筋骨格系の病気に関する病歴聴取と身体診察

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2022年 5月
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筋骨格系は、骨、関節、靱帯、腱、滑液包で構成されています(筋骨格系の生物学に関する序を参照)。これらはどれも、損傷したり、病気にかかったりすることがあります。

病気の中には、主に関節を侵し(変形性関節症など)、関節炎を引き起こすものがあります。主に骨を侵す病気(骨折骨パジェット病腫瘍など)や、主に筋肉などの軟部組織を侵す病気(線維筋痛症腱炎など)もあります。

筋骨格系の病気の診断には、様々な診断検査(筋骨格系の病気の検査を参照)を用いることができますが、診断の最も重要な要素は医師による病歴聴取と身体診察です。

病歴聴取

筋骨格系の評価では、医師は筋骨格系の症状について問診を行いますが、発熱、悪寒、体重減少、発疹、眼の痛みや充血、心臓、肺、消化管の病気の症状など、筋骨格系以外の症状がないかも調べます。そのような他の症状が、様々な筋骨格系の病気によるものであったり、そうした病気が関連していたりする場合があるからです。

痛み

筋骨格系の病気の症状として最もよくみられるのは痛みです。医師は患者に痛みの性質、場所、強さを尋ねます。また、痛みを悪化させたり、和らげたりする要因を挙げてもらい、痛みが新しく出たものか、繰り返し出ているものかを尋ねます。医師はまた、痛みの悪化するタイミングが関節を最初に動かしたときか、長時間動かした後かと、痛みが起床時にあるか、日中に生じるかを確認します。

医師はまた、痛みがどのように感じられるか(例えば、痛みが鋭いのか鈍いのか、うずくような痛みなのか、焼けるような痛みなのかなど)についても尋ねます。患者が関節内の深部や他の筋骨格系の構造に痛みを感じているかどうかも確認する必要があります。痛みの種類と場所が判明することで、医師は原因を解明しやすくなります。

こわばり

筋骨格系の病気では、しばしば関節にこわばり(関節を動かそうとしたときに抵抗を感じる症状)が生じます。医師は患者にこわばりについて具体的な説明を求めますが、これは、筋力の低下やひどい疲れ(疲労)を表現するのに「こわばり」という言葉を使う人が多い一方、医学的には「こわばり」は関節を動かしにくい状態を意味するからです。医師は、動かすと生じる痛みのせいで関節が動かしづらくなっている状態を、こわばりとは区別します。

医師はまた、どのようなときこわばりを感じるかを患者に尋ねます。関節リウマチ変形性関節症など、関節の病気の中には、長時間安静にしていた後や朝の起床後に最初に動きだそうとする際に、こわばりが生じるものがあります。さらに医師は、患者がこわばりをどこに感じ、こわばりがどの程度持続するかを知る必要があります。例えば、炎症を引き起こす病気(関節リウマチなど)では、こわばりが長く(例えば1時間以上)、一方、炎症を引き起こさない病気(変形性関節症など)では、こわばりが強く痛みが持続する場合があるものの、短時間(例えば10分程度)で消失します。

疲労

医師は疲労についても患者に質問します。疲労とは、休む必要性を強く感じ、活動を開始したり維持したりするのが困難になるほどエネルギーが不足した状態です。疲労は、筋力低下や動けない状態とは異なるもので、眠気と区別するための評価も行われます。疲労は、体の複数の臓器を侵し、炎症を引き起こす病気があることや、正常な睡眠を妨げている病気があることを表している場合があります。

関節の不安定性

関節に不安定性を感じることがありますが(例えば、関節がぐらついたり、急に曲がったりします)、これは、靱帯などの関節を安定させるための構造物の力が弱まっていることを意味します。関節が急に曲がる現象は、膝関節で最もよくみられます(膝折れ)。

身体診察

医師は身体診察の間、疑われる病気やけがに応じて、特定の所見がないか探します。

骨折の疑いがあるときは骨を調べ、実際に骨折があると、患部(腕や脚など)に異常な変形が見つかることがあり、そうした変形は骨の一部がずれている可能性を示唆します。

特に骨折、腫瘍、または骨の感染症(骨髄炎)が疑われる場合は、医師は骨と関節の表面を触診して、圧痛や熱感、関節の中にたまった液体、異常な変形がないか確認します。骨粗しょう症による脊椎の圧迫骨折や疲労骨折では、最初から強い痛みが出ることがありますが、異常な変形がみられないことがあります。骨に異常な膨らみがあれば、腫瘍の可能性が示唆されます。骨髄炎が疑われる場合は、検温をして発熱がないか確かめます。

患者が筋力低下を訴えている場合は、触診をして筋肉の量、緊張(筋肉が使われていないときの弛緩の程度)、筋力、圧痛の有無を確認します。筋肉のひきつりや不随意運動がないかも調べますが、もしこれらが認められれば、筋肉の病気よりも、むしろ神経の病気が疑われます(運動神経を参照)。医師は筋肉のやせ(筋萎縮)の有無も確かめます。これは、筋肉や神経の損傷、筋肉の使用不足(廃用性筋萎縮)が原因で起こり、長期間の床上安静などの場合にみられます。

また、筋肉が大きくなっていないか(肥大)についても調べますが、これは正常な場合は筋肉に繰り返し負荷をかける活動や運動、例えばウェイトリフティングによって起こります。しかし、病気の場合、他の筋肉の筋力低下を補うために筋肉の働きが増大した結果として生じることもあります。正常な筋肉組織が異常な組織で置き換えられた場合にも、筋肉肥大は起こります(肥大はするが、筋力は強くならない)。アミロイドーシスデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの一部の遺伝性筋疾患では、筋肉が異常な組織で置き換えられることがあります。

筋力低下がある場合、医師はどの筋肉に筋力低下が起きていて、それらがどの程度なのかを確認します。筋肉の検査は、通常は顔面と首から始めて、それから腕、最後に脚という順番で、体系的に行うことができます。正常であれば、両腕を広げ、手のひらを上に向けた状態で、腕が下がったり、回旋したり、ふるえたりすることなく、1分間この体勢を維持することができるはずです。手のひらが内側に回旋して腕が下がるのは、筋力低下の徴候です。

筋力の検査は、医師が押したり引いたりするのと反対方向に力を入れてもらう方法で行います。また筋力は、かかとやつま先で歩く、しゃがんだ姿勢から立ち上がる、椅子から立ち上がって座る動作を素早く10回繰り返すなど、特定の動作を患者に行ってもらうことでも検査できます。

医師は自動可動域を検査します。自動可動域とは、関節を自分の力だけで動かせる最大範囲のことです。自動可動域がせばまっていることは、筋力低下、痛み、またはこわばりが起きているか、物理的な異常(瘢痕化や腫れ)を示唆しているかもしれません。医師は他動可動域を検査します。他動可動域とは、患者が完全に力を抜いているときに、医師が患者の関節を動かせる最大範囲のことです。

医師は患者の腕や脚を動かすことで、筋肉の緊張も調べます。筋肉につながる神経に損傷があると、受動的な動きに対する抵抗(受動抵抗)が小さくなることがあります。脊髄や脳に損傷があると、この抵抗が大きくなることがあります。

筋力低下がみられる場合は、筋腱をゴム製のハンマーで軽くたたくことで、反射についても調べます。筋肉につながる神経に損傷があると、反射が予想よりも遅くなることがあります。脊髄や脳に損傷があると、反射が予想より速くなることがあります。

医師は、どの関節、どの腕や脚が影響を受けているかに注目します。影響を受けている関節や脚や腕のパターンを見つけることは、原因を究明するのに役立つことがあります。

また、患部の関節をさらに詳しく診察します。例えば、関節を診察して、関節に液体がたまっているかどうか(関節液貯留)を判断します。特定の他動運動や自動運動について調べることもあります。関節が安定しているかどうかを確認するために、引っぱったり力を加えたりすることがあります。

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