薬剤開発

執筆者:Shalini S. Lynch, PharmD, University of California San Francisco School of Pharmacy
レビュー/改訂 2019年 6月
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    生物活性について何百・何千という分子を大規模にスクリーニングすることで,有望な化合物を同定することができる。ほかのケースでは,様々な疾患に関する具体的な分子病態生理学の知識により,コンピュータモデリングや既存の薬物の修飾を通じた合理的なドラッグデザインが可能になる。

    早期開発の段階では,有用と考えられる化合物を動物に投与して試験し,目的とする効果と毒性について評価する。有効かつ安全とみられる化合物は,ヒトを対象とする試験での研究対象となる。臨床研究(ここでは治験を指す)の内容を記載した実施計画書(プロトコル)が適切な治験審査委員会(institutional review board:IRB)によって承認される必要があり,その後,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)により治験申請(investigational new drug:IND)の適用免除承認書が発行される。この時点で,その化合物の特許期間が始まり,通常は向こう20年間にわたる独占的権利が特許権者に与えられるが,FDAの承認を得るまでは,その化合物を販売することはできない。

    第1相では,ヒトにおける安全性と毒性を評価する。複数の用量の化合物を少人数(20~80人のことが多い)の健康で若年の(通常は男性)ボランティアに投与し,毒性が最初に出現する用量を確認する。

    第2相では,その化合物に対象疾患に対する活性があるかどうかを確認する。対象疾患の治療または予防を目的として,化合物が投与される。さらに,至適な用量反応域を特定することも目標となる。

    第3相では,その薬剤に関して提案された臨床使用について経験を集積するため,より大きく(数百~数千人規模のことが多い)より多様な集団で,その薬物の効果を評価する。この第3相ではさらに,その薬物を既存の治療薬,プラセボ,またはそれら両方と比較する。研究には多数の医療従事者と複数の研究機関が関与する場合もある。その目的は,効力を検証するとともに,第1相と第2相で観察されなかった可能性のある作用(良い影響と悪い影響)を検出することである。

    その薬物の正当性を示して承認申請を行うの十分なデータが収集されたら,FDAに新薬承認申請(new drug application:NDA)を提出する。医薬品の早期開発から承認までのプロセスには,ときに10年を要することもある。

    第4相(市販後調査,医薬品安全性監視)は医薬品の承認・発売後に始まり,継続的な有害作用報告のほか,正規の調査研究が実施されることがある。第4相では通常,第1~3相よりも大規模な集団とより長い期間を要し,短期間の小規模試験では認識される可能性の低い,まれな有害作用や緩徐に出現する有害作用の検出に役立つ。さらに,実際の医療現場における薬物の使用は,臨床試験で適用される厳密な適格基準を満たす患者に限定されるわけではなく,むしろ薬物は有害作用のリスクがより高い患者に使用される傾向がある。しばしば,特定の集団(例,妊婦,小児,高齢者)で研究を実施する。第3相試験後にFDAの承認を受けた薬剤の中には,第4相試験で新たに認められた重篤な有害作用が発現したため市場から撤退しているものもある。

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