典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。
症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。
診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。
原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。
治療の焦点は、精神機能をできるだけ長く保つことと、衰えていく患者を支援することに当てられます。
(せん妄と認知症の概要 せん妄と認知症の概要 せん妄と 認知症は、認知機能障害(正常に知識を獲得、保持、使用できなくなる状態)の最も一般的な原因です。 せん妄と認知症は同時に発生することもありますが、この2つはまったく別の病態です。 せん妄は、突然発生して精神機能の変動をもたらしますが、通常は回復します。 認知症は、徐々に発生して、ゆっくり進行し、通常は不可逆的です。... さらに読む も参照のこと。)
認知症は主に65歳以上の高齢者に発生します。認知症、特にそれに伴う破壊的行動は、介護施設への入所理由の50%以上を占めています。認知症は病気であって、正常な老化現象ではありません。100歳以上の人の多くは認知症ではありません。
認知症と せん妄 せん妄 せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。 多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。 診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。 せん妄は通常、原因になっている異常を迅速に処置または治療することで治癒します。... さらに読む は異なる病態であり、せん妄は注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。
認知症では主に記憶力が障害され、せん妄では主に注意力が障害されます。
認知症は典型的には徐々に発症し、いつ始まったのかをはっきり特定できません。せん妄は突然発生し、始まった時点を特定できる場合が多いです。
加齢に伴う脳の変化(加齢に伴う記憶障害)では、短期的な記憶力が衰えたり、学習能力が遅くなったりします。このような変化は、認知症とは異なり、正常な老化現象であり、機能や日常生活に影響を及ぼしません。高齢者にみられるこのような記憶障害は、必ずしも認知症や早期の アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む の徴候ではありません。しかし、認知症で最も早期に現れる症状は、これにとてもよく似ています。
軽度認知障害は、加齢に伴う記憶障害よりも重度の記憶障害をもたらします。言語を使う能力、思考力、正しい判断力が損なわれることもあります。しかし、加齢に伴う記憶障害と同様、機能や日常生活には影響を及ぼしません。軽度認知障害の人の最大で半数が3年以内に認知症を発症します。
主観的認知機能低下とは、精神機能の持続的な低下を本人が自覚しているものの、標準化された軽度認知障害の検査で特定されない場合です。主観的認知機能低下がある人では、そのような検査の結果は正常になります。しかし、それらの人は軽度認知障害や認知症を発症する可能性が通常より高いです。
認知症は、これよりはるかに深刻な精神機能の衰えで、時間の経過とともに悪化します。健康な人でも歳をとれば、物の置き場所を間違えたり細かい事実を思い出せなくなったりしますが、認知症の人は、起こった出来事をすべて忘れてしまいます。認知症の人は、車の運転や料理、金銭の管理など、日常生活の行為が正常にできなくなります。
うつ病 うつ病 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む が認知症のように見えることもあり、高齢者では特によく間違われますが、この2つの病気はしばしば見分けることができます。例えば、うつ病の人は食事や睡眠をあまりとらなくなりますが、認知症の人は、後期になるまで食事や睡眠の量は正常です。うつ病の人は記憶障害を強く訴えますが、最近の重要な出来事や個人的な事柄を忘れることはめったにありません。対照的に認知症の人は、自分の精神状態が損なわれているという認識がなく、記憶障害を否定することもよくあります。うつ病の人は、うつ病の治療を行うことで精神機能が回復します。うつ病と認知症の両方がある人も多く、そのような人では、うつ病の治療で精神機能が一部改善されますが、完全な回復には至りません。
一部の認知症(アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む など)では、脳内のアセチルコリン濃度が低下します。アセチルコリンは、神経細胞間の情報伝達を可能にしている化学物質(神経伝達物質と呼ばれます)です。アセチルコリンは記憶、学習、集中などの機能に関わっているほか、多くの臓器の機能を制御する仕組みにも関与しています。患者の脳内にはこれ以外の変化も生じますが、それらが認知症の原因なのか、認知症の結果生じたものなのかは明らかにされていません。
認知症の原因
認知症は、ほかに原因のない脳の病気(原発性の脳疾患)として起こるのが一般的ですが、他の様々な病気によって引き起こされる場合もあります。
認知症の一般的な原因
最も一般的な認知症は、次のものです。
認知症の高齢者の約60~80%がアルツハイマー病を有しています。
その他の一般的な認知症の種類には以下のものがあります。
複数の種類の認知症が併存する場合もあり、混合型認知症と呼ばれています。
認知症のその他の原因
認知症のその他の原因としては以下のものがあります。
頭部外傷 頭部外傷の概要 脳が関与する頭部外傷は特に懸念されます。 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。... さらに読む や特定の 腫瘍 脳腫瘍の概要 脳腫瘍は脳内で増殖する組織で、がんの場合(悪性)と、がんでない場合(良性)があります。脳内で発生するものと、体の別の部位から脳に転移してきたものとがあります。 症状としては、頭痛、人格の変化(抑うつ、不安、自制がきかなくなるなど)、脱力、異常感覚、平衡感覚の消失、集中力の低下、けいれん発作、協調運動障害などがみられます。 脳腫瘍は画像検査で発見できますが、しばしば確認のために腫瘍の生検が必要になります。... さらに読む よる脳損傷
プリオン病 プリオン病の概要 プリオン病は、現在のところ治療法がなく、最終的には死に至る、まれな進行性の脳(およびまれに他の臓器)の変性疾患であり、プリオンと呼ばれるタンパク質が異常な形態に変化することで発生します。 プリオンが発見されるまでは、クロイツフェルト-ヤコブ病などの海綿状脳症はウイルスが原因と考えられていました。プリオンはウイルスよりはるかに小さく、また、... さらに読む (クロイツフェルト-ヤコブ病 クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD) クロイツフェルト-ヤコブ病(亜急性海綿状脳症)はプリオン病の一種で、進行性の精神機能の低下を特徴とし、認知症、筋肉が不随意にビクッとふるえる動き(ミオクローヌス)、歩行時のよろめきなどの症状が現れます。変異型クロイツフェルト-ヤコブ病は、汚染された牛肉を食べることで感染します。 クロイツフェルト-ヤコブ病は通常は自然発生的に起こりますが、汚染された牛肉を食べたり、異常な遺伝子を受け継いで起こることもあります。... さらに読む [急速に進行する認知症を引き起こす病気]など)
梅毒による脳への影響(神経梅毒 第3期(または晩期)梅毒 )
認知症の可逆的または治療可能な原因
認知症を引き起こす原因は不可逆的なものがほとんどですが、なかには治療できる可逆的な認知症もあります。(もっとも、認知症という用語を進行性の不可逆的な病気にだけ用い、部分的に可逆的なものには脳症または認知機能障害などの用語を用いる医師もいます。)そのような認知症で脳の損傷がひどくない場合には、しばしば治療によって治癒に至ります。脳の損傷が大きい場合は、治療によって損傷が回復することは多くありませんが、新たな損傷を予防することはできます。
可逆的な認知症の原因としては以下のものがあります。
チアミン チアミン欠乏症 チアミン欠乏症(脚気やその他の問題を引き起こす)は、食料不安の蔓延率が高い国で食事が主に白米や高度に精製された炭水化物から成る人や、アルコール使用障害の患者に最も多くみられます。 主として白小麦粉や白砂糖、その他の高度に精製された炭水化物から成る食事は、チアミン欠乏症の原因となることがあります。 最初は疲労や易怒性などの漠然とした症状がみられますが、重度の欠乏症(脚気)では神経、筋肉、心臓、脳に影響が及ぶことがあります。... さらに読む 、 ナイアシン ナイアシン欠乏症 ナイアシン欠乏症(ペラグラの原因)は食料不安の蔓延率が低い国ではまれです。ナイアシン欠乏症の患者の多くでは、 タンパク質、 リボフラビン(ビタミンB群の1つ)、 ビタミンB6の欠乏症もみられます。 独特な暗赤色の発疹が手、足、ふくらはぎ、首、顔に現れ、舌と口が暗赤色に変色します。 消化管の不調、疲労、不眠、無関心、後に錯乱と記憶障害がみられます。 診断は、食事歴、症状、ときに尿検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む 、または ビタミンB12 ビタミンB12欠乏症 ビタミンB12欠乏症は、サプリメントを摂取しない完全な菜食主義者に発生したり、吸収障害の結果として発生することがあります。 貧血が起こり、蒼白、筋力低下、疲労が生じ、重度の場合には息切れやめまいも起こります。 重度のビタミンB12欠乏症によって神経の損傷が起きることがあり、手足のピリピリ感や感覚消失、筋力低下、反射消失、歩行困難、錯乱、認知症が起こります。 ビタミンB12欠乏症の診断は、血液検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む 欠乏症
毒性物質(鉛や水銀などの重金属)
神経梅毒 第3期(または晩期)梅毒 (早期に治療した場合)
その他の感染症(ライム病 ライム病 ライム病は、ボレリア属(Borrelia)の細菌によって引き起こされ、マダニが媒介する感染症(ダニ媒介性感染症)で、米国でみられるボレリア属細菌は主にライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi)、ときにボレリア・マヨニイ(Borrelia mayonii)です。これらのらせん形の細菌はスピロヘータと呼ばれています(図「」を参照)。... さらに読む 、 ウイルス性脳炎 脳炎 脳炎とは、ウイルスが脳に直接感染して起こることもあれば、ウイルスやワクチン、その他の物質が炎症を誘発して起こることもあります。炎症が脊髄に波及することもあり、その場合は脳脊髄炎と呼ばれます。 発熱、頭痛、けいれん発作が起こることがあり、眠気、しびれ、錯乱をきたすこともあります。 通常は頭部のMRI検査と腰椎穿刺が行われます。 治療としては、症状を緩和する処置が行われ、ときに抗ウイルス薬が用いられることもあります。... さらに読む 、真菌感染症である クリプトコッカス症 クリプトコッカス症 クリプトコッカス症は、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)またはクリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gattii)という真菌によって引き起こされる感染症です。 症状が出ない場合もあれば、感染部位によって、頭痛や錯乱、せきや胸痛、または発疹が出ることがあります。 診断は、組織と体液のサンプルを培養して観察する検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む など)
頭部の外傷などによって血管が傷つくと、 硬膜下血腫 硬膜下血腫 頭蓋内血腫は、頭蓋内(脳の内部、または脳と頭蓋骨の間)に血液がたまった状態を指します。 頭部外傷によって脳の内部、または脳と頭蓋骨の間に血液がたまって生じます。 脳のどの領域が損傷を受けているかに応じて、しつこい頭痛、眠気、錯乱、記憶障害、脳の損傷部位と反対側の体の麻痺、発話や言語能力の障害などの症状が現れます。 頭蓋内血腫はCT検査やMRI検査によって発見されます。 血腫から血液を抜き取る手術が必要になる場合もあります。 さらに読む (脳を覆う組織層のうち最外層と中間層との間に血液が貯まった状態)が生じることがあります。外傷自体は、ときとして気づかれないほど軽い場合もあります。硬膜下血腫があると、緩やかに精神機能が低下することがありますが、これは治療により回復する場合があります。
その他の病気
認知症の症状を悪化させる病気は、 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む 、 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む 、 慢性気管支炎 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患は、気道が狭くなる状態(閉塞)が持続する病気で、肺気腫や慢性閉塞性気管支炎、またはその両方に伴って発生します。 この病気の原因として最も重要なのは、紙巻タバコの喫煙です。 この病気になると、せきが出て、やがて息切れが現れます。 診断は、胸部X線検査と肺機能検査によって下されます。... さらに読む 、肺気腫、感染症、 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病では、血液をろ過して老廃物を除去する腎臓の能力が、数カ月から数年かけて徐々に低下します。 主な原因は糖尿病と高血圧です。 血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなります。 症状としては、夜間の排尿、疲労、吐き気、かゆみ、筋肉のひきつりやけいれん、食欲不振、錯乱、呼吸困難、体のむくみ(主に脚)などがあります。 診断は血液検査と尿検査によって下されます。 さらに読む 、 肝疾患 肝疾患の概要 肝疾患は、様々な形で現れます。特徴的な症状や徴候には、以下のものがあります。 黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状) 胆汁うっ滞(胆汁の流れの減少または停止) 肝腫大(肝臓が大きくなる) 門脈圧亢進症(腸から肝臓に向かう静脈の血圧が異常に高くなること) さらに読む 、 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む など、数多くあります。
薬剤
薬剤の中にも、認知症の症状を一時的に引き起こしたり悪化させたりするものが多くあります。そのような薬剤には処方せんなしで購入できる市販薬(一般用医薬品)も含まれ、睡眠補助薬(鎮静薬 抗不安薬と鎮静薬の誤用 抗不安薬と鎮静薬は、不安を和らげたり睡眠を補助したりするために使用される処方薬ですが、その使用は依存や物質使用障害を引き起こすことがあります。 不安を和らげるまたは睡眠を補助するための処方薬の使用は、依存を引き起こす可能性があります。 過剰摂取により、眠気、錯乱、呼吸抑制が生じる可能性があります。 抗不安薬や鎮静薬を長期間使用後にやめると、不安、易刺激性、睡眠障害を引き起こします。... さらに読む )、かぜ薬、 抗不安薬 抗不安薬と鎮静薬の誤用 抗不安薬と鎮静薬は、不安を和らげたり睡眠を補助したりするために使用される処方薬ですが、その使用は依存や物質使用障害を引き起こすことがあります。 不安を和らげるまたは睡眠を補助するための処方薬の使用は、依存を引き起こす可能性があります。 過剰摂取により、眠気、錯乱、呼吸抑制が生じる可能性があります。 抗不安薬や鎮静薬を長期間使用後にやめると、不安、易刺激性、睡眠障害を引き起こします。... さらに読む 、一部の 抗うつ薬 うつ病に対する薬物治療 アゴメラチン(agomelatine)は、新しいタイプの抗うつ薬で、うつ病エピソードの治療法になる可能性があります。 うつ病の治療には数種類の薬剤が使用できます。 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) 新規抗うつ薬 複素環系抗うつ薬 さらに読む などが該当します。
飲 酒 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む は(たとえ少量であっても)認知症を悪化させる可能性があるため、認知症患者にはほとんどの専門家が禁酒を勧めています。
認知症の症状
認知症の症状の進行
認知症の人の精神機能は、典型的には2~10年間かけて徐々に悪化していきますが、進行の速さは原因によって異なります。
血管性認知症 血管性認知症 血管性認知症とは、脳組織への血液供給が減少または途絶し、脳組織が破壊されることにより精神機能が失われる病気です。原因は通常脳卒中であり、少数の大きな脳卒中による場合もあれば、多数の小さな脳卒中による場合もあります。 脳に血液を供給する血管が損傷される病気(通常は脳卒中)は、認知症を引き起こす可能性があります。 症状は連続的に徐々に進行するのではなく、段階的に進行する傾向があります。... さらに読む (通常脳卒中が原因で起こります)の場合は、段階的に症状が悪化していく傾向があります。すなわち、脳卒中が発生するたびに急激に悪化し、その間の期間にはいくらかの改善がみられます。
一方で アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む や レビー小体型認知症 レビー小体型認知症とパーキンソン病認知症 レビー小体型認知症とは、精神機能が進行性に失われていく病気で、神経細胞の中にレビー小体が認められることを特徴とします。パーキンソン病認知症は、パーキンソン病患者において精神機能が失われていく病気で、神経細胞の中にレビー小体が認められることを特徴とします。 レビー小体型認知症の患者は目覚めた状態とうとうとした状態との間で変動するほか、幻覚が起こったり、絵を描くのが困難になったり、パーキンソン病と同様の動作困難が生じたりします。... さらに読む の人では、一貫して症状が悪化していく傾向があります。
進行の速さには個人差もあります。前年の悪化の速さから翌年の悪化傾向を予測できることも少なくありません。認知症の人が介護施設などに入所すると症状が悪化することがあります。これは、新しい規則や日課を覚えることが認知症の人にとっては困難であるためです。
また認知症の人に痛み、息切れ、尿閉(膀胱に尿が貯まっても排尿できない状態)、便秘などの症状があると、それらが原因で せん妄 せん妄 せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。 多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。 診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。 せん妄は通常、原因になっている異常を迅速に処置または治療することで治癒します。... さらに読む が起こり、錯乱が急激に悪化することがあります。通常は、これらの症状を適切に治療することで、精神機能をせん妄発症以前の水準まで回復させることができます。
認知症の一般的な症状
認知症にはいくつかの種類がありますが、症状はおおむね似ています。一般に認知症では、以下のような症状がみられます。
言語使用に関わる問題
人格の変化
見当識障害
日常生活行為の問題
破壊的または不適切な行動
各症状がどの時点で起こるかは様々ですが、症状を初期、中期、後期に分類すると、患者、家族、その他の介護者が経過のおおまかな見通しを得る上で役立ちます。
人格の変化と破壊的行動(行動障害 認知症における行動障害 認知症とは、記憶、思考、判断、学習能力などの精神機能が、ゆっくりと進行性に低下していく病気です。 典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。 診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。 原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。 さらに読む )は初期にも後期にも出現することがあります。一部の認知症患者に起こるけいれん発作も、疾患の経過を通じていつでも起こりえます。
初期の認知症の症状
認知症の初期の症状は軽い傾向があります。
認知症は通常、徐々に始まり、時間をかけて悪化していくため、最初のうちは気づかれない場合もあります。
最初に著しく悪化する精神機能の1つに次のものがあります。
記憶(特に最近の出来事に関するもの)
また、典型的には、次のような行為が次第に難しくなっていきます。
適切な単語を見つけて、使う
言語を理解する
物事を抽象的に考える(数字を用いた仕事など)
様々な日常生活行為を行う(どこかに行く、物の置き場所を覚えておくなど)
適切な判断を行う
喜びから悲しみに唐突に切り替わるなど、感情が変化しやすくなる場合もあります。
人格の変化もよくみられます。家族が患者の異常な行動に気づくこともあります。
認知症患者の中には自分の異常をうまく隠す人もいて、自宅で日課にしている特定の作業だけを行い、家計簿の記帳、読書、仕事といった複雑な作業は避けようとします。精神機能が悪化しても生活習慣を変えようとしない人は、日常生活行為が以前のようにできなくなったことにいらだちを覚えることがあります。重要な用事を忘れたり、やり方を間違えたりすることもあります。例えば、請求書の支払いを忘れたり、照明や暖房器具を消し忘れたりします。
初期の認知症では、例えば車の運転ができても、渋滞に巻き込まれると混乱したり、簡単に道に迷ったりすることがあります。
中期の認知症の症状
認知症の悪化に伴って、すでに表面化していた問題が悪化および拡大し、次のようなことが困難あるいは不可能になっていきます。
新しい情報を学んでそれを思い出す
過去の出来事を思い出す
日常生活において自分の身の回りのこと(入浴、食事、着替え、トイレなど)をこなす
人物や物を認識する
時間の経過を追い、自分がいる場所を把握する
見たことや聞いたことを理解する(この能力の低下が錯乱につながる)
自分の行動をコントロールする
道に迷うことが多く、寝室やトイレへの行き方が分からなくなる場合もあります。歩くことはできますが、転倒する可能性が高くなります。
約10%の人では、こうした錯乱が、 幻覚 幻覚 健常者の間でも、全体的なパーソナリティ、気分、行動には大きな個人差があります。また各個人でも、状況に応じて日毎に変化があります。しかし、パーソナリティや行動に突然大きな変化がみられることは、特に明らかな出来事(薬の服用、大切な人を亡くすなど)と関連していない場合、しばしば何らかの問題があることを意味します。 ( 精神障害の概要も参照のこと。) パーソナリティや行動の突然の変化は、以下のいずれかの種類の症状を伴うものとして大別することがで... さらに読む 、 妄想 妄想 健常者の間でも、全体的なパーソナリティ、気分、行動には大きな個人差があります。また各個人でも、状況に応じて日毎に変化があります。しかし、パーソナリティや行動に突然大きな変化がみられることは、特に明らかな出来事(薬の服用、大切な人を亡くすなど)と関連していない場合、しばしば何らかの問題があることを意味します。 ( 精神障害の概要も参照のこと。) パーソナリティや行動の突然の変化は、以下のいずれかの種類の症状を伴うものとして大別することがで... さらに読む (誤った強い思い込みで、通常は知覚や経験を誤って解釈してしまうことによって生じるもの)、またはパラノイア(迫害されているという根拠のない思い込み)などの精神病症状につながります。
車の運転には迅速な判断と手足を協調させる様々な動作が必要なため、認知症が進行するにつれて、運転は困難になっていきます。自分がどこに向かっているのかを思い出せなくなることもあります。
もともとあった人格的な特徴がより極端になることもあります。例えば、いつもお金の心配をしていた人が金銭にますます執着するようになったり、心配性だった人が常に何かを心配するようになったりします。人によっては、いらだちやすい、不安になりやすい、自己中心的、融通が利かない、怒りっぽくなるなどの変化がみられます。逆に、受動的、表情が乏しい、抑うつ、優柔不断、内気になるなどの変化が生じる人もいます。人格や精神機能が変化したことを指摘されると、敵対的な態度をとったり、興奮したりすることがあります。
睡眠のパターンにもしばしば異常がみられます。ほとんどの認知症患者は適切な量の睡眠をとりますが、深い眠りについている時間は短くなります。その結果、夜間に落ち着かなくなることがあります。また、寝つきが悪くなったり、睡眠がとぎれやすくなったりします。運動不足の場合や従事する活動が少ない場合は、日中に寝すぎてしまうことがあり、夜間に十分な睡眠がとれなくなります。
認知症における行動障害
認知症の人は、自分の行動をうまくコントロールできないために、不適切または破壊的な行動(怒鳴る、物を投げる、人や物をたたく、徘徊するなど)をとることもあります。このような行動面の異常は行動障害と呼ばれます。
この行動障害には、以下に示すような認知症によるいくつかの影響が関与しています。
認知症の人は適切な行動のルールを忘れてしまっているために、社会的に不適切な振る舞いをしてしまうことがあります。例えば、暑いときに人前で服を脱いでしまうことがあります。あるいは、性的な衝動を覚えたときに、人前でマスターベーションをしたり、わいせつな言葉を使ったり、他者に性的な要求をしたりすることもあります。
見たことや聞いたことを理解するのが困難になるため、他者からの手助けの申し出を脅迫と勘違いして、その人に殴りかかったりすることがあります。例えば、服を脱いでいるのを手伝おうとすると、それを攻撃と解釈して自分の身を守ろうとし、ときには相手に殴りかかることもあります。
短期記憶が障害されるため、他者から聞いたことや自分がとった行動を思い出すことができなくなります。同じ質問や会話を何度も繰り返したり、相手の注意を常に自分に向けさせようとしたり、すでに受け取ったもの(食事など)を再び要求したりします。要求したものが与えられないと、興奮して動揺することもあります。
他者に自分の要求を明確に(あるいはまったく)伝えることができなくなるため、痛みのために大声で叫んだり、孤独感や恐怖感のために徘徊したりすることがあります。眠れないときは、徘徊したり、怒鳴ったり、叫んだりすることがあります。
具体的にどんなことが破壊的行動とみなされるかは、介護者の忍耐、患者の生活環境など、多くの要因によって決まります。患者が(すべてのドアや門に鍵とアラームが付いている)安全な環境で生活している場合は、徘徊は許容できるかもしれません。しかし、介護施設や病院にいる場合は、他の入居者の迷惑になったり、施設の運営に支障をきたしたりするので、許容できない可能性があります。介護者は、夕方より日中の破壊的行動により寛容な場合もあります。
後期(重度)の認知症の症状
最終的には、認知症患者は人との会話についていけなくなり、まったく話ができなくなります。最近と過去の両方の出来事に関する記憶が完全に失われます。身近な家族や鏡に映った自分の顔も認識できなくなる場合があります。
認知症が進行すると、脳の機能がほぼ完全に損なわれます。筋肉のコントロールにも異常が生じるため、歩行や食事をはじめとする、あらゆる日常生活行為ができなくなります。他者に全面的に依存した生活となり、やがて寝たきりの状態になります。
最終的には、食べものをのどに詰まらせずに飲み込むことも困難になります。その結果、 低栄養 低栄養 低栄養とは、カロリーまたは1つ以上の必須栄養素が不足している状態です。 低栄養は、食べものを手に入れたり調理したりできない、食べものを食べたり吸収したりしにくくなる病気がある、またはカロリーの必要量が大幅に増えているということが原因で発生することがあります。 低栄養は、多くの場合、見た目にも明らかです。低体重で、しばしば骨が突き出ており、... さらに読む 、 肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に起きる感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気がほかにある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約400~500万人が肺炎を発症し(... さらに読む (分泌液や食べものを口から肺に吸い込んでしまうことが原因)、 褥瘡 床ずれ 床ずれ(褥瘡[じょくそう]とも呼ばれます)とは、長時間の圧迫により皮膚に十分な血液が流れなくなることで生じる皮膚の損傷です。 床ずれは、圧迫に加えて、皮膚を引っ張る力、摩擦、湿気などの要因が組み合わさって発生する場合が多く、特に骨のある部分の皮膚でその傾向が強くみられます。 診断は通常、身体診察の結果に基づいて下されます。... さらに読む (動けなくなるため)のリスクが高くなります。
肺炎などの感染症が原因で死に至ることもしばしばあります。
認知症の診断
医師による評価
精神状態検査
ときに神経心理学的検査
他の原因を否定するため、血液検査と画像検査
通常はもの忘れが認知症の最初の徴候であり、家族や医師が気づきます。
病歴
通常、医師やその他の医療従事者は、本人や家族に以下のような一連の質問をすることで認知症を診断できます。
患者の年齢
家族内に認知症やその他の精神機能障害があった人はいるか(家族歴)
症状はいつから始まったか
症状はどのくらい速く悪化したか
患者にどのような変化があったか(趣味や活動をやめてしまったなど)
ほかにどのような病気があるか
どのような薬剤を服用しているか(ある種の薬剤は認知症の症状を引き起こす可能性があるため)
患者が抑うつ状態にあったり悲しんでいたりしたことがあったか(特に高齢者の場合)
精神機能の検査
精神状態を調べるため、物の名前を言う、短いリストを覚えて暗唱する、文章を書く、図形を描き写すなどの簡単な課題と作業で構成される 精神状態検査 精神状態 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む も行われます。記憶力を調べるために、医師は3つの物のリストを読み上げ、5分待ってから、患者にその内容を繰り返すよう言います。通常、認知症の人はその内容を覚えていられません。
障害の程度を判定するため、または精神機能が本当に低下しているかどうかを調べるため、より詳細な検査である神経心理学的検査が必要になることもあります。この検査は気分を含めた重要な精神機能をすべて網羅していて、通常は終了までに1~3時間かかります。この検査は、医師が加齢に伴う記憶障害、軽度認知障害、うつ病から認知症を鑑別する上での助けになります。
医師は通常、患者の症状、家族歴、精神状態検査の結果などから認知症を診断できます。
また通常は、これらの情報に基づき、症状の原因としてせん妄を除外することもできます(表「 せん妄と認知症の比較 せん妄と認知症の比較 」を参照)。認知症と異なり、せん妄は迅速な治療によって回復を望めるため、せん妄を除外することは極めて重要です。
認知症を示唆する徴候には以下のものがあります。
思考や行動面で問題が生じ、日常生活に支障をきたす。
このような問題が進行性に悪化し、日常生活がますます困難になる。
せん妄や、このような問題の原因になりうる精神障害がない。
さらに、患者は以下のうち少なくとも2つに該当します。
新しい情報を学んでそれを思い出すことが困難
言語の使用が困難
空間内の物の位置を理解すること、物や顔を認識すること、部分と全体の関係を理解することが困難
計画を立てる、問題を解決する、複雑な課題を処理する(銀行口座を管理するなど)、適切な判断をすること(遂行機能)が困難
人格、行動、または態度の変化
身体診察
通常は、 神経学的診察 神経学的診察 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む を含めた身体診察によって、他の病気が存在していないかを確かめます。このとき医師は、認知症の原因または一因となりうる病気や認知症と誤認されうる病気で治療可能なものがないかを探します。
さらに、認知症とは関係がない身体的または精神的な病気(統合失調症など)についても検査を行います。これらの病気を治療することで、患者の全般的な状態が改善されることもあるからです。
その他の検査
また、血液検査も行います。典型的には、甲状腺ホルモンの血中濃度を測定して甲状腺の病気がないかを確認したり、ビタミンB12濃度を測定して、ビタミンB12欠乏症がないかを確認したりします。
認知症の原因として感染症(神経梅毒など)、自己免疫疾患、プリオン病が疑われる場合、 腰椎穿刺 腰椎穿刺 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む が行われます。
認知症の初期評価ではCTまたはMRI検査が行われます。これらの画像検査では、認知症の原因になりうる異常(脳腫瘍 脳腫瘍の概要 脳腫瘍は脳内で増殖する組織で、がんの場合(悪性)と、がんでない場合(良性)があります。脳内で発生するものと、体の別の部位から脳に転移してきたものとがあります。 症状としては、頭痛、人格の変化(抑うつ、不安、自制がきかなくなるなど)、脱力、異常感覚、平衡感覚の消失、集中力の低下、けいれん発作、協調運動障害などがみられます。 脳腫瘍は画像検査で発見できますが、しばしば確認のために腫瘍の生検が必要になります。... さらに読む 、 正常圧水頭症 正常圧水頭症 正常圧水頭症とは、脳の周囲を満たしている液体が異常に増加して、歩行困難、尿失禁、認知症をきたす病気です。 通常、正常圧水頭症の主な症状は、全般的な不安定さとバランス感覚の消失で、患者は足が地面にくっ付いているかのように感じることがあります。 認知症は病気がかなり進行するまで生じない場合もあります。 医師は通常、MRI検査を行って脳の周囲に過剰な液体がないか確認し、腰椎穿刺を行うか、脊髄に一時的に排液チューブを留置して過剰な液体を除去しま... さらに読む 、 硬膜下血腫 硬膜下血腫 頭蓋内血腫は、頭蓋内(脳の内部、または脳と頭蓋骨の間)に血液がたまった状態を指します。 頭部外傷によって脳の内部、または脳と頭蓋骨の間に血液がたまって生じます。 脳のどの領域が損傷を受けているかに応じて、しつこい頭痛、眠気、錯乱、記憶障害、脳の損傷部位と反対側の体の麻痺、発話や言語能力の障害などの症状が現れます。 頭蓋内血腫はCT検査やMRI検査によって発見されます。 血腫から血液を抜き取る手術が必要になる場合もあります。 さらに読む 、 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む など)が特定できます。
ときに、PET検査または SPECT検査 SPECT(単一光子放出型コンピュータ断層撮影) 核医学検査では、放射性核種を用いて画像を描出します。放射性核種とは放射線を出す元素のことで、エネルギーを放射線の形で放出することで、安定した状態になろうとする原子です。放射性核種の多くは高いエネルギーをガンマ線(人の手によらない、自然環境で発生するX線)または粒子( PET検査で使用される陽電子など)の形で放出します。( 放射線障害と 画像検査の概要も参照のこと。) 放射性核種は、甲状腺などの特定の臓器の病気を治療するのにも使用されます... さらに読む を行って、認知症の種類(アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症など)の特定に役立てることもあります。これらの画像検査では、放射性物質を用いて画像を生成します。
しかし、脳組織のサンプルを採取して顕微鏡で調べなければ、認知症の原因を確認することはできません。この処置は、死後解剖中に行われることがあります。
認知症の治療
認知症の原因となる病態または認知症を悪化させる病態の管理
安全対策と患者の支援
精神機能を改善しうる薬
介護者へのケア
終末期医療
ほとんどの認知症では、精神機能を回復できる治療法はありません。しかし、認知症の原因となる病気または認知症を悪化させている病気を治療することで、ときに認知症の進行を止めたり回復させることができます。そのような病気としては、甲状腺機能低下症、硬膜下血腫、正常圧水頭症、ビタミンB12欠乏症などがあります。すでに認知症と診断されている人にこのような病気が発生した場合は、治療することでときに精神機能の低下を遅らせることができます。認知症とうつ病の両方がある場合は、セルトラリンやパロキセチンなどの 抗うつ薬 うつ病に対する薬物治療 アゴメラチン(agomelatine)は、新しいタイプの抗うつ薬で、うつ病エピソードの治療法になる可能性があります。 うつ病の治療には数種類の薬剤が使用できます。 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) 新規抗うつ薬 複素環系抗うつ薬 さらに読む の投与とカウンセリングを行うことで、少なくとも一時的に効果が得られる場合があります。認知症のあるアルコール依存症患者では、禁酒により長期的な改善が得られることがあります。鎮静薬や脳の機能に影響を及ぼす薬など、認知症を悪化させる可能性のある薬剤は、可能であれば使用を中止します。甲状腺の機能が低下している人には、甲状腺ホルモンの補充が有効な場合があります。
痛みや、その他の病気または健康上の問題(尿路感染症や便秘など)がある場合は、認知症との関連性があってもなくても、治療を行います。このような治療は、認知症患者が日常生活を維持する上で役立ちます。
患者を支える安全な環境を整えることは非常に役立ちます。また、特定の薬剤がしばらく助けになる場合があります。患者本人、家族、その他の介護者、医療従事者が話し合って、その人に合った最善の治療方針を決定すべきです。
安全対策
安全への配慮が必要です。訪問看護師、作業療法士または理学療法士に依頼して、自宅の安全性を評価して改善点を提案してもらうことができます。例えば、室内の照明が薄暗いと、物を見間違えやすくなるため、部屋の照明は比較的明るくしておくべきです。常夜灯や、動きを検出して点灯する照明を設置すると、役立つことがあります。このような改善策により、事故(特に転倒)を防止することができ、患者の自立度も高まります。
医師は、食事の準備中や運転中など、特定の状況で認知症患者がどの程度機能できているかを評価します。生活能力が損なわれている場合は、ナイフを隠したり、車の鍵を取り上げたりするなどの安全対策が必要になることがあります。
患者の支援
軽度から中等度の認知症患者は、通常は慣れた環境にいるときに最も良好に機能を維持できるため、自宅での生活が可能です。
一般に、明るく楽しげで、落ち着いた安全な環境を確保することが望ましく、ラジオやテレビなどの適度な刺激も必要です。見当識を保てるような配慮もすべきです。例えば、窓があればおよその時刻を把握しやすくなります。
物の配置や日課を定めることは、認知症患者が見当識を保つのに役立ち、安心感や安定感を与えます。周囲の環境や日課が変わる場合や、介護者が交代する場合は、明確かつ簡潔に説明します。また、何かを行うときや他者との接触が生じるときは(入浴や食事など)、何が起こるかをあらかじめ説明します。説明の時間をとることは、いさかいを避けるのに役立ちます。
入浴、食事、睡眠など日常生活のスケジュールを一定に保つことは、認知症患者の記憶の助けになります。就寝前の手順を一定に保つと、睡眠の質を改善できる可能性があります。
その他の活動を一定の間隔でスケジュールに組み込むと、楽しい活動や生産的な行為に注意が向き、自立して他者から必要とされているという感覚を得る上で役に立ちます。このような活動は、抑うつ感の軽減にも役立ちます。認知症になる前から関心のあった活動に従事させるのがよいでしょう。活動内容は、ある程度の刺激があって、かつ楽しめるものにすべきですが、選択肢が多すぎるものや難易度の高いものは避けます。
身体的な活動は、ストレスと欲求不満を解消して、睡眠障害や破壊的行動(興奮や徘徊など)を予防するのに役立ちます。また、平衡感覚の改善(ひいては転倒の防止)や心肺機能の維持にも役立ちます。
趣味や、最近の出来事への関心、読書など、精神的な活動を継続することは、注意力と人生への関心を維持するのに役立ちます。認知症が悪化してきた場合には、活動を細かく分けたり単純化したりする必要があります。
過度の刺激は避けるべきですが、患者が社会的に孤立しないような配慮も必要です。
スタッフや親しい知人が患者を頻繁に訪問することは、患者が社会性を保つ上での助けになります。
以下の対策により、ある程度の改善がみられることがあります。
日課を単純化する。
認知症患者に過度の期待をしない。
患者がある程度の威厳と自尊心を保てるように配慮する。
特別な支援が必要になることもあります。患者の家族は、医療従事者、社会福祉サービス(電話帳に連絡先が掲載されています)またはインターネット(米国であれば、高齢者介護サービス情報センター[エルダーケア・ロケーター:Eldercare Locator])から、利用可能なサービスの一覧を入手できます。具体的なサービス内容としては、家事、レスパイトケア、食事の宅配、デイケアプログラム、認知症患者のための活動などがあります。24時間介護のサービスもありますが、費用は高額です。アルツハイマー病協会(Alzheimer’s Association)という団体がセーフリターンプログラム(Safe Return program)を提供しています。このプログラムは、要介護者が介護者や家族のもとに戻る手助けをするように、地域支援ネットワークに注意喚起をするものです。
認知症は通常、進行性であるため、将来の計画が不可欠です。より体制の整った環境に移る必要が生じるかなり前から、家族内で移転の計画を立て、長期療養の選択肢も検討しておきます。通常、こうした計画には医師、ソーシャルワーカー、看護師、弁護士も関与しますが、責任の大半を負うのは家族です。より介護体制の整った環境への移転を決定する場合は、安全を確保したいという要望と患者の自立心をできるだけ保ちたいという要望との間でバランスをとる必要があります。このような決断には、以下のような多くの要因が関与します。
認知症の重症度
患者の行動はどの程度破壊的か
自宅の環境
家族や介護者が協力できるか
資金
認知症とは別の病気や身体的問題の有無
老人ホームや介護施設などの長期療養施設の中には、認知症患者のケアを専門としている施設もあります。そうした施設のスタッフは、認知症患者の思考や行動を理解する方法や認知症患者への接し方について特別な訓練を受けています。このような施設では、居住者が安心できるようなスケジュールが決められていて、生産的で有意義な人生を送っていると感じられる適切な活動が行われます。ほとんどの施設では、適切な安全策が講じられています。例えば、入居者が施設内で迷わないように標識が掲示されていたり、徘徊を防ぐため一部のドアに鍵や警報器が設置されていたりします。施設がこういった安全対策を講じていなければ、患者の問題行動を薬剤で抑えるよりは、こういった対策を講じている施設に転居させることの方が望ましいでしょう。
自宅から長期療養施設に移された際に認知症が悪化することがあります。しかし、ほとんどの人は短期間で慣れ、介護体制の整った環境で活動状態が改善します。
精神機能を改善しうる薬
ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンは、 アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む 、 レビー小体型認知症 レビー小体型認知症とパーキンソン病認知症 レビー小体型認知症とは、精神機能が進行性に失われていく病気で、神経細胞の中にレビー小体が認められることを特徴とします。パーキンソン病認知症は、パーキンソン病患者において精神機能が失われていく病気で、神経細胞の中にレビー小体が認められることを特徴とします。 レビー小体型認知症の患者は目覚めた状態とうとうとした状態との間で変動するほか、幻覚が起こったり、絵を描くのが困難になったり、パーキンソン病と同様の動作困難が生じたりします。... さらに読む の治療に使用されます。リバスチグミンは パーキンソン病に伴う認知症 レビー小体型認知症とパーキンソン病認知症 レビー小体型認知症とは、精神機能が進行性に失われていく病気で、神経細胞の中にレビー小体が認められることを特徴とします。パーキンソン病認知症は、パーキンソン病患者において精神機能が失われていく病気で、神経細胞の中にレビー小体が認められることを特徴とします。 レビー小体型認知症の患者は目覚めた状態とうとうとした状態との間で変動するほか、幻覚が起こったり、絵を描くのが困難になったり、パーキンソン病と同様の動作困難が生じたりします。... さらに読む の治療にも使用できます。
ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンは、コリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれる薬剤で、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害します。そのためこれらの薬剤は、神経細胞間の情報伝達に関与しているアセチルコリンの濃度を上昇させます。これらの薬剤を使用すると、認知症患者の精神機能を一時的に改善できる場合もありますが、認知症の進行を遅らせる効果はありません。最も有用性が高いのは初期の認知症に使用した場合ですが、有効性には大きな個人差があります。約3分の1の人では効果がみられません。約3分の1の人では、2~3カ月ほど若干の改善がみられます。残りの人では長期にわたってかなりの改善が得られますが、最終的には認知症が進行します。
あるコリンエステラーゼ阻害薬で効果が得られないか副作用が生じた場合は、別のものを試してみるべきです。どの薬剤でも効果がないまたは副作用がみられた場合は、この種類の薬剤の使用をやめるべきです。主な副作用は吐き気、嘔吐、体重減少、腹痛などです。タクリンは認知症の治療薬として最初に開発されたコリンエステラーゼ阻害薬ですが、肝臓に損傷を与える可能性があるため、現在ではほとんど使用されていません。
メマンチンは、NMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)拮抗薬という種類の薬剤で、中等度から重度のアルツハイマー病患者の精神機能を改善する可能性があります。メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬とは異なる仕組みで作用するため、コリンエステラーゼ阻害薬と同時に使用されることもあります。これらを併用すると、コリンエステラーゼ阻害薬を単独で使用した場合より高い効果が得られる可能性があります。
異常な行動の抑制に役立つ薬
破壊的行動がみられる場合は、ときに薬剤が使用されます。しかし、破壊的行動を抑制するのに最も役立つのは、薬剤を使用せず、患者毎に対策を立てることです。環境を変えるなどの他の方法で効果がなく、患者本人や周囲の人の安全を確保するのに止むを得ない場合にのみ、薬剤が使用されます。
以下のような薬剤が使用されます。
抗精神病薬 抗精神病薬 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病症状)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症については、その原因もメカニズムも分かっていません。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわたります。... さらに読む :進行した認知症に伴う興奮や感情の爆発を抑える目的でしばしば使用されます。しかし抗精神病薬は、認知症に加えて 幻覚 幻覚 健常者の間でも、全体的なパーソナリティ、気分、行動には大きな個人差があります。また各個人でも、状況に応じて日毎に変化があります。しかし、パーソナリティや行動に突然大きな変化がみられることは、特に明らかな出来事(薬の服用、大切な人を亡くすなど)と関連していない場合、しばしば何らかの問題があることを意味します。 ( 精神障害の概要も参照のこと。) パーソナリティや行動の突然の変化は、以下のいずれかの種類の症状を伴うものとして大別することがで... さらに読む 、 妄想 妄想 健常者の間でも、全体的なパーソナリティ、気分、行動には大きな個人差があります。また各個人でも、状況に応じて日毎に変化があります。しかし、パーソナリティや行動に突然大きな変化がみられることは、特に明らかな出来事(薬の服用、大切な人を亡くすなど)と関連していない場合、しばしば何らかの問題があることを意味します。 ( 精神障害の概要も参照のこと。) パーソナリティや行動の突然の変化は、以下のいずれかの種類の症状を伴うものとして大別することがで... さらに読む 、パラノイア(精神病的行動)などの症状がみられる人にしか効果的でない傾向があります。眠気、ふるえ、錯乱の悪化などの重篤な副作用が起こることもあります。比較的新しい抗精神病薬(アリピプラゾール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピンなど)は、副作用があまりありません。しかし、長期間使用すると、血糖値の上昇(高血糖と呼ばれる状態)や脂肪(脂質)の値の上昇(高脂血症 脂質異常症 脂質異常症とは、 脂質(コレステロール、中性脂肪[トリグリセリド]、または両方)の濃度が高いか、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が低い状態をいいます。 生活習慣、遺伝、病気(甲状腺ホルモン低値や腎疾患など)、薬、またはそれらの組合せが影響します。 動脈硬化をもたらし、狭心症、心臓発作、脳卒中、末梢動脈疾患の原因になります。 中性脂肪と各種コレステロールの血中濃度が測定されます。... さらに読む と呼ばれる状態)をもたらすことがあり、 2型糖尿病 2型糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む のリスクを高めます。精神病的な行動がみられる認知症の高齢者では、これらの薬剤が脳卒中や死亡のリスクを高めるおそれがあります。抗精神病薬は、認知症に精神病的な行動が伴っている場合に限定して使用するべきです。
抗てんかん薬 抗てんかん薬 けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じることで、一時的に脳の機能障害が引き起こされます。 多くの人では、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常がみられます。 コントロールできないふるえや意識消失が起こる場合もありますが、単に動きが止まったり、何が起こっているか分からなくなったりするだけにとどまる場合もあります。... さらに読む :けいれん発作を抑えるために使用される薬剤ですが、激しい感情の爆発を抑えるために使用される場合もあります。カルバマゼピン、ガバペンチン、バルプロ酸などがあります。
その他の薬剤
鎮静薬(ロラゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤を含みます)は、特定の出来事に起因する不安を軽減するため、ときに短期間限定で使用されることがありますが、長期間の使用は勧められません。
抗うつ薬 うつ病に対する薬物療法 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む (通常は選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、認知症に加えてうつ病も併発している患者にのみ使用されます。
薬剤を使用する場合、家族は定期的に医師と話し合って、その薬剤が本当に有用なのかを検討する必要があります。
栄養補助食品
多くの栄養補助食品が試されていますが、いずれも、認知症の治療にはほとんど役立たないことが証明されています。今までに、レシチン、メシル酸エルゴロイド(ergoloid mesylates)、シクランデレートなどが検討されてきました。記憶を増強する栄養補助食品としてイチョウ葉エキスが市販されています。しかし、 イチョウ葉エキス イチョウ イチョウは、街路樹として植えられることの多い樹木であるイチョウの葉から得られます。イチョウの葉には、ギンコライドやフラボノイドなど、多くの生物学的有効成分が含まれています。イチョウは最も多く使用されているハーブのサプリメントの1つです。 イチョウの実は悪臭を放つため、イチョウ製品にイチョウの実が使用されることはありません。イチョウの雌木の下に落ちているイチョウの果肉に触れると、重度の皮膚の炎症(皮膚炎)を起こすことがあります。イチョウの... さらに読む の有益な効果を証明した研究はなく、高用量では副作用をもたらす可能性があります。
ビタミンB12のサプリメントはビタミンB欠乏症がある人だけに有効です。
どのようなサプリメントであれ、使用する際は事前に主治医に相談するべきです。
介護者に対するケア
認知症患者の介護は多くのストレスがかかる重労働であり、介護者は自分自身の精神的・肉体的健康に無頓着になりがちで、抑うつ状態になったり疲弊困憊したりすることがあります。
以下のような対策が介護者の助けになります。
認知症患者のニーズを効果的に満たす方法を学び、認知症患者に何が期待できるかを知る:介護者は、このような情報を、看護師、ソーシャルワーカー、関係団体、雑誌やインターネットから得ることができます。
必要な場合は支援を求める:介護者は、ソーシャルワーカー(地域病院にいる人を含みます)に相談し、デイケアプログラム、訪問看護、パートまたはフルタイムのホームヘルパー、住み込みでの介護サービスなどの適切な支援について検討することもできます。また、家族支援団体に相談することも有用です。
介護者自身に対するケア:介護者は自分自身にも気を配る必要があります。友人との交流、趣味、種々の活動を諦めてはいけません。
終末期の問題
認知症の人は、意思決定能力が大きく損なわれる前に、医療方針についての様々な決定を行っておくとともに、金銭上および法律上の手続きも済ませておくべきです。こうした取り決めを記載した書類は 事前指示書 事前指示書 医療に関する事前指示書は、ある人が医療に関する決断を下すことができなくなった場合に、医療についての本人の希望を伝達する法的文書です。事前指示書には、基本的にリビングウィルと医療判断代理委任状の2種類があります。( 医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。) リビングウィルは、終末期ケアに代表されるような、個人が医療に関する決定能力を喪失する事態に備え、将来の医学的治療に関する指示や要望を事前に表明するものです。... さらに読む と呼ばれます。患者は自分の代わりに治療に関する決定を行う人(医療代理人)を法律に基づいて指名し、 治療に関する希望 終末期の治療選択肢 終末期ケアの選択肢には多くの場合、余命が短くなるおそれがあるが快適な状態を保つ治療を受けるか、わずかでも余命を延ばすために不快で自由が損なわれる積極的な治療を試みるか、という決断が含まれます。例えば、重度の肺疾患で死期が近づいている場合は、人工呼吸器(呼吸を補助する装置)を使用することで余命を延ばすことができます。しかし、ほとんどの人は人工呼吸器の装着を非常に不快に感じ、たびたび強い鎮静を望みます。... さらに読む について、その代理人や医師と話し合っておくべきです(終末期の法的または倫理的な課題 終末期の法的または倫理的な課題 患者とその家族は多くの場合、死や死期に関する特定の希望やニーズを抱えています。 事前指示書は、医療ケアに関する患者の決定事項を家族や医療従事者に指示する文書で、そうした決定が必要な場面で患者にその能力がない場合に使用されます。 死期にある人の中には、自殺を考える人もいますが、実際に自分の死につながるような行為に及ぶ人はごく少数です。 一部の地域では、特定の条件が満たされ、特定の手順に従う場合、医師による死の幇助が法律で認められています。... さらに読む を参照)。例えば、初期の認知症患者では、病状が進行した場合に抗菌薬投与による感染症(肺炎など)治療や人工栄養を希望するかどうかをあらかじめ決めておくべきです。こうした問題は、実際に意思決定が必要になる前に、できるだけ早く関係者全員で話し合っておく必要があります。
認知症が悪化するに従って、治療の重点は、余命を延ばすことから快適さを保つことに移されていきます。人工栄養などの積極的な治療は、しばしば不快感を増強させます。
一方、それほど積極的でない治療で不快感を軽減することができます。例えば、以下のような治療があります。
十分な疼痛管理
丁重な看護
良好な介護を行うには、1人(または2~3人)が介護を担い、患者との間に安定的な関係を築くのが最適です。安心感のある声で話しかけたり、落ち着くような音楽をかけたりすることも有用です。
認知症に関するさらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
アルツハイマー協会(Alzheimer's Association):このウェブサイトでは、アルツハイマー病に関する情報(統計、原因、危険因子、症状など)が提供されています。また、アルツハイマー病の患者の日常ケア、介護者のケア、および支援団体に関する情報など、支援のためのリソースも提供されています。
アルツハイマー病学会(The Alzheimer's Society):このウェブサイトでは、認知症に関するガイド(知っておくべき重要な5つの事項を含む)、介護者向けのガイド、ならびに認知症の種類、症状、診断、治療、危険因子、および予防に関する情報が提供されています。
Dementia.org:このウェブサイトでは、認知症の原因、症状、治療、病期に関する情報が提供されています。
ヘルスダイレクト:認知症動画シリーズ(Health Direct: Dementia Video Series):この動画シリーズでは、認知症に関する一般情報、認知症の警戒すべき徴候に関する推奨事項、治療および研究、ならびに認知症患者のケアについての情報が提供されています。このウェブサイトでは、同様のトピックに関する記事へのリンクも提供されています。
米国国立神経疾患・脳卒中研究所の認知症情報ページ(National Institute of Neurological Disorders and Stroke's Dementia Information Page):このウェブサイトでは、治療法や予後に関する情報のほか、臨床試験へのリンクが掲載されています。