クッシング症候群

執筆者:Ashley B. Grossman, MD, University of Oxford; Fellow, Green-Templeton College
レビュー/改訂 2022年 5月
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やさしくわかる病気事典

クッシング症候群は、コルチコステロイドが過剰な状態であり、通常はコルチコステロイドの使用または副腎による過剰生産によるものです。

  • 通常、クッシング症候群の原因は、ある病気の治療のためのコルチコステロイドの使用、または副腎でのコルチコステロイドの過剰生産を引き起こす下垂体や副腎の腫瘍です。

  • クッシング症候群はまた、その他の部位(肺など)に腫瘍がある場合に起こることもあります。

  • クッシング症候群の人は、体幹の周りに過剰な脂肪がつき、顔が丸く膨らみ皮膚が薄くなります。

  • 医師はクッシング症候群を検出するために、コルチゾールの濃度を測定したり、その他の検査を行ったりします。

  • 腫瘍の除去には、しばしば手術や放射線療法が必要になります。

副腎の概要も参照のこと。)

副腎でコルチコステロイドがつくられすぎるのは、副腎に問題があるか、あるいは副腎やその他の内分泌腺を制御している下垂体からの刺激が過剰であることが原因です。下垂体に腫瘍などの異常があると、副腎のコルチコステロイドの生産を刺激する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH、コルチコトロピンとも呼ばれます)が下垂体で大量につくられるようになることがあります(この病気はクッシング病として知られています)。下垂体外の腫瘍でも、小細胞肺がんや、肺またはその他の部位のカルチノイド腫瘍などは、同様にACTHを生産することがあります(この状態を異所性ACTH症候群といいます)。

良性腫瘍(腺腫)が副腎内に発生すると、これもコルチコステロイドがつくられすぎる原因になります。副腎腺腫は非常によくみられ、70歳までに約10%の人で発生します。しかしホルモンを過剰に生産するのは、そのうちのごく少数です。副腎の悪性腫瘍は非常にまれですが、なかにはホルモンを過剰に生産するものもあります。

コルチコステロイドの使用

クッシング症候群は、重篤な病気があるために大量のコルチコステロイド(プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]やデキサメタゾンなど)を使用しなければならない人にも起こります。コルチコステロイドは多くの炎症性疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患の治療にしばしば使用されます。そのような例としては、喘息(ぜんそく)、関節リウマチ全身性エリテマトーデス、多くの皮膚疾患、その他の多数の病気があります。大量に使用する必要がある人では、ホルモンが体内でつくられすぎる場合と同じ症状になります。この症状は、喘息のためにコルチコステロイドを吸入した場合や、皮膚に局所的に使用したときにも起こることがあります。

コルチコステロイドを大量に使用すると、クッシング症候群が引き起こされるだけでなく、副腎の機能が抑制されることもあります(副腎皮質機能低下症)。これはコルチコステロイドによって視床下部と下垂体に信号が伝わり、正常ならば副腎機能を刺激するホルモンが生産されなくなるためです。したがって、この状態でコルチコステロイドの使用を突然中止すると、副腎の機能を急速には回復できないため、一時的な副腎皮質機能低下症になります。ストレスを受けても、体は必要なコルチコステロイドを追加でつくるように刺激することができません。

そのため、コルチコステロイドを2~3週間以上使用している場合は、突然投与を中止してはいけません。その代わり、数週からときには数カ月かけて、徐々に量を減らしていきます。

また、コルチコステロイドを使用している間、病気や過度のストレスに見舞われた場合は、コルチコステロイドの用量を増やす必要があります。コルチコステロイドを減量または中止している数週間のうちに、病気や過度のストレスに見舞われた場合は、使用を再開する必要があります。

クッシング病

クッシング病とは、通常下垂体腫瘍が原因の副腎の過剰刺激によって引き起こされるクッシング症候群を意味します。この病気は、下垂体が副腎を過剰に刺激するために副腎の活動が過剰な状態であることによるもので、副腎の異常によるものではありません。クッシング病の症状は、クッシング症候群の症状と似ています。クッシング病は、血液検査、またはときに尿および唾液の検査も行うことによって診断されます。下垂体領域に対してMRI検査やCT検査などの画像検査を行うこともあります。クッシング病は、手術または放射線療法により下垂体腫瘍を切除することにより治療します。下垂体腫瘍の切除ができない場合や上手くいかなかった場合は、副腎を手術で切除するか、ACTHの生産を減少させる薬や、コルチゾールの過剰な生産またはその組織への作用を阻害する薬を投与します。

クッシング症候群の症状

コルチコステロイドは体脂肪の量と分布を変えてしまいます。体幹の周りに過剰な脂肪がつき、特に背中の上部に目立ちます(野牛肩と呼ばれることもあります)。クッシング症候群の人は丸く膨らんだ顔になります(満月様顔ぼう)。腕と脚は太った体幹に比べてほっそりしています。筋肉は衰えて力が弱くなります。皮膚は薄くなり、あざができやすく、打撲傷や切り傷は治りにくくなります。腹部や胸部には引き伸ばしたような紫の筋(皮膚線条)が現れることがあります。クッシング症候群の人は、疲れやすくなります。

コルチコステロイドの高値が長期間続くと、血圧が高くなり(高血圧)、骨は弱くなり(骨粗しょう症)、感染症に対する抵抗力が弱くなります。腎結石と糖尿病が発生するリスクが増大し、また、うつ病や幻覚などの精神障害が起こることがあります。女性は月経周期が不規則になります。クッシング症候群の小児は成長が遅く、身長は低いままです。一部の人では副腎で男性ホルモン(テストステロンとその類似物質)も大量につくられるため、女性は顔の毛や体毛が濃くなり、頭髪は薄くなります。

クッシング症候群の診断

  • 尿、唾液、または血液中のコルチゾール値を測定する

  • 他の血液検査と画像検査

クッシング症候群が疑われる場合は、主な副腎皮質ホルモンであるコルチゾールが測定されます。正常ならば、1日のうちでコルチゾールの値は午前中に高く、その後低下します。クッシング症候群の場合、コルチゾールは通常、1日中高い値を示します。コルチゾール値は、尿、唾液、血液の検査で調べられることがあります。

コルチゾール値が高い場合、夜間または数日間にわたってデキサメタゾンを投与して朝にコルチゾール値を測定する試験であるデキサメタゾン抑制試験が推奨されることがあります。デキサメタゾンは正常では下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンの分泌を抑制して、副腎からのコルチゾールの分泌を抑えます。クッシング症候群の原因が下垂体による過剰な刺激(クッシング病)ならば、血中のコルチゾール値はクッシング症候群でない人と同レベルにはならないものの、ある程度は下がります。ACTHの値が高ければ、下垂体によって副腎が過剰に刺激されていることを意味します。

クッシング症候群の原因がほかにある場合、デキサメタゾンを投与した後もコルチゾール値は高いままです。副腎の腫瘍がコルチゾールを過剰に生産している場合、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンの濃度はすでに抑制されているため、デキサメタゾンによってコルチゾールの血中濃度が低下することはありません。ときに、体の他の部位にある別の種類の腫瘍が副腎皮質刺激ホルモン様の物質を生産し、それが副腎を刺激して過剰なコルチゾールが生産されることがありますが、この刺激はデキサメタゾンによって抑制されません。

正確な原因を確定するために、下垂体や副腎のCT検査やMRI検査、胸部X線検査や肺または腹部のCT検査などの画像検査が必要になる場合があります。しかしこれらの検査でも腫瘍を発見できないことがあります。

ACTHの過剰生産が原因とみられる場合は、下垂体がホルモンの発生源であるかどうかを調べるために、ときに下垂体から出ている静脈の血液を採取する必要があります。

クッシング症候群の治療

  • タンパク質、カリウムを多く含む食事

  • コルチゾール値を下げるか、あるいはコルチゾールの効果を阻害する薬剤

  • 手術または放射線療法

治療法は原因が副腎、下垂体、あるいはそれ以外のどこにあるかによって決まります。

コルチコステロイドの使用が原因である場合、医師はその薬剤による便益とクッシング症候群による害とを比較します。一部の人はクッシング症候群であっても薬剤の使用を続ける必要があります。そうでない場合は、数週からときには数カ月かけて、徐々に量を減らしていきます。用量を減らしていく間に、患者が病気になったり、肉体的に過度の負担がかかった場合は、一時的な増量が必要となることもあります。コルチコステロイドの使用を中止してから数週間から数カ月経っていても、コルチコステロイドによる抑制から副腎が完全に回復していないため、病気になった場合は薬剤の使用を再開しなければならない場合があります。

クッシング症候群の治療の第1段階は、タンパク質およびカリウムを多く含む食事療法に従うことによって全身状態を維持することです。場合によっては、カリウムまたは血糖値を下げる薬が必要になります。血圧が上昇した場合は治療が必要であり、そのような患者は静脈内に血栓ができるリスクも高くなるため、血液をサラサラにする薬を使用することがあります。このような患者は、生命を脅かす可能性のある感染症にもとりわけかかりやすくなります。

下垂体腫瘍の切除や破壊には手術や放射線療法(可能な場合は陽子線治療も含む)が必要です。

副腎の腫瘍(通常は腺腫)はしばしば手術で切除可能です。これらの治療法で効果がない場合、腫瘍が両側副腎にある場合、または腫瘍が存在しない場合は、両方の副腎を摘出しなければなりません。副腎を両方もしくは部分的に切除した人は、一生コルチコステロイドを服用する必要があります。

下垂体や副腎以外の腫瘍が過剰なホルモンを分泌している場合は、外科的に切除されます。

手術などの決定的な治療を待つ間、コルチゾール値を下げるメチラポンやケトコナゾールなどの薬が投与されます。コルチゾールの作用を阻害するミフェプリストンを使用することもあります。持続性または再発性の軽い症例では、パシレオチドという薬が有益になる可能性がありますが、これにより糖尿病が引き起こされたり悪化することがあります。場合によってはカベルゴリンが有用なこともあります。パシレオチドとカベルゴリンは、副腎のコルチゾールの生産を刺激するACTHの働きを低下させます。コルチゾール値を下げるために使用されるオシロドロスタットとレボケトコナゾール(levoketoconazole)は新しい薬剤で、メチラポンやケトコナゾールと同様に、副腎でのコルチゾールの生産を阻害します。

ネルソン症候群とは

手術または下垂体への放射線照射でもクッシング病が治らず、治療のために副腎を両方とも摘出した人は、ネルソン症候群を発症することがあります。

この病気では、クッシング病の原因になった下垂体腫瘍が増殖を続け、大量のACTHが生産され、皮膚の色が濃くなります。下垂体腫瘍が大きくなると、脳の隣接する部分を圧迫し、頭痛と視野欠損を起こします。

下垂体の放射線療法によってこの圧迫を予防できる場合があるとする専門家もいます。必要であれば、ネルソン症候群は下垂体への放射線療法か外科的切除で治療できます。

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