電撃傷

執筆者:Daniel P. Runde, MD, MME, University of Iowa Hospitals and Clinics
レビュー/改訂 2020年 1月
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電撃傷は,作り出された電流が人体を通り抜けることにより引き起こされる損傷である。症状は,皮膚の熱傷,内臓および他の軟部組織への損傷から,不整脈および呼吸停止まで多岐にわたる。診断は病歴,臨床基準,および選択的な臨床検査に基づく。治療は支持療法であり,重度の損傷に対しては積極的なケアを行う。

家庭内で生じた偶発的な電撃傷(例,コンセントへの接触,小型電化製品による感電)が重大な損傷または続発症につながることはまれであるが,米国では高電圧への偶発的な曝露により年間300人近くが死亡している。米国では年間30,000件を超える非致死的なショック事例があり,電気熱傷が熱傷ユニットへの入院の約5%を占める。

病態生理

従来の教えでは,電撃傷の重症度はKouwenhovenの因子に基づく:

  • 電流の種類(直流[DC]または交流[AC])

  • 電圧およびアンペア数(電流強度の尺度)

  • 曝露の持続時間(曝露が長いほど損傷の重症度が増す)

  • 身体の抵抗

  • 電流の通過経路(これにより具体的な損傷組織が決定される)

しかしながら,新たな概念である電界強度により,より正確に損傷の重症度が予測されると考えられる。

Kouwenhovenの因子

ACは方向が高頻度に変化するものであり,米国および欧州の家庭用コンセントで通常供給されている電流である。DCは常に同じ方向に流れるもので,バッテリーにより供給される電流である。除細動器では通常DC電流が流れる。ACが身体に及ぼす影響は周波数に大きく依存する。低周波(50~60Hz)のACが米国(60Hz)および欧州(50Hz)の家庭で使用されている。低周波のACは広範囲の筋収縮(テタニー)を引き起こし,手が電源に固着し曝露が長引くことがあるため,高周波のACよりも危険な可能性があり,同電圧および同アンペアのDCと比べて3~5倍危険である。DCへの曝露は単回の痙攣性収縮を引き起こす可能性が高く,感電した人はこれによりしばしば電源からはねとばされる。

ACおよびDCのいずれでも,電圧(V)およびアンペア数(A)が高いほど,受ける電撃傷は大きくなる(曝露時間が同じ場合)。米国における家庭用電流は110V(標準のコンセント)~220V(冷蔵庫やドライヤーなど消費電力の大きな電化製品用)である。高電圧(500Vを超える)の電流では深い熱傷が起こる傾向があり,低電圧(110~220V)の電流では筋のテタニーおよび電源への固着が起こる傾向がある。電源に触れた腕の屈筋を収縮させるが,そこから手を放すことができる最大アンペア数を離脱電流という。離脱電流は体重および筋肉量により異なる。平均的な70kgの男性では,離脱電流はDCで約75mA,ACで約15mAである。

低電圧で60HzのAC電流が胸部を何分の1秒か通っただけでも,60~100mAという低アンペア数で心室細動が生じることがある;DCでは約300~500mAが必要である。電流が心臓に直接至る経路がある場合(例,心臓カテーテルやペースメーカー電極を通じて)は,1mA未満(ACでもDCでも)で心室細動が起こることがある。

電気への曝露による組織損傷は主に,電気エネルギーが熱に変換され,その結果熱傷が生じることによって起こる。散逸する熱エネルギーの量は,(アンペア数)2× 抵抗 × 時間に等しい;したがって,いかなる電流および時間でも,最も抵抗の大きい組織が最も大きな損傷を受ける傾向がある。全ての内部組織(骨を除く)の抵抗はごくわずかであるため,身体の抵抗(単位はΩ/cm2)は,主に皮膚によって規定される。皮膚が厚く乾燥していると抵抗は増す;乾燥している十分角化した無傷の皮膚では,平均20,000~30,000Ω/cm2である。抵抗は,厚く硬くなった手掌や足底では200万~300万Ω/cm2となることがある;対照的に,湿った薄い皮膚では約500Ω/cm2である。傷のある皮膚(例,切創,擦過傷,針穿刺)や湿った粘膜(例,口,直腸,腟)の抵抗は,200~300Ω/cm2と低いこともある。

皮膚の抵抗が高い場合は,より多くの電気エネルギーが皮膚で散逸することがあり,広範囲の皮膚に熱傷が生じるが,内部損傷は少ない。皮膚の抵抗が低い場合は,皮膚の熱傷は小さいかまたは生じず,より大きな電気エネルギーが内部構造に伝わる。したがって,外部の熱傷が存在しないからといって電撃傷がないとは予測されず,外部熱傷の重症度で電撃傷の重症度は予測されない。

パール&ピットフォール

  • 外部の熱傷が存在しないからといって電撃傷がないとは予測されず,外部熱傷の重症度で電撃傷の重症度は予測されない。

内部組織への損傷はその抵抗および電流密度(単位面積当たりの電流;同じ電流がより小さい面積を通って流れるとエネルギーが凝縮される)に依存する。例えば,電気エネルギーが上肢を流れるとき(例えば筋肉,血管,神経といった,主に抵抗の低い組織を通る),電流密度は関節部で増大するが,それは,関節断面のかなりの部分が抵抗の高い組織(例,骨,腱)から成り,抵抗の小さい組織の面積が小さくなっているためである;したがって,抵抗の低い組織への損傷は関節部で最も重度となる傾向がある。

電流が体内を通過する経路によって,どの構造が損傷するかが決まる。AC電流は絶えず方向が反転するため,よく用いられる用語の「流入部」および「流出部」は不適切である;「電源部」および「接地部」がより正確である。最も一般的な電源部は手,次いで頭部である。最も一般的な接地部は足である。左右の腕の間または腕と足の間を流れる電流は,心臓を通過する可能性が高く,不整脈を引き起こす可能性がある。この電流は両足間を流れる電流よりも危険である傾向がある。頭部への電流は中枢神経系を損傷させることがある。

電界強度

電界強度とは,電圧が印加された領域全体の電気の強さである。Kouwenhovenの因子に加えて,電界強度も組織損傷の程度を決定する因子となる。例えば,20,000V(20kV)が身長約2m(6フィート)の人の体全体に広がった場合,電界強度は約10kV/mとなる。同様に,110Vがわずか1cm(例,幼児の口唇の幅)に印加された場合,電界強度はほぼ同じく11kV/mとなる;この関係が,非常に低い電圧による損傷がより広範囲への高電圧による損傷と等しい重症度の組織損傷を引き起こすことがある理由である。逆に,電界強度ではなく電圧を考慮した場合,軽度のまたは微小な電撃傷を高電圧に分類することも厳密には可能である。例えば,冬にカーペットをすり足で横切ることによって受ける電撃は何千Vにもなるが,重大な損傷は生じない。

エネルギーが熱による損傷を起こすには不十分な場合でも,電界効果により細胞膜が損傷する可能性がある(電気穿孔)。

病理

低電界強度が印加された場合は,直ちに不快な(「感電」している)感覚が起こるが,重篤なまたは恒久的な損傷が起こることはめったにない。高電界強度が印加された場合は,熱性または電気化学的な損傷が内臓に生じる。起こりうる損傷には以下のものが含まれる:

  • 溶血

  • タンパク質凝固

  • 筋肉や他の組織の凝固壊死

  • 血栓症

  • 脱水

  • 筋肉および腱の剥離

高電界強度損傷は広範な浮腫を引き起こすことがあり,その結果,静脈内の血液が凝固して筋肉が腫脹するとコンパートメント症候群が生じる。広範な浮腫により,さらに循環血液量減少および低血圧が引き起こされることがある。筋肉の破壊により横紋筋融解症,ミオグロビン尿,および電解質異常が生じることがある。ミオグロビン尿,循環血液量減少,および低血圧により,急性腎障害のリスクが増大する。臓器機能障害の影響は,常に破壊された組織量と相関するわけではない(例,心室細動は比較的少ない組織破壊により起こりうる)。

症状と徴候

電流が不規則に深部組織に達した場合であっても,熱傷の境界が皮膚上に明瞭に現れることがある。中枢神経系の損傷または筋肉麻痺による,重度の不随意筋収縮痙攣心室細動,または呼吸停止が起こる可能性がある。脳,脊髄,および末梢神経の損傷により,様々な神経脱落症状が起こる可能性がある。入浴事故(濡れた[接地している]人間が110Vの回路[例,ヘアドライヤーやラジオによる]に接触した場合)の場合のように,熱傷を伴わずに心停止が起こることがある。

幼児は延長コードを噛んだり吸ったりして,口および口唇に熱傷を負うことがある。こうした熱傷により,審美上の変形が生じ,歯,下顎,および上顎の成長が障害されることがある。受傷して5~10日後に痂皮がはがれるときに生じる口唇動脈の出血が,そのような幼児の最大10%で起こる。

感電によって強い筋収縮や転落(例,はしごや屋根から)が生じ,脱臼(感電は肩関節後方脱臼の数少ない原因の1つである),脊椎または他の骨折,内臓への損傷,および他の鈍的な力による損傷に至ることがある。

損傷から1~5年後に,わずかまたは漠然とした神経学的,心理的,および身体的な続発症が生じ,重大な病態に至る可能性がある。

診断

  • 頭部からつま先までの全身診察

  • ときに,心電図,心筋逸脱酵素の測定,および尿検査

患者を電流から離した後直ちに心停止および呼吸停止がないか評価する。必要な蘇生を行う。初期蘇生の後,頭から足先まで診察して,外傷がないか確認する(特に患者が転倒したりはねとばされた場合)。

無症状の患者のうち,妊娠しておらず,心疾患の既往がなく,家庭用電流への短時間の曝露のみであった患者では,通常は身体内部または外部に重大な急性損傷は生じておらず,検査やモニタリングは不要である。他の患者については,心電図,血算,心筋逸脱酵素の測定,および尿検査(ミオグロビンがないか確認するため)を考慮すべきである。意識障害のある患者では,CTまたはMRIが必要になることがある。

治療

  • 電流の遮断

  • 蘇生

  • 鎮痛

  • ときに,6~12時間の心臓モニタリング

  • 創傷ケア

プレホスピタルケア

最優先することは,電流を遮断して(例,ブレーカーまたはスイッチを切る,装置をコンセントから外す)患者と電源との接触を絶つことである。高電圧および低電圧の送電線は常に容易に区別できるとは限らず,特に屋外では区別しにくい。注意:送電線が高電圧の可能性がある場合には,救助者への感電を避けるため,電力が遮断されるまで患者の解放を試みてはならない。

蘇生

評価中に患者の蘇生を行う。外傷または広範囲熱傷に伴うショックを治療する。標準的な熱傷用の輸液の公式は皮膚熱傷の面積に基づくものであり,電気熱傷における補液必要量が低く評価されることがあるため,そのような公式は使用しない。その代わり,十分な尿量(成人では約100mL/時,小児では1.5mL/kg/時)を維持するように輸液量を調節する。ミオグロビン尿では,十分な尿量の維持が特に重要であり,一方で尿のアルカリ化が腎不全のリスク低減に役立つ可能性がある。大量の筋組織の外科的デブリドマンも,ミオグロビン尿性腎不全の抑制に役立つことがある。

電気熱傷による重度の疼痛は,静注オピオイドの用量を慎重に調節して治療する。

その他の対策

無症状の患者のうち,妊娠しておらず,心疾患の既往がなく,家庭用電流への短時間の曝露のみであった患者では,通常は身体内部または外部に入院が必要となる重大な急性損傷は生じておらず,退院可能である。

以下の状態の患者に対して,6~12時間の心臓モニタリングが適応となる:

  • 不整脈

  • 胸痛

  • 心障害を示唆するもの

  • 妊娠(おそらく)

  • 心疾患の既往(おそらく)

適切な破傷風予防および熱傷創面のケアが必要である。疼痛は非ステロイド系抗炎症薬または他の鎮痛薬で治療する。

重大な電気熱傷がある患者は全て,専門の熱傷ユニットに紹介すべきである。口唇に熱傷を負った幼児は,そうした損傷に精通した小児矯正歯科医または口腔外科医へ紹介すべきである。

予防

身体に接触する,またはその可能性がある電気機器は,適切に絶縁し,接地し,事故防止用の遮断装置を備えた回路に組み込まれているべきである。漏電遮断器はわずか5mA程度の電流が地面に漏れても作動し,効果的でかつ入手も容易である。乳幼児がいる家庭では,コンセントガードによりリスクが低減する。

気体中の放電による損傷(アーク放電による損傷)を避けるために,ポールおよびはしごは高電圧の送電線の付近で使用すべきでない。

要点

  • 熱傷に加え,ACは手を電源に固着させることがあり,一方DCは患者をはねとばして損傷を負わせる可能性がある。

  • 皮膚の熱傷の重症度から内部損傷の程度は予測されないが,皮膚の抵抗が小さい場合,内部損傷はより重度になる。

  • 外傷の有無を含め,患者を徹底的に診察する。

  • 患者が無症状で,妊婦でなく,心疾患の既往がなく,家庭用電流への短時間の曝露のみであった場合を除き,心電図,血算,心筋逸脱酵素,尿検査,およびモニタリングを考慮する。

  • 重大な電気熱傷患者は専門の熱傷ユニットに紹介し,重大な内部損傷が疑われる場合は急速輸液を開始する。

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