(成人における 肺炎の概要 肺炎の概要 肺炎は,感染によって引き起こされる肺の急性炎症である。初期診断は通常,胸部X線および臨床所見に基づいて行う。 原因,症状,治療,予防策,および予後は,その感染が細菌性,抗酸菌性,ウイルス性,真菌性,寄生虫性のいずれであるか,市中または院内のいずれで発生したか,機械的人工換気による治療を受けている患者に発生したかどうか,ならびに患者が免疫能... さらに読む および 新生児感染症の概要 新生児感染症の概要 新生児感染症は以下の経路で発生する: 子宮内で経胎盤的に,または破水を介して 分娩時に産道内で(分娩時感染) 出生後に外部の感染源から(分娩後感染) 頻度の高い原因ウイルスとしては, 単純ヘルペスウイルス, HIV, サイトメガロウイルス(CMV), B型肝炎ウイルスなどがある。HIVまたはB型肝炎ウイルスによる分娩時感染は,感染した産道... さらに読む も参照のこと。)
肺炎は,原発性敗血症後に生じる侵襲性細菌感染症で最も頻度の高いものである。早発型の肺炎は,出生時または出生後数時間以内に最初に出現する全身性敗血症の部分症である( Professional.see page 新生児敗血症 新生児敗血症 新生児敗血症は,新生児期に発生する侵襲性感染症であり,通常は細菌性である。徴候は非特異的なものが多数あり,具体的には自発運動の減少,哺乳力低下,無呼吸,徐脈,体温調節障害,呼吸窮迫,嘔吐,下痢,腹部膨隆,jitteriness,痙攣,黄疸などがある。診断は臨床所見と培養結果に基づいて行う。治療は,まずアンピシリンをゲンタマイシンまたはセフォタキシムと併用し,できるだけ速やかに起因菌に応じた薬剤に変更する。... さらに読む )。遅発型の肺炎は通常,生後7日以降に発生し,新生児集中治療室において肺疾患のために長期の気管挿管を必要とする乳児で最もよくみられる(人工呼吸器関連肺炎と呼ばれる)。
病因
感染は母親の生殖路または新生児室において生じる。具体的には,グラム陽性球菌(例, A群およびB群レンサ球菌 レンサ球菌感染症 レンサ球菌(streptococcus)は,咽頭炎,肺炎,創傷および皮膚感染症,敗血症,心内膜炎など,多くの疾患を引き起こすグラム陽性好気性細菌である。症状は感染臓器により異なる。A群β溶血性レンサ球菌による感染症の続発症としてリウマチ熱と糸球体腎炎がある。ほとんどの菌株はペニシリンに感受性を示すが,最近になってマクロライド耐性株が出現している。 ( 肺炎球菌感染症, リウマチ熱,および... さらに読む ,メチシリン感受性およびメチシリン耐性 黄色ブドウ球菌 ブドウ球菌感染症 ブドウ球菌はグラム陽性好気性細菌である。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は最も病原性が強く,典型的には皮膚感染症を引き起こすほか,ときに肺炎,心内膜炎,骨髄炎を引き起こすこともある。一般的には膿瘍形成につながる。一部の菌株は,胃腸炎,熱傷様皮膚症候群,および毒素性ショック症候群を引き起こす毒素を産生する。診断はグラム染色と培養による。治療には通常,ペニシリナーゼ抵抗性β-ラクタム系薬剤を使用する... さらに読む [Staphylococcus aureus])とグラム陰性桿菌(例, 大腸菌 大腸菌(Escherichia coli)感染症 大腸菌(Escherichia coli)はグラム陰性細菌であり,大腸内で最も多い好気性共生細菌である。特定の菌株が下痢を引き起こすほか,無菌部位(例,尿路)に侵入した場合には,全ての菌株が感染症を引き起こしうる。診断は標準の培養法による。下痢の原因同定に毒素検査が役立つことがある。抗菌薬による治療は感受性試験の結果を参考にする。 尿路感染症(UTI;最もよくみられる)... さらに読む [Escherichia coli], Klebsiella Klebsiella,Enterobacter,およびSerratia属細菌による感染症 グラム陰性細菌であるKlebsiella, Enterobacter,およびSerratia属細菌は,互いに非常に近縁の腸内常在菌であり,正常宿主で感染症を引き起こすことはまれである。診断は培養による。治療は抗菌薬による。 Klebsiella,Enterobacter,およびSerratia属細菌による感染症は,院内感染として発生することが多く,主とし... さらに読む 属, Proteus プロテウス感染症 プロテウス族(tribe Proteeae)は糞便菌叢を構成する細菌群であり,抗菌薬療法によって常在菌叢が乱された患者でしばしば感染症を引き起こす。 プロテウス族は少なくとも3属のグラム陰性菌から構成される: Proteus属:P. mirabilis,P. vulgaris,およびP. myxofaciens Morganella属:M... さらに読む 属)がある。広域抗菌薬の投与を受けたことのある乳児では, Pseudomonas属 シュードモナス(Pseudomonas)および関連感染症 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)とこの群のグラム陰性桿菌に属する他の菌種は日和見病原体であり,しばしば院内感染を引き起こす(特に人工呼吸器使用患者,熱傷患者,および好中球減少症または慢性衰弱のある患者において)。多くの部位に感染が起こり,通常は重症である。診断は培養による。抗菌薬の選択は起因菌により様々で,耐性がよくみられるため,感受性試験の結果に基づいて選択しなければならない。... さらに読む ,Citrobacter属,Bacillus属, Serratia Klebsiella,Enterobacter,およびSerratia属細菌による感染症 グラム陰性細菌であるKlebsiella, Enterobacter,およびSerratia属細菌は,互いに非常に近縁の腸内常在菌であり,正常宿主で感染症を引き起こすことはまれである。診断は培養による。治療は抗菌薬による。 Klebsiella,Enterobacter,およびSerratia属細菌による感染症は,院内感染として発生することが多く,主とし... さらに読む 属など,上記以外の多くの病原菌が認められることがある。一部の症例ではウイルスまたは真菌も原因となる。
症状と徴候
遅発型の院内肺炎は,原因不明の呼吸状態悪化と呼吸器分泌物の増加および質的変化(例,褐色で粘稠度が高い)を伴って発症する。体温調節障害および好中球減少を伴った急性発症もある。
診断
胸部X線
評価として,胸部X線,パルスオキシメトリー,血液培養,気管吸引液のグラム染色と培養などがある。
胸部X線では,持続する新しい浸潤影を認めるはずであるが,重度の 気管支肺異形成症 気管支肺異形成症(BPD) 気管支肺異形成症は典型的には長期間の人工換気によって生じる新生児慢性肺疾患であり,早産児の在胎期間および酸素投与所要量の程度によってさらに定義される。診断は酸素投与の必要性のほか,場合による換気補助の必要性が長期にわたったかどうかに基づく。治療は支持療法により行い,具体的には栄養補給,水分制限,利尿薬投与などのほか,ときに吸入気管支拡張薬や,最後の手段として吸入コルチコステロイドが用いられることもある。... さらに読む がある場合は気づかれにくいこともある。
気管吸引液のグラム染色において有意な数の多形核白血球と気管吸引液の培養で発育したものと一致する微生物が単独で認められた場合には,その微生物が肺炎の原因である可能性が高くなる。新生児の細菌性肺炎は播種を来す可能性があるため,腰椎穿刺を含めた 敗血症の精査 診断 新生児敗血症は,新生児期に発生する侵襲性感染症であり,通常は細菌性である。徴候は非特異的なものが多数あり,具体的には自発運動の減少,哺乳力低下,無呼吸,徐脈,体温調節障害,呼吸窮迫,嘔吐,下痢,腹部膨隆,jitteriness,痙攣,黄疸などがある。診断は臨床所見と培養結果に基づいて行う。治療は,まずアンピシリンをゲンタマイシンまたはセフォタキシムと併用し,できるだけ速やかに起因菌に応じた薬剤に変更する。... さらに読む も行うべきである。ただし,院内肺炎は血液培養では2~5%の症例でしか陽性とならない。
治療
通常はバンコマイシンおよび広域β-ラクタム系薬剤
早発型での抗菌薬療法は新生児敗血症に対するものと同様である。遅発型の院内肺炎の大半では,バンコマイシン(新生児に対するバンコマイシンの用量 新生児に対するバンコマイシンの用量 の表を参照)および広域β-ラクタム系(メロペネム,ピペラシリン/タゾバクタム,セフェピムなど― Professional.see table 新生児に対する主な注射用抗菌薬の推奨用量 新生児に対する主な注射用抗菌薬の推奨用量 )が第1選択の初期治療となる。このレジメンは,緑膿菌(P. aeruginosa)などの典型的な院内感染菌による肺炎だけでなく,敗血症の治療にもなる。経験的に抗菌薬を選択する場合は,地域の感染症および耐性菌のパターンを常に指標にすべきである。感受性試験の結果が出たら,より特異的な抗菌薬に変更する。全体的な治療は 新生児敗血症 治療 新生児敗血症は,新生児期に発生する侵襲性感染症であり,通常は細菌性である。徴候は非特異的なものが多数あり,具体的には自発運動の減少,哺乳力低下,無呼吸,徐脈,体温調節障害,呼吸窮迫,嘔吐,下痢,腹部膨隆,jitteriness,痙攣,黄疸などがある。診断は臨床所見と培養結果に基づいて行う。治療は,まずアンピシリンをゲンタマイシンまたはセフォタキシムと併用し,できるだけ速やかに起因菌に応じた薬剤に変更する。... さらに読む に対するものと同じである。
クラミジア肺炎
分娩中にクラミジアへの曝露が生じると,新生児が生後2~18週にクラミジア肺炎を発症することがある。患児は頻呼吸を呈するが,通常は重篤な状態には至らず,同じ原因菌が引き起こす 結膜炎 新生児結膜炎 新生児結膜炎は,化学的刺激物または病原性微生物に起因して眼から水様性または膿性分泌物が生じる病態である。抗淋菌薬の外用による出生時予防をルーチンに行う。診断は臨床的に行い,通常は臨床検査により確定する。治療は起因菌に特異的な抗微生物薬による。 ( 急性細菌性結膜炎および 新生児感染症の概要も参照のこと。) 新生児結膜炎の主要な原因は以下の通りである(頻度の高い順): 細菌感染 化学的炎症 さらに読む の病歴を伴うこともある。好酸球増多を認めることがあり,X線では過膨張像を伴う両側性の間質浸潤像を認める。
治療
エリスロマイシンまたはアジスロマイシン
典型的にはエリスロマイシン12.5mg/kg,経口,6時間毎,14日間またはアジスロマイシン20mg/kg,経口/静注,1日1回,3日間の投与により肺炎は消失する。ただし,ときに2コース目の投与が必要になることもある( Professional.see table 新生児における主な経口抗菌薬の推奨用量* 新生児における主な経口抗菌薬の推奨用量* )。新生児へのエリスロマイシン系薬剤の使用は 肥厚性幽門狭窄症 肥厚性幽門狭窄症 肥厚性幽門狭窄症とは,幽門筋の肥厚により幽門管の内腔が閉塞する病態である。診断は腹部超音波検査による。治療は手術による。 肥厚性幽門狭窄症では,胃の流出路がほぼ完全に閉塞することがある。乳児1000人当たり2~3例の頻度で発生し,5:1の比率で男児に多く,特に長男でよくみられる。生後3~6週で発生することが最も多く,12週以降はまれとなる。 肥厚性幽門狭窄症の正確な病因は解明されていないが,患者の同胞(特に一卵性双生児)および子孫でリス... さらに読む (HPS)の原因となる可能性があるため,エリスロマイシンまたはアジスロマイシンを投与する新生児には全例でHPSの症候についてモニタリングを行うべきであり,親には予想されるリスクについてカウンセリングを行うべきである。
母親のクラミジア感染症を放置すると骨盤内炎症性疾患や不妊症などの合併症を来す可能性があるため,Chlamydia trachomatis感染に続発した肺炎と診断した場合は,速やかに母親とそのパートナーの評価を行うべきである。