血流を必要としません。しかし、出生後すぐに、臍帯(さいたい)が切断されると新生児の肺は血液に酸素を送り込んで二酸化炭素を除去する役目を引き継がなくてはなりません。そのためには、肺にある小さな空気の袋(肺胞)を満たしている液体が空気に置き換わり、肺に血液を送り込む肺動脈が拡張する必要があります。そうすると、肺に十分な血液が流れ込んで酸素化されるようになります。
原因
肺への血管が出生後にうまく拡張しないことがあります。肺につながる血管が拡張しなければ、肺動脈内の血圧が異常に高くなり(肺高血圧 肺高血圧症 肺高血圧症とは、心臓から肺につながる動脈(肺動脈)の血圧が異常に高くなる病気です。 多くの病気が肺高血圧症を引き起こす可能性があります。 通常は、体力低下のほか軽い運動であっても息切れが現れ、場合によっては軽い運動でもふらつきや疲労感がみられることもあります。 胸部X線検査、心電図検査、心エコー検査により、診断の手がかりが得られるものの、... さらに読む )、肺への血流が不十分になります。このように肺への血流が不十分になると、血液にも十分な酸素が供給されません。
血管が拡張しない理由には以下のように様々なものがあります。
出生前、分娩中、出生後の胎児の酸素レベルを低下させるその他の状況(母親または胎児の感染症[ 新生児の敗血症 新生児の敗血症 敗血症は、血流を通じて広がった感染に対する全身の重篤な反応です。 敗血症にかかった新生児は、一般に元気がない、つまりぼんやりしていて哺乳が不良であり、多くの場合皮膚が灰色になるほか、発熱または低体温がみられることもあります。 診断は症状と血液、尿、または髄液中の 細菌、 ウイルス、または 真菌の存在に基づいて下されます。 治療では抗菌薬が投与されるほか、支持療法として、輸液、赤血球や血漿の輸血、呼吸補助(人工呼吸器を使用する場合がありま... さらに読む ]、胎盤の問題、 横隔膜ヘルニア 横隔膜ヘルニア 横隔膜ヘルニアは、横隔膜に穴や脆弱な部分があることで腹部の臓器の一部が胸部に飛び出してしまう 先天異常です。 この異常は重度の呼吸困難を引き起こします。 診断は出生前超音波検査または胸部X線検査の結果に基づいて下されます。 酸素を投与し、穴を閉じるための手術を行います。 横隔膜は、胸部の臓器を腹部の臓器と隔てている膜状の筋肉です。 さらに読む 、 肺の虚脱 新生児の気胸 気胸とは、肺から空気が漏れて肺の周りの胸腔に空気がたまった状態です。 この病気は、呼吸窮迫症候群や胎便吸引症候群などの肺の病気で持続陽圧呼吸(CPAP)や人工呼吸器を使用している新生児に起こる可能性があります。 肺がつぶれて呼吸困難になり、血圧が下がります。 診断は、呼吸困難の有無、胸部X線検査の結果に加え、通常は新生児の血液中の酸素と二酸化炭素の量に基づいて下されます。 呼吸困難のある新生児には酸素を投与し、ときに針とシリンジまたは胸... さらに読む 、未発達な肺、または 肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に起きる感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気がほかにある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約400~500万人が肺炎を発症し(... さらに読む など)
妊娠中に使用された特定の薬(大量のアスピリンまたはイブプロフェンなどその他の非ステロイド系抗炎症薬など)
新生児遷延性肺高血圧症は、正期産(在胎 在胎期間 新生児の問題は、以下の時期に生じることがあります。 胎児として成長している出生前 陣痛および分娩時 出生後 新生児の約9%は、 早産児であること、胎児期から新生児期への移行時に起きる問題、低血糖、呼吸困難、感染症などの異常ゆえに、出生後に特別なケアを必要とします。専門的なケアは、しばしば... さらに読む 37~42週で出生)または 過期産 過期産児 過期産児とは、在胎42週以上で生まれた新生児のことです。 妊娠満期の終わり近くにさしかかると、胎盤の機能が低下し胎児への栄養や酸素の供給が少なくなります。 低血糖は過期産児において特に問題です。 妊娠の終わり頃に十分な栄養を受けていないことから、過期産児の皮膚は乾燥し、剥がれ、たるんだ状態で、異常にやせているようにみえることもあります。 診断は新生児の外観と分娩予定日に基づいて下されます。 さらに読む (在胎42週以降の出生)の新生児でより多くみられます。
症状
ときには遷延性肺高血圧症を出生時から発症していることがあります。また、出生後1~2日の間に発症することもあります。
呼吸はたいてい速くなり、新生児に肺の基礎疾患(呼吸窮迫症候群など)がある場合は重い呼吸窮迫もみられます。血液中の酸素レベルが低いために皮膚や唇が青みがかった色になる(チアノーゼ チアノーゼ チアノーゼは、血液中の酸素の不足が原因で、皮膚が青っぽく変色することです。 酸素が枯渇した血液(脱酸素化血液)は、赤色というより青みがかっており、これが皮膚を循環している場合にチアノーゼがみられます。肺または心臓の重い病気の多くは、血液中の酸素レベルを低下させるため、チアノーゼの原因となります。また、血管や心臓にある種の奇形があると、血液が空気中から酸素を取り込む場所である肺胞(肺にある小さな空気の袋)を通らず、直接心臓に流れるために、... さらに読む )こともあります。遷延性肺高血圧症の新生児は、血圧が低い(低血圧 低血圧 低血圧とは、めまいや失神などの症状が出現するほど、血圧が低下した状態のことです。血圧が極度に低下すると、臓器に損傷が起きる可能性があり、そのような病態を ショックと呼んでいます。 体内の血圧を維持する仕組みは、様々な薬や病気によって影響を受けます。 血圧が下がりすぎた場合、脳の機能不全や失神を起こすことがあります。... さらに読む )ために脈拍が弱くなり、皮膚が青白く、灰色がかった色になることもあります。
診断
新生児に酸素を投与しているにもかかわらず続くチアノーゼ
心エコー検査
胸部X線検査
妊娠中に母親が高用量のアスピリンまたはインドメタシンを服用した場合や、ストレスの多い分娩であった場合、医師は遷延性肺高血圧症を疑います。新生児に重度の呼吸窮迫、高濃度の酸素を投与しても消えないチアノーゼ、予想外に低い血液中の酸素レベルがみられる場合も、遷延性肺高血圧症が疑われます。胎便吸引症候群の新生児、感染症の可能性がある新生児、または予想以上に酸素や呼吸の補助が必要な新生児でも、遷延性肺高血圧症が疑われることがあります。
新生児遷延性肺高血圧症の診断を確認するために、医師は 心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む を行い、心臓から肺に至る血液の流れを見ます。
胸部X線検査は、肺の基礎疾患がなければ完全に正常な場合もありますが、基礎疾患(横隔膜ヘルニアや胎便吸引症候群など)に起因する変化を示す場合もあります。
特定の種類の細菌を見つけるために、血液の培養検査が行われることがあります。
予後(経過の見通し)
原因によって異なりますが、遷延性肺高血圧症の新生児の約10~60%が死亡します。
生存者の約25%には、発達の遅れ、聴覚障害、機能障害(身体活動を行う能力の低下)、またはこれらのうち複数のものが残ります。
治療
酸素吸入
ときに人工呼吸器
ときに一酸化窒素
ときに体外式膜型人工肺
新生児遷延性肺高血圧症の治療では、新生児を酸素100%の環境下に置いて呼吸させる必要があります。症状が重い場合、 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む (肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による100%の酸素の供給が必要になることもあります。血液中の酸素レベルを上げると、肺につながる動脈が拡張しやすくなります。
新生児が吸う酸素の中にごく微量の一酸化窒素を加えることがあります。吸い込まれた一酸化窒素が、新生児の肺の動脈を開いて肺高血圧症を軽減します。この治療には数日を要することがあります。
まれですが、いずれの治療法でも効果が得られない場合、体外式膜型人工肺(ECMO)を使うことがあります。この機械には、血液に酸素を加えて二酸化炭素を除去する働きがあり、新生児の血液をこの機械を通して循環させ、その後新生児に戻します。この機械は、新生児の人工肺として働きます。新生児の体内に酸素を取り込む働きを機械がしてくれるため、その間に新生児の肺は休息することができ、血管がゆっくりと開きます。ECMOを使うことで、他の治療法が無効であった一部の新生児を、遷延性肺高血圧症が治るまで延命させ、その生命を救うことができます。
必要に応じて、輸液やその他の治療(感染症に対する抗菌薬など)が行われます。