昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。
身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診は、原因を特定する上での助けになります。
医師は、可能であれば原因を是正し、呼吸やその他の身体機能を(人工呼吸器などで)補助し、頭蓋内の圧力が上昇している場合はそれを下げる対策を講じます。
昏睡から回復するかどうかは原因によって大きく異なります。
意識の制御
正常な脳は、必要に応じて活動レベルと意識レベルをすばやく調節できます。この調整は、眼、耳、皮膚などの感覚器官から受け取る情報に基づいて行われます。例えば、脳は、代謝活動(エネルギーレベル)を調整して睡眠を誘発することができます。
目が覚めているかどうか(覚醒)は、 脳幹 脳幹 脳の機能は神秘的で驚くべきものですが、それらは膨大な数の神経細胞とそれらの間でなされるコミュニケーションによって実現されています。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も担っています。人は脳の働きによって、言葉を話して他者とコミュニケーションをとる、数字を理解して計算する、作曲や音楽鑑賞をする、幾何学的... さらに読む (大脳と脊髄を接続している脳の一部)の上部にある神経細胞と神経線維のシステム(網様体賦活系 脳幹 )によって制御されています。 大脳 大脳 脳の機能は神秘的で驚くべきものですが、それらは膨大な数の神経細胞とそれらの間でなされるコミュニケーションによって実現されています。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も担っています。人は脳の働きによって、言葉を話して他者とコミュニケーションをとる、数字を理解して計算する、作曲や音楽鑑賞をする、幾何学的... さらに読む (脳の最大の部位)は、脳幹の上部と相互に作用して、意識と覚醒を維持しています。大脳は左右2つの半球(大脳半球)で構成されています。
活動レベルと意識レベルを調節する脳の機能は、以下のような場合に損なわれます。
両方の大脳半球が機能不全に陥ったとき、特に突然重度の損傷が起きたとき
網様体賦活系が機能不全に陥ったとき
活動レベルと意識レベルを調節する脳の機能は、以下の状況でも損なわれます。
重度の睡眠不足のとき
けいれん発作の最中とその直後
脳全体に供給される血流または栄養(酸素や糖など)が減少したとき
脳の特定の部分に向かう血流が減少したとき(ある種の脳卒中など)
有害物質が脳内の神経細胞を傷つけたり、その機能を低下させたりしたとき
脳腫瘍または外傷による出血や腫れが脳の一部に圧力をかけたとき
有害物質は(例えば、摂取や吸入によって)体内に取り込まれたものである場合と、体内の正常なプロセスの老廃物として作られ、正常に分解・除去されずに体内に蓄積したものである場合があります。
脳の構造
脳は大脳、脳幹、小脳でできています。大脳は左右で半分(半球)に分かれていて、それぞれが脳葉という小さな部分に分かれています。 |
意識障害のレベル
意識障害は短時間だけの場合もあれば、長く続く場合もあります。障害の程度は、以下のように軽いものから重いものまで様々です。医師は意識レベルの程度を記述するのに以下のような様々な用語を使用します。
嗜眠は、覚醒レベルが若干低下した状態または精神がやや不鮮明になった状態(意識の混濁)です。普段と比べて、自分の周囲の状況をあまり認識できず、思考が遅くなる傾向があります。疲労を感じたり、活力を失ったりすることもあります。
昏蒙は、不正確な用語であり、覚醒レベルが中等度に低下した状態や意識が中等度に混濁した状態を指します。
せん妄 せん妄 せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。 多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。 診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。 せん妄は通常、原因になっている異常を迅速に処置または治療することで治癒します。... さらに読む は、突然起こる意識障害と精神機能の障害で、一般にその程度には変動がみられ、通常は回復します。ものごとに注意を向けられなくなったり、明晰な思考ができなくなったりします。見当識障害が起こり、自分がどこにいるのかや今何時なのかが分からなくなることがあります。過度に警戒し、注意深くなり、明晰な思考ができるようになったかと思うと、次の瞬間には反応が鈍く、注意散漫になり、錯乱することもあります。
精神状態の変化とは、医師が意識の変化(嗜眠、昏蒙、せん妄、ときに昏迷や昏睡)を指して言うときに使うことのある非常にあいまいな言葉です。
昏迷は、過度に深まった無反応状態です。繰り返し体をゆする、大声で呼びかける、体をつねるなどの強い刺激を与えると、短時間だけ目を覚ますことができます。
昏睡は、(一部の自動的な反射を除き)完全に無反応となった状態です。患者を覚醒させることはまったくできません。眼は閉じたままです。深い昏睡状態にある患者では、痛みを引き起こすものから腕や脚を避けるといった意図的な反応がみられません。
昏迷と昏睡の原因
意識障害の原因になるものは数多くあり、同じ原因でも、生じる意識障害のレベル(嗜眠、昏蒙、昏迷、昏睡)は様々です。
最も一般的な原因は以下のものです。
薬物(アルコール 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む 、 オピオイド オピオイド オピオイドは、ケシに由来する薬物(合成のバリエーションを含む)の種類で、誤用される可能性の高い鎮痛薬です。 オピオイドは痛みの緩和に使用されますが、過度の幸福感ももたらし、使いすぎると依存症や嗜癖になります。 オピオイドを大量摂取すると、通常、呼吸停止により致死的となる可能性があります。 尿検査でオピオイドを確認できます。 治療戦略として、解毒(薬の使用を中止する)、代替療法(別の薬に切り替えて徐々に量を減らす)、維持療法(別の薬に切り... さらに読む 、 鎮静薬 抗不安薬と鎮静薬の誤用 抗不安薬と鎮静薬は、不安を和らげたり睡眠を補助したりするために使用される処方薬ですが、その使用は依存や物質使用障害を引き起こすことがあります。 不安を和らげるまたは睡眠を補助するための処方薬の使用は、依存を引き起こす可能性があります。 過剰摂取により、眠気、錯乱、呼吸抑制が生じる可能性があります。 抗不安薬や鎮静薬を長期間使用後にやめると、不安、易刺激性、睡眠障害を引き起こします。... さらに読む など)
代謝異常(血糖値が非常に低い[ 低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります。 血糖値が下がると、空腹、発汗、ふるえ、疲労、脱力感、思考力の低下といった症状が生じますが、重度の... さらに読む ]、血糖値が非常に高い[ 高血糖 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む ]など)
脳内の神経細胞を機能不全に陥らせて情報の伝達を妨げる病気(肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む または 腎不全 腎不全の概要 この章には、 COVID-19および急性腎障害(AKI)に関する新しいセクションが含まれています。 腎不全とは、血液をろ過して老廃物を取り除く腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のことです。 腎不全の原因としては、様々なものが考えられます。腎機能が急激に低下する場合( 急性腎障害、急性腎不全とも呼ばれます)もあれば、ゆっくりと低下していく... さらに読む など)
脳または脳周囲に起きた重度の感染症(髄膜炎 髄膜炎に関する序 髄膜炎とは、髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症です。 髄膜炎は細菌、ウイルス、または真菌、感染症以外の病気、薬剤などによって引き起こされます。 髄膜炎の症状には、発熱、頭痛、項部硬直(あごを胸につけるのが難しくなる症状)などがありますが、乳児では項部硬直がみられない場合もあり、非常に高齢の人や免疫系を抑... さらに読む 、 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍とは、脳の中に膿がたまった状態のことです。 脳膿瘍は、脳以外の頭部もしくは血流に生じた感染から、または傷を介して、細菌が脳に侵入することで形成されます。 頭痛、眠気、吐き気、体の片側の筋力低下、けいれん発作が起こることがあります。 頭部の画像検査を行う必要があります。 抗菌薬を投与し、通常は針で膿瘍をドレナージするか、手術で切除します。 さらに読む など)
頭部外傷 頭部外傷の概要 脳が関与する頭部外傷は特に懸念されます。 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。... さらに読む (脳しんとう 脳しんとう 脳しんとうとは、頭部外傷による精神機能または意識レベルの変化をいいます。脳しんとうでは、意識が消失する場合もありますが、脳の構造に明らかな損傷はみられず、6時間以内に治まります。 ( スポーツ関連脳しんとうと 頭部外傷の概要も参照のこと。) 脳しんとうでは、CT検査やMRI検査などの画像検査で脳の損傷が検出されないにもかかわらず、脳細胞が一時的に傷ついたり機能障害に陥ったります。患者には一時的に脳機能障害の症状がみられます。... さらに読む や脳内または脳周囲の出血など)
病気
一部の病気では、脳に必要な物質が供給されるプロセスが妨げられたり、体内で必要な物質が利用されるプロセスが妨げられたりします。例えば、以下のものがあります。
血糖値が非常に低いまたは非常に高い状態(低血糖または高血糖)
呼吸(肺機能)不全 呼吸不全 呼吸不全は、血液中の酸素レベルが危険なほど低くなったり、血液中の二酸化炭素濃度が危険なほど高くなる病気です。 呼吸不全の原因としては、気道をふさぐ病気、肺組織を損傷する病気、呼吸を制御する筋肉を衰えさせる病気、呼吸を促す仕組みが抑制される病気などがあります。 激しい息切れ、皮膚の青みがかった変色、錯乱または眠気などの症状がみられることがあ... さらに読む や 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む など、血液中の酸素レベルが非常に低くなる状態
血液は、全身の組織に酸素と必要な栄養素(脂肪、糖分、ミネラル、ビタミンなど)を運んでいます。そのため、脳への血流が減少すると、脳では酸素や必要な栄養素が不足します。呼吸不全などで肺が正常に機能していない場合も、脳内の酸素が不足します。病気(低血糖など)によって血液中の栄養素の濃度が低下すると、脳内の栄養素が不足することがあります。
糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む があると、血糖値が過度に高くなったり、過剰な治療によって過度に低下したりする可能性があるため、昏迷や昏睡のリスクが高まります。血糖値が非常に高くなると、 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリウムやカリウムなどの無機塩(電解質)を補給する治療が行われます。 さらに読む になり、その結果脳の機能が低下します。血糖値が低下すると、脳は主なエネルギー源(糖)が不足するため、機能不全に陥ったり、傷ついたりすることがあります。糖尿病は脳の血管や神経細胞を徐々に損傷していきます。その結果、脳に十分な酸素が供給されず、脳組織が死滅することがあります。
また、体中の細胞の機能不全を引き起こす病気もあります。多くの場合、最も影響を受けるのが脳の細胞です。例として、以下のような病気が挙げられます。
体温が非常に低いまたは非常に高い(低体温症 低体温症 低体温症(危険なほど体温が低下した状態)は、寒冷な環境にさらされることによって発生したり悪化したりするため、 寒冷障害と呼ばれることが多くあります。 非常に寒い環境に身を置いたり、特定の病気があったり、動くことができない状況にある場合、低体温症による害が生じるリスクが高くなります。 最初はふるえが起こりますが、その後、錯乱状態となり、意識を失います。 体温が下がりきってしまう前に、体を温めて濡れた衣類を乾かすことができれば、回復します。... さらに読む または 高体温症 熱射病 熱射病は、体温が異常に上がり、多くの器官系に機能障害が起こる、生命を脅かす状態です。 ( 熱中症の概要も参照のこと。) 何時間も運動した若い運動選手や、暑い季節に冷房のない屋内で何日も過ごした高齢者などに起こることがあります。 体温は40℃を超え、脳の機能障害が起こります。 直ちに体を冷やす必要があります。 さらに読む )
血液中の カルシウム 体内でのカルシウムの役割の概要 カルシウムは体内に存在する 電解質の1つであり、血液などの液体に溶け込むと電荷を帯びる ミネラルですが、体内のほとんどのカルシウムは電荷を帯びていません。( 電解質の概要も参照のこと。) 体のカルシウムの99%は骨に蓄えられていますが、細胞(特に筋肉細胞)や血液中にもあります。カルシウムは以下の働きや過程に不可欠です。 骨と歯の形成 筋収縮 多くの酵素が正常に機能すること さらに読む または ナトリウム 体内でのナトリウムの役割の概要 ナトリウムは体内の 電解質のうちの1つで、体内で比較的大量に必要とされる ミネラルです。電解質は血液などの体液に溶けると電荷を帯びます。( 電解質の概要も参照のこと。) 体内のナトリウムは、ほとんどが血液中または細胞の周囲の体液中に存在しています。ナトリウムには体液のバランスを正常に保つ働きがあります( 体内の水分についてを参照)。ナトリウムはまた、神経と筋肉が正常に機能するのに重要な役割を果たしています。... さらに読む 濃度が非常に低いまたは非常に高い
上記のほかに、意識を制御している脳領域を侵す病気も原因としてよくみられます。そのような病気としては以下のものがあります。
頭部外傷 頭部外傷の概要 脳が関与する頭部外傷は特に懸念されます。 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。... さらに読む では、これらの脳領域が(物理的な損傷を受けることなく)揺さぶられたり、直接的な損傷を受けたり、脳の内部や周囲の出血によって間接的な損傷を受けたりすることがあります。
頭蓋内の圧力(頭蓋内圧)を上昇させるあらゆる病気は、意識障害を招く可能性があります。血腫(血液の貯留)や腫瘍、膿瘍など、脳内にできた腫瘤は、意識を制御している脳領域を圧迫することにより、間接的に意識に悪影響を及ぼす可能性があります。
構造的な異常により脳内の髄液の流れが妨げられ、頭蓋内圧が上昇することがあります。髄液は、脳と脊髄を覆う組織と組織の間を流れ、脳内の空間を満たしている液体です。構造的な異常は出生時から存在している場合もあります。
腫瘤が大きいと、頭蓋内の比較的硬い構造に脳が押しつけられて、脳組織が傷つくことがあります。意識を制御する脳領域がこうした影響を受けると、患者は昏迷または昏睡に陥ります。圧があまりに高くなると、脳の各部分を仕切っている比較的硬いシート状の組織にある小さな穴から脳が押し出されることがあります。この状態は 脳ヘルニア ヘルニア:脳の圧迫 と呼ばれ、生命を脅かします。脳ヘルニアが起こると、脳組織にさらに損傷が起こり、状態がますます悪化する可能性があります。
脳卒中を起こしたことがある人や、脳機能に影響を及ぼす別の病気がある人では、意識が障害される他の脳疾患にかかりやすくなります。
物質
一般的に、過度の 飲酒 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む をしたり、 鎮静薬 抗不安薬と鎮静薬の誤用 抗不安薬と鎮静薬は、不安を和らげたり睡眠を補助したりするために使用される処方薬ですが、その使用は依存や物質使用障害を引き起こすことがあります。 不安を和らげるまたは睡眠を補助するための処方薬の使用は、依存を引き起こす可能性があります。 過剰摂取により、眠気、錯乱、呼吸抑制が生じる可能性があります。 抗不安薬や鎮静薬を長期間使用後にやめると、不安、易刺激性、睡眠障害を引き起こします。... さらに読む や オピオイド オピオイド鎮痛薬 痛み止め(鎮痛薬)は、痛みの治療に使用される主な薬剤です。医師が痛み止めを選択する際には、痛みの種類および持続期間と、それぞれの痛み止めで予想されるベネフィットとリスクを考慮します。ほとんどの痛み止めは侵害受容性疼痛(損傷による痛み)に対しては効果がありますが、 神経障害性疼痛(神経、脊髄、脳の損傷や機能障害による痛み)に対してはあまり効果がありません。多くのタイプの痛み(特に... さらに読む (麻薬)など、特定の薬剤を過剰に使用したりすると、意識が障害されます。アルコールと一部の薬は、脳細胞の機能を鈍らせるだけでなく、脳細胞を間接的に損傷することもあります。アルコールや薬により呼吸速度が大きく低下して、血液中の酸素レベルが非常に低くなり、脳に損傷が生じることがあります。
(複数の病気の治療のために)複数の薬を使用することも意識障害の一般的な原因であり、その理由の1つに、複数の薬を使用すると薬同士が相互作用するリスクが高まることが挙げられます。
マリファナ マリファナ マリファナ(大麻)は植物のカンナビス・サティバ Cannabis sativaとカンナビス・インディカ Cannabis indicaからつくられる薬物で、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)と呼ばれる、精神活性作用のある化学物質が含まれています。 マリファナにより、夢幻状態、幸福感、知覚のゆがみが生じます。 マリファナを長期にわたって使用した場合、精神依存が起こることがあります。... さらに読む (医療用のものを含む)の過剰摂取は、ときに脳の機能不全を引き起こし、その結果意識障害やときにけいれん発作が生じます。
特定の 抗精神病薬 抗精神病薬 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病症状)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症については、その原因もメカニズムも分かっていません。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわたります。... さらに読む を使用した結果、ときとして、 悪性症候群 悪性症候群 悪性症候群とは、ある種の抗精神病薬(神経遮断薬)や制吐薬(嘔吐を予防する薬)を使用したときに起こる、錯乱または無反応状態、筋肉の硬直、高体温、その他の症状のことです。 悪性症候群は、特定の種類の薬を投与された、ごく少数の人にしか起こりません。 危険なほどの高体温、筋肉の硬直、興奮などの症状が現れます。 診断は症状と身体診察での所見に基づいて下されます。 治療には、薬を中止すること、体温を下げること、集中治療室で支持療法を行うことが含まれ... さらに読む と呼ばれる無反応状態に陥ることがあります。この症候群は、筋肉の硬直、発熱、高血圧、精神機能の変化(錯乱、嗜眠など)を特徴とします。
精神障害と精神的ストレス
ときに、精神障害または精神的ストレスのある人が、無反応に見えることがあります。例えば、がんを告知された人や、配偶者が離婚を考えていることを知ってしまった人は、意気消沈し、話しかけられたり触られたりしても反応しなくなることがあります。しかし、そのような人は、自分の周囲で何が起こっているのかを認識していて、脳は正常に機能している可能性があります。
医師は通常、 診察 診断 昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができず、刺激を受けても眼は閉じたままになっている状態です。 昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。 身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診は、原因を特定する上での助けになります。... さらに読む の結果に基づき、意識障害と思われる状態に精神障害や心理的苦痛がどのくらい関与しているのか、また患者が無反応を装っているだけなのかどうかを判定できます。
高齢
加齢自体が意識障害のリスクを高めるわけではありません。しかし、加齢に伴う変化により、高齢者の意識障害は特に懸念されるものとなります(高齢者での重要事項:昏迷と昏睡 高齢者での重要事項:昏迷と昏睡 昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができず、刺激を受けても眼は閉じたままになっている状態です。 昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。 身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診は、原因を特定する上での助けになります。... さらに読む を参照)。例えば、高齢者によくみられる一部の病気(高血圧や糖尿病など)は、別の問題が生じた場合に意識障害のリスクを高める可能性があります。
高齢者の意識障害を引き起こす一般的な問題には、以下のものがあります。
薬への反応
感染症
新しい病気(脳卒中や心不全など)の発生、またはすでにある病気の悪化
昏迷と昏睡の症状
意識障害の程度は様々です。昏迷状態の患者は、通常は意識がありませんが、激しい刺激を与えると覚醒させることができます。昏睡状態の患者は、意識がなく、眼は閉じたままで、覚醒させることができません。
昏迷や昏睡を引き起こす脳の損傷また機能障害は、体の他の部位にも影響を及ぼします。
通常は、呼吸のパターンが異常になります。呼吸が速すぎる、遅すぎる、深すぎる、または不規則になることがあります。あるいは、これらの異常な呼吸パターンが交互に現れることもあります。
血圧は、意識障害の原因によって、上がることもあれば下がることもあります。例えば、頭部外傷により脳に大量の出血が起こると、頭蓋内の圧力が急速に上昇し、脳への血流が減少します。すると血圧を制御する神経が反応し、血圧を上げて脳への正常な血流量を維持しようとします。意識障害の原因が重度の感染症、重度の脱水、大量失血、特定の薬物の過剰摂取、心停止である場合、血圧は劇的に低下します。
筋肉が収縮したり、異常な姿勢で収縮したまま元に戻らなくなったりすることがあります。例えば、頭が後ろに傾いて両腕と両脚は伸びたままになることがあり、この状態は除脳硬直と呼ばれます。あるいは、両脚が伸びて両腕は曲がったままになることもあり、この状態は除皮質硬直と呼ばれます。全身がだらりと緩むこともあります。ときに筋肉が散発的にまたは不随意に収縮することがあります。
眼に影響が及ぶこともあります。片方または両方の瞳孔が広がって(散大して)、光の変化に反応しなくなることがあります。あるいは、瞳孔が小さくなることもあります。眼球が動かなくなったり、動きが異常になったりすることもあります。
意識に悪影響を及ぼす病気によって、その他の症状が現れることがあります。例えば、原因が髄膜炎(脳と脊髄を覆う組織層の感染症)であれば、初期症状として発熱、嘔吐、頭痛などの症状や、あごを胸に近づけようとすると首に痛みが出て硬くなる徴候(項部硬直)がみられたりします。
昏睡などで体を動かせない状態が長く続くと、床ずれ、腕や脚の神経の損傷、血栓、尿路感染症などの問題が生じることもあります(床上安静による問題 床上安静による問題 入院中のように長期間にわたって安静にしている患者は定期的に体を動かすことがないため、様々な問題が起きるおそれがあります。( 入院による問題も参照のこと。) 脚にけがをしたり脚の手術を受けたりした患者や、安静にしている患者は脚を使わなくなることがあります。こうなると、脚の静脈から心臓に戻る血液の流れが遅くなります。そして、血管の中に血栓(血液の固まり)ができることがあります。脚にできた血栓(... さらに読む を参照)。
昏迷と昏睡の診断
医師による評価
神経学的診察
臨床検査と画像検査
意識障害の有無は観察と診察の結果に基づいて判断できます。治療方法は原因によって異なり、意識障害が進行して昏睡や脳死に至る可能性があるため、医師は障害が起こっている脳の部位と障害の原因を特定するよう努めます。
何度も激しく起こそうとすると短時間だけ覚醒する場合は、昏迷と診断されます。まったく覚醒させることができず、患者が眼を閉じたままである場合は、昏睡と診断されます。
昏迷や昏睡は生命を脅かす病気が原因で起こることもあるため、昏迷または昏睡状態の人がいる場合は、直ちに病院に搬送しなければなりません。医療従事者は原因の特定に努め、それと並行して救急処置を行います。例えば、血糖値を推定するために迅速な検査を行います。血糖値が低い(直ちに永続的な脳の損傷が起こる可能性がある)ことが分かれば、直ちに治療を開始できます。
昏迷または昏睡状態の患者は、意思を伝えることができません。そのため医師は通常、患者が医療情報を記したブレスレットやネックレスを身につけていないか確認します。これらによって意識障害の原因を推測できることがあります。原因を特定するために、患者の財布、カバン、ポケットの中を調べて医療情報(病院の診察券など)や薬がないか確認することもあります。そのため、昏迷や昏睡のリスクを高める病気(糖尿病やけいれん性疾患など)がある人は、自身の医療情報が分かるものを何らかの形で携帯したり着用したりしておくべきです。
患者の意識が変化したときに居合わせた人に、医師はそのときの状況やそのほかにみられた症状について尋ねます。例えば、意識が障害されたときに腕や脚が何度も震えた場合は、けいれん発作が原因である可能性があります。医師は患者の家族や友人とも話し、家族や友人は、患者に関する次のような重要な情報を救急医療従事者や医師に正直にすべて伝える必要があります。
薬(処方薬およびレクリエーショナルドラッグ)、アルコール、その他の有害物質を使用しているかどうか、何を使用しているか
意識が変化する前にけがをしなかったか
症状がいつ、どのように始まったか
何らかの感染症、その他の病気(糖尿病、高血圧、けいれん発作、甲状腺、腎臓、肝臓の病気など)、その他の症状(頭痛や嘔吐など)が現在または過去になかったか
最後に正常に見えたのはいつか
いつもと違うものを食べたり、旅行したりしなかったか
可能性のある原因に関する心当たりがないか(例えば、最近患者が抑うつ状態にあった、自殺をほのめかしていたなど)
このような情報は、原因の特定に役立ち、回復の可能性を評価する助けになります。このような情報が得られなければ、たとえ広範な診断検査を行ったとしても、原因の多くが特定されません。例えば、患者がいつもと違うものを食べていた場合は、毒素(毒キノコに含まれるものなど)が原因の可能性があります。患者が最近旅行していた場合は、訪れた地域でよくみられる感染症が原因の可能性があります。錠剤の空の容器または薬を使用するための道具が近くで見つかれば、薬の過剰摂取が原因の可能性があります。患者が薬剤や有害物質を摂取した場合、家族や友人はその物質のサンプルまたは容器を医師に渡すべきです。
家族や友人からの情報は通常は貴重であり、正しい診断につながる可能性は身体診察や検査を上回ります。例えば、すべての薬について過剰摂取の可能性を否定できるような検査はありません。
身体診察
体温を測定します。体温が異常に高い場合は、感染症、熱中症、体を刺激する薬(コカインやアンフェタミン類など)の過剰摂取が考えられます。体温が異常に低い場合は、寒冷への長時間の曝露、甲状腺機能低下症、アルコール中毒、鎮静薬の過剰摂取の可能性が考えられ、高齢者では感染症も考えられます。
医師は、頭部、顔、皮膚を診察し、以下のような原因の手がかりがないかを調べます。
眼の周りのあざ、切り傷、皮下出血、または鼻や耳から漏れる髄液(脳の周囲を流れている液体)は、頭部外傷を示唆します。
注射針の痕跡は、ヘロインなどの薬物の過剰摂取を示唆します。
発疹を伴う発熱は、しばしば敗血症(血流感染症に対する全身の重篤な反応)や脳などの感染症を示唆します。
患者が舌をかんでいた場合、けいれん発作が原因である可能性があります。
神経学的診察
徹底的な 神経学的診察 神経学的診察 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む が行われます。この診察は、以下のことを判定するのに役立ちます。
意識障害はどれくらい重症か
脳幹が正常に機能しているかどうか
脳のどの部分に損傷があるか
可能性のある原因は何か
患者に意識がない場合、医師はまず声をかけて起こそうとし、次に患者の腕や脚、胸、または背中を触って起こそうと試みます。これらの方法で患者が目を覚まさなければ、爪床を圧迫したり皮膚をつねったりして、痛みや不快感を伴う刺激を与えます。それによって患者が眼を開いたり、顔を歪めたり、意図的に痛みの刺激から身を引くような動きをしたりする場合、意識障害は重度でないと判定されます。患者が音を立てられる場合、大脳半球はある程度機能しています。眼が開く場合、おそらく脳幹の一部は機能しています。
医師はときに、グラスゴー昏睡スケール(Glasgow Coma Scale)などの標準化された尺度を用いて意識レベルの変化を追うことがあります。このスケールは、刺激への反応を点数化するもので、眼の動き、発話、運動を評価します。これは、患者の反応のなさを評価する上で、比較的信頼できる客観的な尺度です。
異常な呼吸パターンは、脳のどの部分が機能していないかを知る上での手がかりになります。
痛みの刺激に対する反応を確認することは、脳や脊髄のどこかに機能不全が起こっているかどうかを判断するのに役立ちます。昏睡状態にある患者に痛みの刺激を与えると、異常な姿勢が誘発されることがあります。例えば、頭が後ろに傾いて両腕と両脚は伸びたままになることがあります(除脳硬直と呼ばれる状態)。あるいは、両脚が伸びて両腕は曲がったままになることもあります(除皮質硬直と呼ばれる状態)。この検査は、正常に機能していない脳の領域を特定する助けになります。
全身の筋肉が緩んでいて、痛み刺激を与えてもまったく動かない状態は、考えられる中で最悪の反応です。これは中枢神経系(脳と脊髄)に重度の機能障害があることを意味します。しかし、筋緊張と動きが回復する場合は、原因が可逆的なもの(鎮静薬の過剰摂取など)である可能性があります。
特定の部位でみられる自動的な 反射 反射 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む は、診察用のハンマー(打腱器)で関節をたたくなどの手技によって確認されます。医師は、体の様々な部位の反射の強さの違いを調べます。この情報は、正常に機能していない脳の領域を特定する上で役立つことがあります。
無反応になった原因が意識に影響を及ぼさない精神障害であれば、自動的な反射はすべて正常にみられます。
眼を観察することでも、脳幹がどの程度機能しているか、また意識障害の原因は何かを知る上で重要な手がかりが得られます。医師は、瞳孔の位置、大きさ、明るい光への反応、(意識がはっきりしている患者では)動く物を追う能力、網膜の状態を確認します。正常な瞳孔は、暗い所では大きく開き(散大)、光が当たると小さくなります(収縮)。しかし、昏睡状態の人では、瞳孔が光に正常に反応しないことがあります。瞳孔が光に反応するかどうか、またどのように反応するかは、昏睡の原因を特定するのに役立ちます。
正確な評価を行うには、患者が緑内障の治療薬(瞳孔の大きさに影響を及ぼす薬)を使用しているかどうかの情報が必要であり、通常はもともと瞳孔の大きさに違いがあるかどうかの情報が必要です。
医師は眼の中を 検眼鏡 眼底検査 眼に何らかの症状が出た場合は、医師の診察を受けるべきです。 しかし、眼の病気の中には、初期段階では症状がほとんどまたはまったくないものもあります。したがって、症状がなくても、眼科医やオプトメトリストによる定期的な検査を1~2年に1回程度(眼の状態によってはもう少し頻繁に)受けるべきです。眼科医とは、眼の病気の評価と(手術を含む)治療を専門... さらに読む で観察し、頭蓋内圧の上昇を示す徴候がないかも調べます。
頭蓋内の圧力の上昇を示唆する所見がある場合、医師は直ちに画像検査を行って、脳内に腫れ、出血、髄液の流れを妨げる構造異常、または腫瘤(腫瘍、血液の蓄積、または膿瘍など)がないかを確認します。画像検査の結果から圧力の上昇が疑われる場合には、ドリルで頭蓋骨に小さな穴をあけ、脳室(脳の内部の液体で満たされた空間)の1つに装置を挿入する治療が行われることがあります。この装置は、圧力を下げるとともに、治療中に圧力をモニタリングすることを目的として使用されます。
特定の手技への反応が、脳幹の機能が正常かどうかを判断する上で参考になりますが、具体的には以下のものがあります。
頭を回転させて眼の動きを観察する。
患者の意識がなければ、片方の耳、次に他方の耳にそっと氷水を流し込み、眼の動きを観察する(カロリックテストと呼ばれる)。
カロリックテストは、患者に意識がなく、他の方法では眼の動きを確認できないときにのみ行われます。意識のある患者の耳に氷水を流し込むと、重度の 回転性めまい めまい めまいとは厳密な用語ではなく、以下に挙げるような関連する様々な感覚を表現するためによく使われます。 気が遠くなる(気絶しそうになる感覚) ふらつき 平衡障害(バランスを失ったり不安定になる感覚) 漠然とぼうっとする感覚または頭がくらくらする感覚 さらに読む 、吐き気、嘔吐が生じることがあります。
臨床検査
臨床検査を行うと、昏迷または昏睡の原因に関するさらなる手がかりが得られます。
血液中の糖、電解質(ナトリウムなど)、アルコール、酸素、ミネラル(マグネシウムなど)、二酸化炭素の濃度や量を測定します。二酸化炭素の濃度が高ければ、呼吸障害が示唆されることがあり、人工呼吸器が必要になることがあります。また、赤血球数と白血球数を測定します。血液検査を行い、肝機能と腎機能を調べます。
尿を分析し、広く使用されている物質または摂取が疑われる有害物質がないかを調べます。血液と尿のサンプルを検査室に送って、培養検査(微生物を増殖させて調べる検査)を行い、感染の有無を確認します。
指にセンサー(パルスオキシメトリーと呼ばれます)を取り付けて、血液中の酸素レベルを測定します。動脈から採取した血液のサンプルを用いて、血液中の酸素や二酸化炭素、ときにその他の気体のレベルも測定します(動脈血ガス検査)。これらの検査は、心臓や肺の病気の有無を調べるために行います。
疑われる昏睡の原因に応じて、その他の臨床検査が行われることもあります。
その他の検査
心電図検査を行い、脳への血流を減少させる心疾患がないかを確認します。血液中の酸素の量を減少させる肺の病気がないかを調べるために、胸部X線検査が行われることもあります。
原因がすぐに特定されない場合は、頭部のCT検査またはMRI検査を行って、脳に腫瘤、出血、腫れなどの構造的な損傷がないか確認します。
画像検査を行っても原因がはっきりしない場合や、髄膜炎または くも膜下出血 くも膜下出血(SAH) くも膜下出血は、脳を覆っている組織(髄膜)の内側層(軟膜)と中間層(くも膜)との間にあるすき間(くも膜下腔)への出血です。 最も多い原因は、動脈のこぶ(動脈瘤)の破裂です。 通常、動脈が破裂すると、突然の激しい頭痛が起こり、その後にしばしば短時間意識を失います。 診断を確定するためにCT検査またはMRI検査のほか、ときに腰椎穿刺と血管造影検査が行われます。 頭痛を軽減し血圧をコントロールするために薬剤が投与され、出血を止めるために手術が... さらに読む (脳を覆う組織層と組織層の間への出血)の可能性がある場合は、 腰椎穿刺 腰椎穿刺 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む を行って髄液のサンプルを採取することがあります。採取した髄液を観察して分析し、様々な原因の特定に役立てます。腰椎穿刺の前には頭部のCTまたはMRI検査を行うのが一般的で、例えば腫瘍や脳内出血(脳内への出血)によって頭蓋内の圧力(頭蓋内圧)が上昇していないかを確認します。圧力が上昇している場合、腰椎穿刺は危険となる可能性があるため、行うべきではありません。その状態で腰椎穿刺を行うと、脳の下で圧力が急激に低下することにより脳の位置が側方と下方にずれ、少なくとも理論的には、 脳ヘルニア ヘルニア:脳の圧迫 が発生または悪化する可能性があります。とはいえ、腰椎穿刺後のヘルニアは比較的まれです。頭蓋内圧が上昇している場合は、継続的にモニタリングし、 減圧のための処置 頭蓋内圧の上昇の治療 昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができず、刺激を受けても眼は閉じたままになっている状態です。 昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。 身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診は、原因を特定する上での助けになります。... さらに読む を行います。
意識障害の原因がけいれん発作であると疑われる場合や、他の検査を行っても原因がはっきりしない場合は、脳の電気的活動を確認するために 脳波検査 脳波検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む が行われることがあり、脳が正常に機能していない場合はこの検査で異常がみられます。脳波検査では、腕や脚がひきつっていなくても、ときにけいれん発作が起きていることが明らかになる場合があります(非けいれん性てんかん重積状態 てんかん重積状態 と呼ばれます)。ときに、行動障害または精神的な問題のある人が無反応に見える場合は、病院でビデオ脳波モニタリング検査が行われます。この検査は、脳機能が正常であるかどうかを判定するために行われます。検査の結果は、医師が問題を特定して適切に治療する上で役に立ちます。
昏迷と昏睡の予後(経過の見通し)
一般に、意識障害のある患者が6時間以内に音、触覚、またはその他の刺激に反応し始めれば、回復する可能性は高いです。1日目に以下のうち1つ以上がみられる場合も、回復の見込みが高いといえます。
発話が回復する(内容が不可解な場合も含む)
眼で物を追うことができる
指示に従うことができる
筋緊張が正常に戻る
以下に挙げるように、回復の可能性は、意識障害の原因と持続時間によっても変わります。
鎮静薬の過剰摂取:脳に損傷が起こるほど長時間の呼吸停止が起こっていない限り、回復が見込めます。
低血糖:脳に糖が不足している状態が1時間以内であれば、完全な回復を期待できます。
頭部外傷:昏睡が数週間続いても(ただし3カ月を超えない場合)、かなり回復する場合があります。
脳卒中:昏睡が6時間以上続いた場合は、永続的な脳の損傷が残る可能性が高くなります。
感染症:迅速に治療すれば、しばしば完全な回復が可能です。
ほかに病気(糖尿病、高血圧、肺や心臓の病気など)があり、重症の場合、それが回復に悪影響を及ぼすことがあります。また、集中治療室(ICU)の長期滞在も、神経の損傷や筋力低下、 肺塞栓症 肺塞栓症 肺塞栓症は、血液のかたまり(血栓)や、まれに他の固形物が血液の流れに乗って肺の動脈(肺動脈)に運ばれ、そこをふさいでしまう(塞栓)病気です。 肺塞栓症は、一般に血栓によって発生しますが、別の物質が塞栓を形成して動脈をふさぐこともあります。 肺塞栓症の症状は様々ですが、一般に息切れなどがみられます。... さらに読む 、 床ずれ 床ずれ 床ずれ(褥瘡[じょくそう]とも呼ばれます)とは、長時間の圧迫により皮膚に十分な血液が流れなくなることで生じる皮膚の損傷です。 床ずれは、圧迫に加えて、皮膚を引っ張る力、摩擦、湿気などの要因が組み合わさって発生する場合が多く、特に骨のある部分の皮膚でその傾向が強くみられます。 診断は通常、身体診察の結果に基づいて下されます。... さらに読む 、 尿路感染症 尿路感染症(UTI)の概要 健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。... さらに読む などの問題につながる可能性があります。
心停止後に以下のうち1つでも該当するものがあれば、完全な回復はまれになります。
心疾患、高血圧、糖尿病などの特定の病気
6時間以上昏睡が続いている
意図しない(不随意な)筋肉の動き(通常は筋肉のひきつり)
1~3日経過しても瞳孔が光に反応しない
心停止後24~48時間以内に発生し、繰り返し再発するけいれん発作
心停止後に腕や脚を動かすことができない場合、回復は困難です。
ただし、心停止後に医師が患者の体を冷却する処置をしていた場合は、通常はこれらの反応が起こるのをさらに3日待つことになります。体を冷やすことで、心停止後も脳の機能が維持されることがありますが、脳機能の回復が遅くなる傾向もあります。
脳幹または大脳半球が機能しているかどうかを判定するため、ときに体性感覚 誘発電位検査 誘発電位検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む と呼ばれる検査が行われます。この検査では、弱い電気信号を発する電極を体の各部に取り付け、脳波を利用して、電気信号が脳に到達するまでの時間を測定して記録します。同様に、聴性誘発電位検査では、左右の耳のそばでクリック音を鳴らし、聴覚信号が脳に届くかどうかを調べます。誘発電位の信号が脳に届かないことが何度も繰り返される場合は、予後がよくない傾向があります。
若い人では脳の自己修復がより速く完全に起こるため、小児や(ときに)若い成人では、高齢者と比べて回復の度合いが高くなります。
深い昏睡状態が数週間以上続く場合は、人工呼吸器、栄養チューブ、および薬の使用を継続するかどうかの決断が必要になります。家族はこうした問題について医師とよく話し合わなければなりません。患者が 事前指示書 事前指示書 医療に関する事前指示書は、ある人が医療に関する決断を下すことができなくなった場合に、医療についての本人の希望を伝達する法的文書です。事前指示書には、基本的にリビングウィルと医療判断代理委任状の2種類があります。( 医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。) リビングウィルは、終末期ケアに代表されるような、個人が医療に関する決定能力を喪失する事態に備え、将来の医学的治療に関する指示や要望を事前に表明するものです。... さらに読む (リビングウィルや医療判断代理委任状など)を作成している場合、治療の継続に関する決定は指示書に従うべきです。
昏迷と昏睡の治療
呼吸を助け、脳への血流を改善するための処置
原因の治療
緊急の治療
患者の覚醒レベルが急速に低下し、起こすことが難しくなってきている場合、迅速な治療が必要であり、診断を下す前に治療が必要になることもしばしばあります。このような急速な意識レベルの悪化がみられる場合、緊急の治療が必要です。
治療の最初の段階としては以下の点について確認を行い、これらはときに救急医療従事者が行うこともあります。
気道が開通しているか
呼吸が十分であるか
脈拍、血圧、心拍数が正常であるか(血液が脳に確実に届いていることを確認するため)
可能であれば、問題を是正します。
患者はまず病院の救急外来で治療されてから、集中治療室に移されます。救急外来でも集中治療室でも、看護師によって心拍数、血圧、体温、血中酸素レベルがモニタリングされます。脳がさらに損傷されるのを防ぐため、これらの値に異常があれば直ちに是正します。多くの場合、直ちに酸素投与を行い、薬やブドウ糖を速やかに投与できるように静脈内に管が挿入されます(静脈ラインの確保)。
体温が高すぎる場合または低すぎる場合は、患者の体を冷却(熱中症の治療 治療 熱射病は、体温が異常に上がり、多くの器官系に機能障害が起こる、生命を脅かす状態です。 ( 熱中症の概要も参照のこと。) 何時間も運動した若い運動選手や、暑い季節に冷房のない屋内で何日も過ごした高齢者などに起こることがあります。 体温は40℃を超え、脳の機能障害が起こります。 直ちに体を冷やす必要があります。 さらに読む )または加温(低体温症の治療 治療 低体温症(危険なほど体温が低下した状態)は、寒冷な環境にさらされることによって発生したり悪化したりするため、 寒冷障害と呼ばれることが多くあります。 非常に寒い環境に身を置いたり、特定の病気があったり、動くことができない状況にある場合、低体温症による害が生じるリスクが高くなります。 最初はふるえが起こりますが、その後、錯乱状態となり、意識を失います。 体温が下がりきってしまう前に、体を温めて濡れた衣類を乾かすことができれば、回復します。... さらに読む )するための処置が行われます。他の病気(心疾患や肺疾患など)がある場合は、その治療を行います。
血圧を注意深くモニタリングして、血圧が高すぎたり低すぎたりしないようにします。高血圧は意識をさらに障害し、脳卒中などの他の問題を引き起こす可能性があります。低血圧でも、脳に十分な血液と酸素が供給されないため、意識が障害されることがあります。
原因の治療
可能であれば、昏迷または昏睡の原因を治療します。
低血糖に対しては、ブドウ糖を直ちに静脈内に投与します。低血糖が原因で起こった昏睡は、このブドウ糖の投与によってすぐに回復します。このとき、ブドウ糖と一緒に、必ずチアミンが投与されます。これは、低栄養状態の人(通常の原因はアルコール乱用)にブドウ糖だけを投与すると、 ウェルニッケ脳症 ウェルニッケ脳症 ウェルニッケ脳症は、 チアミン欠乏により錯乱、眼の障害、平衡感覚の喪失を引き起こす脳疾患です。 ウェルニッケ脳症は、ビタミンB群の1つである チアミンの重度の欠乏が原因で発症します。体内にチアミンが少量しか蓄えられていない場合、炭水化物の摂取が誘因となることがあります。 重度の アルコール使用障害の患者は、長期にわたる過剰なアルコール摂取により、消化管からのチアミンの吸収や、肝臓のチアミンの貯蓄が妨げられるため、しばしばウェルニッケ脳症... さらに読む と呼ばれる脳疾患を誘発したり、悪化させたりすることがあるためです。
頭部外傷が原因であれば、医師が脊椎の損傷がないことを確認するまで、患者の首が動かないように固定しておく必要があります。頭部外傷後に昏迷または昏睡状態に陥った人には、アマンタジンのように神経細胞の機能を改善する薬による治療が有益になる場合があります。このような治療により、より早く一定水準の機能が回復する可能性があります。しかし、長期的な改善という観点からは、このような治療を行っても行わなくてもほとんど差が出ない可能性があります。
オピオイドの過剰摂取が疑われる場合は、解毒剤であるナロキソンが投与されます。意識障害の原因がオピオイドだけである場合は、ほとんど即時に回復する可能性があります。オピオイドを使用している患者には、ナロキソンの自己注射器が処方されることがあります。オピオイドの過剰摂取が疑われる場合、家族や介護者がこの注射器を使って直ちにナロキソンを投与できます。
まれに、ある種の有害物質または薬剤を1時間以内に飲み込んだことが疑われる場合は、太いチューブを患者の口から胃の中に入れ、胃の内容物を吸い出すことがあります。胃の内容物を吸い出すのは、中身を調べるためと、その有害物質がさらに吸収されるのを防ぐためです。その同じチューブか鼻から入れたより細いチューブ(経鼻胃管)を介して、活性炭を投与する場合もあります。活性炭は、問題の物質が胃からさらに吸収されるのを阻止します。
呼吸を制御する治療
一般的に、深い昏迷または昏睡状態にある人には、呼吸用のチューブと 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む による呼吸の補助が必要になります。呼吸が(脳の損傷や機能不全などが原因で)遅すぎるか浅すぎる、または障害されている場合は、人工呼吸器による補助が特に重要です。
呼吸用のチューブ(気管内チューブ)は、口から気管に挿入されます(これを気管挿管といいます)。そのチューブを通して酸素を直接肺に送り込みます。このチューブには、嘔吐が起きたときに胃の内容物が肺に吸い込まれるの防ぐ役割もあります。医師はチューブを挿入する前に、患者ののどに麻痺薬のスプレーを噴霧したり、筋肉が無意識に収縮するのを防ぐ薬(筋弛緩薬)を投与したりすることがあります。続いて、チューブを人工呼吸器に接続します。
人工呼吸器は興奮を引き起こす可能性がありますが、これは鎮静薬で治療できます。
頭蓋内圧の上昇の治療
頭蓋内の圧力(頭蓋内圧)が上昇している場合は、減圧のために以下のような対策をとります。
ベッドの頭側を高くします。
呼吸を速める(過換気と呼ばれます)ために人工呼吸器が用いられることもあり、特に最初の30分間はよく使用されます。呼吸を速くすると、肺から二酸化炭素が除去され、血液中の二酸化炭素濃度が低下します。その結果、損傷を受けていない脳領域の血管が狭くなり、脳に到達する血液が少なくなります。これにより、一時的に(約30分間)ではありますが頭蓋内圧が急速に低下し、脳へのさらなる損傷を防ぐことができます。一時的に圧力を下げておくことで、医師は原因の治療を開始する時間を(例えば、緊急で脳手術を行うために)確保できます。
脳内および全身の体液を減らすために利尿薬などの薬が使用されることもあります。利尿薬は、腎臓がナトリウムと水を尿中に排泄するのを促すことにより、過剰な体液の除去を助けます。
筋肉の過度の不随意収縮または人工呼吸器による興奮を抑えるために鎮静薬が投与されることもあります。これらの問題があると、頭蓋内圧が上昇することがあるためです。
血圧が非常に高い場合は、血圧を下げます。
ときに、脳室にドレーン(シャント)を挿入して髄液を排出することもあります。過剰な髄液の排出は、頭蓋内の圧力を下げるのに役立ちます。
脳腫瘍または脳膿瘍によって頭蓋内の圧力が高まっている場合は、圧力を下げるためにデキサメタゾンなどのコルチコステロイドが役立つ場合があります。しかし、コルチコステロイドは脳内出血や脳卒中などの特定の病気を悪化させる可能性があるため、そのような病気によって圧力が高まっている場合は、コルチコステロイドは使用しません。
ほかの方法で効果がなければ、以下の手段が試みられます。
頭部外傷または心停止の後に頭蓋内の圧力が上昇した場合、体温を下げる対策を試みることがあります。それらの対策は、心停止を起こした人の一部で助けになることがあります。ただし、この対策を用いることについては議論もあります。
脳への血流と脳の活動を減少させるために、ペントバルビタール(バルビツール酸系薬剤の一種)が用いられることがあります。この治療により、人によっては予後が改善する場合があります。しかし、すべての人に有益というわけではなく、低血圧や不整脈などの副作用があります。
外科的に頭蓋骨を開き(開頭術)、腫れた脳が広がれるスペースを作り、脳にかかる圧力を下げることもあります。この治療によって死を回避することはできますが、機能は改善されないかもしれません。
長期的なケア
昏睡状態にある人には包括的なケアが必要になります。栄養は鼻から胃に挿入したチューブを介して与えられます(経管栄養 経管栄養 経管栄養は、消化管は正常に機能しているものの、十分に栄養所要量を満たすほど食べられない人に、栄養を与えるために用いられることがあります。例としては、以下の状態の人が挙げられます。 長期間にわたる食欲不振 重度の タンパク-エネルギー低栄養(重度のタンパク質とカロリーの欠乏症) 昏睡または覚醒レベルの大幅な低下 肝不全 さらに読む と呼ばれます)。腹部を切開して直接胃にチューブを挿入し、そのチューブから栄養を胃または小腸に送り込むこともあります。これらのチューブから薬を投与することもあります。
体を動かせないことによって様々な問題が起こるため、それらの問題を予防するための対策が不可欠です(床上安静による問題 床上安静による問題 入院中のように長期間にわたって安静にしている患者は定期的に体を動かすことがないため、様々な問題が起きるおそれがあります。( 入院による問題も参照のこと。) 脚にけがをしたり脚の手術を受けたりした患者や、安静にしている患者は脚を使わなくなることがあります。こうなると、脚の静脈から心臓に戻る血液の流れが遅くなります。そして、血管の中に血栓(血液の固まり)ができることがあります。脚にできた血栓(... さらに読む を参照)。例えば、以下のようなことが起こりえます。
床ずれ 床ずれ 床ずれ(褥瘡[じょくそう]とも呼ばれます)とは、長時間の圧迫により皮膚に十分な血液が流れなくなることで生じる皮膚の損傷です。 床ずれは、圧迫に加えて、皮膚を引っ張る力、摩擦、湿気などの要因が組み合わさって発生する場合が多く、特に骨のある部分の皮膚でその傾向が強くみられます。 診断は通常、身体診察の結果に基づいて下されます。... さらに読む :同じ姿勢で寝ていると、体の一部分への血液供給が遮断され、その部分の皮膚が破れて、床ずれ(褥瘡)が発生する可能性があります。
筋力低下: 筋肉を使用しないと、筋肉が衰えて(萎縮して)筋力が低下します。筋力が低下している人は、人工呼吸器を外すと、自分で呼吸するのが困難になることがあります。
拘縮:体を動かさずにいると、筋肉が永久的に硬直して短縮し(拘縮)、関節が曲がったまま元に戻らなくなることがあります。
血栓:体を動かさずにいると、脚の静脈に血栓が形成されやすくなります。血栓が剥がれて血流に乗って肺まで移動し、肺の動脈をふさいでしまうこともあります(肺塞栓症 肺塞栓症 肺塞栓症は、血液のかたまり(血栓)や、まれに他の固形物が血液の流れに乗って肺の動脈(肺動脈)に運ばれ、そこをふさいでしまう(塞栓)病気です。 肺塞栓症は、一般に血栓によって発生しますが、別の物質が塞栓を形成して動脈をふさぐこともあります。 肺塞栓症の症状は様々ですが、一般に息切れなどがみられます。... さらに読む )。
腕や脚の筋肉や神経の損傷:長時間動かずに同じ姿勢で横になっていると、肘、肩、手首、膝などの突出した骨の近くで体表付近を走る神経に圧力がかかることがあります。そのように圧力がかかると、神経が損傷されることがあります。その結果、その神経が制御している筋肉の機能も低下します。
床ずれは、頻繁に体位を変えるとともに、ベッドの表面に接する部分(かかとなど)の下に保護パッドを置いて保護することで、予防することができます。
拘縮を予防するため、患者の関節をすべての方向に優しく動かしたり(他動的関節可動域訓練)、関節を特定の姿勢で固定したりするケアを理学療法士が行います。運動能力を失った人が機能を回復するには、理学療法を早期に開始することが有用です。
血栓の予防策として、薬剤の使用や脚の圧迫または挙上などが行われます。他動的関節可動域訓練で行うように、四肢を動かすことも血栓の予防に役立つ可能性があります。
まばたきができないため、眼が乾燥することがあります。これには点眼薬が有用です。
失禁がある場合は、皮膚を清潔で乾燥した状態に保つためのケアが必要です。膀胱が機能せず、尿がたまってしまう場合は、膀胱にチューブ(カテーテル)を留置して排尿させます。尿路感染症を予防するため、カテーテルは丁寧に洗浄し、定期的に点検を行います。
高齢者での重要事項:昏迷と昏睡
高齢者では、以下の理由から、嗜眠、昏迷、昏睡などの意識障害が特に懸念されます。
加齢に伴う脳の変化 脳と神経系 加齢に伴い、個々の細胞やすべての臓器で変化が起こり、体が変化していきます。それにより機能面や外見が変化します。 ( 老化の概要も参照のこと。) 細胞が老化するにつれ、機能も衰えます。古い細胞は最終的に死滅しますが、これは体の正常な機能の一部です。 古い細胞が死ぬ理由の1つは、そうなるようにプログラムされているからです。細胞の遺伝子には、誘発されれば細胞死に至るような過程がプログラムされています。アポトーシスと呼ばれるこのプログラム死は、... さらに読む :加齢に伴い、脳内の神経細胞の数が減少し、脳への血流が減少します。その結果、高齢者の脳は薬による影響を打ち消す能力が低下するため、高齢者では薬によって意識や精神機能に障害が現れやすくなります。また、脳の血管がもろくなるため、脳卒中のリスクが高まります。
加齢に伴うその他の変化:体内の他の部位に起こる変化によっても、 薬の影響 処方薬の便益とリスク 最も一般的な医学的介入である薬は、高齢者医療の重要な部分です。薬がなければ、多くの高齢者の身体機能はさらに衰えたり、またはより早く死を迎えるでしょう。 高齢者は、高血圧、糖尿病、または関節炎など複数の慢性疾患にかかりやすいことから、若い人より多くの薬を服用する傾向があります。高齢者が慢性疾患の治療に使用するほとんどの薬は何年にもわたり服用... さらに読む に対する感度が上がります。例えば、加齢に伴い、腎臓では薬を尿中に排泄する能力が低下し、肝臓では様々な薬を分解(代謝)する能力が衰えます。その結果、薬が体内から除去されにくくなります。血液中に残る薬の量が増え、血液中にとどまる時間が長くなる可能性があります。すると、より多くの薬が脳に到達するようになり、脳機能に影響を及ぼします。その結果、高齢者は少量の薬でも錯乱に陥ったり、眠気を催したりすることがあります。高齢者が薬を使用する場合は、しばしば投与量を通常より少なめにする必要があります。
複数の薬の使用:多くの高齢者は、高血圧、糖尿病、関節炎などの慢性疾患にかかっているため、複数の薬を使用しています(多重投薬と呼ばれます)。複数の薬を使用すると、 薬物相互作用 薬物相互作用 薬が人に与える影響については、薬が以下のものと相互作用することにより、予想されたものとは異なる可能性があります。 その人が服用している別の薬(薬同士の相互作用) その人が摂取している飲食物やサプリメント(薬と栄養素の相互作用) その人がかかっている別の病気(薬と病気の相互作用) 薬物相互作用は、通常は好ましくなく、ときに害をもたらすことがあります。相互作用では以下のことが起こる可能性があります。 さらに読む のリスクが高まり、脳に影響が現れる可能性があります。例えば、ある薬が別の薬の血中濃度を高めることがあります。
複雑な服薬スケジュール:高齢者が多くの薬を服用しなければならない場合、その服薬スケジュールが複雑になることもあります。その結果、服薬スケジュールを誤ったり過剰にまたは過少に服用してしまったりする可能性が高まります。
軽い病気の影響:高齢者では若い人に比べて、尿路感染症や脱水といった比較的軽い病気で意識障害をきたす可能性が高まります。
他の病気の存在:高齢者によくみられる病気の多くが、意識障害の原因になります。そのような病気には、脳卒中、脳腫瘍、動脈瘤(脳内の動脈の弱くなった部分にできた膨らみ)、代謝性疾患、重度の肺疾患、重症感染症、心不全などがあります。ほかにも、別の問題(脱水や感染症など)が生じた場合に意識障害のリスクを高める病気(糖尿病など)があります。
転倒と頭部外傷のリスクが高い:高齢者では、 転倒 高齢者の転倒 転倒のほとんどは、身体的に動作やバランス能力に支障をきたす状態の高齢者が、環境内の障害物に遭遇したときに起きます。 多くの場合は転倒前に症状はないものの、めまいまたはその他の症状が現れている場合もあります。 転倒後、骨折または皮下出血がみられることがあります。 転倒の原因が病気か否かを判断するために、医師はしばしば検査を行います。... さらに読む や自動車事故で 頭部外傷 頭部外傷の概要 脳が関与する頭部外傷は特に懸念されます。 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。... さらに読む を負うリスクが高くなります。損傷は脳が振動したり、組織が裂けたりしたときに生じ、頭蓋内で出血が起きることがあります。 硬膜下血腫 硬膜下血腫 頭蓋内血腫は、頭蓋内(脳の内部、または脳と頭蓋骨の間)に血液がたまった状態を指します。 頭部外傷によって脳の内部、または脳と頭蓋骨の間に血液がたまって生じます。 脳のどの領域が損傷を受けているかに応じて、しつこい頭痛、眠気、錯乱、記憶障害、脳の損傷部位と反対側の体の麻痺、発話や言語能力の障害などの症状が現れます。 頭蓋内血腫はCT検査やMRI検査によって発見されます。 血腫から血液を抜き取る手術が必要になる場合もあります。 さらに読む (脳を覆う組織層の最外層と中間層との間からの出血)は、しばしばそのような損傷に起因します。また、脳は加齢とともに縮んでいき、層と層の間にある血管が引き伸ばされます。その結果、血管が裂けて出血が起きることがあります。
毒素への生涯曝露:生涯にわたり食品や環境に含まれる毒素にさらされてきた人では、脳細胞が損傷されているため、意識障害のリスクが高まります。
意識障害が気づかれにくい:高齢者では、意識障害が気づかれにくいことがあります。高齢者の覚醒レベルが低下したり、周囲のことに対する認識能力が低下したりしても、家族や友人がそれに気づかなかったり、加齢によるものだと考えたりすることがあります。(意識障害は加齢に伴う正常な変化ではありません。)認知症または脳疾患がある高齢者や、脳卒中を起こしたことのある高齢者では、意識状態の変化を見つけるのが難しい場合があります。
回復能力:脳の自己修復能力は加齢につれて低下するため、高齢者では昏迷や昏睡から回復する可能性が低くなります。
高齢者では、一般に薬への反応、脱水、感染症によって意識が障害されます。