便失禁の原因
便失禁は、 下痢 成人の下痢 下痢は、便の量や水分、排便回数が増加することです。( 小児の下痢も参照のこと。) 排便回数が多いだけでは、下痢を決定づける特徴とはいえません。正常な状態で1日に3~5回排便する人もいます。野菜に含まれる食物繊維をたくさん食べる人は、1日に約500グラム以上の便を排泄することがありますが、この場合の便はよく固まっていて、水様便ではありません。下痢になると腸内ガス、差し込むような腹痛、便意の切迫を伴うことが多く、下痢が感染性微生物や有害物質... さらに読む 発症時に一時的に起こる場合や、直腸に硬い便が滞留して(宿便 宿便 便秘は、排便しにくい、排便回数が少ない、便が硬い、または排便後に直腸が完全に空になっていない感覚(残便感)がある状態です。( 小児の便秘も参照のこと。) 便秘には急性のものと慢性のものがあります。急性便秘は突然起こり、はっきりと現れます。慢性便秘は、徐々に始まり数カ月ないし数年間持続することがあります。 毎日排便しなければ便秘だと思う人はたくさんいます。しかし、誰にとっても毎日排便があることが正常というわけではありません。1日1~3回の... さらに読む )起こる場合があります。先天異常、肛門や脊髄の損傷、 直腸脱 直腸脱 直腸脱とは、痛みを伴わずに直腸が肛門の外に突き出ている状態です。 直腸脱は、しばしば排便時などのいきみが引き金になって起こります。 診断は、診察と様々な内視鏡検査および画像検査に基づいて下されます。 乳児や小児の直腸脱は通常は手術をしなくても治ります。 成人では手術により治療します。 さらに読む (直腸粘膜が肛門から外に脱出)、 認知症 認知症 認知症とは、記憶、思考、判断、学習能力などの精神機能が、ゆっくりと進行性に低下していく病気です。 典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。 診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。 原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。 さらに読む 、糖尿病による 神経の損傷 糖尿病における神経障害 糖尿病では、体の様々な部位、特に血管、神経、眼、腎臓に重篤で長期に及ぶ多くの合併症がみられます。 ( 糖尿病も参照のこと。) 糖尿病には、以下の2つの種類があります。 1型糖尿病:体の免疫系が膵臓のインスリン産生細胞を攻撃し、90%を超える細胞が破壊されて回復不能になる 2型糖尿病:体がインスリンの効果に抵抗性を示す さらに読む 、 肛門腫瘍 肛門がん 肛門がんの危険因子としては特定の性感染症などがあります。 典型的な症状は、排便時の出血、痛み、ときに肛門周囲のかゆみです。 診断の確定は指診、S状結腸鏡検査、大腸内視鏡検査、生検により行います。 治療には、手術のみ、放射線療法と化学療法の組合せ、または放射線療法と手術の組合せがあります。... さらに読む 、出産時の骨盤の損傷がある人は、持続的な便失禁を起こすことがあります。
便失禁の診断
医師の診察
通常はS状結腸内視鏡検査
医師は患者を診察し、構造上の異常や神経学的異常がないか確認します。この診察では、肛門と直腸の診察、肛門周囲の感覚範囲の確認と、通常はS状結腸内視鏡検査を行います。
肛門括約筋の超音波検査、骨盤と会陰部のMRI検査、骨盤の内側の神経や筋肉の機能の検査、直腸と肛門の圧力測定(直腸肛門内圧検査 内圧検査(マノメトリー) 内圧検査(マノメトリー)では、消化管の様々な部位の内圧を測定します。検査前の夜12時以降は一切飲食ができません。 この検査では、その表面に沿って圧力計を複数備えた柔軟なチューブ(内圧測定用カテーテル)を食道(のどと胃をつないでいる管状の臓器)、胃、小腸の最初の部分、または直腸に入れます。内圧測定用カテーテルを鼻や口から入れると一般的に空嘔吐や吐き気が起こるため、鼻の中やのどの奥に麻酔薬をスプレーします。マノメーターを用いることで、消化管... さらに読む )など、他の検査が必要になることもあります。
便失禁の治療
排便を規則正しくする方法
肛門括約筋の訓練とときにバイオフィードバック法
ときに手術
便失禁を治す最初のステップは、よく固まった便を出す規則的な排便パターンを確立しようとすることです。水分を十分にとることや少量の食物繊維を加えるといった食習慣の変更もしばしば助けになります。規則的な排便パターンを確立するために坐薬や浣腸を用いることもあります。こうした対応でも改善がみられない場合は、ロペラミドなどの排便のペースを遅くする薬剤と低繊維食で排便の頻度を減らせることがあります。
肛門括約筋の収縮と弛緩を繰り返す訓練を行うと、括約筋の緊張度と筋力が高まります。 バイオフィードバック法 バイオフィードバック法 心身医学の手法の1つであるバイオフィードバック法は、無意識に進行する体内の生物学的プロセスを意識下に置くことを試みる方法です。バイオフィードバック法では、測定機器を用いて無意識のプロセス(心拍数、血圧、筋肉の緊張など)についての情報を測定し、それを本人が意識できる形で提示します。施術者の助けや訓練により、患者はこうした身体的機能の変化がなぜ起こるのかを理解したり、どうすればコントロールできるかを習得したりすることができ、結果的に痛み、ス... さらに読む と呼ばれる技法を用いると、肛門括約筋を再訓練し、便の存在に対する直腸の感受性を高めることができます。前向きに取り組む患者の約70%で、バイオフィードバック法が有益です。
便失禁が続く場合は手術が助けになることもあり、これは例えば、肛門の損傷や肛門の解剖学的異常が原因の場合です。最後の手段として、人工肛門造設術(大腸と腹壁をつなぐ開口部をつくる手術―図「 人工肛門造設術について理解する 人工肛門造設術について理解する 」を参照)が行われることがあります。肛門は縫い合わせて封鎖され、便は腹壁の開口部に取り付けた着脱可能なビニール袋の内に入ります。