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薬物の効力と安全性

執筆者:

Shalini S. Lynch

, PharmD, University of California San Francisco School of Pharmacy

レビュー/改訂 2019年 6月
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効力(efficacy)と有効性(effectiveness)

  • efficacy(効力)とは,ある効果(例,血圧を低下させる)を生じる能力である。

効力(efficacy)は,理想的な条件(例,患者を適切な基準によって選択し,投与計画を厳密に遵守させた場合)でのみ正確に評価できる。そのため効力(efficacy)は,その薬物に反応する可能性が最も高い患者集団を対象として,比較臨床試験などで専門家の監督下で測定する。

  • effectiveness(有効性)とは,ある薬物が現実の状況でどれほど効くかを検討するという点で効力(efficacy)と異なる。

臨床試験で効力が示された薬剤が実際の使用ではあまり高い効果を示さないこともしばしばある。例えば,血圧の低下において高い効力(efficacy)を示す薬物があっても,多くの 有害作用 有害作用 言うまでもなく,薬剤の投与(または何らかの治療)は,患者の便益になる場合にのみ行うべきである。便益は,望ましい結果(効力)を生む薬物の能力ならびに有害作用(安全性)の種類および可能性の両方が考慮される。費用もまた一般的に便益とのバランスがとられる( 臨床的意思決定における経済的分析を参照)。 efficacy(効力)とは,ある効果(例,血圧を低下させる)を生じる能力である。 効力(efficacy)は,理想的な条件(例,患者を適切な基準... さらに読む を引き起こすために患者が服用を中止することが多ければ,有効性(effectiveness)は低い可能性がある。臨床医が不注意で薬剤を不適切に処方した場合も(例,CTでは認識されなかった脳出血のある患者に虚血性脳卒中と考えて血栓溶解薬を投与する),有効性(effectiveness)が効力(efficacy)より低くなる可能性がある。したがって,有効性(effectiveness)は効力(efficacy)より低くなる傾向がある。

効力(efficacy)と有効性(effectiveness)は,代替または中間のアウトカム(結果)ではなく,患者志向のアウトカムを用いて判定すべきである。

患者志向のアウトカム

患者志向のアウトカム(patient-oriented outcome)とは,患者の健康状態に影響を及ぼすアウトカム(結果)である。それらには以下の少なくとも1つが関与する:

  • 生存期間の延長

  • 機能の改善(例,障害の予防)

  • 症状の緩和

代替のアウトカム

  • 代替もしくは中間のアウトカムには,患者の健康状態に直接関わらないものが関与する。

それらは,実際の患者志向のアウトカムを予測すると考えられる生理的パラメータ(例,血圧)または検査結果(例,グルコース濃度もしくはコレステロール濃度,CT上の腫瘍サイズ)のようなものが多い。例えば,一般的に臨床医は血圧を低下させることが制御不能な高血圧に関する患者志向のアウトカム(例,心筋梗塞もしくは脳卒中に起因する死)を予防すると推測する。しかし,ある薬物は,血圧を低下させるかもしれないが,おそらく致死的な有害作用があるために,死亡率は低下しないことが考えられる。代替の転帰が,疾患の原因(例,血圧の上昇)というより単なる疾患のマーカー(例,HbA1C)であれば,介入は基礎疾患に影響を及ぼさずにマーカーを低下させるかもしれない。したがって,代替のアウトカムは患者志向のアウトカムほど好ましい効力の評価尺度ではない。

一方で,例えば患者志向のアウトカムがみられるまでに長時間を要する場合(例,制御不良の高血圧に起因する腎不全)またはまれな場合には,代替のアウトカムを用いる方がはるかにふさわしいことがある。そのような場合には,代替のアウトカム(例,血圧の低下)を用いない限り,非常に大規模かつ長期間の臨床試験を実施する必要がある。さらに,代替のアウトカムは連続的な数値変数(例,血圧,血糖値)であるのに対して,患者志向の主要なアウトカムである死亡および身体障害は二者択一(すなわち,yes/no)である。数値変数は,二者択一のアウトカムとは異なり,効果の大きさを示しうる。そのため,代替のアウトカムを用いると,患者志向のアウトカムの場合と比べて,解析のためにより多くのデータを得られる場合が多く,より少ない患者数で臨床試験を実施することができる。

しかしながら,理想的には,代替のアウトカムが患者志向のアウトカムと相関することを証明すべきである。そのような相関が合理的にみえたものの,実際には相関がなかった研究が多くある。例えば,特定の閉経後女性に対するエストロゲンとプロゲステロンによる治療は,脂質プロファイルの改善をもたらしたが,それに対応して想定されていた心筋梗塞や心臓死の減少は達成されなかった。同様に,集中治療室の糖尿病患者の血糖値を正常範囲付近まで低下させた場合の方が,わずかに高い水準まで低下させた場合よりも,死亡率と合併症発生率がより高かった(低血糖が誘発されたことによる可能性あり)。一部の経口血糖降下薬は,HbA1C濃度を含めて,血糖値を低下させるが,心イベントのリスクは低下させない。一部の降圧薬は血圧を低下させるが,脳卒中のリスクは低下させない。

有害作用

同様に,臨床的に重要な有害作用も患者志向のアウトカムであり,その例として以下のものが挙げられる:

  • 死亡

  • 身体障害

  • 不快感

有害作用の代替アウトカム(例,血清マーカー濃度の変化)もしばしば用いられるが,効力(efficacy)の代替アウトカムと同様に,患者志向のアウトカムと相関するものを選択すべきである。効力(efficacy)を証明するために慎重にデザインされた臨床試験で,有害作用が発現するまでの時間が,便益が生じるために必要な時間より長い場合,または有害作用がまれな場合には,さらに有害作用の特定が難しいことがある。例えば,シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害薬は急速に疼痛を軽減するため,その効力(efficacy)は比較的短期間の試験でみられる可能性がある。しかし,一部のCOX-2阻害薬に起因する心筋梗塞の発生率増加は,より長い期間にわたって起こり,より短期間かつ小規模の臨床試験では明確ではなかった。この理由により,臨床試験では特定の集団や高リスクの患者を除外することがあるため,有害作用は,その薬物が長年にわたり広く臨床で使用されるようになるまで,十分に明らかにならない可能性がある(薬剤開発 薬剤開発 生物活性について何百・何千という分子を大規模にスクリーニングすることで,有望な化合物を同定することができる。ほかのケースでは,様々な疾患に関する具体的な分子病態生理学の知識により,コンピュータモデリングや既存の薬物の修飾を通じた合理的なドラッグデザインが可能になる。 早期開発の段階では,有用と考えられる化合物を動物に投与して試験し,目的とする効果と毒性について評価する。有効かつ安全とみられる化合物は,ヒトを対象とする試験での研究対象とな... さらに読む を参照)。

多くの薬物有害作用は,用量依存性である。

薬剤の便益と有害作用とのバランス

薬物が適応となるかどうかは,その便益と害とのバランスによって異なる。そのような判断を下す際に,臨床医は,個人的経験,症例報告,同僚の診療手腕,および専門家の意見など,いささか主観的な要素を考慮することが多い。

治療必要数(number needed to treat:NNT)は,薬剤(または他の介入)に見込めそうな便益に関する,それほど主観的ではない計算値である。NNTは,1人の患者が便益を得るために治療を受ける必要のある患者数である。例えば,ある特定の病気の死亡率を10%から5%に減らす薬剤,すなわち5%(20人に1人)の絶対リスク減少を考える。この場合,患者100人のうち90人は無治療でも生存し,したがってその薬剤から便益を受けないことを意味する。さらに,患者100人のうち5人は,たとえその薬剤を服用したとしても死亡するため,便益を受けない。患者100人のうち5人(20人に1人)のみがその薬剤を服用した結果便益を受ける;したがって1人の患者が便益を受けるために20人が治療を受ける必要があり,この場合のNNTは20である。NNTは単純に絶対リスク減少率の逆数として算出することができ,絶対リスク減少率が5%(0.05)なら,NNT=1/0.05=20である。NNTは有害作用についても算出でき,その場合はときに害必要数(number needed to harm:NNH)と呼ばれる。

重要なことに,NNTは絶対リスクの変化に基づいており,相対リスクの変化からは算出できない。相対リスクは,2段階のリスクレベル間の比例的な差である。例えば,死亡率を10%から5%に低下させる薬剤は,絶対死亡率を5%まで低下させるが,相対的な死亡率は50%まで低下させる(すなわち,5%の死亡率は10%の死亡率に比べ50%の死亡数低下を意味する)。ほとんどの場合,相対リスク減少は絶対リスク減少より薬物をより効果的にみせるため,文献では便益が相対リスク減少として報告される(前述の例では,死亡率の50%低下が5%低下よりもずっと聞こえがよい)。対照的に,有害作用は薬物をより安全に見せるという理由で,通常は絶対リスク増加として報告される。例えば,ある薬剤が出血の発生率を0.1%から1%に増加させる場合,その増加は1000%より0.9%として報告されることが多い。

パール&ピットフォール

  • 治療必要数(number needed to treat:NNT)は,リスクの相対変化量ではなく絶対変化量に基づいて算出する。

NNHに対してNNTを均衡させる場合,具体的な便益と害の大きさを比較することが重要である。例えば,便益より多くの害をもたらす薬剤でも,その害が小さく(例,可逆的,軽度),便益が大きい(例,死亡率または合併症発生率の上昇を防ぐ)なら,処方に値することがある。全ての場合において,患者志向のアウトカムを用いるのが最善である。

遺伝子プロファイリングは,一部の薬剤のベネフィットや有害作用の影響を受けやすい患者集団を特定するために用いられることがますます多くなっている。例えば,乳癌については,特定の化学療法薬に対する反応を予測するHER2の遺伝子マーカーを解析することがある。HIV/AIDS患者については,アバカビルに対する過敏性を予測するアレルHLA-B*57:01を調べることがあり,その結果過敏反応の発生率が低下し,NNHが増加する。様々な薬物代謝酵素の遺伝的バリエーションは,患者がどのように薬剤に反応するかの予測に役立ち(薬理遺伝学 薬理遺伝学 薬理遺伝学は,遺伝子構成による薬物反応の多様性を扱う学問である。 薬物代謝酵素の活性は,健常者でも大きく異なることが多く,それが代謝を極めて多様にする。薬物消失速度は最大で40倍までばらつく。遺伝因子および加齢がこれらのばらつきの原因であると思われる。 薬理遺伝学的な変異(例,アセチル化,加水分解,酸化,または薬物代謝酵素における変異)が臨床効果に影響を及ぼすことがある( 薬理遺伝学的変化の例を参照)。例えば,特定の薬物が速やかに代謝さ... さらに読む を参照),さらに便益,害,またはそれらの両方が起こる確率に影響を及ぼすことが多い。

治療係数

薬剤開発の目標の1つは,効力が得られる用量と有害作用を引き起こす用量の間に大きな差をもたせることである。この差が大きいことが,治療係数または治療可能比が大きい,あるいは治療域が広いと表現される。治療係数が小さければ(例,2未満),通常臨床的に重要ではない因子(例,食物-薬物相互作用, 薬物間相互作用 薬物相互作用 薬物相互作用とは,別の薬物を短期間もしくは同時に使用すること(薬物間相互作用),または食品( 薬物と栄養素の相互作用)もしくは栄養補助食品( 栄養補助食品と薬物の相互作用)を摂取することで薬物の作用が変化する現象である。 薬物間相互作用が起きると,一方または両方の薬物の効果が増強または減弱することがある。臨床的に重大な相互作用は,しばしば予測可能であり,通常は望ましくない作用である(... さらに読む ,ささいな投与エラー)が,有害な臨床効果をみせることがある。例えば,ワルファリンは治療係数が小さく,多数の薬物および食物と相互作用を起こす。不十分な抗凝固療法は,治療中の疾患に起因する合併症のリスクを増加させるが(例,心房細動における脳卒中のリスクの増加),その一方で過剰な抗凝固療法は出血のリスクを増加させる。

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