激しい嘔吐によって裂傷が起きることがあります。
症状は嘔吐物中に血液がみられることなどです。
診断は上部消化管内視鏡検査の結果に基づいて下されます。
必要な場合は、出血を止める処置が治療に含まれます。
食道 のどと食道 のど(咽頭[いんとう])は口の下後方に位置しています。口から飲み込まれた飲食物はのどを通過します。飲食物を飲み込む運動(嚥下[えんげ])は、特に意識しなくても始まり自動的に継続します。嚥下時には、小さな筋皮弁(喉頭蓋[こうとうがい])が閉じて、飲食物が肺に向かう気管に入らないように防いでいます。口の天井の後方部分(軟口蓋[なんこうがい])は上にもち上がって、飲食物が鼻に入らないように防いでいます。口蓋垂(こうがいすい)は、軟口蓋について... さらに読む は、のど(咽頭)と胃をつないでいる管状の臓器管です。(食道の概要 食道の概要 食道は、のど(咽頭)と胃をつないでいる管状の臓器管です。食べものは単純に食道を落ちて胃に入るわけではありません。食道の壁は、波のように進む筋肉のリズミカルな収縮(ぜん動)によって、食べものを胃まで進めます。 のどと食道の境界のすぐ下には、上部食道括約筋と呼ばれるリング状の筋肉があります。食道と胃の境界の少し上にも、下部食道括約筋と呼ばれる... さらに読む と 食道の損傷の概要 食道の損傷の概要 食道(のどと胃をつないでいる管状の臓器)は比較的損傷を受けにくい臓器ですが、胃酸の逆流( 胃食道逆流症[GERD])によって徐々に損傷することがあります。また、 腐食性や酸性の化学物質、刺激性の薬物、鋭利な物体などを飲み込んだり、極度の圧力がかかったりすることによって、食道の損傷が突然起きることもあります。激しい嘔吐の際、食道に極度の圧力がかかることがあり、激しい嘔吐により 食道に裂傷が生じることもあります。非常に重篤な損傷の1つに... さらに読む も参照のこと。)
激しい嘔吐、吐き気、しゃっくりの際に下部食道や胃上部に裂傷が生じることがあり、マロリー-ワイス症候群と呼ばれています。裂傷により血管が破断することがあり、それによって出血が起こります。マロリー-ワイス症候群は、当初はアルコール使用障害の患者で報告されましたが、激しく嘔吐するあらゆる人で起こりえます。
マロリー-ワイス症候群は、上部消化管の出血原因の約5%を占めています(消化管出血 消化管出血 消化管からの出血は、口から肛門までのどの部分でも起こる可能性があります。出血は肉眼で容易に見える場合(顕性の出血)もあれば、量が少なすぎて見えない場合(潜血)もあります。潜血は、 特別な化学物質を用いて便のサンプルを検査することでしか検出できません。 吐血は、嘔吐物の中に目に見える量の血液が含まれている場合で、上部消化管(通常は食道、胃、... さらに読む も参照)。
食道裂傷の症状
マロリー-ワイス症候群の最初の症状は、通常、嘔吐物中に鮮紅色の血液がみられることです。血液を嘔吐する症状は吐血といいます。嘔吐時に食道に裂傷が生じると、胸部の下側に鋭い痛みを感じる場合もあります。
食道裂傷の診断
上部消化管内視鏡検査
嘔吐後にその嘔吐物中に血液がみられる場合、マロリー-ワイス症候群が疑われます。出血量が少ない場合、出血が自然に止まることがあるため、医師は検査を先延ばしにすることがあります。
出血がひどいか自然に止まらない場合は、上部消化管内視鏡検査を行います。上部消化管内視鏡検査では、 内視鏡 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。 口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。 肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できま... さらに読む と呼ばれる柔軟な管状の機器を用いて食道を調べます。上部消化管内視鏡検査では、出血部位を観察するとともに、しばしば同時に治療することが可能です。
出血が速いか重度の場合は、ときに血管造影検査が行われます。血管造影検査では、 造影剤 造影剤 画像検査では、特定の組織または構造を周辺領域から区別したり、詳細な画像を撮影したりするために造影剤を使用することがあります。 造影剤には以下のものがあります。 放射線不透過性造影剤:X線画像に写る物質 常磁性造影剤: MRI検査で使用される物質 放射線不透過性造影剤はX線を吸収するため、X線画像上で白く見えます。典型的には以下のものを見るために用いられます。 さらに読む (X線画像に写る液体)をカテーテルから動脈に注入します。
食道裂傷の治療
出血を止めるための処置
ほとんどの場合、出血は自然に止まりますが、ときに内視鏡検査を行い、止血のための措置を講じる必要がある場合もあります。処置としては、出血している血管を熱で焼灼する、クリップで締めつけて閉じる、薬を注入するなどがあります。
別の方法として、血管造影検査で観察しながら、出血している血管にバソプレシンやアドレナリンを注入して出血を止めることもあります。
失血量が多い場合は 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む が必要になります。
裂傷を修復する手術がまれに必要になります。