ベイピング

執筆者:Gerald F. O’Malley, DO, Grand Strand Regional Medical Center;
Rika O’Malley, MD, Grand Strand Medical Center
レビュー/改訂 2020年 5月
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    ベイピング(vaping)とは,バッテリー駆動式装置で発生させた蒸気(ベイパー)を吸入することを指す。ベイパーは主に水であり,薬理学的に活性のある様々な物質,特にニコチンやテトラヒドロカンナビノール[THC]の基剤として用いられている。液体成分は加熱により蒸発するが,燃焼は関与せず,発生する「煙」に見えるものは水蒸気である。

    成分

    電子タバコでは,活性成分は液体ニコチンであり,タバコのその他の生成物は含まれていない。電子タバコおよび電子気化器は当初,喫煙による健康への悪影響の原因となる有毒な燃焼生成物を伴うことなく,喫煙から得られる口元の満足感や社会的な満足感を模倣する形でニコチン送達システムを提供することにより,禁煙を補助する目的で開発された。電子タバコは禁煙手段として効果的なようであるが,ニコチン依存から抜け出すことはできない(1)。

    テトラヒドロカンナビノール(THC),ハシッシュオイル,アンフェタミン類,合成カンナビノイドなど,ニコチン以外の活性成分を吸入するために気化器が使用されることもある。

    市販されているベイピング用のリキッドには,水および活性成分に加えて,通常はプロピレングリコールまたは植物性グリセリンベースの液体のほか,香料および微量の金属などのその他の化学物質が含まれている。違法に製造されたベイピング剤には不活性成分がさらに含まれている可能性が高く,その一部(酢酸ビタミンEなど)はベイピング関連の肺合併症に関与している可能性がある。

    ベイピングの合併症

    可能性のある合併症としては以下のものがある:

    • 非喫煙者によるニコチン使用(ニコチン嗜癖につながる)

    • 肺合併症

    懸念の1つは,非喫煙者(特に青年)がニコチンを吸入して嗜癖が生じることである。

    ベイパーに含まれる特定の物質は,重度の肺損傷を引き起こすようである。2019年11月1日の時点で,電子タバコまたはベイパーの使用に関連した肺損傷が2000例以上報告されている。報告された症例の大半は,THCまたはカンナビジオール含有製品を吸入した若年男性である。原因物質は,化学物質および混ぜ物(特に酢酸ビタミンE)である可能性が最も高い。

    電子タバコまたはベイパーの使用後90日以内に,呼吸器症状,消化管症状(疼痛),またはその他の全身症状が出現する。最もよくみられる愁訴は主観的発熱である。患者は頻脈,頻呼吸,または低酸素状態を呈することがある。病態は急性呼吸窮迫症候群に進行することがある。

    診断は,最近の電子タバコまたはベイパーの使用歴および肺損傷の他の原因(例,感染)の除外に基づく。臨床検査で好酸球増多を伴う白血球増多がみられることがある。肺の画像検査では,両側の肺に陰影がみられ,CTで最も明瞭に描出される。

    治療は支持療法であり,挿管,機械的人工換気,および体外式膜型人工肺が必要になることがある。高用量グルココルチコイド(例,メチルプレドニゾロン100~500mg/日)の投与が有益であると示唆されているが,エビデンスは乏しく,ルーチンには推奨されない。

    参考文献

    1. 1.Hajek P, Phillips-Waller A, Przulj D, et al: A randomized trial of e-cigarettes versus nicotine-replacement therapy.N Engl J Med 380:629-637, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1808779.

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