大半の先天性消化管異常は,何らかの腸閉塞を引き起こし,出生時または生後1~2日までに哺乳困難,腹部膨隆,および嘔吐で発症することが多い。 回転異常 腸回転異常症 腸回転異常症とは,子宮内での発生過程において腸管が腹腔内の正常な位置に収納されなかった状態である。診断は腹部X線による。治療は外科的修復である。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 腸回転異常症は,最も頻度の高い小腸の先天奇形である。出生200人当たり1例に無症候性の腸回転異常症がみられるが,症候性の腸回転異常症の頻度はこれより... さらに読む など転帰が非常に良好な先天性消化管奇形もある一方,死亡率が10~30%と比較的高い先天性 横隔膜ヘルニア 横隔膜ヘルニア 横隔膜ヘルニアとは,横隔膜の欠損部を介して腹腔内容が胸腔内に脱出した状態のことである。肺の圧迫により遷延性肺高血圧症を来すことがある。診断は胸部X線による。治療は外科的修復である。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 通常,横隔膜ヘルニアは全症例の95%が横隔膜の後外側部で発生し(ボホダレック孔ヘルニア),85%が左側に生じ,2... さらに読む など,転帰が不良な消化管奇形もある。
奇形の種類としては閉鎖が多いが,これは消化管の一部が正常な形成および発育を遂げられなかったことによる。最も頻度の高い病型は 食道閉鎖 食道閉鎖 食道閉鎖は,食道の不完全な形成による病態で,しばしば気管食道瘻を合併する。診断は経鼻または経口胃管が挿入できないことから疑われる。治療は外科的修復である。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 食道閉鎖は消化管閉鎖の中で最も頻度が高い。推定発生率は出生3500人当たり1例である。他の先天奇形が最大50%の症例でみられる。特に2つの... さらに読む であり,これに 空回腸閉鎖 空回腸閉鎖 空回腸閉鎖は,小腸の一部の形成が不完全となる病態である。診断は腹部X線による。治療は外科的修復である。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 空回腸閉鎖がある新生児では,通常,出生当日の後半から生後2日目までに,増強する腹部膨隆,便通不全,嘔吐,および哺乳困難で発症する。... さらに読む と十二指腸閉鎖が続く。
緊急処置として,腸管の減圧(持続的な経鼻胃管吸引で嘔吐[誤嚥性肺炎や呼吸困難を伴うさらなる腹部膨隆の原因となりうる]を予防する)を行い,新生児手術が可能な専門施設に紹介する。また,手術に向けて最善の状態に整えるため,体温の維持,10%ブドウ糖および電解質の静注による低血糖予防,ならびにアシドーシスおよび感染症の治療または予防が極めて重要である。
消化管奇形のある乳児は,約3分の1の頻度で他の先天奇形を合併する(先天性横隔膜ヘルニアの患児では最高50%, 臍帯ヘルニア 臍帯ヘルニア 臍帯ヘルニアとは,臍基部の正中部欠損孔から腹部内臓が脱出した状態のことである。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 臍帯ヘルニアでは脱出した内臓は薄い膜で覆われ,その嚢は小さい場合(腸係蹄数個のみ)もあれば,腹部内臓のほとんど(腸管,胃,肝臓)を含んでいる場合もある。差し迫った危険として,内臓の乾燥,露出した内臓からの水分蒸発に... さらに読む の患児では最高70%)ため,他の器官系(特に中枢神経系,心臓,および腎臓)の評価も行うべきである。
上部消化管閉塞
胎児の消化管に閉塞が起こると羊水の嚥下および吸収が阻害されることから,羊水が過剰(羊水過多 羊水過多 羊水過多とは過剰な羊水のことである;母体および胎児の合併症と関連がある。診断は超音波検査による羊水量の計測による。羊水過多に寄与している母体疾患を治療する。症状が重度であったり痛みを伴う早期子宮収縮を認める場合は,治療として羊水量の用手的な減量を行うことがある。 羊水過多の原因としては以下のものがある:... さらに読む )と診断された場合には,食道,胃, 十二指腸 十二指腸閉塞 十二指腸は閉鎖,狭窄,または腫瘤からの外的圧力によって閉塞する可能性がある。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) この奇形は消化管閉鎖で3番目に頻度が高い。推定発生率は出生5000~10,000人当たり1例である。十二指腸閉鎖の原因は,胎児十二指腸における疎通の異常である。この異常には,虚血または遺伝因子が関連している可能性があ... さらに読む ,ときに空腸部の閉塞を考慮すべきである。
分娩後に循環動態が安定したら,新生児の胃に経鼻胃管を挿入する。胃内に大量の液体が認められる場合,特にそれが胆汁色であれば,上部消化管閉塞が示唆され,一方でチューブが胃まで挿入できない場合は食道閉鎖(または鼻腔閉塞[例,後鼻孔閉鎖])が示唆される。
空回腸および大腸閉塞
( Professional.See page 胎便性イレウス 胎便性イレウス 胎便性イレウスは,異常に粘稠度の高い胎便によって生じる回腸末端の閉塞であり,嚢胞性線維症の新生児で最もよく起こる。胎便性イレウスは,新生児の小腸閉塞の最大33%を占める。症状としては,胆汁性嘔吐,腹部膨隆,出生後数日間の胎便の排泄不全などがある。診断は臨床像およびX線検査に基づく。治療はX線透視下に行う希釈造影剤の注腸,および注腸が失敗し... さらに読む および Professional.see page 胎便栓症候群 胎便栓症候群 胎便栓症候群は粘稠度の高い胎便による結腸閉塞である。診断はX線造影剤の注腸のほか,ときにヒルシュスプルング病の検査に基づく。治療はX線造影剤による注腸であるが,まれに外科的減圧が必要になる。 胎便栓症候群は通常,その他の点では健康な乳児に発生する。一般に,結腸機能の未熟性とみなされ,その結果として最初の排便が起こらない。... さらに読む 。)
空腸および回腸の閉塞は, 空回腸閉鎖 空回腸閉鎖 空回腸閉鎖は,小腸の一部の形成が不完全となる病態である。診断は腹部X線による。治療は外科的修復である。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 空回腸閉鎖がある新生児では,通常,出生当日の後半から生後2日目までに,増強する腹部膨隆,便通不全,嘔吐,および哺乳困難で発症する。... さらに読む , 回転異常 腸回転異常症 腸回転異常症とは,子宮内での発生過程において腸管が腹腔内の正常な位置に収納されなかった状態である。診断は腹部X線による。治療は外科的修復である。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 腸回転異常症は,最も頻度の高い小腸の先天奇形である。出生200人当たり1例に無症候性の腸回転異常症がみられるが,症候性の腸回転異常症の頻度はこれより... さらに読む ,または胎便性イレウスの結果として発生する。大腸閉塞は胎便栓症候群か,結腸または肛門の閉鎖(鎖肛 鎖肛 鎖肛とは,肛門が開口していない状態である。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 鎖肛において肛門を閉鎖している組織は,厚さが数cmに及ぶこともあれば,皮膚の薄い膜だけのこともある。しばしば瘻孔が発生するが,これは男児では肛門管から会陰部または尿道まで,女児では肛門管から腟,陰唇小帯,またはまれに膀胱までに及ぶ。... さらに読む )に起因するものが典型的である。
母親に羊水過多の病歴がみられない症例が全体の75%に及ぶが,これは胎児が嚥下する羊水の大部分が閉塞部より口側の腸管だけで吸収できるためである。これらの疾患のうち回転異常症,腸管重複症, ヒルシュスプルング病 ヒルシュスプルング病 ヒルシュスプルング病は,下部腸管(通常は結腸に限定される)の神経支配の先天異常であり,部分的または完全な機能的閉塞を引き起こす。症状は便秘と腹部膨隆である。診断は下部消化管造影と直腸生検による。肛門内圧検査が評価に役立つ可能性があり,内肛門括約筋の弛緩欠如が認められる。治療は手術である。... さらに読む 以外は,典型的には生後数日以内に哺乳困難,腹部膨隆,胆汁性または糞便性嘔吐などの症状で発症する。本症の新生児は最初に少量の胎便を排出するが,その後は便の排出がみられなくなる。回転異常,腸管重複症,およびヒルシュスプルング病は,生後数日で発症することもあれば,数年経ってから発症することもある。
一般的な診断アプローチと術前管理としては,以下のものが挙げられる:
経口栄養の禁止
腸管のさらなる膨満と吐物の誤嚥を予防するための経鼻胃管挿入
水・電解質平衡異常の是正
腹部単純X線
下部消化管造影による解剖学的形態の明確化(注腸には胎便栓症候群または胎便性イレウスにおける閉塞を軽減する効果もある)
ヒルシュスプルング病には直腸生検が必要である。
腹壁閉鎖の異常
いくつかの先天異常では,腹壁に欠損が生じ(例, 臍帯ヘルニア 臍帯ヘルニア 臍帯ヘルニアとは,臍基部の正中部欠損孔から腹部内臓が脱出した状態のことである。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 臍帯ヘルニアでは脱出した内臓は薄い膜で覆われ,その嚢は小さい場合(腸係蹄数個のみ)もあれば,腹部内臓のほとんど(腸管,胃,肝臓)を含んでいる場合もある。差し迫った危険として,内臓の乾燥,露出した内臓からの水分蒸発に... さらに読む , 腹壁破裂 腹壁破裂 腹壁破裂は,腹壁全層の欠損部から腹部内臓が脱出した状態であり,通常は臍帯付着部の右側に発生する。 ( 消化器系の先天異常の概要も参照のこと。) 推定発生率は出生2500人当たり1例である(臍基部の正中部欠損孔から腹部内臓が脱出する 臍帯ヘルニアより多い)。腹壁破裂では,臍帯ヘルニアとは異なり腸管が膜で覆われておらず,腸管は著明な浮腫および... さらに読む ),その結果として欠損部から内臓脱出が生じるようになる。