腎外傷

執筆者:Noel A. Armenakas, MD, Weill Cornell Medical School
レビュー/改訂 2020年 12月
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腎損傷は有意な腹部外傷を負った患者の最大10%でみられる。全体として泌尿生殖器損傷の約65%に腎臓が関与している。腎臓は,泌尿生殖器の中で一般外傷(civilian trauma)で最も損傷を受けやすい臓器である。

ほとんどの腎損傷(全症例の85~90%)は鈍的外傷によるもので,典型的には交通事故,転倒・転落,または暴行に起因する。ほとんどの損傷は軽度である。合併損傷の頻度が最も高い部位は,頭部,中枢神経系,胸部,脾臓,および肝臓である。穿通性損傷は通常は銃創によって生じ,通常,複数の腹腔内損傷を伴う。最も頻度が高い損傷部位は胸部,肝臓,腸管,および脾臓である。

腎損傷は重症度に応じて以下の5つのgradeに分類される:

  1. Grade 1:被膜下血腫および/または腎挫傷

  2. Grade 2:尿溢出を伴わない深さ1cm以下の裂傷

  3. Grade 3:尿溢出を伴わない1cmを超える裂傷

  4. Grade 4:尿溢出を伴い集尿系に及ぶ裂傷;あらゆる腎血管分枝の損傷;腎梗塞;腎盂裂傷および/または腎盂尿管移行部の断裂

  5. Grade 5:活動性出血を伴う腎破砕または腎血流遮断;主要な腎血管の裂傷または引き抜き損傷

診断

  • 臨床的評価(バイタルサインの繰り返しの測定を含む)

  • 尿検査およびヘマトクリット

  • 高gradeの腎損傷が疑われる場合は,遅延撮影(最初の撮影から約10~15分後に撮影する)を用いた造影CT

血行動態が安定しており顕微鏡的血尿のみがみられる鈍的外傷の患者では,外科的修復の不要な軽微な腎損傷が通常は生じており,CTは不要である。

臨床検査にはヘマトクリットと尿検査を含めるべきである。

以下の所見を1つ以上認める鈍的外傷患者では,全例で高gradeの腎損傷を疑うべきである。

  • 低血圧(収縮期血圧90mmHg未満)とともに顕微鏡的血尿を認める

  • 肉眼的血尿を認める

  • 有意な減速損傷(例,高所からの転落,高速での交通事故)

  • シートベルト痕

  • びまん性の腹部圧痛

  • 側腹部への直接的な打撃

  • 下部肋骨または椎骨横突起骨折

抗凝固薬を使用している患者または先天性腎奇形を有する患者は,比較的軽微な外傷の後に肉眼的血尿を来すことがある。

高gradeの腎損傷が疑われる場合は,造影CTを施行して腎損傷の重症度を判定し,合併する腹腔内損傷および合併症(後腹膜出血,尿溢出など)を同定すべきである。最初に撮影を行ってから10~15分後に遅延撮影を行うべきである。腎損傷の特徴を明らかにしgradeを判定する,集尿系の損傷または腎盂尿管移行部の断裂を同定する,および合併する腹腔内損傷を同定するという目的において,CTは重要である。

パール&ピットフォール

  • 鈍的外傷後に顕微鏡的血尿のみがみられる患者の大半では,腎損傷の診断のための画像検査は必要ない。血尿の程度は,損傷の範囲と相関しない場合がある。

腹部および下胸部の穿通性外傷がある場合は,顕微鏡的または肉眼的血尿を呈する全例でCTが適応となる。さらに,持続性または遷延性出血の評価のために血管造影が適応となることがあり,選択的動脈塞栓術の併用も可能である。

小児の腎損傷も同様に評価するが,尿検査で赤血球数が強拡大視野当たり50個を上回る鈍的外傷の小児患者では,全例で画像検査が必要となる。小児は成人よりも高い血管緊張を維持するため,有意な失血にもかかわらず正常血圧を維持できる。

治療

  • バイタルサインの綿密なモニタリング下での絶対安静

  • 一部の鈍的腎損傷とほとんどの高gradeの穿通性腎損傷には外科的修復または血管造影による介入

鈍的腎損傷の大半(grade 1および2の全症例とgrade 3および4症例の大半)は,手術以外の方法で安全に管理できる。肉眼的血尿が消失するまで,絶対安静を維持するべきである。

以下を認める患者には迅速な介入が必要である:

  • 持続性出血(すなわち,繰り返しの輸血が必要になるほどの出血)

  • 拡大する腎周囲血腫

  • 腎茎部の引き抜き損傷または他の有意な腎血管損傷

  • 腎盂尿管移行部の断裂

介入としては手術,ステント留置,または選択的血管造影による塞栓術などがある。

穿通性外傷には通常は外科的検索が必要になるが,CTで腎損傷の程度を正確に確認でき,血圧が安定し,かつ他に手術を要する腹腔内損傷がない患者では,経過観察が妥当な場合がある。

要点

  • 戦場外で生じる泌尿生殖器損傷の大半に腎臓が関連し,その原因のほとんどは鈍的外力であり,大半が軽度である。

  • 中等度または重度の損傷が疑われる症例(例,肉眼的血尿,低血圧,有意な腎損傷を示唆する受傷機転または所見)では,造影CTを施行する。

  • 持続性の出血,拡大する腎周囲血腫,腎茎部の引き抜き損傷,または有意な腎血管損傷に対して,および腎盂尿管移行部の断裂に対しては,手術または治療目的での血管造影を考慮する。

  • 持続性の尿溢出に対しては尿管ステント留置術を考慮する。

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