重症(critically ill)患者における興奮,錯乱,および神経筋接合部遮断

執筆者:Cherisse Berry, MD, New York University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 11月
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集中治療室(ICU)患者はしばしば興奮,錯乱し,不快感を覚えている。せん妄を来すこともある(ICUせん妄)。これらの症状は患者本人にとって苦痛で,しばしば管理および安全確保の妨げとなる。最悪の場合,生命を脅かすこともある(例,患者が自分の気管内チューブまたは静脈ラインを抜去する)。

興奮および錯乱の病因

重症(critically ill)患者では,もともとの医学的状態,合併症,または治療もしくはICUの環境(重症患者における興奮または錯乱の主な原因の表を参照)が原因で,興奮,錯乱,またはその両方を来す。神経筋遮断薬の使用は,疼痛および興奮を隠すのみで,予防にはならないことを覚えておく必要がある;筋弛緩された患者が著しい苦痛を感じている可能性がある。

表&コラム

興奮および錯乱の評価

「興奮」に対して鎮静薬を指示する前に,カルテを見直し,患者を診察すべきである。

病歴

現在治療中の外傷または疾患は,原因としてまず疑われる。看護記録およびスタッフとの協議により,血圧および尿量の低下傾向(中枢神経系の血流低下を示唆)ならびに睡眠パターンの異常が明らかになることがある。鎮痛および鎮静に過不足がないか確認するため,薬剤投与記録を調べる。

潜在的な原因がないか,既往歴をチェックする。基礎疾患として肝疾患があれば,門脈大循環性脳症(肝性脳症)の可能性が示唆される。既知の物質依存または乱用があれば,離脱症候群が示唆される。

覚醒しており論理的な会話ができる患者には,何に困っているか尋ね,特に痛み,呼吸困難,および隠された物質依存について質問する。

身体診察

酸素飽和度が90%未満であれば,病因が低酸素であることが示唆される。血圧が低く尿量が少ない場合,中枢神経系の血流低下が示唆される。発熱および頻脈は,敗血症または振戦せん妄を示唆する。項部硬直は髄膜炎を示唆するが,この所見を興奮した患者ではっきりと指摘するのは難しい。神経学的診察における巣症状は,脳梗塞,脳出血,または頭蓋内圧亢進を示唆する。

興奮の程度はライカー鎮静興奮スケール(ライカー鎮静興奮スケール[Riker Sedation-Agitation Scale]の表を参照)またはラムゼイ鎮静スケール(Ramsay Sedation Scale)(「1:不安を示す」から「6:反応を示さない」までの尺度で患者を評価する)などの尺度を用いて定量化できる。Confusion Assessment Method(せん妄の診断のためのConfusion Assessment Methodの表を参照)により興奮の原因としてせん妄がないかスクリーニングできる。こういったスケールの使用により,異なる観察者の間で一貫した評価を維持し,変化の傾向を同定できる。神経筋接合部を遮断されている患者は,外見上は静止していても,実際にはひどく興奮し,不快感を覚えている可能性があるため,評価が難しい。そういった患者を評価するために,一般には定期的(例,1日1回)に筋弛緩を解除する必要がある。

表&コラム
表&コラム

検査

異常(例,低酸素症,低血圧,発熱)が見つかった場合,適切な検査で原因を解明すべきである。神経学的局所所見がある場合と他の病因が見つからない場合を除き,頭部CTをルーチンに行う必要はない。頭部にバイスペクトラルインデックス(BIS)を設置して大脳皮質の電気的活動をモニタリングすることは,神経筋接合部を遮断された患者の鎮静/興奮レベルを判断するのに役に立つ可能性がある。

興奮および錯乱の治療

基礎病態(例,低酸素症,ショック,薬剤)の治療に精力を注ぐべきである。治療の妨げにならない範囲で,可能な限り環境を最適化すべきである(例,夜間は暗く,静かな状態にし,睡眠妨害を最小限にする)。時計,カレンダー,窓の外の景色,およびテレビやラジオの番組は,患者と外の世界とのつながりに役立ち,錯乱を軽減する。家族がいることおよび特定の看護師が世話をすることで,患者の気分が落ち着く場合がある。

最も厄介な症状をもとに,薬物治療を決定する。痛みは鎮痛薬で治療する;不安および不眠は鎮静薬で治療する;精神病症状とせん妄は少量の抗精神病薬で治療する。気道または呼吸ドライブを危険にさらしうる用量の鎮静薬および鎮痛薬を投与する必要がある場合,挿管を要することがある。多くの薬剤が利用できる;頻回の神経学的診察が必要な患者または抜管に向けウィーニング中の患者に対しては,一般的に短時間作用型の薬剤が好まれる。

鎮痛

疼痛は適切な用量のオピオイド静注で治療すべきであり,痛みを生じる状態(例,骨折,手術創)にあって意識はあるが意思伝達ができない患者については,痛みがあるものと仮定し,状況に応じて鎮痛薬を投与すべきである。機械的人工換気はいくらかの不快感を伴うため,一般にオピオイドと鎮静薬を併用で投与すべきである。フェンタニルは,効力が強く,作用の持続時間が短く,心血管系への影響が最小限であることから,短期間の治療では第一選択のオピオイドである。一般的なレジメンはフェンタニル30~100μg/時である;患者によって必要な量が大きく変わる。

鎮静

鎮痛薬を投与しても,多くの患者では興奮状態が続き,鎮静薬が必要になる。少量の鎮痛薬に加えて鎮静薬を投与することでも患者を楽にできる。ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ロラゼパム,ミダゾラム)が最もよく用いられる。鎮静薬の一般的なレジメンはロラゼパム1~2mgを静注で1~2時間毎,または患者が挿管中の場合,1~2mg/時の持続静注である。これらの薬剤は,一部の患者で呼吸抑制,低血圧,せん妄,および生理学的効果の遷延といったリスクを有する。ジアゼパム,フルラゼパム,およびクロルジアゼポキシドなどの長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤は,高齢者には避けるべきである。抗コリン作用の少ない抗精神病薬,例えばハロペリドール1~3mg静注は,ベンゾジアゼピン系薬剤と併用した場合に最も効果的である。

短期間の鎮静には,催眠鎮静薬であるプロポフォール(例,健康な若年患者では1分間に5~50μg/kg)が用いられることがある。高用量プロポフォールの長期使用は,代謝性アシドーシス,横紋筋融解症,高脂血症,急性腎障害,心不全を特徴とするプロポフォール注入症候群(PRIS)のリスクを増大させ,しばしば致死的となる。

デクスメデトミジンは,抗不安作用,鎮静作用,およびある程度の鎮痛作用をもちながら,呼吸ドライブに影響を与えない。ベンゾジアゼピン系薬剤と比較してせん妄のリスクは低い。このため,デクスメデトミジンは機械的人工換気を要する患者においてベンゾジアゼピン系薬剤の代替薬として使用される頻度が高まっている。デクスメデトミジンによる鎮静は深く特徴的であり,人工呼吸管理下の患者でも,意思疎通をしたり容易に覚醒できるにもかかわらず,不快感を催さない。最も頻度の高い有害作用は低血圧および徐脈である。一般的な投与量は0.2~0.7μg/kg/時であるが,最大1.5μg/kg/時の投与を必要とする患者もいる。デクスメデトミジンは一般的には短期間(例,48時間未満)しか使用されない。

ケタミンは鎮痛および鎮静をもたらす解離性麻酔薬である。ケタミンは非競合性拮抗薬としてNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体に拮抗する。ケタミンの便益として,呼吸ドライブが維持できることや心血管抑制が最小限であることなどがある。ケタミンには気管支拡張薬作用もあり,喘息患者に有益となりうる。最も頻度の高い有害作用としては,喉頭痙攣および幻視などがある。典型的な用量は1~2mg/kg,静注,その後必要に応じて0.5~1mg/kg,静注である。

神経筋遮断薬

挿管された患者では,神経筋遮断薬を鎮静薬の代用とすることはできない;神経筋遮断薬は目に見える症状(興奮)を取り除くだけで,問題の解決にはならない。しかしながら,体動の抑制が必要になる検査(例,CT,MRI)または手技(例,中心静脈ライン挿入)の間,もしくは十分な鎮痛および鎮静にもかかわらず患者が人工換気に耐えられない場合,神経筋遮断薬が必要となることがある。鎮静薬(デクスメデトミジンを含む)が使用される場合,神経筋遮断薬が必要になることはまれである。

重度の肺損傷があり,安全に呼吸仕事量を達成できない場合を除き,長期間の神経筋遮断薬の使用は避けるべきである。1~2日を超える使用は,特にコルチコステロイドが同時に投与されている場合,長期的な筋力低下を引き起こすことがある。一般的なレジメンにはベクロニウムが含まれる(刺激に対する反応に応じて持続注入する)。

興奮および錯乱の要点

  • もともとの病態,急性疾患の合併症,治療,またはICUの環境から興奮,錯乱,またはその両方が引き起こされうる。

  • 原因はしばしば病歴および身体診察から示唆され,その後の検査の指針となる。

  • 原因を治療し(痛みに対する鎮痛薬の投与,錯乱を最小限にするための環境の最適化を含む),それでも興奮が残っていればロラゼパム,プロポフォール,デクスメデトミジン,またはケタミンなどの鎮静薬で管理する。

  • 神経筋遮断薬の使用は,疼痛および興奮を隠すだけである;筋弛緩された患者は著しい苦痛を感じている可能性がある。

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