タバコ

執筆者:Judith J. Prochaska, PhD, MPH, Stanford Prevention Research Center, Stanford University
レビュー/改訂 2020年 12月
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タバコ使用は,個人的にも公衆的にも重大な健康問題である。依存は急速に発生する。主な影響としては,心血管疾患,肺癌やその他多くの種類のがん,COPD(慢性閉塞性肺疾患),その他の疾患による若年死および罹病がある。喫煙する全ての患者には禁煙介入を勧めるべきである。

米国におけるタバコの使用率は過去50年間で減少しているが,人口増加により,喫煙者数は約3500万人で比較的一定したままである。

タバコは,その主要活性成分であるニコチンの作用のために使用される。ニコチンは肺の中に吸入されると,非常に依存性が高くなる。タバコの燃焼生成物には重大な健康被害や死亡につながる可能性のある他の物質が含まれている。

レクリエーショナルドラッグおよび中毒性薬物:ベイピングも参照のこと。)

疫学

タバコはしばしば喫煙として使用され,なかでも紙巻タバコの形態が最多である。紙巻タバコの喫煙は,最も有害なタバコ使用の形態である。しかしながら,いずれのタバコ製品にも発がん物質や他の毒性物質が含まれており,たとえ無煙タバコ製品でも喫煙の安全な代替品とはならない。

紙巻タバコ

米国における紙巻タバコの喫煙率は,公衆衛生局が喫煙と健康不良の関連性を初めて報告した1964年から低下している。それでも,米国の14%の成人(3410万人)が喫煙を続けている。

喫煙率がより高いのは,以下の集団である:

  • 男性

  • 若年成人

  • 同性愛者,両性愛者,トランスジェンダーと名乗る人

  • 身体的な障害を有する人

  • 高校より上の教育を受けていない人

  • 貧困所得水準以下で生活する人

  • 精神障害(アルコールおよび物質使用を含む)を有する人

  • アメリカンインディアンおよびアラスカ先住民

ヒスパニックでは喫煙率が比較的低く,アジア系アメリカ人女性では最も低い。

ほぼ全ての喫煙者は18歳以前に喫煙を始めるため,タバコ使用が小児科の疾患となっている。毎日,約1600人の18歳未満の若者が初めて喫煙し,200人近くの若者が毎日喫煙するようになっている。小児期に喫煙を開始する主要な危険因子には,家族や仲間の喫煙のほか,印刷物,オンラインおよび店頭販売での広告やマーケティング,映画やビデオゲームのタバコ使用のシーンに曝されることなどがある。

その他のタバコおよびニコチン製品

葉巻およびパイプの喫煙は,米国ではそれほど一般的ではない。2019年に,18歳以上の人のうち,葉巻喫煙者は870万人(3.6%),パイプ,水パイプまたは水タバコの喫煙者は240万人(1%)と推定された。これらの割合は,過去15年間にわたって比較的一定のままである。パイプおよび葉巻での喫煙が健康に及ぼす害としては,心血管疾患,COPD,がん(口腔喉頭食道大腸膵臓),歯周病や歯の喪失などがある。

電子タバコ(またはベイプペン)とは,バッテリーと,液剤(プロピレングリコール,グリセロール,常にではないが通常はニコチンを含む)を加熱するアトマイザーが入ったカートリッジで構成される装置である。電子タバコの使用では燃焼は関与しないが,装置から放出されるエアロゾルは単なる水蒸気ではない。電子タバコのエアロゾルには,しばしはニコチンが含まれているだけでなく,肺の奥深くまで吸い込まれる超微粒子,重篤な肺疾患に関連する化学物質であるジアセチルなどの香料,揮発性有機化合物,発がん性化学物質,重金属(例,ニッケル,錫,鉛)が含まれているが,いずれも燃焼式タバコの煙より濃度は低い。電子タバコのエアロゾルを吸入することの長期的な影響は明らかではないが,燃焼式タバコの喫煙に伴うよく知られた有害作用よりも有害性が低い可能性があると考えるのは妥当である。電子タバコを使用しかつ喫煙を続ける(二重使用者の一般的慣習)人では,電子タバコ使用による健康上の便益は不明である。母親の電子タバコ使用が胎児の発育に与える影響も,電子タバコ使用が青年期の脳の発達に与える長期的な影響も不明である。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)によると,高校生における電子タバコの使用は,燃焼式タバコの使用を上回っている(2019年では,27.5%が電子タバコを使用しているのに対し,葉巻は7.6%,燃焼式タバコは5.8%)。電子タバコの喫煙は比較的新しい現象であり,その長期リスクについては不明である。(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine [Health and Medicine Division]: Public health consequences of e-cigarettesからの電子タバコについての情報も参照のこと。)

E-cigarette and Vaping product-use Associated Lung Injury(EVALI)とは,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が使用している用語で,2019年8月に初めて同定され,電子タバコやベイピング製品の使用に関連して複数の州で発生した重度の肺疾患のアウトブレイクを指している。この病態は除外診断であり,具体的には呼吸器症状(例,咳嗽,胸痛,息切れ),消化管症状(例,腹痛,悪心,嘔吐,下痢),非特異的な全身症状(例,発熱,悪寒,体重減少),血中酸素レベルの低下,白血球数の増加,ならびに有毒化学物質の蒸気,有毒ガス,および毒性物質への曝露によるものに類似した損傷などを除外する。CDCによると,2020年2月の時点で,EVALIにより全国で2800例を超える入院と68例の死亡が発生している。CDCのガイドラインでは,原因として主にテトラヒドロカンナビノール(THC)リキッド,特に酢酸ビタミンEが混ぜられたTHCリキッドが挙げられている。CDCは臨床医に対し,EVALIの可能性がある症例について,さらなる調査のために引き続き地域または州の保健局に報告するよう奨励している(CDC: Outbreak of Lung Injury Associated with E-cigarette Use, or Vapingを参照)。EVALIが疑われる場合は,使用された物質,製品の出所,使用期間と使用頻度,および使用された装置とそれらの装置がどのように使用されたかについて詳細な病歴を聴取すべきである。

無煙タバコ(噛みタバコおよび嗅ぎタバコ)は18歳以上の約2.4%,高校生の約4.8%で使用されている。無煙タバコの毒性は銘柄によって異なる。害としては,心血管疾患,口腔疾患(例,がん,歯肉の退縮,歯肉炎,歯周炎とその結果として生じる障害),催奇形性などがある。

タバコへの意図しない経口曝露はあまりみられないが,重篤な中毒が生じる場合がある。ときに,幼児が開いた箱に入ったタバコ,灰皿に入ったタバコの吸い殻,電子タバコ用液剤,またはニコチンガムを摂取することがある。2019年には,電子タバコおよび液体ニコチン製品の毒性に曝露した可能性のある事例がAmerican Association of Poison Control Centers(AAPCC)に5356例報告された。

タバコへの経皮曝露も有毒である可能性がある。予防対策を講じずに未加工のタバコ(特に未乾燥のもの)を取り扱う収穫者および加工者は,皮膚からニコチンを吸収してニコチン中毒(グリーンタバコ病と呼ばれる症候群)を発症することがある。

タバコ煙に対する受動曝露(間接喫煙)は,火が付いたタバコから出る煙,または近くの喫煙者から吐き出された煙を吸い込むことで生じる。吸い込む量(およびその影響)は,喫煙者との近さや曝露の期間に加え,環境(例,閉め切った空間)や換気の状態によって様々である。

病態生理

ニコチンはタバコに含まれる非常に依存性の強い薬物で,紙巻タバコの煙に含まれる主要な成分の1つである。渇望は最初の使用から数日で始まる可能性がある。ニコチンは脳内のニコチン様アセチルコリン受容体を刺激することによりドパミンと他の神経伝達物質を放出させるが,それらの物質は快楽をもたらす行為中に他の大部分の依存性薬物と同様の機序で脳内報酬系を活性化する( see heading on page 物質関連障害群の概要)。ドパミン,グルタミン酸,およびγ-アミノ酪酸(GABA)はニコチン依存症の重要な媒介物質である。

気分の変化や離脱症状の回避を目的としている喫煙者には精神依存が生じている;精神依存は喫煙開始から2週以内に発生する可能性があり,喫煙を試みる青年の最大約25%で生じる。身体依存(すなわち禁煙に伴う離脱症状の発生)も2週間以内に発生する。喫煙はニコチン依存症に伴う欲求を満たすために行われるが,同時に紙巻タバコの煙に含まれる発がん物質,有害ガス,および化学添加物を含めた何千種類に及ぶ成分を吸引することになる。喫煙による様々な健康障害には,ニコチンよりも,これらの有毒成分の方が大きく寄与している。タバコ煙のタール副産物は,肝臓内の代謝酵素(主にCYP2A6)を誘導して,種々の薬物相互作用を引き起こす可能性がある。

喫煙の慢性効果

喫煙は体内のほぼ全ての臓器に有害である。米国でも世界でも,喫煙は予防可能な死亡原因の第1位である。米国では,1年当たり520,000例の死亡(全死亡の約20%)が喫煙によるものと推定されている。長期喫煙者の約3人に2人が喫煙を直接の原因とする疾患のために若年死しており,喫煙により余命は平均10~14年(タバコ1本につき7分)短縮する。

主な慢性効果は,以下の疾患の可能性が高まることである:

冠動脈疾患はタバコ関連死亡全体の約30~40%を占める。心筋梗塞のリスクは1日1箱未満の喫煙で200%以上増加し,心血管死亡のリスクは35年間かけて50%以上増加する。機序としては内皮細胞の損傷,血圧および心拍数の一過性の増加,血栓形成促進状態の誘導,血清脂質に対する有害作用などが挙げられる。

肺癌はタバコ関連死亡の約15~20%を占める。喫煙は北米および欧州では肺癌の最も頻度の高い原因であり,肺癌による死亡の87%以上を占める。肺組織は吸引された発がん物質に直接曝露する。

COPDはタバコ関連死亡の約20%を占める。タバコはCOPDの最も頻度の高い原因であり,肺疾患による死亡全体の61%を占める。喫煙は気道の局所防御機構を障害するが,特に遺伝的に感受性の高い人々では肺機能の減退を促進する傾向がある。咳嗽および労作時呼吸困難がよくみられる。

比較的頻度は低いものの重篤な喫煙関連疾患としては,加齢黄斑変性,心臓以外の血管疾患(例,脳卒中,大動脈瘤),肺以外のがん(例,膀胱癌,子宮頸癌,大腸癌,食道癌,腎癌,喉頭癌,肝癌,中咽頭癌,膵癌,胃癌,下咽頭癌,急性骨髄性白血病),糖尿病,肺炎,関節リウマチ,結核などがある。

さらに,喫煙は重大な合併症や身体障害をもたらす他の病態の危険因子であり,そのような病態としては,頻回の上気道感染症喘息白内障不妊症勃起障害早発閉経消化性潰瘍骨粗鬆症股関節骨折歯周炎などが挙げられる。

副流煙

副流煙とは,喫煙者から吐き出されたタバコの煙,または火が付いたタバコの端から出る煙である。副流煙は,能動喫煙者に生じるものと同じ腫瘍性,呼吸器,および心血管疾患と関連している。疾患のリスクは曝露量と関連する。例えば,配偶者間での平均リスクは,肺癌で約20%,冠動脈疾患で約20~30%増加する。

タバコ煙に曝露している小児では,曝露していない小児と比べて学校の病欠日数が多い。小児の喫煙関係疾患に対する治療に毎年46億ドルが費やされていると推定されている。

全体では,副流煙は米国で年間50,000~60,000例の死亡(全死亡の2~3%)の原因になっていると推定され,副流煙への曝露による若年死で生じる生産性損失は毎年56億ドルに上ると推定されている。以上の知見から,米国全土の州および自治体では,環境タバコ煙の重大なリスクから労働者などの健康を保護する取組みとして,職場内での喫煙が禁止されるに至っている。2000年には,包括的屋内禁煙法が施行された州またはコロンビア特別区はなかったが,2010年末までにその数は26に増え,2015年末までにさらに1つの州が追加された。州全体の包括的禁煙法がない一部の州では,地域レベルで包括的禁煙法を採用する面で大きな進展がみられている。ただし,州全体の包括的禁煙法がない8つの州(コネチカット州,フロリダ州,ニューハンプシャー州,ノースカロライナ州,オクラホマ州,ペンシルベニア州,テネシー州,バージニア州)には,地域禁煙法の採択を禁止する専占的規制が存在する。

妊娠中の喫煙は,自然流産,異所性妊娠,早産,先天異常のリスクを高める( see page 妊娠中の社会的薬物と違法薬物)。喫煙する母親から生まれた乳児は出生体重が低い傾向があり,以下のリスクが高くなる:

喫煙の間接的な影響

喫煙の間接的な影響は深刻なものとなる可能性がある。

米国連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency:FEMA)によると,喫煙が関係する住宅火災が米国で毎年約7600件発生している。これらの火災により,毎年約365人の死亡,925人の負傷,および3億2600万ドルの資産損失が生じている。そのような火災は,米国内の失火による死亡の最多の原因となっている。

喫煙との薬物相互作用はよくみられる。そのような作用は,喫煙のタール副産物による肝臓内の代謝酵素の誘導によるところが大きい。ニコチンは同じように代謝酵素を誘導しないため,ニコチン代替療法や電子タバコでは薬物誘導作用は生じない。以下の薬剤は,長期の喫煙により血中濃度やときに臨床効果が(主にCYP2A6酵素の誘導により)減少する:

  • 抗不整脈薬(一部):フレカイニド,リドカイン,メキシレチン

  • 抗うつ薬(一部):クロミプラミン,フルボキサミン,イミプラミン,トラゾドン

  • 抗精神病薬(一部):クロルプロマジン,クロザピン,フルフェナジン,ハロペリドール,オランザピン,チオチキセン

  • カフェイン

  • エストロゲン(経口)

  • インスリン(皮膚の血管収縮による吸収遅延)

  • ペンタゾシン

  • テオフィリン

2つの例外はベンゾジアゼピン系薬剤(薬剤の鎮静作用が低下するが,これはニコチンの刺激作用による可能性が高い)とβ遮断薬(血圧および心拍数のコントロールが低下するが,これはニコチンを介した交感神経の活性化によるものと考えられる)である。

症状と徴候

急性効果

ニコチンは心拍数,血圧,および呼吸数を若干増加させる。喫煙者は,活力や覚醒,集中力の増加,緊張や不安の緩和,快感や満足感を覚えることがある。ニコチンに初めて曝露した人では悪心がよくみられる。ニコチンは食欲を減退させ,摂食行動の代替となりうる。

燃焼式タバコでは,気道刺激症状のために運動耐容能が減少する傾向がある。一酸化炭素の軽度の毒性も運動耐容能を低下させうるが,これはおそらくエリートアスリートに影響を及ぼすのみである。

毒性または過剰摂取

ニコチンの急性中毒は通常,喫煙よりもむしろ経口(例,小児がタバコやニコチンガムを食べたり,電子タバコ用液剤を摂取したりする)または皮膚(例,未加工のタバコ製品を取り扱う)の曝露によって引き起こされる。

グリーンタバコ病でよくみられるような軽度のニコチン毒性や小児が少量(例,1本未満の紙巻タバコ,3本の吸い殻)を摂取した程度では,典型的には悪心,嘔吐,頭痛,および筋力低下が現れる。中毒が軽症の場合は通常,症状は摂取後1~2時間で自然に消失するが,中毒が重度の場合は症状が24時間続くこともある。

重度のニコチン中毒は,悪心,嘔吐,流涎,流涙,下痢,排尿,線維束性収縮,および筋力低下を伴うコリン作動性の中毒症候群を引き起こす。患者は通常,痙攣性の腹痛を起こし,中毒が非常に重症の場合には,不整脈,低血圧,痙攣発作,および昏睡を起こす。ニコチンの致死量は,成人の非喫煙者で約60mg,成人喫煙者で120mgであるが,幼児では10mgと少ない。紙巻タバコ1本には約8mgのニコチンが含まれる(喫煙により吸収されるのは約1mgのみである)。しかしながら,小児による摂取が目撃されることはまれであるため,摂取量を病歴から確認するのは通常困難であり,摂取の事例は全て危険になりうると考えるべきである。

慢性効果

喫煙自体に起因する所見は,歯や指に黄色い染みが付くこと,および同年齢の対照者と比較すると,体重が少し少ないこと(差は5kg以下),皮膚が乾燥してしわが多いこと,髪の毛が細いことなどである。

その他の症状は,喫煙関連の肺および心血管疾患の症状である。慢性咳嗽と労作時呼吸困難がよくみられる。循環器および呼吸器障害により運動耐容能が低下し,そのために座位時間の長い生活習慣となることが多く,運動耐容能をさらに低下させる。

離脱

禁煙はしばしば強いニコチン離脱症状の発生につながり,主な症状はタバコに対する渇望であるが,他の症状(例,不安,集中困難,睡眠障害,抑うつ)もみられ,最終的に体重が増加する。

診断

  • 直接的な質問

急性毒性は常に病歴から明らかになるとは限らない。小児によるタバコ,ニコチンガムや電子タバコ用液剤の摂取は目撃されていない場合があり,グリーンタバコ病患者はタバコを取り扱っていることを医師に話そうとしないかもしれない。したがって,典型的症状(特にコリン作動性の症状)がみられる小児および農業労働者には,タバコに曝露した可能性について具体的に質問するべきである。検査は必要ない。

喫煙者の70%超が毎年プライマリケア医を受診するが,そのうち禁煙に役立つカウンセリングおよび薬剤投与を受けるのはごく少数に過ぎない。喫煙者の同定とそれによる禁煙の公衆衛生上の便益を最大限に高めるため,症状の有無にかかわらず,医療機関の受診時には全ての患者に対してタバコ使用に関する問診を行うべきであり,喫煙と関連する可能性がある症状(例,循環器または呼吸器症状)を理由とする受診時には,特にそうすべきである。また,患者の使用量(1日当たりの喫煙本数)と,起床してからどれくらいすぐに喫煙するか(30分以内が問題のある使用の徴候)の評価は,タバコ依存およびニコチン嗜癖の重症度を示すのに役立ち,禁煙のための薬剤の選択および用量決定の指針が得られる。

予防

喫煙者の90%は18歳以前に喫煙を始め,26歳以降に喫煙や無煙タバコ製品の使用を始める成人はほとんどいないため,若者の喫煙防止が重要である。今日,米国における18歳未満の若者の560万人が喫煙関連疾患による若年死を迎えると推定されているが,これらの死亡は協調した公衆衛生対策と規制措置によって回避可能である。例えば,映画やビデオゲームでの喫煙の描写の制限,喫煙最低年齢の21歳への引き上げ,あらゆる形態のタバコでのメントールや特徴的なフレーバーの禁止,紙巻タバコの値上げ,タバコ産業製品の店頭での割引制限などは,若者の喫煙を防止するための重要な介入である。米国科学アカデミー(National Academies of Sciences)は,若者と若年成人において,電子タバコの使用は燃焼式タバコを1回でも使用するリスクを高めるというエビデンスがかなりあると結論付けている。このことが燃焼式タバコの継続的な使用につながるかどうかは依然として分かっていない。

治療

ニコチンに曝露した皮膚は洗浄すべきである。これ以外の点では,急性ニコチン中毒の治療は支持療法である。胃内容物の除去は推奨されない。症状が軽度の患者と嘔吐がみられた患者には,活性炭は投与しない;一部の臨床医は,重度の症状を示す患者,大量に摂取した患者,および嘔吐がみられなかった患者に活性炭の投与を推奨している。意識が障害された患者,気道分泌物が過度にみられる患者,および呼吸筋の筋力低下がみられる患者では,気道確保と補助換気が必要になることがある。痙攣発作はベンゾジアゼピン系薬剤で治療する。ショックには輸液による治療を行い,輸液が無効の場合は昇圧薬で治療する。過度の気道分泌物または徐脈がみられる患者にはアトロピンを考慮してもよいが,それ以外の場合には抗コリン薬は推奨されない。

全ての喫煙者は,かかりつけの医師から禁煙を勧められるべきである。禁煙の支援には,禁煙カウンセリングおよび典型的には薬物治療(禁煙のための薬剤の表を参照)などがある。電話での禁煙相談(1-800-QUIT-NOW),ウェブサイト(例,Smokefree.gov)および他の手段への紹介も助けとなりえる。妊娠中の喫煙はやめるよう助言すべきであり,徹底的な禁煙カウンセリングによって禁煙を補助すべきである。ただし2015 US Preventive Services Task Forceは,妊娠中の女性における禁煙のための薬物療法の便益と害を評価するには証拠が不十分であると結論付けている(Tobacco Smoking Cessation in Adults, Including Pregnant Women: Behavioral and Pharmacotherapy Interventionsを参照)。

要点

  • 米国では喫煙は予防可能な死亡原因の第1位である。

  • 大半の喫煙者は18歳以前に喫煙を始める。

  • 渇望は最初の使用から数日で始まり,禁煙した後も長く続く可能性がある。

  • 紙巻タバコは,ニコチンを急速に脳に送達することにより,依存を作り出し持続させる。

  • ニコチン以外にも,紙巻タバコの煙には発がん物質,有害ガス,および化学添加物が含まれており,これらが紙巻タバコによる健康への悪影響の原因となっている。

  • 喫煙の有害な影響としては,消耗性疾患や致死的な疾患(例,肺癌,COPD,冠動脈疾患)のリスク増大,住宅火災や野火,薬物相互作用などがある。

  • ニコチンは通常の摂取量では弱い刺激物質として急性作用を及ぼすが,急性の過剰摂取時(通常は経口摂取または直接の皮膚曝露による)にはコリン作動性の中毒症候群を引き起こすことがある。

  • 症状の有無にかかわらず全ての患者に対して喫煙に関する問診を行い,全ての喫煙者に禁煙を勧め,禁煙への支援を提供し,喫煙再開を防ぐためにフォローアップを手配する。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Centers for Disease Control and Prevention — Youth Tobacco Prevention: Fact sheets, infographics, and other resources for teachers, coaches, parents, and others involved in anti-smoking, youth education

  2. Smokefree.gov: The National Cancer Institute (NCI) resource to help reduce smoking rates in the US, particularly among certain populations, by providing cessation information, a tailored quit plan, and text-based support

  3. The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine: Health and Medicine Division: Public health consequences of e-cigarettes: A 2010 review of the evidence of the health effects related to the use of electronic nicotine delivery systems

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