薬物の排泄

執筆者:Jennifer Le, PharmD, MAS, BCPS-ID, FIDSA, FCCP, FCSHP, Skaggs School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, University of California San Diego
レビュー/改訂 2020年 10月
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    腎臓は,水溶性物質を排泄する主要臓器である。胆道系は,薬物が消化管から再吸収されない限り,排泄に寄与する。一般に,腸管,唾液,汗,乳汁,および肺の排泄への関与は,揮発性麻酔薬の放散を除いて小さい。乳汁を介した排泄は,授乳中の乳児に影響を及ぼす可能性がある(授乳中の母親に禁忌となる主な薬剤の表を参照)。

    肝代謝によって,薬物は極性と水溶性を増すことが多い。その結果として代謝物は,その後より速やかに排泄される。

    薬物動態の概要も参照のこと。)

    腎排泄

    腎臓の濾過作用はほとんどの薬物の排泄を担う。糸球体に達する血漿の約5分の1が糸球体内皮の孔を通って濾過され,ほぼ全ての水分と大部分の電解質が受動的および能動的に尿細管から再吸収され,血液循環に戻る。しかし,ほとんどの薬物代謝物を占める極性化合物は,拡散して血液循環に戻ることができず,再吸収のための個別の輸送機序(例,グルコース,アスコルビン酸,およびビタミンB類の場合)がない限り排泄される。加齢とともに薬物の腎排泄は低下し(加齢が薬剤の代謝と排泄に及ぼす影響の表を参照),80歳では,一般的に30歳時点の半分までクリアランスが低下する。腎臓からの薬物排泄は,様々な健康状態によっても変化する。重症(critically ill)患者では,腎障害により薬物の腎排泄が一時的に低下することがある;対照的に,腎クリアランスの亢進(例えば比較的若年で腎機能に異常がないであろう重症患者でみられる)により薬物の腎排泄が増すことがあり,その結果,小児および成人のいずれにおいても,特定の薬物,特に抗菌薬の血漿濃度が治療域以下となる(レビューについては[1]を参照)。

    膜透過の原理が腎臓の薬物処理をつかさどる。血漿タンパク質と結合した薬物は循環内にとどまり,非結合薬物のみが糸球体濾液に含まれる。薬物およびそれらの代謝物の非イオン型は,尿細管液から速やかに再吸収されやすい。

    尿pHが弱酸または弱塩基の電離状態を決めるため,4.5~8.0の間で変動する尿pHは,薬物の再吸収および排泄に著しく影響することがある( see page 受動拡散)。尿の酸性化により,弱酸の再吸収が増して排泄が減るが,対照的に,弱塩基の再吸収は減る。尿のアルカリ化には逆の作用がある。一部の過量投与の症例では,弱塩基または弱酸の排泄を高めるためにこれらの原理を用い,例えば,アセチルサリチル酸の排泄を高めるために尿をアルカリ化する。尿pHの変化が薬物の消失速度を変える程度は,全消失に対する腎経路の寄与,非イオン型の極性,および分子のイオン化の程度によって決まる。

    近位尿細管における能動的尿細管分泌は,多くの薬物の排泄で重要である。このエネルギー依存性の過程は,代謝阻害薬により遮断されることがある。薬物濃度が高い場合,分泌輸送量は上限(最大輸送量)に達することがある;それぞれの物質には,固有の最大輸送量がある。

    陰イオンと陽イオンは,別個の輸送機序によって処理される。通常,陰イオン分泌系は,グリシン,硫酸,またはグルクロン酸に抱合された代謝物を排泄する。陰イオンは分泌に関して相互に競合する。この競合を治療に用いることがある;例えば,プロベネシドは通常急速なペニシリンの尿細管分泌を遮断し,血漿中ペニシリン濃度の長時間の上昇をもたらす。陽イオン輸送系では,陽イオンまたは有機塩基(例,プラミペキソール,ドフェチリド)が尿細管によって分泌されるが,この過程はシメチジン,トリメトプリム,プロクロルペラジン,メゲストロール,もしくはケトコナゾールによって阻害されることがある。

    薬物の排泄に関する参考文献

    1. 1. Bilbao-Meseguer I, Rodríguez-Gascón A, Barrasa H, et al: Augmented renal clearance in critically ill patients: A systematic review.Clin Pharmacokinet 57(9):1107-1121, 2018.doi:10.1007/s40262-018-0636-7

    胆汁排泄

    一部の薬物およびそれらの代謝物は胆汁中に広く排泄される。それらは濃度勾配に逆らって胆管上皮を越えて輸送されるため,能動的な分泌輸送が必要である。血漿中薬物濃度が高い場合,分泌輸送が上限(最大輸送量)に達することがある。物理化学的性質が類似する物質は,排泄に関して競合することがある。

    分子量が300g/molを超え,極性基と親油性基の両方をもつ薬物は,胆汁中に排泄される可能性がより高く,それより小さい分子は一般に無視できる量しか排泄されない。抱合,特にグルクロン酸との抱合は,胆汁排泄を促す。

    腸肝循環において,胆汁に分泌された薬物は腸から血液循環に再吸収される。腸肝循環が不完全な場合,すなわち分泌された薬物の一部が腸から再吸収されない場合に限って,胆汁排泄によって物質は身体から排泄される。

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