動かすと通常は痛みがあり、皮膚に近い位置にある滑液包に炎症が起こると、腫れて圧痛がみられることがあります。
滑液包の周囲に痛みがあれば、滑液包炎の診断が示唆されますが、滑液包から抜きとった滑液の分析や画像検査が必要になる場合があります。
通常、安静とその後の理学療法、副子(固定具)の使用、非ステロイド系抗炎症薬の投与、ときにはコルチコステロイドの注射で、症状は緩和されます。
滑液包は、正常であれば中に少量の液体が入っており、それがクッションの役割を果たしています。滑液包は、ある構造が別の構造にこすれる際に起こる摩擦を減らし、すり減るのを防いでいます。一部の滑液包は皮膚のすぐ下にあります(表在性の滑液包)。筋肉や腱の下にあるものもあります(深在性の滑液包)。けがをしたり使いすぎたりすると、滑液包が炎症を起こして、中に余分な体液がたまることがあります。
滑液包炎の通常の原因は以下のものです。
異常な使われ方または使いすぎによる刺激
けが、 痛風 痛風 痛風は、尿酸の血中濃度が高いこと(高尿酸血症)が原因で、尿酸の結晶が関節に沈着し蓄積する病気です。結晶が蓄積することで、関節とその周辺に痛みのある炎症の発作が起きます。 尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こることがあります。 炎症を起こした関節から採取した液体に尿酸結晶が認められれば、痛風の診断が下されます。... さらに読む 、 偽痛風 ピロリン酸カルシウム(CPP)関節炎 ピロリン酸カルシウム(CPP)関節炎(以前は偽痛風と呼ばれていました)は、関節の軟骨にピロリン酸カルシウム二水和物の結晶が沈着することで起きる病気で、痛風に似た、痛みを伴う間欠的な関節炎の発作や、関節リウマチに似た慢性の関節炎を引き起こします。 結晶が、関節液や関節の軟骨に蓄積して、様々な程度の炎症や組織の損傷を起こします。 偽痛風の診断は、関節液中にピロリン酸カルシウムの結晶が見つかると確定します。... さらに読む 、 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む 、一部の感染症(特に 黄色ブドウ球菌 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は多くの一般的なブドウ球菌の中で最も危険とされています。この グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 細菌の形状」を参照)は、しばしば皮膚感染症を引き起こしますが、肺炎、心臓弁の感染症、骨の感染症を引き起こすこともあります。 これらの細菌は、感染者と直接接触したり、汚染された物を使用したり、くしゃみやせきによって飛び散った飛沫を吸引することで感染します。... さらに読む によるもの)などが原因で起こることもあります。滑液包炎の原因は、多くの場合不明です。
滑液包炎が最も起こりやすい部位は肩関節ですが、肘、股関節(転子部滑液包炎)、骨盤、膝、足の指、かかと(アキレス腱滑液包炎 アキレス腱滑液包炎 アキレス腱滑液包炎は、アキレス腱の近くにある滑液包(液体で満たされた袋)のうち、かかと後方の皮膚とアキレス腱の間(すなわちアキレス腱の後方)にある滑液包(アキレス腱皮下滑液包炎)、またはアキレス腱がかかとの骨に正面側で付着する部分(すなわちアキレス腱の前方)にある滑液包(踵骨後部滑液包炎)に炎症が起きる病気です。 典型的な症状としては、かかとの後方部分の腫れ、熱感、痛み、圧痛などがあります。... さらに読む )にもよく起こります。通常、肩関節の滑液包炎の患者では、肩関節周辺の腱の炎症もみられます(肩腱板腱炎 肩腱板腱炎 腱炎とは、腱の炎症です。腱鞘炎は、腱の周りを保護している被膜(腱鞘)の炎症を伴う腱炎です。 原因は必ずしも分かるわけではありません。 腱が痛み、特に動かすと痛みを伴い、ときには腫れることがあります。 通常、診断は症状と身体診察の結果に基づいて下されます。 副子の使用、患部を温めること、または冷やすこと、非ステロイド系抗炎症薬の服用が役に立ちます。 さらに読む ―肩関節を動かし、回旋させ、一定の位置に保持する腱などの構造を肩腱板と呼んでいます)。
滑液包炎の症状
通常、滑液包炎は痛みを引き起こし、動きを制限する傾向がありますが、具体的な症状は炎症を起こした滑液包の位置によって異なります。例えば、肩の滑液包が炎症を起こすと、体の横から腕を上げる動作(ジャケットを着るときのような動作)をすると痛みがあり、腕を上げにくくなります。一方、肘に起こる滑液包炎では腫れが生じますが、不快感や動きの制限はほとんどないか、まったくないこともあります。
急性の滑液包炎は数時間ないし数日かけて発生します。炎症を起こしている部位を動かしたり触ったりすると、通常は痛みます。膝や肘のように滑液包が皮膚の表面付近に位置する場合、その上の皮膚が赤く腫れて見えることがあります。感染症や 痛風 痛風 痛風は、尿酸の血中濃度が高いこと(高尿酸血症)が原因で、尿酸の結晶が関節に沈着し蓄積する病気です。結晶が蓄積することで、関節とその周辺に痛みのある炎症の発作が起きます。 尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こることがあります。 炎症を起こした関節から採取した液体に尿酸結晶が認められれば、痛風の診断が下されます。... さらに読む が原因で起こる急性の滑液包炎は、特に痛みが強いことがあり、炎症を起こしている部位が赤くなって熱をもつことがあります。
慢性の滑液包炎は、急性の滑液包炎が繰り返したり持続したりすること、または損傷が繰り返されることが原因で起こります。ときには滑液包の壁が厚くなることがあります。損傷を受けた滑液包に異常な運動や緊張が起こると、炎症が悪化する傾向があります。痛みや腫れが長期間続くと関節を動かしにくくなり、筋力が低下します。慢性の滑液包炎の再燃は、数カ月続き、頻繁に繰り返すことがあります。
滑液包炎の診断
医師による評価
ときに滑液包の体液の検査
ときに画像検査
医師は、皮膚の近くにある滑液包の周囲を触ると痛む場合や、深い位置にある滑液包を動かしたりそれを圧迫したりするような特定の関節の動きに痛みを伴う場合に、滑液包炎を疑います。
皮膚に近い滑液包(特に膝や肘の滑液包)が明らかに腫れている場合、医師は針で滑液包から体液のサンプルを採取することがあります。サンプルを検査し、炎症の原因(感染症や 痛風 痛風 痛風は、尿酸の血中濃度が高いこと(高尿酸血症)が原因で、尿酸の結晶が関節に沈着し蓄積する病気です。結晶が蓄積することで、関節とその周辺に痛みのある炎症の発作が起きます。 尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こることがあります。 炎症を起こした関節から採取した液体に尿酸結晶が認められれば、痛風の診断が下されます。... さらに読む など)がないか調べます。
治療しても滑液包炎がよくならないか再発を繰り返す場合、または医師が関節炎などの基礎にある関節の問題を疑う場合は、 X線検査 単純X線検査 X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。 X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、 CT検査などの他の手法と組み合わせて使用することもあります。( 画像検査の概要と バックグラウンド放射線も参照のこと。)... さらに読む を行います。
MRI検査 MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置の中で発生するような強い磁場の中に... さらに読む や 超音波検査 超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するとともに、コンピュータ上のデジタル画像として記録します。X線は使用しないため、超音波検査で放射線にさらされ... さらに読む は、深部にある滑液包炎の診断確定に役立てるために用いることがあります。
滑液包炎の治療
痛み止め、抗炎症薬、安静
痛風や感染症があればその治療
ときにコルチコステロイドの注射
急性の滑液包炎は、感染症が原因でなければ、通常は以下の方法で治療します。
一時的な安静と患部の関節の固定(例えば副子による)
痛みのある部位を氷で冷やす
安静と固定の後の理学療法
ときには強力な痛み止めが必要になる場合もあります。しばしば、局所麻酔薬とコルチコステロイドを滑液包に直接注射することがあり、特に肩の滑液包炎に対して行います。この治療によって、注射後数日で症状が緩和されることがよくあります。この注射は、数カ月後に再度行わなければならない場合があります。滑液を針で取り除くことも痛みの緩和に役立つことがあります。
重い急性の滑液包炎の患者には、プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドを数日間経口投与することがあります。痛みが治まると、関節の可動域を広げるための特別な運動ができるようになります。
慢性の滑液包炎では、感染症によって引き起こされたものでなければ同様の治療が行われますが、安静と患部の固定はそれほど役に立ちません。まれに、滑液包を取り除く手術が行われることもあります。
多くの場合、 理学療法 理学療法(PT) 理学療法は、 リハビリテーションの一環であり、背中、上腕、脚に重点を置いた運動療法と整体を行います。関節や筋肉の機能を改善し、患者がより容易に立ち、バランスをとり、歩き、階段を昇れるようにします。理学療法では以下のような訓練が行われます。 関節可動域訓練 筋肉強化運動 協調・バランス運動訓練 歩行訓練 さらに読む が機能を回復させるのに役立ちます。運動は、筋力が低下した筋肉を鍛え、関節の可動域を正常な範囲まで回復させるのに役立ちます。
感染している滑液包は排膿する必要があり、また適切な抗菌薬(しばしば黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus]に有効なもの)を投与します。
滑液包炎は、 痛風 痛風 痛風は、尿酸の血中濃度が高いこと(高尿酸血症)が原因で、尿酸の結晶が関節に沈着し蓄積する病気です。結晶が蓄積することで、関節とその周辺に痛みのある炎症の発作が起きます。 尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こることがあります。 炎症を起こした関節から採取した液体に尿酸結晶が認められれば、痛風の診断が下されます。... さらに読む や 関節リウマチ 治療 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む 、慢性的な使いすぎなど、原因を治療または是正しなければ、しばしば再発します。