低リン血症性くる病

(ビタミンD抵抗性くる病)

執筆者:Christopher J. LaRosa, MD, Perelman School of Medicine at The University of Pennsylvania
レビュー/改訂 2020年 12月
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低リン血症性くる病とは,低リン血症,小腸でのカルシウム吸収不良,およびビタミンD不応性のくる病または骨軟化症を特徴とする疾患である。通常は遺伝性である。症状は骨痛,骨折,および成長障害である。診断はリン,アルカリホスファターゼ,および1,25-ジヒドロキシビタミンD3の血清中濃度による。治療法はリンとカルシトリオールの経口投与であり,X連鎖性低リン血症に対してはブロスマブを投与する。

家族性低リン血症性くる病は,通常はX連鎖優性の形質として遺伝する;他のパターンの家族集積もみられるが,まれである(1)。

後天性の散発例は,ときに良性の間葉系腫瘍を原因とし,その腫瘍から近位尿細管におけるリンの再吸収を抑制する液性因子が産生される(腫瘍性骨軟化症)。

総論の参考文献

  1. 1.Bitzan M, Goodyer PR: Hypophosphatemic rickets.Pediatr Clin N Am 66(1):179–207, 2019.doi: 10.1016/j.pcl.2018.09.004

病態生理

観察される異常は近位尿細管におけるリン再吸収の減少であるが,これにより腎臓でのリン喪失と低リン血症が発生する。この異常はフォスファトニンと呼ばれる循環因子に起因する。遺伝性低リン血症性くる病における最も重要なフォスファトニンは線維芽細胞増殖因子23(FGF-23)である。腸管でのカルシウムおよびリンの吸収も低下する。骨石灰化障害の原因は,カルシウム欠乏性くる病( see page ビタミンD欠乏症および依存症)におけるCa低値や副甲状腺ホルモン(PTH)高値ではなく,リン低値と骨芽細胞の機能障害である。1,25-ジヒドロキシビタミンD3値は正常または微減であることから,変換過程における異常が推測される(正常であれば低リン血症になると1,25-ジヒドロキシビタミンD3値は上昇する)。

低リン血症性くる病にはいくつかの病型がある(遺伝性低リン血症性くる病の病型の表を参照)。高カルシウム尿症を伴う遺伝性低リン血症性くる病(hereditary hypophosphatemic rickets with hypercalciuria:HHRH)の一病型は,近位尿細管に発現する2c型ナトリウム・リン共輸送体(NaPi2c)の遺伝子変異により発生することが知られている。この状況ではリン輸送の異常と低リン血症により,1,25-ジヒドロキシビタミンD3濃度が適切に上昇することで,高カルシウム尿症を来す。

表&コラム

症状と徴候

本症は,低リン血症単独から発育遅滞と低身長を伴う重度のくる病または骨軟化症まで,一連の異常から成るスペクトラムを構成する。通常は患児の歩行開始後に発症し,O脚やその他の骨変形,偽骨折(骨びらん領域に対し不十分に石灰化した類骨で置換された以前の疲労骨折領域を示す骨軟化症のX線所見),骨痛,および低身長を呈する。筋付着部の骨増生により運動制限を来すこともある。

食物性ビタミンD欠乏症にみられる脊椎または骨盤のくる病,歯のエナメル質欠損,およびテタニーは,低リン血症性くる病ではまれである。

HHRH患者は腎結石症や腎石灰化症で受診することもある。

診断

  • カルシウム,リン,アルカリホスファターゼ,1,25-ジヒドロキシビタミンD3,PTH,FGF-23,およびクレアチニンの血清中濃度

  • リンおよびクレアチニンの尿中濃度(リンの尿細管再吸収量を算出するため)

  • 骨X線

血清リン濃度は低値となるが,リンの尿中排泄量は高値である。カルシウムおよびPTHの血清中濃度は正常で,アルカリホスファターゼ濃度はしばしば上昇する。低リン血症によるカルシトリオール産生の刺激は起こらない。典型的には,カルシジオール濃度は正常である一方,カルシトリオール濃度は正常から低値である。カルシウム欠乏性くる病では,低カルシウム血症はみられるものの,低リン血症は軽度であるか全くみられず,尿中リン濃度が上昇することもない。

治療

  • リンおよびカルシトリオールの経口投与

  • X連鎖性低リン血症に対してブロスマブ

低リン血症性くる病の治療は,溶液または錠剤としての中性リン酸塩の投与による。小児での開始量は10mg/kg(リン元素として),1日4回である。リンを補充すると,イオン化カルシウム濃度が低下するとともに,カルシトリオールの変換が阻害される結果,続発性副甲状腺機能亢進症と尿中へのリン喪失の増悪を来す。そのため,ビタミンDをカルシトリオールとして経口投与する(最初は5~10ng/kg,1日2回)。ただし,これはHHRHまたはHHN(低リン血症,高カルシウム血症,および腎石灰化症)には適用されず,これらでは1,25-ジヒドロキシビタミンD3濃度が上昇しており,カルシトリオールの投与は有害となる可能性がある。

リンの投与量は,骨成長の獲得または骨痛の緩和のために増量が必要になる場合がある。下痢のためにリンの経口投与が制限される場合もある。治療により,血漿リン濃度の上昇,アルカリホスファターゼ濃度の低下,くる病の治癒,ならびに成長速度の改善が得られる。高カルシウム血症,高カルシウム尿症,それに腎機能低下を伴う腎石灰化症のために,治療が複雑になることがある。治療中の患者には頻回のフォローアップ評価が必要である。

ブロスマブは,X連鎖性低リン血症(XLH)に対する第1選択の治療法となり,上述の従来の治療法に取って代わった,抗FGF-23モノクローナル抗体である(1)。体重10kg未満の小児への投与は,1mg/kg(1mg単位に四捨五入),皮下注,2週に1回から開始する。生後6カ月から18歳未満で体重10kgを超える小児の場合,開始用量は0.8mg/kg(10mg単位に四捨五入),皮下注,2週に1回である。18歳以上の成人に対する開始用量は,1mg/kg(10mg単位に四捨五入),皮下注,4週に1回である。血清リン濃度を正常化するための必要に応じて,製造業者の指示に従って用量を最大2mg/kgまたは90mgまで漸増することができる。

鉄欠乏症は,骨におけるFGF-23の発現を亢進させ,FGF-23高値/FGF蛋白分解障害により状態を悪化させることがある。したがって,FGF-23高値の低リン血症状態にある鉄欠乏症患者には鉄の補充が不可欠である。

腫瘍性くる病の成人は,この疾患の原因となっている間葉系腫瘍を切除することで劇的に改善しうる。それ以外の場合,腫瘍性くる病はカルシトリオール5~10ng/kg,経口,1日2回とリン元素250mg~1g,経口,1日3回または1日4回により治療する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Imel EA, Glorieux FH, Whyte MP, et al: Burosumab versus conventional therapy in children with X-linked hypophosphataemia: A randomised, active-controlled, open-label, phase 3 trial.Lancet 393(10189):2416–2427, 2019.doi: 10.1016/S0140-6736(19)30654-3.Clarification and additional information.Lancet 394(10193):120, 2019.doi: 10.1016/S0140-6736(19)31426-6

要点

  • 腎臓でのリン再吸収の減少により,尿中へのリンの喪失と低リン血症が発生する。

  • リン濃度の低下と骨芽細胞の機能障害に起因して骨石灰化障害がみられる。

  • 発育遅滞,骨痛および骨変形(例,O脚),ならびに低身長がみられる。

  • 高カルシウム尿症を伴う低リン血症性くる病(hypophosphatemic rickets with hypercalciuria:HHRH)の患者は,腎結石症や腎石灰化症で受診することもある。

  • 血清リン濃度低値,尿中リン濃度上昇,ならびにカルシウムおよび副甲状腺ホルモンの血清中濃度正常の所見により診断する。

  • リンの経口サプリメントとHHRH以外ではビタミンD(カルシトリオールとして)の経口投与により治療する。

  • X連鎖性低リン血症にはブロスマブを使用する。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Manufacturer’s instructions: Dosing and administration information for burosumab

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