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高齢者の転倒

執筆者:

Laurence Z. Rubenstein

, MD, MPH, University of Oklahoma College of Medicine

レビュー/改訂 2019年 4月
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転倒とは,人が地面またはより低い平面に向かって倒れることと定義され,ときに体の一部が物体にぶつかることで転倒が中断される場合もある。一般的に,急性疾患(例,脳卒中,痙攣発作)または抗しがたい環境内の障害物(例,動いているものが当たる)により引き起こされた事象は,転倒とみなされない。

毎年,地域社会で生活する高齢者の30~40%が転倒する;介護施設入居者は50%が転倒する。転倒は,米国における事故死の主因であり,65歳以上では,死亡原因の第7位である。2017年には,転倒による死亡者数は65歳以上で31,190人であったのに対し,それより若年では5,148人であった;したがって,転倒による死亡例の85%は人口の13%を占める65歳以上で生じる(1 参考文献 転倒とは,人が地面またはより低い平面に向かって倒れることと定義され,ときに体の一部が物体にぶつかることで転倒が中断される場合もある。一般的に,急性疾患(例,脳卒中,痙攣発作)または抗しがたい環境内の障害物(例,動いているものが当たる)により引き起こされた事象は,転倒とみなされない。... さらに読む )。さらに,高齢者における300万人を超える救急外来受診の原因は転倒であった。転倒による損傷の医療費はメディケア(高齢者向け医療保険制度)だけでも2015年に310億ドルであり,間違いなく増加すると思われる(2 参考文献 転倒とは,人が地面またはより低い平面に向かって倒れることと定義され,ときに体の一部が物体にぶつかることで転倒が中断される場合もある。一般的に,急性疾患(例,脳卒中,痙攣発作)または抗しがたい環境内の障害物(例,動いているものが当たる)により引き起こされた事象は,転倒とみなされない。... さらに読む )。

転倒は高齢者の自立を脅かし,連鎖的に個人的および社会経済的な影響が発生する。しかし,ルーチンの病歴聴取および身体診察には一般的に転倒についての具体的な評価が含まれないため,患者に転倒による損傷がみられない場合には医師は転倒に気づかないことが多い。高齢者の多くは転倒を報告したがらないが,これは,転倒を加齢現象のせいにしているため,または報告後に活動を制限されたり,もしくは施設に収容されたりすることへの恐怖心を抱いているためである。

参考文献

病因

最も優れた転倒の予測因子は転倒歴である。しかし,高齢者の転倒の原因または危険因子が1つのみであることはまれである。通常,転倒は以下の因子の複雑な相互作用によって引き起こされる:

  • 内的因子(加齢に伴う機能低下,疾患,および薬物有害作用)

  • 外的因子(環境内の障害物)

  • 状況的因子(そのとき行っていた活動に関連するもの,例,トイレに急ぐ)

内的因子

加齢変化は(例,立位,歩行時,または座位での)平衡感覚および安定性の維持に関与する器官系を損ない,転倒のリスクを高めることがある。視力,コントラスト感度,深径覚,および暗順応が低下する。筋活動パターン,ならびに十分な筋力および速度を発生させる能力が変化すると,動揺(例,でこぼこした面に足を踏み出す,何かがぶつかる)に対して平衡感覚を維持または回復させる能力が低下することがある。実際,筋力低下は種類を問わず,転倒の主要な予測因子である。

慢性および急性疾患(転倒リスクの一因となる疾患 転倒リスクの一因となる疾患 転倒リスクの一因となる疾患 の表を参照)ならびに薬剤の使用(転倒リスクの一因となる薬剤 転倒リスクの一因となる薬剤 転倒リスクの一因となる薬剤 の表を参照)は,転倒の主要な危険因子である。転倒のリスクは使用薬剤数に応じて増大する。転倒および転倒に関連する損傷のリスクを増大させる薬剤として最も多く報告されるのは向精神薬である。

外的因子

環境因子が単独で,またはさらに重要なこととして,内的因子との相互作用によって転倒リスクを増大させることがある。姿勢の制御および可動性をより必要とする環境(例,滑りやすい場所の歩行時)の場合,および環境になじみがない場合(例,新しい家への転居時)にリスクが最も高まる。

状況的因子

特定の活動または決定事項によって,転倒および転倒に関連する損傷のリスクが高まることがある。例えば,話しながら歩行する,または複数の作業を同時に行い注意散漫となって,環境内の障害物(例,縁石または段差)に気づかない,トイレに急ぐ(特に夜間で完全に覚醒していない場合,または照明が不十分な場合),およびあわてて電話に出る行為はリスクを高める。

合併症

特に,フレイルで,既存の疾患の併存症(例,骨粗鬆症)および日常生活動作における障害(例,失禁)がある高齢者では,転倒が損傷,入院,および死亡のリスクを高め,転倒が繰り返し生じる場合には,特にこの傾向が強い。長期合併症には,身体機能低下,転倒への恐怖感,および施設収容などがある。報告によると,介護施設入所のうち転倒が一因となる割合は40%を超える。

高齢者の転倒のうち,損傷が生じる割合は50%を超える。ほとんどの損傷は非重篤(例,挫傷,擦過傷)であるが,転倒に関連する損傷は,65歳以上の患者の入院の約5%を占める。転倒の約5%で上腕骨,手関節,または骨盤の骨折が生じる。転倒の約2%で股関節骨折が生じる。転倒の約10%で,その他の重篤な損傷(例,頭部および身体内部の損傷,裂傷)が生じる。転倒に関連する損傷には,致死的なものもある。股関節骨折を負った高齢者の約5%は入院中に死亡する。股関節骨折が生じてから12カ月後の全死亡率は18~33%である。

転倒した高齢者の約半数は,介助がなければ起き上がることができない。転倒後,床に倒れた状態が2時間を超えて継続すると,脱水,褥瘡,横紋筋融解症,低体温症,および肺炎のリスクが増大する。

転倒後には,機能および生活の質が著しく低下することがある;股関節を骨折する前は歩行できていた高齢者のうち50%以上が,以前の移動性の水準を取り戻すことができない。転倒後の高齢者は再び転倒することへの恐怖感を覚えることがあり,その結果自信を失ってしまうため,ときに移動性が低下する。このような恐怖感から,特定の活動(例,買い物,掃除)を避けることさえある。活動が減少すると,関節のこわばりおよび筋力低下が増強し,さらに可動性が低下する。

評価

  • 臨床的評価

  • 動作性検査

  • ときに臨床検査

一部の転倒は,転倒に関連する損傷が明白であること,または損傷の可能性が懸念されることから,速やかに認識される。しかし,高齢者は転倒を報告しないことが多いため,年1回以上,転倒または移動性の問題について尋ねるべきである。

単回の転倒を報告した患者は,平衡感覚または歩行の問題の有無について,基本的なGet-Up-and-Go Testを用いて評価すべきである。本テストに際しては,患者が標準的な肘掛け椅子から立ち上がり,まっすぐ3m(約10フィート)歩き,方向転換し,歩いて椅子まで戻ってきて,再び座るまでを観察する。観察により,下肢の筋力低下,起立時もしくは着席時の平衡感覚の低下,または不安定歩行が検出されることがある。本テストではときに時間を計測する。12秒を超える場合は,転倒リスクの著しい増大を示す。

転倒の危険因子について患者をより詳しく評価する必要があるのは,以下の場合である:

  • Get-Up-and-Go Test時に支障があった患者

  • スクリーニング時に複数回の転倒を報告した患者

  • 最近の転倒後(急性損傷が同定され治療された後)に評価されている患者

病歴聴取と身体診察

危険因子のより詳しい評価が必要な場合は,内的因子,外的因子,および状況的因子のうち,それを標的とする介入によって低減できる因子の同定に焦点を置く。

直近の1回の転倒または複数回の転倒について自由回答式の質問を行い,次いで転倒がいつ,どこで生じ,そのとき何をしていたかについて,より詳しく質問する。その場に居合わせた人にも同じ質問をする。前駆症状または関連症状(例,動悸,息切れ,胸痛,回転性めまい,ふらつき)があったかどうか,および意識が消失したかどうかについて尋ねるべきである。明白な外的因子または状況的因子が関与していた可能性があるかどうかについても尋ねるべきである。病歴聴取には,過去および現在の医学的問題,処方薬およびOTC医薬品の使用状況,ならびに飲酒に関する質問を含めるべきである。将来の転倒のリスクを全て排除することはできないため,転倒後に介助がなくても再び立ち上がることができたかどうか,および損傷が生じたかどうか尋ねるべきである;目標は,将来の転倒による合併症のリスクを低減することである。

転倒の明白な内的原因を除外できるような包括的な身体診察を行うべきである。転倒が最近生じた場合は,体温を測定し,発熱が要因であったかどうか判定すべきである。心拍数および心拍リズムを評価し,明白な徐脈,安静時頻脈,または不整調律を同定すべきである。起立性低血圧を除外するため,血圧は仰臥位と,1分間および3分間立位をとった後に測定すべきである。聴診によって多様な心臓弁膜症を検出できる。必要であれば通常の矯正レンズを装用した状態で視力を評価すべきである。視力に異常があれば,オプトメトリストまたは眼科医がより詳細な視覚系の診察を行うべきである。頸部,脊椎,および四肢(特に下肢および足部)に筋力低下,変形,疼痛,および可動域の制限がないか評価すべきである。

神経学的診察 神経学的診察に関する序論 神経学的診察は,診察室に入ってくる患者を注意深く観察することから始まり,観察は病歴聴取の間も継続する。機能面の障害が明確になるように,患者への介助は最小限に留めるべきである。姿勢や歩容とともに,患者が診察台に移動する際の速さ,対称性,および協調運動を注意深く観察する。また患者の物腰,服装,および応答から,患者の気分および社会的適応について... さらに読む を施行すべきである;この検査には,筋力および筋緊張,感覚(固有感覚を含む),協調運動(小脳機能を含む),静止時の平衡感覚,および歩行の検査などがある。基本的な姿勢制御ならびに固有感覚系および前庭系はロンベルク試験(足をそろえて,開眼した状態および閉眼した状態で起立する)で評価する。高度な平衡機能を確かめる検査には,片足立ちテストおよび継ぎ足歩行テストなどがある。開眼した状態で10秒間片足立ちでき,かつ正確に3m(10フィート)継ぎ足歩行できれば,内的な姿勢制御異常があったとしても,軽微である可能性が高い。体位による前庭機能(例,Dix-Hallpike法― 眼振 眼振 眼振 を参照)および 精神状態 精神状態の評価 まず注意の持続時間を評価する;注意力のない患者は十分な協力ができず,診察を困難にする。認知機能低下を示唆する徴候があれば,精神医学的診察( Professional.see sidebar 精神医学的診察)を行う必要があり,その中で認知機能を以下のように多面的に検査する: 時間,場所,人の見当識... さらに読む を評価すべきである。

動作性検査

Performance-Oriented Assessment of MobilityまたはTimed Up-and-Go Testは,歩行時および他の動作時における平衡感覚および安定性の問題のうち,転倒リスクの増加を示す可能性がある問題を同定できる。これらの検査は,基本的なGet-Up-and-Go Testの施行が困難であった場合に特に役立つ。

臨床検査

標準的な診断評価はない。以下のような検査は病歴と診察に基づくべきであり,様々な原因の除外に役立つ:

  • 血算(貧血または白血球増多の確認)

  • 血糖値測定(低血糖または高血糖の確認)

  • 電解質測定(脱水の確認)

心電図検査,自由行動下の心臓モニタリング,心エコー検査などの検査は,心臓が原因であると疑われる場合に限り推奨される。頸動脈過敏症を特定するため,および最終的にペースメーカー治療が有効な患者を特定するため,管理された条件下(静脈ラインおよび心臓モニタリング)での頸動脈マッサージが提唱されている。脊椎X線および頭部CTまたはMRIは,病歴聴取および身体診察で新たな神経学的異常が検出された場合に限り適応となる。

評価に関する参考文献

予防

単回の転倒を報告し,かつGet-Up-and-Go Testまたは類似の検査で平衡感覚または歩行に問題が認められない患者に対しては,転倒リスクの低減に関する一般的な情報を提供すべきである。このような情報には,薬剤の安全な使用方法および環境内の障害物を減らす方法を含めるべきである(自宅評価チェックリスト 転倒リスクを高める障害物の自宅評価チェックリスト 転倒リスクを高める障害物の自宅評価チェックリスト の表を参照)。

理学療法および運動

2回以上転倒した患者,または平衡感覚および歩行の初回検査時に問題が認められた患者は,理学療法または運動プログラムに紹介すべきである。移動性が限られている場合は,自宅で理学療法および運動プログラムを施行できる。

理学療法士は,患者に合わせた運動プログラムを作成し,平衡感覚および歩行を改善させ,転倒リスクの一因となる特定の問題を是正する。

医療環境または地域社会における,より一般的な運動プログラムでも平衡感覚と歩行を改善できる。例えば,太極拳は効果的であり,1人またはグループで行うことができる。転倒リスクを低減する上で最も効果的な運動プログラムは,以下のようなものである:

  • 患者の障害に合わせて調整されている

  • 熟練した専門家によって提供されている

  • 十分な平衡感覚訓練の要素が組み込まれている

  • 長期間(例,4カ月以上)にわたって行われる

多くの高齢者施設,YMCA,またはその他のスポーツクラブが無料または低価格で,高齢者に合わせて作成されたグループ運動クラスを提供しており,このようなクラスは利用しやすさやアドヒアランスを確保するのに役立つ。転倒関連の費用減少による節約分は,これらのプログラムにかかる費用を上回る(3 予防に関する参考文献 転倒とは,人が地面またはより低い平面に向かって倒れることと定義され,ときに体の一部が物体にぶつかることで転倒が中断される場合もある。一般的に,急性疾患(例,脳卒中,痙攣発作)または抗しがたい環境内の障害物(例,動いているものが当たる)により引き起こされた事象は,転倒とみなされない。... さらに読む )。

補助器具

補助器具 治療器具および補助器具 矯正装具は,損傷した関節,靱帯,腱,筋肉,骨を支持する機能をもつ。ほとんどの器具は患者のニーズと解剖学的形態に合わせてカスタマイズされる。靴の中に入れるよう設計された矯正装具は,支持機能を有するだけでなく,患者の体重を足の別の部位に移動させることで,失われた機能を補ったり,変形や損傷を予防したり,体重の支持を補助したり,疼痛を緩和したりす... さらに読む (例,杖,歩行器)の使用が有益なことがある。筋肉または関節に片側性の軽微な障害が認められる場合は,杖で十分な可能性があるが,両側性の下肢筋力低下または協調運動障害に起因する転倒リスクが増大している場合には,歩行器,特に車輪付き歩行器がより適している(車輪付き歩行器は,それを適切にコントロールできない患者には危険である)。理学療法士は,このような器具を合わせたり,サイズを調整したり,使用方法を指導する助けとなる。

内科的管理

その他の特定の疾患が危険因子として同定された場合は,その疾患を標的とした介入が必要となる。例えば,パーキンソン病の場合は,薬物療法および理学療法によってリスクが低下することがある。疼痛管理,理学療法,およびときに人工関節置換術は,関節炎がある場合のリスクを低減することがある。適切なレンズ(2焦点または3焦点レンズよりも単レンズ)への変更または手術(特に白内障を除去する手術)は,視覚障害がある患者の助けになる。

環境管理

自宅における環境内の障害物を是正することによって,転倒リスクが低下することがある(自宅評価チェックリスト 転倒リスクを高める障害物の自宅評価チェックリスト 転倒リスクを高める障害物の自宅評価チェックリスト の表を参照)。状況的因子によるリスクを低減する方法についても指導すべきである。例えば,履物はヒールが低く,足関節をいくらか支持し,硬く,滑り止め加工されたミッドソールを備えているべきである。移動性が(例,重度の関節炎または不全麻痺によって)長期間制限された患者の多くは,内科,リハビリテーション,および環境面の方策の組合せが有益である。車椅子の適合支援(例,移動中のつまずきを減らすための着脱可能なフットプレート,後方への転倒を防止するための転倒防止バー),着脱可能なベルト,およびウェッジシートは,座位バランスが不良な患者または重度の筋力低下がある患者が車椅子に座っているとき,または移動しているときの転倒を防止する。

拘束は転倒の増加およびその他の合併症の発生につながることがあるため,一般に使用すべきではない。介護者によるサーベイランスの方が効果的で安全である。動作検知器を使用してもよいが,作動した警報器に迅速に対応するため,介護者が付き添っていなければならない。

介護施設の高リスク患者では,ヒッププロテクター(特別な下着に縫い込まれたパッド)が股関節骨折を減少させることが認められているが,地域社会で生活する高齢者では効果が低い。さらに,無期限にプロテクターを着用することをいやがる患者が多い。柔軟性のある床張り材(例,硬いゴム)は衝撃を分散させるのに役立つが,柔軟性が高すぎる床(例,軟質発泡体)は患者を不安定にすることがある。

転倒し,起き上がることができない場合にどうすればよいかについても,患者に指導すべきである。有用な方法としては,仰臥位から腹臥位に姿勢を変え,四つん這いになり,頑丈な支持面まで這って行き,それにつかまって起き上がるなどがある。家族または友人としばしば連絡をとること,床から届く位置に電話を置くこと,遠隔警報装置,または装着型の緊急時対応システム装置は,転倒後に床に横たわった状態が長時間続く可能性を低下させる。

予防に関する参考文献

より詳細な情報

要点

  • 毎年,地域社会で生活する高齢者の30~40%,介護施設入居者の50%が転倒する。

  • 介護施設入所のうち転倒が一因となる割合は40%を超え,65歳以上では,死亡原因の第7位である。

  • 原因は多因子によるものであり,加齢および疾患に関連する機能低下,環境内の障害物,および薬物有害作用などがある。

  • 患者に素因がないか,および自宅に障害物がないか評価する。

  • 可能な限り,原因となる疾患を治療し,原因となる薬物を変更するか,または投与中止し,環境内の障害物を是正する。

  • 2回以上転倒した患者,または平衡感覚および歩行の検査時に問題が認められた患者は,理学療法または運動プログラムが有益なことがある。

  • 床から立ち上がる方法を指導し,装着型の緊急通報装置の使用を考慮する。

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