腹壁ヘルニアによって顕著な膨らみが生じますが、不快感はほとんどありません。
診断は身体診察のほか、ときに超音波検査またはCT検査によって下されます。
治療としてはヘルニアを修復するための手術が行われます。
(消化管救急疾患の概要 消化管救急疾患の概要 消化管の病気の中には生命を脅かすものがあり、緊急の治療を要することがあります。多くの場合、緊急治療では手術が行われます。 腹痛は通常は消化管の緊急事態に伴って発生し、しばしばひどい痛みがあります。腹痛がある場合、医師は原因を突き止めて治療を行うための手術が直ちに必要か、それとも診断のための検査結果が出るまで手術を待ってもよいかを判断する必... さらに読む も参照のこと。)
腹部ヘルニアは非常に一般的で、特に男性でよくみられます。米国では、ヘルニアの手術が毎年約70万件行われています。通常、ヘルニアは生じた部位によって名称がつけられています。
腹壁はほとんどの部分で厚く丈夫なため、ヘルニアは通常、以前にあった開口部が閉鎖した脆弱な部位に生じます。重い物を持ち上げたりいきんだりすると、ヘルニアがさらに明確になることがありますが、ヘルニアができることはありません。
鼠径部(そけいぶ)のヘルニア
鼠径部のヘルニアには以下のものがあります。
鼠径ヘルニア
大腿ヘルニア
鼠径ヘルニア 鼠径ヘルニア 鼠径ヘルニアとは、太ももの付け根(鼠径部)にある腹壁の開口部から、腸管や他の腹部臓器の一部が突出した状態のことをいいます。 鼠径部または陰嚢(いんのう)に痛みのない膨らみができます。 診断にはCT検査または超音波検査を使用できます。 女性の場合、症状がある場合、または絞扼(こうやく)や嵌頓(かんとん)がみられる場合は、手術が行われます。 ( 腹壁ヘルニアも参昭のこと。) さらに読む は、鼠径部のしわや陰嚢(いんのう)に生じます。男性に多くみられます。ヘルニアが生じている正確な場所に応じて、直接ヘルニアと間接ヘルニアの2種類があります。鼠径ヘルニアは 小児 小児の鼠径ヘルニア ヘルニアとは、腸の一部が腹壁の異常な開口部から押し出されている状態のことです。鼠径ヘルニアは鼠径部に生じます。 腸の一部が鼠径部の穴から突出します。 通常、鼠径部または陰嚢(いんのう)に痛みのない膨らみができます。 診断は診察と画像検査の結果に基づいて下されます。 通常、ヘルニアは外科的に修復します。 さらに読む にもみられます。
大腿ヘルニアは、大腿の中ほどの鼠径部のしわのすぐ下の、大腿動脈と大腿静脈が腹部を出て脚に入る、太ももの中心部分に生じることがあります。このタイプのヘルニアは女性に多くみられます。
腹壁ヘルニア
腹壁ヘルニアには以下のものがあります
臍(さい)ヘルニア
上腹壁ヘルニア
腹壁瘢痕(はんこん)ヘルニア
臍ヘルニアはへそ(臍部)周囲に生じます。多くの新生児で、へその緒(臍帯[さいたい])の血管の開口部が完全に閉じていないために、小さな臍ヘルニアがみられます。年齢の低い小児では、 臍ヘルニア 小児の臍ヘルニア ヘルニアとは、腹壁にできた小さな開口部のことで、臍ヘルニアは、へそ(臍)やその周りにできます。 腹部臓器がへそ近くの腹壁にできた穴から突出します。 診断は小児の病歴と身体診察の結果に基づいて下されます。 臍ヘルニアは一般に、自然に閉じます。 (成人については、 腹壁ヘルニアを参照のこと。) さらに読む が自然に閉じているかどうか確認するために医師がモニタリングすることがあります。
成人では、肥満、妊娠、または腹部の過剰な体液(腹水 腹水 腹水とは、タンパク質を含む体液が腹部に貯留したものです。 腹水がたまる病気は多くありますが、最も一般的な原因は、肝臓につながる静脈(門脈)の血圧が上昇すること( 門脈圧亢進症)で、通常は 肝硬変によって起こります。 大量の体液が貯留すると、腹部は非常に大きく膨らみ、ときに食欲不振や息切れ、不快感を生じることがあります。 原因を確定するには、腹水の分析が役立ちます。 通常は、低ナトリウム食と利尿薬によって、過剰な体液の排出を促します。 さらに読む )のために臍ヘルニアがみられることがあります。
上腹壁ヘルニアは上腹壁の正中線上(へその上)にもともと存在する小さな欠損部に生じます。
腹壁瘢痕ヘルニアは手術による腹壁の切開部から生じることがあります。このタイプのヘルニアは手術後何年も経過してから生じることがあります。
嵌頓(かんとん)と絞扼(こうやく)
ときに、腸や脂肪の一部がヘルニアにはまりこむ、嵌頓と呼ばれる状態が生じることがあります。嵌頓ヘルニアにより腸が詰まる(閉塞する)ことがあります。まれに、腸がヘルニアに非常にきつく挟まることで腸への血流が絶たれる、絞扼と呼ばれる状態が生じることがあります。絞扼が生じると、わずか6時間で挟まった部分の腸が壊疽(えそ)を起こします。壊疽が生じると、腸壁が壊死し、通常は腸が破裂し、それにより 腹膜炎 腹膜炎 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要であることを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。高齢者やHIV感染者、免疫抑制薬(コルチコステロイドなど)を使用している人では、同じ病気の若い成人や健康な成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛がよりゆっくり発症することがあります。幼い子... さらに読む (腹腔が炎症と通常は感染を起こした状態)およびショックが生じ、治療しないでいると死に至ります。
腸の絞扼の原因
腸の絞扼(腸への血流が絶たれた状態)は、通常は3つの原因(絞扼性ヘルニア、腸捻転、腸重積)のいずれかにより起こります。 |
スポーツヘルニア
腹壁ヘルニアの症状
大半の人では、通常はヘルニアが生じた部位が膨らんでいるのに気づくだけです。物を持ち上げたり、せきをしたり、いきんだ場合にだけヘルニアが現れることもあります。不快感は通常はほとんどまたはまったくなく、膨らみは本人や医師が押して戻す(還納する)ことができます。
嵌頓ヘルニアの場合、通常はより痛みが強く、膨らみを還納することはできません。
絞扼性ヘルニアでは絶え間ない痛みが生じて、徐々に強まり、一般的には吐き気と嘔吐を伴い、還納できず、触れると圧痛があります。
腹壁ヘルニアの診断
医師の診察
ときに画像検査
ヘルニアの診断は、主に診察の結果に基づいて下されます。ヘルニアに似た鼠径部のしこりが、リンパ節の腫れや 停留精巣 停留精巣と移動性精巣 停留精巣(潜在精巣)とは、陰嚢(いんのう)の中に下りてくるはずの精巣が腹部にとどまったままになっている状態です。移動性精巣(遊走精巣)とは、精巣が陰嚢の中まで下りてきているにもかかわらず、刺激に反応して容易に鼠径管(そけいかん)の中に戻ってしまう(移動する)ことです。 胎児では精巣は腹部の中で発育します。精巣が発育した後、一般的には出生前(通常は第3トリメスター【訳注:日本のほぼ妊娠後期に相当】)に腹部から会陰部へとつながる管(鼠径管)... さらに読む であることがあります。 陰嚢の腫れ 陰嚢の腫れ 片方または両方の陰嚢(精巣を包んで保護している袋)の腫れは、 尿路疾患の症状である場合があります。腫れは、わずかで陰嚢を入念に触診して初めて検出できる場合もあれば、極めて大きくなり外見から明らかな場合もあります。陰嚢の腫れを引き起こす病気には、同時に 陰嚢痛を引き起こすものもあります。 痛みのない陰嚢の腫れは、一般的に害のない変化が原因である場合もあれば、がんの徴候であることもあります。原因はいくつかあります。... さらに読む は、精索静脈瘤(精巣からの血液が流れる静脈が太くなる病気)、精液瘤(精子が成熟するまで保管されるコイル状の管[精巣上体]に隣接するところに発生する袋状の嚢胞[のうほう])、精巣の腫瘍である場合があります。
診断の補助に、 超音波検査 腹部の超音波検査 超音波検査では、超音波を用いて内臓の画像を描き出します( 超音波検査)。超音波検査により、肝臓や膵臓(すいぞう)など多くの内臓の形や大きさが確認でき、嚢胞(のうほう)や腫瘍などの内臓の中の異常部位も発見できます。また、腹腔内の液体( 腹水)も確認できます。腹壁にプローブを当てる超音波検査は、消化管の粘膜や壁を調べる方法としては不適切です。しかし、超音波内視鏡検査の場合は、内視鏡の先端にプローブがあるため、消化管壁や一部の腹部臓器がより明... さらに読む や CT検査 消化管のCT検査とMRI検査 CT検査( CT検査)とMRI検査( MRI検査)は、腹部臓器の大きさや位置を調べるのに適しています。さらに、これらの検査では悪性腫瘍(がん)や良性腫瘍(がんではない腫瘍)もしばしば検出されます。血管の変化も検出できます。通常、虫垂や憩室などの炎症( 虫垂炎や 憩室炎など)も検出できます。ときに、X線照射や手術のガイド役としてこれらの検査を用いることもあります。 消化管のCT検査とMRI検査では、造影剤(画像検査に写る物質)を投与して、... さらに読む が行われることがあります。
腹壁ヘルニアの治療
手術による修復
乳児の臍ヘルニアは絞扼を起こすことはめったになく、治療は行われません。治療をしなくても大半が数年以内に消えます。臍ヘルニアが非常に大きい場合は、乳児が2歳になってから修復を行うこともあります。
成人の臍ヘルニアは、美容上問題になり、患者の都合のよいときに修復することができます(待機手術と呼ばれます)。成人の臍ヘルニアで絞扼や嵌頓が起こることは通常はありませんが、これらの合併症が現れることもあります。
他のタイプのヘルニアはより絞扼を起こしやすいため、診断された場合、通常は手術による修復が行われます。ヘルニアが嵌頓や絞扼を起こしている場合は、直ちに手術が行われます。それ以外では待機手術が行われます。手術による修復は、腹腔内容物が再び滑り出ないように、開口部を閉じるか覆うことを目的に行われます。手術を行えば通常は、ヘルニアの大きさと生じていた不快感の程度に応じてヘルニアの症状が改善されます。
ヘルニアをテープや包帯またはその他の方法で押さえることで、ときに不快感が軽減することがありますが、これによって絞扼のリスクが低下したり、開口部が閉鎖したりすることはありません。したがって、これらは治療法として推奨されません。乳児の臍ヘルニアだけは、治療をしなくても治ります。