周産期の結核

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2020年 7月
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結核は周産期に感染することがある。症状と徴候は非特異的である。診断は培養のほか,ときにX線および生検による。治療はイソニアジドとその他の抗結核薬による。

(成人における See also page 結核および新生児感染症の概要を参照のこと。)

乳児は以下の経路で結核に感染する:

  • 臍静脈を介した胎児肝への経胎盤感染

  • 汚染された羊水の吸引または嚥下

  • 濃厚接触者(家族や新生児室スタッフ)からの空気感染

活動性肺結核の母親から出生した乳児は,化学予防とBCG(カルメット-ゲラン桿菌)ワクチン接種のどちらも受けない場合,約50%が生後1年以内に発症する。

症状と徴候

新生児結核の臨床像は非特異的であるが,通常は複数の臓器に及ぶことが大きな特徴となる。新生児では,急性型または慢性型のどちらの場合もあり,発熱,嗜眠,呼吸窮迫または難治性肺炎,肝脾腫,発育不良などがみられる。

診断

  • 気管吸引液,胃洗浄液,尿,および髄液の培養

  • 胸部X線

  • ときに皮膚テスト

先天性結核が疑われる全ての新生児と活動性結核の母親から出生した乳児には,胸部X線と気管吸引液,胃洗浄液,および尿の抗酸菌培養を行うべきであり,また髄液中の細胞数,糖,タンパク質の測定と髄液培養を行うために腰椎穿刺を施行すべきである。同様に,胎盤も検査して培養を行う。皮膚テストは感度がそれほど高くないが(特に初期の場合),行うべきである。結核に特異的なインターフェロンγ遊離試験は,成人では有用であるが,乳児での使用は感度の低さから承認されていない。確定診断には肝臓,リンパ節,肺,または胸膜の生検が必要となることがある。乳児のHIV検査も行うべきである。

皮膚テスト陽性であるが胸部X線は陰性で活動性疾患の所見を認めない母親から出生した,健康そうに見える(well-appearing)新生児には,綿密なフォローアップを行い,家族全員の評価を行うべきである。活動性結核患者への曝露がなければ,新生児に対する治療および検査の必要はない。出生後に活動性結核患者への有意な曝露があったことが判明した場合は,前述の通り,結核疑いとして新生児の評価を行うべきである。

パール&ピットフォール

  • 皮膚テストは,周産期の結核に対する感度が(特に初期には)それほど高くないが,行うべきである。

治療

  • 皮膚テスト陽性または高リスク曝露を認める場合は,イソニアジド(INH)を投与する

  • 結核がある場合は,他の薬剤(例,リファンピシン,エタンブトール,エチオナミド,ピラジナミド,アミノグリコシド系薬剤)を追加する

管理方針は,活動性結核があるか,発病はなく感染を示す皮膚テスト陽性(母親,乳児,または両者)のみであるかによって異なる。

ツベルクリン反応陽性の妊婦

妊婦に対して活動性結核の評価を行う。活動性結核が除外された場合は,INHの肝毒性は妊娠中に増強するため,またツベルクリン反応陽性の母親から結核が伝播するリスクは胎児より新生児で高いため,INHの使用は分娩後まで延期する。ただし,妊婦に感染性結核患者との最近の接触歴がある場合(この状況では有益性がリスクを上回る)には,9カ月間の治療を行うとともに,ピリドキシンのサプリメントを投与する。感染性のある結核に曝露した妊婦の治療は,第1トリメスターの終了まで延期すべきである。

ツベルクリン反応陽性の新生児

発病を示唆する臨床所見,臨床検査結果,X線所見がいずれも認められない新生児には,INHを10~15mg/kg,経口,1日1回で9カ月間投与し,注意深くモニタリングすべきである。完全母乳栄養の新生児には,ピリドキシン1~2mg/kgを1日1回経口投与すべきである。

活動性結核の妊婦

妊娠中における推奨用量でのINH,エタンブトール,およびリファンピシンの使用がヒトの胎児に対して催奇形性を示すかどうかは明らかにされていない。米国で推奨されている初期の経口治療のレジメンには,INH 300mg,エタンブトール15~25mg/kg(最高2.5g),およびリファンピシン600mgが含まれている。INHの投与を受けている全ての妊婦および授乳婦は,ピリドキシン25~30mgの経口投与も受けるべきである。これらの薬剤は全て1日1回で投与できる。推奨投与期間は最低9カ月間であり,耐性菌の場合は,感染症専門医へのコンサルテーションが推奨され,18カ月間までの投与期間延長が必要になることもある。

ストレプトマイシンは発育過程の胎児に対して聴器毒性をもたらす可能性があるため,リファンピシンの禁忌がない限り,妊娠早期に使用してはならない。その他の抗結核薬については,催奇形性があるか(例,エチオナミド),妊娠中の使用経験が不足しているため,可能であれば使用を避けるべきである。

授乳は,母親が治療を受け,感染性がなければ禁忌ではない。

活動性結核患者については,米国では地域の保健局に報告すべきである。活動性結核の母親にはHIV検査を行うべきである。

母親が活動性結核であるか,活動性結核患者との濃厚接触がある無症状の新生児

これに該当する新生児には,前述の先天性結核の評価を行い,通常は母親と新生児の両者に効果的な治療が行われるまで母子分離とする。先天性結核が除外され,新生児にINHが投与された場合は,母親(または家庭内接触者)に多剤耐性菌感染の可能性がある場合,およびアドヒアランスが不良(結核が活動性の場合マスクを着用しないなど)で直接服薬確認療法が不可能である場合を除いて,母子分離はもはや不要である。乳児を帰宅させる前に,家族の接触者に未診断の結核感染者がいないか調べるべきである。

アドヒアランスを合理的に保証でき,かつ家族に結核感染者が認められない(すなわち,母親が治療中で他に感染リスクがない)場合は,新生児に対してINHの投与を10~15mg/kg,経口,1日1回のレジメンで開始し,通常通りの時期に帰宅させる。完全母乳栄養児には,ピリドキシン1~2mg/kgを1日1回経口投与すべきである。

生後3または4カ月時点で皮膚テストを行うべきである。新生児がツベルクリン反応陰性で,かつ最初の感染性接触者が治療を遵守しており,良好な反応が得られている場合には,INHを中止する。皮膚テスト陽性の場合は,上述と同様に胸部X線および抗酸菌培養を行うとともに,活動性結核が除外された場合にはINHの投与を合計9カ月間継続する。時期を問わず培養で結核陽性となった場合は,新生児に対して活動性結核の治療を行う。

結核感染者がいない環境でアドヒアランスを保証できない場合は,新生児へのBCGワクチンの接種を考慮してもよいが,INHによる治療を可及的速やかに開始すべきである。(INHはBCGの増殖を阻害するが,BCGワクチンとINHの併用は,複数の臨床試験および症例報告により妥当性が示されている。)BCGワクチンの接種は,結核への曝露や結核の発生を必ずしも予防できるわけではないが,重篤で広範囲の侵襲(例,結核性髄膜炎)には有意な防御効果を示す。BCGは,新生児の皮膚テストおよびHIV検査が陰性である場合にのみ接種すべきである。新生児に対して結核発病のモニタリングを行うべきである(特に生後1年間)。

(注意:免疫抑制状態の患者とHIV感染が疑われる患者ではBCGワクチンの接種は禁忌である。しかしながら,高リスク集団においては,HIVに感染した無症状の新生児には出生時またはその後間もなくBCGワクチンを接種するように世界保健機関[World Health Organization:WHO]は推奨している[米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)と異なる]。

活動性結核の新生児

先天性結核に対しては,米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)は,INH 10~15mg/kg,経口,リファンピシン10~20mg/kg,経口,ピラジナミド30~40mg/kg,経口,およびアミノグリコシド系薬剤(例,アミカシン)で構成される1日1回投与の治療を推奨している(新生児における主なアミノグリコシド系抗菌薬の推奨用量の表を参照)。耐性菌に関する検査結果に基づき適応があれば,このレジメンに変更を加えるべきである。完全母乳栄養の新生児の場合は,ピリドキシンを投与する。エタンブトールについては,眼毒性があり,発生した場合に新生児では評価が不可能であるため,通常は使用されない。

出生後に感染した結核に対して提唱されている経口レジメンは,INH 10~15mg/kg,リファンピシン10~20mg/kg,およびピラジナミド30~40mg/kgの1日1回投与である。薬剤耐性または結核性髄膜炎が疑われる場合と,結核患者のHIV感染率が5%以上の地域に居住する小児の場合は,エタンブトール20~25mg/kg,経口,1日1回やエチオナミド7.5~10mg/kg,経口,1日2回(または5~6.67mg/kg,経口,1日3回),アミノグリコシド系薬剤など,第4の薬剤を追加すべきである。治療開始から2カ月以降は,INHおよびリファンピシンを6~12カ月のコース(疾患カテゴリーに応じて)を終了するまで継続し,他の薬剤を中止する。母乳栄養児にはピリドキシンを投与すべきである。

中枢神経系が侵されている場合は,初期治療にコルチコステロイド(プレドニゾンを2mg/kg,経口,1日1回[最高60mg/日]で4~6週間投与し,その後漸減する)も含める。その他の治療は,髄膜炎の徴候が全て消失し,少なくとも1週間の間隔を置いた連続2回の腰椎穿刺で培養陰性となるまで継続する。それ以降はINHおよびリファンピシンの1日1回または週2回投与による治療をさらに10カ月間継続できる。重度の粟粒結核,胸水,心嚢液貯留,または気管支内病変がみられる乳児および小児,および腹部結核がみられる乳児および小児にも,コルチコステロイドを考慮することができる。

乳児および小児の結核のうち,先天性感性ではなく,播種を来しておらず,かつ中枢神経系,骨,関節のいずれにも及んでおらず,さらに起因菌が薬剤に感受性を示すものは,6~9カ月間(合計)の治療で効果的に治療することができる。小児または母親から分離された菌には,薬剤感受性試験を行うべきである。血液,肝臓,および耳の症状について頻回のモニタリングを行い,治療に対する反応と薬物毒性を評価すべきである。頻回の臨床検査は通常必要ない。

アドヒアランスと治療成功率を改善するため,可能であれば常に直接服薬確認療法を行う。多くの抗結核薬が小児用量では入手できない。可能であれば,それらの薬剤の小児への投与は経験豊富な医師が行うべきである。

予防

新生児全例を対象とするBCG接種は,先進国ではルーチンに適応となることはないが,感染リスクが高い集団においては,小児結核の発生率を抑制するか,重症度を低下させる可能性がある。

要点

  • 結核は経胎盤感染,汚染された羊水の吸引,または出生後の空気感染によって発生する。

  • 新生児結核の症状は非特異的であるが,通常は複数の臓器(肺,肝臓,中枢神経系など)が侵される。

  • 胸部X線と気管吸引液,胃洗浄液,尿,および髄液の結核菌培養を行う。

  • 皮膚テスト陽性または高リスク曝露がみられる場合には,イソニアジド(INH)を投与する。

  • 活動性結核に対しては他の薬剤(例,リファンピシン,エタンブトール,ピラジナミド,エチオナミド,アミノグリコシド系薬剤)を追加する。

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