薬理遺伝学

執筆者:Shalini S. Lynch, PharmD, University of California San Francisco School of Pharmacy
レビュー/改訂 2019年 7月
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    薬理遺伝学は,遺伝子構成による薬物反応の多様性を扱う学問である。

    薬物代謝酵素の活性は,健常者でも大きく異なることが多く,それが代謝を極めて多様にする。薬物消失速度は最大で40倍までばらつく。遺伝因子および加齢がこれらのばらつきの原因であると思われる。

    薬理遺伝学的な変異(例,アセチル化,加水分解,酸化,または薬物代謝酵素における変異)が臨床効果に影響を及ぼすことがある(薬理遺伝学的変化の例を参照)。例えば,特定の薬物が速やかに代謝される患者では,治療濃度を達成するのにより高用量かつより頻回の投与が必要になる場合があり,また特定の薬物の代謝が遅い患者では,毒性を回避するためにより低用量かつ低頻度の投与が必要になる場合がある(特に安全域が狭い薬物の場合)。例えば,アザチオプリン療法を必要とする炎症性腸疾患の患者については,現在では薬物療法の最適な開始用量を決定するために,チオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)の遺伝子型を調べる検査をルーチンに行うようになっている。ほとんどの遺伝学的差異は薬物療法に先立って予測することができないが,ますます多くの薬剤(例,カルバマゼピン,クロピドグレル,ワルファリン)について,有効性および毒性のリスクの変化が特定の遺伝学的変異と特異的に関連していることが示されている。また,多くの環境因子や発達因子が互いにまたは遺伝因子と相互作用を起こすことで,薬物反応に影響を及ぼすこともある(相互作用して患者間に薬物反応の差異を生じることがある遺伝,環境,および発達因子の図を参照)。

    表&コラム

    相互作用して患者間に薬物反応の差異を生じることがある遺伝,環境,および発達因子

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