最も重要な症状は尿失禁(排尿をコントロールできない状態)です。
膀胱カテーテルの挿入、画像検査、および尿の流れを測定する検査を行います。
治療の目標は、膀胱を定期的に空にすることです(間欠的導尿または薬の使用などによって)。
排尿をコントロール 排尿のコントロール 腎臓では絶えず尿が作られており、尿は2本の管(尿管)を通って膀胱に流れ込み、そこで一時的に貯められます(図「 尿路の構造」を参照)。膀胱の一番下の頸部と呼ばれる部分は尿道括約筋という筋肉に囲まれていて、普段はこの筋肉が収縮した状態を維持することによって、尿が体外に排出される通路(尿道)が閉鎖されているため、膀胱が満杯になるまで尿を貯めるこ... さらに読む するには、いくつかの筋肉と神経が協調して働く必要があります。
神経因性膀胱は以下のように分類されます。
弛緩性:弛緩性の神経因性膀胱では、膀胱が収縮せず、限界を超えるまで膀胱に尿が充満した後、尿が漏れ出します。
けい性:不随意な膀胱収縮が発生し、膀胱内の尿がほとんどないか、まったくない場合にも尿意を感じます。典型的には、膀胱の収縮と膀胱の開口部を閉鎖する筋肉(尿道括約筋)の協調がうまくとれていません。
混合型:弛緩性とけい性の両方の要素がみられる場合もあります。
膀胱または膀胱出口をコントロールする神経に損傷を加えたり干渉したりする病態は、いずれも神経因性膀胱を引き起こす可能性があります。
一般的な原因としては、 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 、 脊髄の損傷または外傷 脊椎および脊髄の損傷 脊髄損傷のほとんどは自動車事故、転倒や転落、暴行、スポーツ外傷が原因です。 症状は感覚の消失、筋力の消失や、腸、膀胱、性機能の喪失などで、これらの症状は一時的なことも永久的なこともあります。 損傷を特定するには、MRI検査(軟部組織、脊髄、靱帯の損傷を評価するため)、CT検査(骨の損傷を評価するため)、またはその両方を用いるのが最善の方法... さらに読む 、 筋萎縮性側索硬化症 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とその他の運動ニューロン疾患(MND) 運動ニューロン疾患は、筋肉の運動を開始させる神経細胞が進行性に変性することを特徴とします。結果として、それらの神経に刺激されていた筋肉の状態が悪くなり、筋力が低下し、正常に機能しなくなります。 筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)は、最も一般的な運動ニューロン疾患です。 典型的には、筋力の低下と筋肉の萎縮が起こり、動きが固く、ぎこちなくなり、体を動かすのが困難になっていきます。... さらに読む (ALS)、 パーキンソン病 パーキンソン病 パーキンソン病は、脳の特定の領域がゆっくりと進行性に変性していく病気です。特徴として、筋肉が安静な状態にあるときに起こるふるえ(安静時振戦)、筋肉の緊張度の高まり(こわばり、筋強剛)、随意運動が遅くなる、バランス維持の困難(姿勢不安定)などがみられます。多くの患者では、思考が障害され、認知症が発生します。 パーキンソン病は、動きを協調させている脳領域の変性によって起こります。... さらに読む 、 多発性硬化症 多発性硬化症(MS) 多発性硬化症では、脳、視神経、脊髄の髄鞘(ずいしょう)(ほとんどの神経線維を覆っている組織)とその下の神経線維が、まだら状に損傷または破壊されます。 原因は解明されていませんが、免疫系が自分の体の組織を攻撃する現象(自己免疫反応)が関与していると考えられています。 多発性硬化症の患者のほとんどは、健康状態が比較的良好な期間と症状が悪化する期間を交互に繰り返しますが、時間の経過とともに、多発性硬化症は徐々に悪化していきます。... さらに読む 、 糖尿病性神経障害 糖尿病における神経障害 糖尿病では、体の様々な部位、特に血管、神経、眼、腎臓に重篤で長期に及ぶ多くの合併症がみられます。 ( 糖尿病も参照のこと。) 糖尿病には、以下の2つの種類があります。 1型糖尿病:体の免疫系が膵臓のインスリン産生細胞を攻撃し、90%を超える細胞が破壊されて回復不能になる 2型糖尿病:体がインスリンの効果に抵抗性を示す さらに読む 、骨盤内手術によって引き起こされた神経損傷などがあります。
神経因性膀胱の症状
最も重要な症状は 尿失禁 成人の尿失禁 尿失禁とは、自分では意図せずに尿が漏れることです。 尿失禁は、男女とも年齢を問わず起きる可能性がありますが、女性と高齢者でより多くみられ、高齢女性の約30%、高齢男性の約15%が尿失禁を起こしています。尿失禁は高齢者でより多くみられるものの、加齢に伴う正常な変化の一部ではありません。尿失禁は、利尿効果のある薬を服用した場合のように突然で一時的なこともあれば、長期にわたって持続すること(慢性)もあります。慢性の尿失禁であっても、ときに軽減... さらに読む です。少量の尿が持続的に放出されます。男性では 勃起障害 勃起障害(ED) 勃起障害(ED)とは、性交を行うのに十分な勃起を達成または持続できないことです。 ( 男性の性機能障害の概要も参照のこと。) どんな男性でもときに勃起に至らない問題を抱えることがあり、そのような問題の発生は正常なことと考えられています。勃起障害(ED)は男性が次のような場合に起こります。 一切勃起できない 繰り返し短時間は勃起するが、性交に十分な時間ではない さらに読む が起こる傾向があります。さらに一部のけい性神経因性膀胱では、頻繁に排尿する必要があり、切迫した尿意を催すことも多く、夜間に起きて排尿する必要があります。けい性神経因性膀胱のある人は、他の神経も損傷している場合があり、脚の筋力低下、筋肉のけいれん、感覚消失が起こります。
神経因性膀胱のある人は、 尿路感染症 尿路感染症(UTI)の概要 健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。... さらに読む および 尿路結石 尿路結石 結石は尿路のいずれかの部位で形成される硬い固形物で、痛み、出血、または尿路の感染や閉塞の原因となることがあります。 小さな結石の場合は症状がみられませんが、大きな結石が発生すると、肋骨と腰の間の部分に耐えがたい激痛が生じることがあります。 結石の診断では通常、画像検査と尿検査が行われます。... さらに読む のリスクがあります。膀胱に尿が貯まることで腎臓で尿が停滞するようになると、水腎症(図「 水腎症 水腎症:拡張した腎臓 」を参照)のリスクもあります。
神経因性膀胱の診断
排尿後に膀胱に残った尿の量を測定する検査
尿路の超音波検査
ときに膀胱造影検査などのより詳細な検査
神経障害がある人で尿失禁がみられる場合、神経因性膀胱が疑われます。通常、排尿後に膀胱に残った尿量(排尿後の残尿量)を、膀胱にカテーテルを挿入するか超音波検査の画像を用いて測定します。尿路全体の超音波検査を実施して異常がないか調べ、腎機能を確認するためにいくつかの血液検査を行います(尿路の画像検査 尿路の画像検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。( 尿路の概要も参照のこと。) 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ある種の 腎結石の検出と腎結石の位置や大きさの確認には、X線検査が役立つことがあります。単純X線検査では撮影されないタイプの腎結石もあります。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓の損傷につながります)が不要である... さらに読む を参照)。
患者の状態に応じて、さらなる検査が必要になることがあります。膀胱機能を確認したり、神経因性膀胱の持続期間や原因を特定する上での参考にしたりするため、尿路のさらに詳しい検査(膀胱造影検査 膀胱造影検査と膀胱尿道造影検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。( 尿路の概要も参照のこと。) 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ある種の 腎結石の検出と腎結石の位置や大きさの確認には、X線検査が役立つことがあります。単純X線検査では撮影されないタイプの腎結石もあります。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓の損傷につながります)が不要である... さらに読む 、膀胱鏡検査、膀胱内圧測定など)を行うこともあります。
神経因性膀胱の治療
カテーテル挿入(長期にわたる間欠的導尿を伴う)
摂取する水分量の維持
まれに手術
迅速な治療により、恒久的な機能障害および腎臓の損傷を防ぐことができます。カテーテル挿入または導尿手技により、尿が膀胱内に長期にわたって滞留することを回避できます。例えば、けい性神経因性膀胱の一部の患者では、下腹部を押したり、太ももを引っ掻いたりすることで導尿が可能です。尿が膀胱にとどまる時間が長すぎると、 尿路感染症 尿路感染症(UTI)の概要 健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。... さらに読む のリスクが高まります。膀胱にカテーテルを定期的に挿入する方が、カテーテルを継続的に留置するより安全です。
結石の形成を予防 予防 結石は尿路のいずれかの部位で形成される硬い固形物で、痛み、出血、または尿路の感染や閉塞の原因となることがあります。 小さな結石の場合は症状がみられませんが、大きな結石が発生すると、肋骨と腰の間の部分に耐えがたい激痛が生じることがあります。 結石の診断では通常、画像検査と尿検査が行われます。... さらに読む するため、十分な水分摂取を心がけ、食事でのカルシウムの摂取を制限することが推奨されます。また、腎機能の定期的なモニタリングが行われます。
ときに、切迫性尿失禁の治療薬の投与が有用です(表「 尿失禁の治療に用いられる主な薬剤 尿失禁の治療に用いられる主な薬剤 」を参照)。まれに、体から尿を排出する他の経路を作るための手術が必要になります。
さらなる情報
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