気道管理は以下から成る:
上気道からの異物の除去
専用器具による気道開通性の維持
ときに呼吸補助
(呼吸停止の概要 呼吸停止の概要 呼吸停止と 心停止は異なるものであるが,無治療の場合,一方により必ず他方も引き起こされる。( 呼吸不全, 呼吸困難,および 低酸素症も参照のこと。) 肺のガス交換が5分を超えて途絶すると,重要臓器,特に脳が不可逆的に損傷を受ける可能性がある。呼吸機能が直ちに回復しない限り,心停止がほぼ必ず続発する。しかしながら,心停止前後およびその他の心... さらに読む も参照のこと。)
気道管理を必要とする徴候や病態は数多くある(気道管理が必要となる状況 気道管理が必要となる状況 の表を参照)。
気道確保の方法には以下のものがある:
頭部や頸部のポジショニングなどの基本的テクニック,腹部突き上げ法,および背部叩打法(意識のある成人に対するハイムリッヒ法 意識のある成人または小児に対するハイムリッヒ法 ハイムリッヒ法(腹部突き上げ法)は,異物(典型的には食物や玩具)で上気道が閉塞されて窒息しかけている患者に対し,迅速に行える応急処置である。必要に応じて胸部突き上げ法および背部叩打法も用いることができる。 ( 呼吸停止の概要および 気道確保および管理も参照のこと。) 異物による重度の上気道閉塞による窒息(窒息は,話せない,咳ができない,または十分な呼吸ができないことから示される)... さらに読む および 意識のある乳児における窒息の治療方法 意識のある乳児における窒息の治療方法 乳児の窒息は一般に,その子が口に入れた小さな物(例,食物,ボタン,硬貨,風船など)が原因で起こる。気道閉塞が重度であれば,背部叩打に続いて胸部突き上げを行うことで異物を除去する。 ( 呼吸停止の概要および 気道確保および管理も参照のこと。) 異物による窒息が原因で起こった乳児(1歳未満)における重度の上気道閉塞。 乳児における重度の気道閉塞の徴候には以下のものがある: チアノーゼ さらに読む も参照。)
声門上気道管理 気道確保および人工呼吸の器具 気道開通後も自発呼吸がなく,呼吸器具がない場合は,人工呼吸(口対マスクまたは口対バリアデバイス)を始める;口対口換気が推奨されることはほとんどない。呼気には酸素が16~18%と二酸化炭素が4~5%含まれており,これは血中の酸素と二酸化炭素値を正常値付近に保つのに十分な含有量である。必要以上に多量の送気は,胃膨隆を引き起こし,誤嚥のリスクを伴う可能性がある。 ( 呼吸停止の概要,... さらに読む (バッグバルブマスク バッグバルブマスク換気 バッグバルブマスク(BVM)換気は,呼吸停止または重度の換気不全のある患者に対し,人工換気を迅速に行う標準手段である。 ( 気道確保および管理, 頭部後屈あご先挙上法および下顎挙上法, 経口エアウェイの挿入,および 経鼻エアウェイの挿入も参照のこと。) BVM換気では,自己膨張式バッグ(蘇生バッグ)を非再呼吸式バルブに,そしてそれを顔の軟... さらに読む , ラリンジアルマスク ラリンジアルマスクの挿入 ラリンジアルマスク(LMA)換気は,意識のない患者または咽頭反射のない患者に人工換気を提供する方法であり,他のほとんどの効果的な換気方法より技術的に容易である。以前であれば気管挿管が必要であった多くの状況で麻酔医によって使用されている。 ( 気道の確保および管理ならびに 気道確保および人工呼吸の器具も参照のこと。) ラリンジアルマスク(LMA)は,一般的に用いられる声門上エアウェイである。LMAは口から挿入する声門上エアウェイであり,一... さらに読む など)
どのような気道管理の手法を使ったとしても,1回換気量は6~8mL/kg(以前の推奨よりかなり少ない),換気回数は8~10回/分(血行動態への悪影響を避けるため,以前の推奨よりかなり遅い)とすべきである。重度のエアトラッピングがある患者(例, 喘息の急性発作 喘息 喘息は,様々な誘発刺激により引き起こされ,部分的または完全に可逆的な気管支収縮を生じさせる気道のびまん性炎症疾患である。症状および徴候には,呼吸困難,胸部圧迫感,咳嗽,および喘鳴などがある。診断は病歴,身体診察,および肺機能検査に基づく。治療には誘発因子の制御および薬物療法があり,吸入β2作動薬および吸入コルチコステロイドが最も多く用いら... さらに読む , COPD 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,毒素の吸入(しばしばタバコ煙)に対する炎症反応によって引き起こされる気流制限である。比較的まれな原因として,非喫煙者におけるα1-アンチトリプシン欠乏症および様々な職業曝露がある。症状は数年かけて発現する湿性咳嗽および呼吸困難であり,一般的な徴候には呼吸音の減少,呼気相の延長,および喘鳴などがある。重症例で... さらに読む [慢性閉塞性肺疾患])では,一般的には換気回数をさらに減らし,また心停止後最初の数分間では,陽圧換気を使用しない受動的酸素投与が効果的であることが示されている。何らかの血行動態不安定がある患者でも,換気量および換気回数を減らすことが望ましい;ただし,陽圧換気は生理的な陰圧換気の対極にあることを覚えておくべきである。 心停止 心停止 【訳注:最新の情報については,2020 American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular careを,感染症を考慮した対応については,American Heart Association's... さらに読む 下では,生理的需要は非常に低くなっており,非心停止下では,血行動態の安定化および肺の保護のための低換気の便益が,許容範囲内の高炭酸ガス血症および中等度の低酸素症による悪影響を上回ることが多い。
異物の除去および上気道の確保
上気道の軟部組織による気道閉塞を開放し, バッグバルブマスク換気 バッグバルブマスク 気道開通後も自発呼吸がなく,呼吸器具がない場合は,人工呼吸(口対マスクまたは口対バリアデバイス)を始める;口対口換気が推奨されることはほとんどない。呼気には酸素が16~18%と二酸化炭素が4~5%含まれており,これは血中の酸素と二酸化炭素値を正常値付近に保つのに十分な含有量である。必要以上に多量の送気は,胃膨隆を引き起こし,誤嚥のリスクを伴う可能性がある。 ( 呼吸停止の概要,... さらに読む および喉頭鏡による観察に最適な姿勢をとらせるため,患者の頭部を挙上し頸部を伸展させて,外耳道が胸骨と同じ平面に位置し顔面が天井とおおよそ平行になるようにする(気道開通のための頭頸部の姿勢 気道開通のための頭頸部のポジショニング の図を参照)。この姿勢は以前に頭部後屈位と言われていたものとはわずかに異なる。顎下の軟部組織と下顎を挙上するか,下顎枝を上方向に押すことにより,下顎骨を上方に移動させるべきである(下顎挙上 下顎挙上 の図を参照)。
気道開通のための頭頸部の姿勢
A:ストレッチャー上で頭部が平坦となっている;気道は圧迫されている。B:顔面が天井に平行になるように,耳と胸骨切痕をそろえることで気道が開通する。Adapted from Levitan RM, Kinkle WC: The Airway Cam Pocket Guide to Intubation, ed.2.Wayne (PA), Airway Cam Technologies, 2007. |
下顎挙上
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解剖学的制限,様々の奇形,または外傷への配慮(例,骨折の可能性がある頸部を動かすことは推奨されない)により,頸部の定位が難しいことがあるが,可能であれば患者が最適な姿勢をとれるよう細心の注意を払うことで,気道が最大限に開通し,バッグバルブマスク換気および喉頭鏡による観察が容易になる。
義歯および中咽頭内の異物(例,血液,分泌物)による閉塞は,異物をさらに奥に入れないように注意しながら(乳児および幼児では奥に入る可能性が高いので,盲目的指拭法は禁忌である),中咽頭部の指拭および吸引を行うことで取り除くことがある。さらに奥にある異物は,マギル鉗子または吸引で取り除くことができる。
ハイムリッヒ法(横隔膜下で腹部を突き上げる)
ハイムリッヒ法(より詳細な説明については ハイムリッヒ法の手技 意識のある成人または小児に対するハイムリッヒ法 ハイムリッヒ法(腹部突き上げ法)は,異物(典型的には食物や玩具)で上気道が閉塞されて窒息しかけている患者に対し,迅速に行える応急処置である。必要に応じて胸部突き上げ法および背部叩打法も用いることができる。 ( 呼吸停止の概要および 気道確保および管理も参照のこと。) 異物による重度の上気道閉塞による窒息(窒息は,話せない,咳ができない,または十分な呼吸ができないことから示される)... さらに読む を参照)は,気道が開通するか患者が意識を失うまで上腹部または胸部(妊婦または極度の肥満患者の場合)を用手圧迫する方法であり,意識のある窒息患者では最初に行うことが望ましい。
意識のある成人では,救助者は患者の背後に立って腕を患者の体幹の中央に回す。片手は拳を握り,臍と剣状突起の中間に置く。その拳をもう一方の手で握り,両腕を引くことでしっかりした内側上方向きの圧迫が加えられる(立位または座位の患者での腹部突き上げ法 立位または座位の患者での腹部突き上げ法(意識がある場合) の図を参照)。
上気道閉塞のある意識のない成人では,まず CPR 成人における心肺蘇生(CPR) 【訳注:最新の情報については,2020 American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular careを,感染症を考慮した対応については,American Heart Association's COVID-19 Resuscitation Algorithmsを参照のこと。】心肺蘇生は... さらに読む (心肺蘇生)を行う。意識のある患者で腹部を用手圧迫すると胸腔内圧が上昇するのと同じ機序で,意識のない患者では胸骨圧迫によって胸腔内圧が上昇する。救助者は換気のたびに,その直前に咽頭を観察し,目に見える異物があれば指を使って除去すべきである。気道の近位部では,喉頭鏡直視下に吸引またはマギル鉗子を使用することで異物を除去できるが,異物が一旦声帯を超えてしまえば,閉塞部より下から陽圧をかけるのが最も成功する可能性が高い。
立位または座位の患者での腹部突き上げ法(意識がある場合)
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比較的年長の小児では, ハイムリッヒ法 意識のある成人または小児に対するハイムリッヒ法 ハイムリッヒ法(腹部突き上げ法)は,異物(典型的には食物や玩具)で上気道が閉塞されて窒息しかけている患者に対し,迅速に行える応急処置である。必要に応じて胸部突き上げ法および背部叩打法も用いることができる。 ( 呼吸停止の概要および 気道確保および管理も参照のこと。) 異物による重度の上気道閉塞による窒息(窒息は,話せない,咳ができない,または十分な呼吸ができないことから示される)... さらに読む が行われる場合がある。しかしながら,20kg未満の小児(通常,5歳未満)には,非常に控えめに圧力を加えるべきで,救助者は小児に跨がらずに足元にひざまずくべきである。
1歳未満の乳児では,ハイムリッヒ法を行うべきではない。乳児は頭を下げた状態でうつ伏せにする。救助者は片方の手の指で頭を支え,背中を5回叩く(背部叩打法―乳児 背部叩打法―乳児 の図を参照)。その後,乳児の頭を下に向け背部を救助者の大腿部にのせた姿勢(仰臥位)で胸部突き上げ法を5回行う(― 胸部突き上げ法―乳児 胸部突き上げ法―乳児 の図を参照)。この背部叩打と胸部突き上げ法の一連の処置を,気道から異物が除去されるまで繰り返す。より詳細な指示については, 意識のある乳児における窒息の治療方法 意識のある乳児における窒息の治療方法 乳児の窒息は一般に,その子が口に入れた小さな物(例,食物,ボタン,硬貨,風船など)が原因で起こる。気道閉塞が重度であれば,背部叩打に続いて胸部突き上げを行うことで異物を除去する。 ( 呼吸停止の概要および 気道確保および管理も参照のこと。) 異物による窒息が原因で起こった乳児(1歳未満)における重度の上気道閉塞。 乳児における重度の気道閉塞の徴候には以下のものがある: チアノーゼ さらに読む を参照。
背部叩打法―乳児
頭を下げた状態とし,異物を気管気管支内から除去する。(Adapted from Standards and Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation [CPR] and Emergency Cardiac Care [ECC], in the Journal of the American Medical Association 25:2956 and 2959, June 6, 1986. Copyright 1986, American Medical Association.) |
胸部突き上げ法―乳児
胸骨下部のちょうど乳頭より下の位置で胸部を圧迫する。 |