臨死患者のための症状緩和

執筆者:Elizabeth L. Cobbs, MD, George Washington University;
Karen Blackstone, MD, George Washington University;Joanne Lynn, MD, MA, MS, The George Washington University Medical Center
レビュー/改訂 2019年 10月
意見 同じトピックページ はこちら

身体的,心理的,感情的,および精神的な苦痛は,致死的疾患を抱えて生きる患者によくみられ,一般的に患者は長引いて解消されない苦しみを恐れる。医療提供者は患者に対し,苦痛を伴う症状はしばしば予測および予防が可能であり,それらの症状が出現したときは治療が可能であることを伝えて安心させることができる。

症状の治療は可能な場合,病因に基づいて行われるべきである。例えば,高カルシウム血症による嘔吐に対しては,頭蓋内圧の上昇によるものとは異なる治療が要求される。しかしながら,検査の負担が大きい場合やリスクを伴う場合,または特異的な治療法(例,大手術)がすでに除外されている場合には,症状の原因を診断することは不適当となりうる。臨死患者には,徹底的な診断的評価よりも,非特異的な治療法,または経験的治療を短期間連続して試みるなどの快適な手段の方が患者にとって役立つことが多い。

1つの症状に多くの原因がある場合があり,患者の状態の悪化に伴って治療に対する反応が異なることがあるため,臨床チームは頻繁に状況を観察し再評価を行わなければならない。薬物の過量投与または過少投与は有害であるが,生理的状態の悪化により薬物代謝と薬物クリアランスが変化するにつれて,両者とも可能性が高まる。

余命が短いと見込まれる場合には,しばしば症状の重症度によって初期治療が決定される。

疼痛

臨死のがん患者の約半数に重度の疼痛がある。しかし,確実に疼痛が緩和されているのはこれらの患者の約半数にすぎない。臓器不全や認知症のある臨死状態の患者の多くにも,重度の疼痛がある。ときに,疼痛が管理可能であるにもかかわらず長引くことがあるが,これは患者,家族および医師が,疼痛とそれを緩和できる薬物(特にオピオイド)について誤った考えをもっており,結果として深刻で持続的な過少投与につながるためである。

他の要因(例,疲労,不眠症,不安,抑うつ,悪心)が存在するか否かによっても,患者の疼痛の感じ方が異なる。鎮痛薬の選択は,主として疼痛の強度および原因に依存するが,これは患者との会話や観察によってのみ察知しうる。患者および医師は,適切な強度の薬物を適切な用量で使用することにより全ての疼痛が緩和されることを認識する必要があるが,積極的な治療によって鎮静または錯乱が引き起こされることもある。一般的に使用される薬剤は,軽度の疼痛に対してはアスピリン,アセトアミノフェン,または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);中等度の疼痛に対してはオキシコドン;重度の疼痛に対してはヒドロモルフォン,モルヒネ,もしくはフェンタニルである( see page 疼痛の治療)。

臨死患者には,経口オピオイド療法が便利であり費用対効果が高い。舌下投与もまた,特に嚥下の必要性がないため,便利である。オピオイドが経口または舌下投与できないまれなケースでは,オピオイドを直腸内または注射(筋注,静注,もしくは皮下)で投与できる。長く持続する疼痛には長時間作用型オピオイドが最適である。医師はオピオイドを十分な用量で継続的に処方し,突出痛には付加的な短時間作用型オピオイドが使用できるようにしておくべきである。嗜癖に対して一般の人や医療従事者が抱く不安により,臨死患者においてオピオイドの適切な使用が不合理に制限されることがある。薬理学的な依存症は常用によって起こりうるが,意図しない離脱を避ける必要性以外は,臨死患者では問題は起こらない。Prescription Drug Monitoring Programやナロキソンのようなオピオイド拮抗薬など,処方オピオイドのリスクを軽減するための戦略は,通常,臨死患者には必要ではない。

オピオイドによる有害作用には,悪心,鎮静,錯乱,便秘および呼吸抑制などがある。オピオイド誘発性便秘は予防的に治療するべきである。患者には通常,モルヒネの呼吸抑制および鎮静作用に対してかなりの耐性が生じるが,鎮痛および便秘作用に対してはそれほど耐性を生じない。オピオイドはさらにミオクローヌス,激越を呈するせん妄,痛覚過敏および痙攣を引き起こす場合がある。これらの神経毒性作用は有害な代謝物の蓄積に起因することがあり,通常は他のオピオイドへの変更により解消する。これらの有害作用および重篤な疼痛を有する患者は,しばしば,緩和ケアまたは疼痛の専門医とのコンサルテーションが必要となる。

オピオイドの維持量では不十分になった場合は,それまでの用量の1.5~2倍(例,1日用量に基づいて計算される)まで増量するのが妥当である。重篤な呼吸抑制は通常,新たな投与量がそれまでの耐用量の2倍を超えたときのみに起こる。

疼痛緩和に補助薬を使用することにより,しばしば快適さが増し,オピオイドの投与量およびその結果生じる有害作用が減る。コルチコステロイドは,炎症および腫脹の疼痛を軽減しうる。三環系抗うつ薬(例,ノルトリプチリン,ドキセピン)は,神経障害性疼痛の管理に役立つ;ドキセピンは就寝時の鎮静効果をもたらすこともできる。ガバペンチン300~1200mg,経口,1日3回が神経障害性疼痛の緩和に役立つことがある。メサドンは治療抵抗性または神経障害性疼痛に効果的であるが,薬物動態が変化することから,綿密なモニタリングを必要とする。ケタミンは,疼痛治療における効果的な非オピオイド代替薬となりうる。ベンゾジアゼピン系薬剤は,不安により疼痛が悪化する患者に対して有用である。

疼痛管理の経験を積んだ麻酔医が行う局所神経ブロックは,限局性の重度の疼痛に対し,有害作用をほとんど引き起こすことなく緩和をもたらしうる。様々な神経ブロックの方法が用いられる。硬膜外または髄腔内の留置カテーテルは,鎮痛薬を持続注入でき,投与はしばしば麻酔薬と混合して行われる。

疼痛修飾法(例,誘導イメージ療法催眠療法鍼治療リラクゼーションバイオフィードバック)は,一部の患者に有用である。ストレスおよび不安に対するカウンセリングは非常に助けとなる可能性があり,聖職者による精神的な支援も同様である。

呼吸困難

呼吸困難は最も恐れられている症状の1つで,臨死患者に非常な恐怖心を抱かせる。呼吸困難の主な原因は心臓および肺の障害である。他の要因としては,重度の貧血のほか,胸壁または腹部の障害で呼吸時の疼痛を引き起こすもの(例,肋骨骨折)もしくは呼吸阻害を引き起こすもの(例,大量の腹水)などがある。代謝性アシドーシスは頻呼吸を引き起こすが,呼吸困難の感覚は生じない。不安(ときにせん妄または疼痛による)は,頻呼吸を引き起こすことがあるが,呼吸困難の感覚を伴う場合も,伴わない場合もある。

可逆的な原因は特異的に治療するべきである。例えば,緊張性気胸または胸水のドレナージを行うために胸腔ドレーンを留置することは,迅速で確実な緩和をもたらす。酸素投与は,ときに低酸素血症の是正につながる。噴霧用のサルブタモールならびに,経口または注射用のコルチコステロイドは気管支攣縮および気管支炎症を緩和しうる。ただし,死が切迫している場合または呼吸困難の原因に対して確実な治療法がない場合は,適切な対症療法を行えば原因にかかわらず楽になることを患者に伝えて安心させるべきである。死が予期されており,治療の目標として快適さに重点が置かれる場合,パルスオキシメトリー,動脈血ガス,心電図,および画像検査は適応とならない。臨床医は,体位を変える(例,上体を起こす),扇風機を使うか窓を開けて通風をよくする,ベッドサイドのリラクゼーション法を用いるなど,一般的な快適性重視の治療を用いるべきである。

臨終期における呼吸困難にはオピオイドが第1選択薬である。オピオイド使用歴のない患者では,低用量モルヒネ2~10mgの舌下投与,または2~4mgの皮下投与を必要に応じて2時間毎に行えば,息切れの低減に役立つ。モルヒネはCO2の蓄積またはO2の低下に対する延髄の応答を鈍化させることがあり,有害な呼吸抑制を生じることなく,呼吸困難を減弱させて,不安を減少させる。患者が疼痛に対してすでにオピオイドを使用している場合は,新たに出現した呼吸困難を緩和する用量は,しばしば患者の通常量の2倍以上とする必要がある。ベンゾジアゼピン系薬剤は,呼吸困難やその再発の恐怖に関連する不安の解消にしばしば有用である。

酸素投与は,低酸素血症は是正されないとしても,患者および家族に心理的な安らぎを与えうる。患者にとっては,通常,鼻カニューレによる酸素投与が望ましい。酸素フェイスマスクは臨死患者の激越を増すことがある。粘性の分泌物がみられる患者には生理食塩水のネブライザーが助けとなりうる。

死前喘鳴は,中咽頭および気管支内の分泌物貯留に空気の通過が組み合わさることで起きる大きな呼吸音で,死の数時間または数日前に起こることが多い。死前喘鳴は,臨死患者においては苦痛の徴候ではないが,家族や介護者を不安にさせることがある。死前喘鳴を最小限に抑えるためには,介護者は患者の水分摂取量(例,経口,静注,経腸)を制限し,患者を横向きまたは半腹臥位にするのがよい。中咽頭の吸引では貯留した分泌物に到達できず,患者に苦痛を引き起こす可能性がある。気道うっ血は,スコポラミン,グリコピロニウム,またはアトロピンなどの抗コリン薬で最もよく管理される(例,グリコピロニウム,0.2mg,皮下注,4~6時間毎,もしくは0.2~0.4mg,経口,8時間毎で開始し,必要に応じて増量する)。有害作用は主に反復投与により引き起こされ,具体的には霧視,鎮静,せん妄,動悸,幻覚,便秘,尿閉などがある。グリコピロニウムは,血液脳関門を通過しないため,他の抗コリン薬よりも神経毒性の有害作用が少ない。

食欲不振

臨死患者では食欲不振および著しい体重減少がよく認められる。家族にとって,患者が経口で食事を十分摂取できないことを受け入れるのは,その人の死を受け入れることを意味するため,しばしば困難である。患者には,可能であればいつでも,好きな食べ物を勧めるべきである。胃炎,便秘,歯痛,口腔カンジダ症,疼痛および悪心などのように,食物摂取が不足する原因であり容易に治療できる病態は治療すべきである。一部の患者には経口コルチコステロイド(デキサメタゾン2~8mg,1日2回またはプレドニゾン10~30mg,1日1回)もしくはメゲストロール160~480mg,経口投与1日1回などの食欲刺激薬が有益である。しかし,患者に死が迫っている場合には,患者の快適さを維持するためには食事も水分も不要であることを家族が理解できるよう手助けすべきである。

輸液,完全静脈栄養および経管栄養は臨死患者の余命を延長させず,苦痛を増加させ,場合によっては死を早める可能性がある。臨死患者における人工栄養の有害作用としては,肺うっ血,肺炎,浮腫および炎症に伴う疼痛などがある。これに対し,脱水およびカロリー制限によるケトーシスは鎮痛作用および苦痛の消失に関連している。臨死での脱水に伴う苦痛として唯一報告されているものは口腔乾燥症であり,これは,口腔内の清拭または氷片で予防および緩和しうる。

衰弱し,悪液質状態の患者でさえ,食事なしで最低限の水分だけで数週間生存しうる。家族は,輸液の中止が直ちに患者の死を引き起こすものではなく,通常は死を早めないことを理解する必要がある。この時期には,患者の不快感を軽減するための支持療法(口腔衛生の改善など)が不可欠である。

悪心および嘔吐

多くの重篤患者が悪心を経験するが,嘔吐は伴わないことが多い。悪心は消化管疾患(例,便秘,胃炎),代謝異常(例,高カルシウム血症,尿毒症),薬物有害作用,脳腫瘍に続発する頭蓋内圧亢進,および心理社会的ストレスによって発生しうる。可能であれば,治療は可能性が高い原因に合わせるべきである(例,NSAIDの中止,H2受容体拮抗薬による胃炎の治療,脳転移が既知または疑われる患者に対するコルチコステロイドによる治療の試みなど)。悪心が胃の膨隆や胃食道逆流により引き起こされる場合には,メトクロプラミド(例,10~20mg,経口または皮下投与,1日4回を必要に応じて,または定期的に投与する)が有用である(幽門括約筋で弛緩させる一方で胃の緊張および収縮を高めるため)。

5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)3拮抗薬であるオンダンセトロンおよびグラニセトロンは,しばしば,悪心を劇的に軽減する。特異的な原因のない悪心の患者には,フェノチアジン系薬剤(例,プロメタジン25mg,経口,1日4回;プロクロルペラジン10mg,経口,食前または,経口薬を服用できない患者には25mg,直腸投与,1日2回)による治療が有益なことがある。スコポラミンなどの抗コリン薬ならびに抗ヒスタミン薬のメクリジンおよびジフェンヒドラミンは,多くの患者において反復性の悪心を予防する。前述の薬剤を低用量で併用すれば,しばしば効力が向上する。難治性の悪心に対する第2選択薬にはハロペリドールがある(1mg,6~8時間毎の経口または皮下投与から開始して,15mg/日まで用量調節する)。

腸閉塞による悪心および疼痛は,腹部の広範囲にわたるがんがある患者でよくみられる。一般に,輸液および経鼻胃管吸引は,有用性と比較してむしろ負担が大きい。悪心,疼痛および腸攣縮の症状は,ヒヨスチアミン(0.125~0.25mg,4時間毎に舌下または皮下投与),スコポラミン(1.5mg,局所投与),モルヒネ(皮下または直腸投与),もしくは上記の他の制吐薬のいずれかに反応する。オクトレオチド150μg,皮下または静脈内投与,12時間毎により消化管分泌物が抑制され,悪心および疼痛を伴う腹部膨隆は劇的に低減される。オクトレオチドは制吐薬と併用した場合,通常,経鼻胃管吸引の必要性がなくなる。コルチコステロイド(例,デキサメタゾン4~6mg,静注,筋注,または経直腸,1日3回)は腫瘍部位における閉塞性の炎症を抑制し,一時的に閉塞を軽減する。輸液は閉塞による浮腫を増悪させることがある。

便秘

臨死患者では,不活動,オピオイドおよび抗コリン作用を有する薬物の使用,水分および食物繊維の摂取減少により,便秘がよくみられる。規則的な排便は,少なくとも生涯最期の1~2日前まで,臨死患者の安楽のためには極めて重要である。特にオピオイドの投与を受けている患者では,緩下薬が宿便の予防に役立つ。腸機能の定期的なモニタリングは必須である。ほとんどの患者は,効き目の穏やかな刺激性下剤(例,カサンスラノール,センナ)の1日2回投与で軽快する。刺激性下剤で痙攣性の苦痛が生じる場合には,ラクツロースまたはソルビトールのような浸透圧性下剤(15~30mL,経口,1日2回から開始し,効果に応じて用量調節する)で患者に反応がみられることがある。なお,いろいろな種類の適切な下剤が多く存在するものの,このような臨床状況で優位性が示されている下剤は存在しない (1)。

軟らかな宿便には,ビサコジル坐薬または生理食塩水の浣腸が行われることがある。硬い宿便には,鉱油浣腸を場合により経口ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ロラゼパム)または鎮痛薬と併用して行った後,摘便を行う。宿便の解除後は再発を避けるため,排便に関してより積極的な管理を行うべきである。

参考文献

  1. 1.Candy B, Jones L, Larkin PJ, et al: Laxatives for the management of constipation in people receiving palliative care.Cochrane Database Syst Rev Nov 11 2012. Art.No.: CD003448, 2015. doi: 10.1002/14651858.CD003448.pub4.

褥瘡

臨死患者の多くは,不動,栄養不良,失禁,および悪液質の状態にあるため,褥瘡のリスクが高い。予防には,2時間毎の患者の体位変換または患者の体重の移行による圧力の緩和が必要である;特製のマットレスまたは一定圧のエアサスペンションのベッドが助けとなることもある。失禁のある患者は,可能な限り乾燥を保つべきである。通常,尿道カテーテルには不便さと感染リスクが伴うため,ベッドのシーツ交換によって疼痛が生じる場合や,患者または家族が強く希望する場合にのみ用いるのがよい。

せん妄および錯乱

疾患の最終段階に伴いうる精神的変化は,患者および家族の双方に苦痛をもたらす;ただし,患者はそれに気づかないことが多い。せん妄がよくみられる。その原因としては,薬物,低酸素症,代謝障害および内因性の中枢神経系疾患などがある。原因を明らかにできれば,単純な治療を行うことで,患者が家族および友人とより意味のある会話を行えるようになる場合がある。患者に苦痛がなく,周囲の状況をあまり認識していないようであれば,治療を行わない方が良好に経過する場合もある。可能な場合には,医師は患者および家族の意向を確認し,治療指針の決定に役立てるべきである。

せん妄の基本的な原因を探し出すべきである。激越および不穏はしばしば尿閉に起因するが,尿閉は尿道カテーテルにより速やかに消失する。衰弱した患者の錯乱は,睡眠不足により悪化する。激越状態の患者にはベンゾジアゼピン系薬剤が有益となりうるが,ベンゾジアゼピン系薬剤は錯乱を生じることもある。不十分な疼痛管理が不眠症または激越の原因となることがある。疼痛が適切に管理されている場合は,夜間の鎮静薬が役立つ可能性がある。

家族および訪問者が頻繁に患者の手を握り,患者がどこにいるか,および何が起きているのかを繰り返し話しかけることにより,錯乱は軽減しうる。他の手段では効果がなく,重度の終末期の激越を示す患者はバルビツール酸系薬剤に最もよく反応しうる。ただし,これらの薬剤の使用後は,家族は患者との交わりが一貫しないものになる可能性があることを理解しておくべきである。ペントバルビタールは,効果が迅速で短時間作用型のバルビツール酸系薬剤であり,100~200mgを必要に応じて4時間毎に筋注投与する。フェノバルビタールは,長時間作用型であり,経口,皮下,または経直腸で投与される。

抑うつおよび自殺

臨死患者のほとんどが,ある程度の抑うつ症状を経験する。患者を心理面で支援し,心配事および感情を表現できるようにすることが,通常は最善の対処法である。熟練したソーシャルワーカー,医師,看護師,または聖職者は,このような問題に対処するうえで,助けとなりうる。

臨床的に重大な抑うつが続く患者では,抗うつ薬の試験的投与がしばしば適切である。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は,その抗うつ効果が発揮されるまで通常4週間はかかるため,その期間以上生存する可能性が高い患者に有用である。不安および不眠症を伴う抑うつ患者では,鎮静作用のある三環系抗うつ薬の就寝時投与が効果的なことがある。引きこもり状態または自律神経徴候を示す患者には,メチルフェニデートを2.5mg,経口投与で1日1回から開始し,必要に応じて2.5~5mg,1日2回(朝食および昼食時)まで増量して投与する場合がある。鎮痛薬および進行した疾患が原因で疲労または傾眠の状態にある患者には,メチルフェニデート(同一用量)が数日または数週間にわたって活力の向上をもたらしうる。メチルフェニデートは迅速な効果を有するが,激越を促進することがある。その作用持続時間は短いが,有害作用も短期間である。

自殺

重篤な内科的疾患は自殺傾向の重大な危険因子である。自殺のその他の危険因子は,死に至るほど重篤な患者の間で共通しており,具体的には高齢,男性,精神医学的併存症,重い経済的負担,AIDSの診断,不十分な疼痛管理などがある。がん患者における自殺発生率は一般集団のほぼ2倍であり,肺癌,胃癌,頭頸部がんの患者は全てのがん患者の中で最も自殺率が高い。臨床医は重篤患者に対し,うつ病および自殺念慮についてルーチンにスクリーニングすべきである。精神科医は,自傷行為に至る可能性が非常に高いか,または深刻な自殺念慮を有する全ての患者を緊急に評価すべきである。

ストレスおよび悲嘆

平穏に死を迎える人もいるが,多くの場合は,患者や家族はストレスの多い時期を経験する。対人関係の摩擦によって患者や家族が最期の時を安らかに共有することができない場合,死は特に大きなストレスをもたらす。こうした軋轢は,残される者にとっては過剰な罪悪感や悲しむことができないという事態につながり,患者にとっては苦悩の原因となる可能性がある。臨死状態にある身内のケアを在宅で行う家族は,肉体的および精神的ストレスを経験することがある。通常,患者および家族のストレスは,共感,情報,カウンセリング,およびときには短い精神療法で改善する。介護者の重荷を軽減するために,地域のサービスを利用できることがある。鎮静薬は控えめにかつ短期的に使用すべきである。

パートナーが死を迎えたとき,残された配偶者は,法的または経済的問題について決断しなければならないこと,もしくは家庭の管理に圧倒されることがある。高齢の夫婦では,一方のパートナーの死により,死亡したパートナーがそれまで補っていた他方のパートナーの認知障害が顕性化することがある。臨床チームは,こうした高リスクの状況を同定すべきであり,それにより過度の苦悩および行き詰まりを防ぐために必要な手段を講じることができる。

悲嘆

悲嘆は,通常,予測される死の前に始まる正常な過程である。患者にとって,悲嘆はしばしば,自制の喪失,離別,苦しみ,不確実な未来および自己の消失などの恐怖によって生じる否認から始まる。従来,悲嘆の後には順に,否認,怒り,取り引き,抑うつ,そして受容の段階があると考えられてきた。しかし,患者がたどる段階およびその順序は様々である。臨床チームのメンバーは,患者の不安を聞き,人生の重要な要素をコントロールできることを理解させ,疾患がどのように悪化し,死がどのように訪れるかを説明し,身体症状が管理されることを保証することによって,患者が自分の予後を受け入れるのを助けることができる。それでもなお,悲嘆が非常に重度であるか,または悲嘆が精神病もしくは希死念慮を引き起こす場合,または患者に重度の精神障害の既往がある場合には,専門医による評価およびグリーフ・カウンセリングに紹介することで,患者が対処するのに役立つことがある。

家族が悲嘆を表すときに助けを必要とすることがある。患者および家族のことを理解している臨床チームのメンバーであれば,この過程を経る上での助けとなり,必要に応じて専門家のサービスを受けられるように手配できる。医師およびその他の臨床チームメンバーは,悲嘆に暮れる家族のフォローアップを確実なものとするための定期的な手段を講じる必要がある。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS