妊娠の最初の20週間に、20~30%の女性に性器出血がみられます。このうち約半数が、 流産 流産 流産とは、妊娠20週未満で胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場合にはよく起こります。 医師は子宮頸部を診察し、通常は超音波検査も行います。... さらに読む に至ります。流産がすぐに起こらなくても、妊娠週数が進んでから問題が起こる可能性があります。例えば、子どもの出生体重が低い、早く産まれる(早産 切迫早産 妊娠37週以前に起こる陣痛は切迫早産とみなされます。 早産児として生まれた新生児には、深刻な健康上の問題が生じる可能性があります。 切迫早産の診断は通常明らかです。 安静にしたり、ときには薬剤を用いて、分娩を遅らせます。 抗菌薬やコルチコステロイドも必要な場合があります。 さらに読む )、 死産 死産 死産とは妊娠20週以降に胎児が死亡することです。 死産は母体、胎盤、または胎児の問題から生じることがあります。 医師は血液検査を行って死産の原因の特定を試みます。 死亡した胎児が排出されない場合は、子宮から内容物の排出を促す薬剤を母体に投与するか、頸管拡張・内容除去という方法により子宮内容物を外科的に除去します。 妊娠合併症は、妊娠中だけに発生する問題です。母体に影響を及ぼすもの、胎児に影響を及ぼすもの、または母子ともに影響を及ぼすもの... さらに読む 、分娩中または分娩直後の死亡などの可能性があります。大量に出血すると、血圧が危険なレベルにまで下がり、 ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む に至る可能性があります。しかしながら、妊娠初期に軽度の出血があった女性の多くでは、健康な妊娠のまま経過し、分娩に至ります。
出血の量は、少量から大量まで様々です。大量に血液が排出されると常に懸念にはなりますが、少量の性器出血や軽い出血も、重篤な病気を示唆することがあります。
原因
妊娠前半にみられる性器出血は妊娠に関連した病気(産科疾患)から生じていることもあれば、そうでないこともあります(表「 妊娠前半にみられる性器出血の主な原因と特徴 妊娠前半にみられる性器出血の主な原因と特徴 」を参照)。
妊娠前半にみられる性器出血の最も一般的な原因は以下のものです。
流産 流産 流産とは、妊娠20週未満で胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場合にはよく起こります。 医師は子宮頸部を診察し、通常は超音波検査も行います。... さらに読む (自然流産)には様々な程度があります。流産が起こる可能性がある状態(切迫流産)、または流産が確実に起こるであろう状態(進行流産)があります。子宮の内容物(胎位と胎盤)がすべて排出された流産(完全流産)または、すべては排出されていない流産(不全流産)もあります。まれに、流産の前後あるいは流産と同時に、子宮の内容物に感染が起きることがあります(敗血症性流産)。子宮内で死亡した胎児がそのままとどまることもあります(稽留流産)。どのタイプの流産でも、妊娠前半にみられる性器出血が起こる可能性があります。
妊娠前半にみられる性器出血の最も危険な原因は以下のものです。
ほかに危険ではあるもののあまり一般的でない原因として、黄体嚢胞の破裂があります。排卵の後、卵子を放出した構造(黄体)が通常のように消失せずに、液体または血液で満たされた状態になることがあります(黄体嚢胞)。
異所性妊娠や黄体嚢胞が破裂すると、大量出血を起こしショックに至ることがあります。
危険因子
流産の危険因子としては以下のものがあります。
年齢が35歳以上
過去の妊娠における1回以上の流産
コカイン 妊娠中のコカイン 妊婦の50%以上が、妊娠中に処方薬や市販薬(処方なしで購入できる薬剤)を服用したり、社会的薬物(タバコやアルコール)または違法薬物を使用しており、妊娠中の薬の使用は増えてきています。一般に、薬の多くは胎児に害を及ぼす可能性があるため、妊娠中は、必要な場合を除いて、薬剤を使用すべきではありません。病気や症状の治療に使用された薬剤が原因で発生... さらに読む などの薬物の使用、 アルコール 妊娠中のアルコール 妊婦の50%以上が、妊娠中に処方薬や市販薬(処方なしで購入できる薬剤)を服用したり、社会的薬物(タバコやアルコール)または違法薬物を使用しており、妊娠中の薬の使用は増えてきています。一般に、薬の多くは胎児に害を及ぼす可能性があるため、妊娠中は、必要な場合を除いて、薬剤を使用すべきではありません。病気や症状の治療に使用された薬剤が原因で発生... さらに読む の摂取、大量のカフェイン 妊娠中のアルコール 妊婦の50%以上が、妊娠中に処方薬や市販薬(処方なしで購入できる薬剤)を服用したり、社会的薬物(タバコやアルコール)または違法薬物を使用しており、妊娠中の薬の使用は増えてきています。一般に、薬の多くは胎児に害を及ぼす可能性があるため、妊娠中は、必要な場合を除いて、薬剤を使用すべきではありません。病気や症状の治療に使用された薬剤が原因で発生... さらに読む の摂取
糖尿病、甲状腺の病気、全身性エリテマトーデスなどのうまくコントロールできていない医学的問題
異所性妊娠の危険因子としては以下のものがあります。
過去の異所性妊娠(最も重要な危険因子)
腹部の手術歴、特に不妊手術(卵管結紮術)
性感染症 性感染症(STI)の概要 性感染症(性病)とは、例外はあるものの、一般的には性的接触によって人から人に感染する病気のことです。 性感染症を引き起こす病原体の種類としては、細菌、ウイルス、原虫などがあります。 キスや濃厚な体の接触を介して広がる感染症もあります。 感染が体の他の部分に広がり、ときには深刻な結果に至る場合もあります。... さらに読む や 骨盤内炎症性疾患 骨盤内炎症性疾患(PID) 骨盤内炎症性疾患は、女性の上部生殖器(子宮頸部、卵管、および卵巣)の感染症です。 骨盤内炎症性疾患は感染しているパートナーとの性交時に感染します。 典型的には、下腹部痛、おりもの、不規則な性器出血(不正出血)が生じます。 診断は、症状と子宮頸部および腟から採取した分泌物の検査結果のほか、ときに超音波検査の結果に基づいて下されます。 セックスパートナーが1人で、性交時にコンドームを使用している場合は、感染のリスクが低下します。 さらに読む の既往
喫煙
年齢が35歳以上
不妊症 不妊症の概要 不妊症とは通常、避妊をせずに定期的に性交をしていても1年以上妊娠できずにいる状態と定義されます。 避妊をせず頻回に性交を行えば、通常は以下の割合で妊娠します。 3カ月以内にカップルの50% 6カ月以内にカップルの75% 1年以内にカップルの90% さらに読む の既往、 排卵誘発薬 治療 女性において通常は 月経周期内に起こる卵巣からの排卵が毎月起こらない場合、不妊症である可能性があります。 排卵の問題は、排卵をコントロールしている脳の一部や内分泌腺の機能障害、あるいは卵巣の機能障害や多嚢胞性卵巣症候群によって起こります。 体温測定や排卵検査薬を用いることで、排卵の有無を調べ、排卵の時期を予測することができます。 超音波検査、血液検査、尿検査を行って排卵の問題を評価します。... さらに読む の使用歴、または 生殖補助医療 生殖補助医療 生殖補助医療は、精子と卵子、あるいは胚を培養室(体外)で操作して妊娠を達成することを目標とします。 ( 不妊症の概要も参照のこと。) 治療開始から4~6サイクルの月経周期が経過しても妊娠に至らない場合は、体外受精や配偶子卵管内移植(GIFT)などの生殖補助医療を検討します。これらの方法は、35歳未満の女性の方が成功率が高くなります。米国での体外受精の成功率を以下に示します。 35歳未満の女性:体外受精の約30%で出生に至る。... さらに読む (体外受精)を受けたことがある
複数のセックスパートナー
腟洗浄
評価
医師はまず、性器出血の原因が異所性妊娠であるかどうかを判断します。
警戒すべき徴候
妊娠前半に性器出血がみられる妊婦では、以下の症状に注意が必要です。
失神、ふらつき、動悸(著しい低血圧を示唆する症状)
大量の出血または組織や大きな血のかたまりが混じった血液
動いたり姿勢を変えたりすると悪化する激しい腹痛
受診のタイミング
警戒すべき徴候がみられる女性は、直ちに医師の診察を受ける必要があります。
警戒すべき徴候がない女性は、48~72時間以内に医師の診察を受ける必要があります。
医師が行うこと
医師は症状と病歴(過去の妊娠、流産、中絶、また異所性妊娠、流産の危険因子など)について質問します。次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、原因と必要になる検査を推測することができます(表「 妊娠前半にみられる性器出血の主な原因と特徴 妊娠前半にみられる性器出血の主な原因と特徴 」を参照)。
医師は出血について以下のことを質問します。
出血はどれくらいひどいか(例えば1時間当たり何枚のナプキンに血がしみ込み、取り替えなければならないか)
血のかたまりまたは組織が排出されたか
出血に痛みを伴うか
痛みがある場合、医師は痛みがいつ、どのように始まったか、どれくらい続くか、痛みは鋭いか鈍いか、持続的な痛みか、現れたり消えたりする痛みかについて質問します。
身体診察では、医師はまず発熱と著しい失血の徴候(動悸や低血圧など)がないか確認します。次に 内診 内診 婦人科の診療では、性生活、避妊、妊娠、更年期に関する問題などのデリケートな事柄を扱うため、こうした内容について気兼ねなく相談できる専門家を選んでおくべきです。米国では、医師、助産師、ナースプラクティショナー、医師助手などが受診先となっています。 婦人科の評価には 婦人科の病歴聴取および婦人科の診察が含まれます。 婦人科の診察とは具体的には女性の生殖器系の診察を指します。乳房の診察も含まれます。内診は女性の状況や希望に応じて行われます。た... さらに読む を行い、妊娠組織の排出のために子宮頸部(子宮の下部)が開き始めていないか(開大)を確認します。組織(流産によるものの可能性)が見つかれば、採取して分析のために検査室に送ります。
医師はまた腹部をそっと押して、触れると圧痛が生じるかどうか確認します。
検査
診察中に、医師が手持ち式の ドプラ超音波装置 ドプラ超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するとともに、コンピュータ上のデジタル画像として記録します。X線は使用しないため、超音波検査で放射線にさらされ... さらに読む を妊婦の腹部にあてて、胎児の心拍を確認します。
市販の妊娠検査薬により妊娠が示唆されるものの、医療従事者により妊娠が確認されていない場合は、医師による尿サンプルを用いた妊娠検査を行います。
妊娠が確認されれば、以下のような検査を行います。
血液型およびRh型(プラスかマイナス)
通常、骨盤内超音波検査
通常、妊娠の早期に胎盤から分泌されるホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピン、hCG)を測定する血液検査
Rh型 胎児または新生児の溶血性疾患 Rh式血液型不適合は、母体がRhマイナスで胎児がRhプラスの場合に起こります。 Rh式血液型不適合により胎児の赤血球が破壊されうるため、重症の貧血が起こることがあります。 胎児の母親がRhマイナスで父親がRhプラスの場合、胎児に貧血の徴候がないか定期的に検査を行います。 貧血が疑われる場合には胎児に輸血が行われます。 胎児に問題が起こらないよう、妊娠28週頃、大量出血が生じた後、分娩後、および特定の処置を行った後に、血液型がRhマイナス... さらに読む を調べるのは、血液型がRhマイナスの妊婦に性器出血がみられる場合、Rho(D)免疫グロブリンで治療する必要があるためです。治療が必要になるのは、以降の妊娠で胎児の赤血球を攻撃する抗体が作られる(Rh式血液型不適合 胎児または新生児の溶血性疾患 Rh式血液型不適合は、母体がRhマイナスで胎児がRhプラスの場合に起こります。 Rh式血液型不適合により胎児の赤血球が破壊されうるため、重症の貧血が起こることがあります。 胎児の母親がRhマイナスで父親がRhプラスの場合、胎児に貧血の徴候がないか定期的に検査を行います。 貧血が疑われる場合には胎児に輸血が行われます。 胎児に問題が起こらないよう、妊娠28週頃、大量出血が生じた後、分娩後、および特定の処置を行った後に、血液型がRhマイナス... さらに読む を参照)のを予防するためです。
出血が大量(約240mLを超える)の場合、血算、および異常な抗体を調べる検査または交差適合試験(輸血が必要な場合に備えて、妊婦の血液型がドナーの血液型と適合するかどうかを調べる試験)も行います。出血が大量であるか、ショックが起こっている場合、血液が正常に凝固するかどうかを調べる血液検査を行います。
一般的には、腟に挿入する超音波装置を用いた超音波検査を行います。超音波検査により、子宮内での妊娠と妊娠6週頃からは胎児の心拍を確認できます。この時期を過ぎても心拍が確認されなければ、流産と診断されます。心拍が確認されれば流産の可能性ははるかに低くなりますが、それでも起こる可能性はあります。
超音波検査は以下の特定にも役立ちます。
不全流産、敗血性流産、稽留流産の識別
子宮に残っている胎盤の一部や妊娠に関連した組織
破裂した黄体嚢胞
胞状奇胎または他の種類の妊娠性絨毛性疾患
ときに異所性妊娠(その位置と大きさによる)
hCGの測定は、医師が超音波検査結果を解釈し、正常な妊娠と異所性妊娠を区別するのに役立ちます。異所性妊娠の破裂の可能性が低い場合、頻回のhCG測定と必要に応じて再度、超音波検査を行います。異所性妊娠の破裂の可能性が中間であるか高い場合、医師がへそのすぐ下を小さく切開し、観察用の管状の機器(腹腔鏡)を挿入して子宮と周囲の組織を直接観察することで、異所性妊娠であるかどうか確認することがあります。
治療
出血が大量である場合、ショックを起こしている場合、または異所性妊娠破裂の可能性が高い場合に医師が最初にすることの1つは、静脈に太いカテーテルを挿入して迅速に輸血できるようにすることです。
出血が病気から生じているものであれば、その病気を治療します。例えば異所性妊娠が破裂している場合、直ちに手術を行います。
これまで流産の可能性が考えられる場合には、医師は床上安静を一般的に推奨してきましたが、床上安静が流産を防ぐのに役立つという科学的根拠はありません。性交と流産との確実な関係は明らかになっていませんが、性交は控えるように助言されるでしょう。
要点
妊娠前半にみられる性器出血の最も一般的な原因は、流産です。
性器出血の最も深刻な原因は、異所性妊娠です。
妊婦に動悸や失神が生じるか、失神しそうに感じたときには、直ちに医師の診察を受ける必要があります。
血液型がRhマイナスであるかRhプラスであるかを調べる血液検査を行うのは、血液型がRhマイナスの妊婦が性器出血を起こしている場合、Rho(D)免疫グロブリン製剤を投与し、以降の妊娠で胎児の赤血球を攻撃する抗体が作られるのを予防するためです。