高度看護施設

(介護施設)

執筆者:Debra Bakerjian, PhD, APRN, University of California Davis
レビュー/改訂 2020年 7月
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高度看護施設(SNF―介護施設とも呼ばれる)は,連邦メディケア基準に従って,州毎に免許を与えられ,認定される。高度看護施設は一般的に,65歳以上(およびより若年の障害者― see table 介護施設の概要)に幅広い健康関連サービスを提供する。サービスとしては以下のものがある:

  • 専門的看護(すなわち,医師が指示し,正看護師または准看護師のみが提供できるケア)

  • リハビリテーションサービス(例,理学療法,言語療法,および作業療法)

  • 保護型ケア(custodial care)(すなわち,食事,個人的ケア活動の介助)

  • 医学的に関連する社会サービス

  • 薬剤サービス

  • 各個人のニーズに適した食事サービス

介護施設によって提供されるケアの種類は異なる。多くの介護施設は,損傷または疾患(例,股関節骨折,心筋梗塞,脳卒中)後に,短期間の急性期後ケア(集中的な理学療法,作業療法,呼吸療法,言語療法,または集中看護を含む)を提供する。病院(スイングベッドを備えた地方病院を含む)または病院の傘下にあるかどうかを問わず,独立した施設が介護施設としての機能を果たすことがある。ほぼ全ての介護施設は長期ケアサービスをある程度提供し,多くの介護施設は,これ以外に地域社会を基礎としたサービス(例,デイケア,レスパイトケア)も提供する。

地域社会を基礎とした長期居住型ケア(例,高齢者向け独立型住居,老人ホーム,生活支援施設,生涯医療付き住宅地)が利用可能で,近くにあり,手頃な価格であれば,介護施設への入所は不要なことがある。入所は,患者が必要とする看護または支援的ケアの量と,特定の施設の収容能力に完全に依存しており,これらは非常に様々である。

長期介護施設に入所する割合が低下しているが,これは,無償の介護に大きく依存している生活支援施設および在宅ケアの利用が増加していることが一因である。

65歳以上のうち約45%は一時的に介護施設で過ごす;そのうちの50%以上が1年以上滞在し,そのうちの少数が施設で死を迎える。生涯に介護施設に入所する確率は慢性疾患数,可動性の状態,認知状態,および年齢と密接に関連する(例,65~74歳では,その確率は17%であるが,85歳以上では60%である)。

しかしながら,介護施設に住む人々の2倍もの機能的要介護状態の高齢者が地域社会の中で暮らしている。地域社会に暮らす全高齢者の約25%には,そのケアを助ける家族がいない。地域社会に暮らす高齢者の健康と医療ニーズに特に注意することで,その生活の質を高め,生存期間を延長させるとともに,施設入所を回避させることによってコスト抑制につながると考えられる。

表&コラム

高齢者ケアの概要も参照のこと。)

ケアの監督

介護施設への最初の入所は,医師が完了しなければならない。それ以降は,入所者のルーチンのフォローアップをナースプラクティショナーまたは医師助手(physician assistant)に委任することができ,その場合はナースプラクティショナーまたは医師助手は医師と交互に入所者を訪問する。訪問は,医学的な必要性に応じた頻度で行わなければならないが,最初の90日間は30日に1回以上,それ以降は60日に1回以上の頻度で行う;ただし,一部の州では,少なくとも30日に1回の訪問が義務づけられている。長期療養施設の患者の場合,州が単独診療を認めていれば,ナースプラクティショナーは単独で入所者(患者)のケアを提供できる。

ルーチンの訪問時には,患者の診察と投薬状況の評価を行うとともに,必要に応じて臨床検査を指示すべきである。所見はカルテに記録することにより,常に他のスタッフとの情報共有を行わなければならない。介護施設に限定して診療を行っている医師,ナースプラクティショナー,医師助手もいる。それらの医療従事者はチーム活動およびスタッフの教育に参加して,他のスタッフからのコンサルテーションに応じることができるため,2カ月毎の慌ただしい訪問よりも良好なケアの提供が可能になる。ナースプラクティショナーと医師が協力して患者の疾患を管理する場合もある。ナースプラクティショナーが抗菌薬の投与(適切な場合)と静脈ライン,吸引装置,ときに人工呼吸器のモニタリングを行うことで,入院の予防に役立つであろう。多くの医師はナースプラクティショナーや医師助手と密接に働き,チームベースのケアを提供する。

虐待を発見し,予防することも,医師,看護師,およびその他の医療従事者の職務である。高齢者のケアに関与する全ての医療従事者が虐待またはネグレクトの徴候を熟知し,虐待が疑われる場合に介入する準備を整えておくべきである。パブリック・アドボカシーのシステムが存在し,介護施設が規制当局から召喚されることがある。

連邦政府および州政府は,施設が優れたケアを提供していることを保証する法的責任を負う;検査官は,成績指標をモニタリングし,ケアを観察し,患者およびスタッフに聞き取りを行い,また臨床記録を検討することにより,施設の成果を評価し,不備を検出するよう努める。

入院

入院が必要になった場合,可能であれば,介護施設で患者をケアする医師は,病院でのその患者の担当医師と連携すべきである。しかし,入院には,医療関連感染などのリスクがあるため,可能な限り回避する。

転院時には,患者の医療記録とともに,生命維持治療に関する医師による指示書(Medical or Physical Orders for Life-Sustaining Treatment[MOLSTまたはPOLST])に加えて各自の事前指示書も患者に持たせるべきである。介護施設の看護師から病院の看護師への電話連絡は,診断および転院理由の説明,ならびにベースライン時の機能状態および精神状態,薬剤,および事前指示書について報告するのに有用である。同様に,病院から介護施設に戻る場合も,病院の看護師から介護施設の看護師へ電話連絡すべきである。多くの介護施設では,全ての転院についてSBAR(Situation,Background,Assessment],Recommendation[状況,背景,評価,提案])フォームを用い,必要な情報が病院に確実に提供されるようにしている(Institute for Healthcare ImprovementのSBARツールキットを参照)。

費用

介護施設でのケアは高額であり,2018年では1年当たり平均100,000ドルを超えている。米国における介護施設でのケアの費用は,1980年で210億ドル,2000年で700億ドル,2005年で1219億ドルであり,2015年では1570億ドルを超えた。連邦および州政府は,メディケア,メディケイド,およびU.S. Department of Veterans Affairs(VA)を通じて,費用の75%近くを支払っている。

償還に関連する問題

以下のような事項が示唆されている:

  • 償還率が低すぎて,特に認知症患者の生活の質を高めるリハビリテーションおよびサービスの利用が制限されている可能性がある。

  • 機能が制限された患者に対し回復ケアおよびリハビリテーションを提供しようとする経済的なインセンティブが不十分な可能性がある。

  • 介護施設は,償還が最大化されるように,要介護状態を助長するか,または高度なケアの必要性を維持しようという意識が働くことがある。

2019年10月,メディケアは高度看護施設の償還方法をResource Utilization Groups(RUGS)モデルからPatient Driven Payment Model(PDPM)モデルに変更した。RUGSでは,主に提供された治療サービスの量が支払い分類のベースとして用いられていたため,患者のニーズにかかわらずサービスを提供するインセンティブを高度看護施設に与えることとなった。PDPMでは,介護施設全体で提供されるサービスの量と比較して,患者に提供されるサービスを測定する。PDPMには,ケースミックスで調整された5つの要素(理学療法,作業療法,言語療法,看護および治療以外の補助的ケア)と,患者によって変化しない使用資源に対応するためにケースミックス調整なしの1つの要素が含まれている。

介護施設への入所

患者の希望およびニーズを最も効果的に判定できるのは高齢者総合的機能評価であり,この評価には,全ての疾患の同定および評価,ならびに患者の機能的能力の評価が含まれる。生活に支障を来す疾患または負担が大きい疾患(特によくみられるのは認知症,失禁,および不動状態)は,介護施設への入所を検討するきっかけになることがある。しかし,たとえわずかでも疾患が改善すれば,介護施設の必要性を未然に防げることがある( table numonly 介護施設への入所を回避する方策)。高齢者は長期ケアサービスの主たる利用者であり,それぞれに占める割合は以下の通りである(1):

  • 介護施設入居者の84%

  • ホスピス患者の95%

  • 居住型介護施設入居者の93%

  • 在宅ケア患者の82%

  • 成人デイサービス参加者の63%

表&コラム

選択

介護施設は提供される医療,看護,および社会サービスの種類が異なる。一部の州では,看護師・患者比について連邦政府の要件よりも厳しい最低基準を設定している;他のスタッフと患者の比率にはかなりばらつきがある。

医師,ナースプラクティショナーおよび医師助手は,サービスが患者のニーズに合う介護施設を家族が選択するのを助けるべきである。医療従事者は以下を考慮すべきである:

  • 介護施設が利用している臨床診療モデルはどれか(例,民間の1人の医師による診療,特定の介護施設群をルーチンに訪問するプライマリケア医の大規模ネットワーク)

  • 介護施設と搬送契約を結んでいるのはどの病院か

  • 利用可能な専門治療サービス,緩和ケア,ホスピス,急性期リハビリテーション,およびその他のサービスはどれか

  • スタッフは常勤か非常勤か

  • 患者の医療保険適用対象はどのようなものか(特に,適用されるのがメディケアの人頭割払いプログラムであり,実施中の医療の一部には適用されるが,長期保護型ケアには適用されない場合)

  • 介護施設で利用可能なサービスはどれか(例,理学療法,作業療法,言語療法)

  • どのような適切なレクリエーション活動が利用できるか

参考文献

  1. 1.Harris-Kojetin L, Sengupta M, Lendon JP, et al: Long-term care providers and services users in the United States, 2015–2016.National Center for Health Statistics.Vital Health Stat 3(43), 2019.

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Nursing Home Compare: Provides detailed information about every Medicare and Medicaid-certified nursing home

  2. LongTermCare.gov: The Administration for Community Living combined information from the Administration on Aging, the Administration on Intellectual and Developmental Disabilities, and the Department of Health and Human Services Office on Disability to provide information on long-term care access and cost

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