外国旅行

執筆者:Christopher Sanford, MD, MPH, DTM&H, University of Washington;
Alexa Lindley, MD, MPH, University of Washington School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 7月
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適切な計画を立てることにより,外国旅行を含む旅行に伴うリスクは減少する。患者と医療提供者は,旅行に先立ち,予定された旅程と関連する病歴,必要な予防接種マラリア旅行者下痢症などの感染症に対する予防対策,および交通事故などの感染症以外の危険に関連するものを含めた個人的防御対策に関する助言を確認すべきである。高齢の旅行者の場合,最も一般的な死亡原因は心臓発作および脳卒中であり,その他の旅行者の場合,最も一般的な死亡原因は交通事故である。

外国旅行をする人のうち約30人に1人は救急治療を必要とする。外国で病気になると,大きな困難を伴うことがある。メディケア(Medicare)を含め多くの米国の保険プランは外国では無効であり,外国の病院ではしばしば,非居住者には保険に関係なく多額の現金保証が要求される。旅行保険プランは,緊急搬送を手配してくれるものも含め,代理商,旅行代理店および大手クレジットカード会社を通じて利用できる。

英語を話せる外国在住の医師を記載した一覧表,救急医療サービスの受診を支援する米国領事館,および外国旅行のリスクに関する情報が利用できる(外国旅行者に有用な連絡先の表を参照)。重篤な疾患のある患者は旅行前に,外国からの医療搬送を提供する組織と連絡をとるか,または打ち合わせることを考慮すべきである。

特定の地域に旅行するとかかりやすい感染症がある。予防接種は予定された目的地に合わせて行うべきであり,流行している感染症および突発的な感染症を予防するための具体的な対策について助言を与えるべきである。一般的な感染症(例,上気道感染症,旅行者下痢症)を治療するための薬剤を携帯することが役立つことがある。

表&コラム

予防接種

旅行者は全ての定期予防接種の状況を把握しておくべきである。特定の予防接種を要求する国もある(国際旅行におけるワクチン接種の表を参照)。一般的な旅行情報と最新の予防接種情報は米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)(Travelers’ Health: Vaccinations)から入手でき,マラリアの化学予防の要件はCDCのマラリアホットライン(855-856-4713)およびウェブサイト(Malaria and Travelers)から入手できる。

表&コラム

COVID-19

2020年半ばの時点で発生中のCOVID-19のパンデミックにより,様々な国への往来を制限する必要が生じている。患者には,最新の推奨について,自国の保健当局(例,米国ではCDC)のウェブサイトを確認するよう助言すべきである。

デングウイルス感染症

デング熱は,蚊を媒介とするウイルス感染症で,北緯約35°から南緯35°までの熱帯地域の風土病である。アウトブレイクは東南アジアが最も多いが,プエルトリコや米国バージン諸島などのカリブ海諸国,オセアニア,ならびにインド亜大陸などでも起こり,最近では中南米でのデングウイルス感染症の発生率が上昇している。

デングウイルス感染症に対するワクチンは,米国以外のいくつかの国で承認されているが,その効力は限られており,デングウイルスに対する免疫状態,血清型や患者の年齢によっても変動する;現在研究が進められている。

流行地域への旅行者は,蚊に刺されないように予防すべきである。効果的な個人的防御対策としては,露出部の皮膚にDEETまたはイカリジンを塗布する,衣服にイカリジンを塗布する,寝室に空調設備がない場合はペルメトリンで処理した蚊帳の中で寝るなどがある(CDC: Prevent Mosquito Bitesを参照)。これらの対策は,ジカウイルス感染症チクングニア熱など他の昆虫媒介性疾患の予防にもなる。

インフルエンザ

インフルエンザは国際旅行者でよくみられるため,毎年のインフルエンザワクチンの接種は全ての旅行者に適応となる。

マラリア

マラリアは,アフリカ,インドおよび南アジアの周辺国,東南アジア,北朝鮮および韓国,メキシコ,中米,ハイチ,ドミニカ共和国,南米,中東(トルコ,シリア,イラン,およびイラクを含む),ならびに中央アジアで流行している。CDCはマラリアの感染例がみられる具体的な国(Yellow Fever and Malaria Information, by Countryを参照),マラリアの病型,および耐性パターンについて情報提供を行っている。

流行地域に渡航する人には化学予防を含むマラリアに対する予防策を講じるべきである。マラリアワクチンが開発中であるが,市販されていない。

住血吸虫症

住血吸虫症はアフリカ,東南アジア,中国,南米の東部でよくみられ,その地域の淡水に曝露することが原因で発症する。住血吸虫症が多い地域では,淡水に入らないことで,住血吸虫症のリスクを減らすことができる。流行地域で淡水に曝露した無症状の旅行者には,直近の曝露から6~8週間後に,成虫に対する抗体の血清学的検査によりスクリーニングを行うべきである。あるいは,旅行者は曝露の可能性があると推定して,プラジカンテル20mg/kg,経口にて2回を1日間投与し,直近の曝露から6~8週間後に再度投与することを選択することもできる。

旅行者下痢症

旅行者下痢症(TD)は国際旅行者の間で最も一般的な健康上の問題である。TDは通常,自然治癒し,典型的には5日以内に軽快するが,TDの旅行者の3~10%は2週間を超えて症状が持続することがあり,最大3%の旅行者では30日を超えてTDが持続する。1週間未満のTDには検査の必要はない。持続性のTDに対しては臨床検査を行う。

中等度から重度の症状,特に嘔吐や発熱,腹部痙攣あるいは血便がある場合は,自身による治療開始が適応となる。治療は,適切な抗菌薬(例,アジスロマイシン500mgもしくは1gを1回,または500mg1日1回を1~3日間)による。追加の対策には,ロペラミドの使用(発熱,血便または腹痛がある場合や2歳未満の小児は除く),補液,および高齢者や年少の小児では電解質の補給(例,経口補水液)などがある。

旅行者下痢症のリスクを低減する可能性のある対策としては以下のものがある:

  • 飲み水や歯磨き用にはボトルに入った飲料水や,濾過処理,煮沸または塩素処理された水を使う

  • 氷を避ける

  • 沸点まで加熱した調理したての料理を食べる

  • 果物や野菜は皮や殻を自分でむけるものを食べる

  • 屋台で売っているものは食べない

  • 頻繁に手を洗う

  • ハエがたかっていた可能性のあるものは一切食べない

抗菌薬の予防投与は下痢の予防に効果的であるが,有害作用と耐性菌の出現が懸念されるため,その使用はおそらく易感染性患者に限定すべきである。1つの選択肢としてリファキシミンがあり,200mgを1日1回または1日2回投与する。

傷害および死亡

交通事故は非高齢の国際旅行者において最も多い死亡原因である。旅行者は常に,自動車などではシートベルトを着用すべきであり,またサイクリングの際にはヘルメットを着用すべきである。旅行者はモーターサイクルや原動機付き自転車の使用を避け,バスの屋根や無蓋のトラック荷台への乗車も避けるべきである。

溺水も外国旅行中の一般的な死亡原因の1つである。旅行者は高波の浜辺は避け,飲酒後の水泳も避けるべきである。

帰国後の問題

帰国後に起こる医学的問題で最も一般的なものは以下の通りである:

重篤になる可能性のある疾患で最も一般的なものは以下の通りである:

また,密集した居住環境や衛生処置の整っていない場所へ行った後,シラミ疥癬に感染することがある。

旅行者が帰宅して数カ月経って顕性になる疾患もあり,不可解な病状を呈する患者に対しては曝露のリスクを含む旅行歴が有用な診断の手がかりとなる。International Society of Travel Medicine(www.istm.org)およびAmerican Society of Tropical Medicine and Hygiene(www.astmh.org)のウェブサイトでトラベルクリニックの一覧が公開されている。これらのクリニックの多くは,帰国後に病気を発症した旅行者への支援を専門としている。

より詳細な情報

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