双極性障害は,典型的には青年期中期から20代中盤にかけて発症する。多くの小児において,初発症状は1回以上の 抑うつ 小児および青年における抑うつ障害 抑うつ障害は,機能の障害やかなりの苦悩を発生させるほど重度または持続的な悲しみまたは易怒性を特徴とする。診断は病歴および診察による。治療は,抗うつ薬,支持療法および認知行動療法,またはこれらの治療法の組合せによる。 (成人における 抑うつ障害群の考察も参照のこと。) 小児および青年の抑うつ障害としては以下のものがある: 重篤気分調節症 うつ病 さらに読む エピソードである。(成人における 双極性障害 双極性障害 双極性障害は,躁病エピソードおよび 抑うつエピソードにより特徴づけられ,これらは交互に生じることもあるが,多くの患者はどちらか一方が優勢である。正確な原因は不明であるが,遺伝,脳内神経伝達物質の変化,および心理社会的因子が関与する可能性がある。診断は病歴に基づく。治療は気分安定薬の投与で構成され,ときに精神療法を併用する。 通常,双極性障害は10代,20代,または30代で発症する(... さらに読む も参照のこと。)
双極性障害は小児ではまれである。以前,双極性障害は強烈で不安定な気分により機能障害の起きた思春期前の小児に診断されていた。しかしながら,そのような小児は双極性障害ではなく抑うつ障害に進行するのが典型的であるため,現在では 重篤気分調節症 重篤気分調節症 抑うつ障害は,機能の障害やかなりの苦悩を発生させるほど重度または持続的な悲しみまたは易怒性を特徴とする。診断は病歴および診察による。治療は,抗うつ薬,支持療法および認知行動療法,またはこれらの治療法の組合せによる。 (成人における 抑うつ障害群の考察も参照のこと。) 小児および青年の抑うつ障害としては以下のものがある: 重篤気分調節症 うつ病 さらに読む に分類されている。
病因
双極性障害の病因は不明であるが遺伝が関与している。セロトニンおよびノルアドレナリンの調節異常が関与している可能性や,ストレスとなるライフイベントも関与している可能性がある。
特定の薬剤(例, コカイン コカイン コカインは,中枢刺激作用と多幸作用がある交感神経刺激薬である。高用量の使用は,パニック,統合失調症様症状,痙攣発作,高体温,高血圧,不整脈,脳卒中,大動脈解離,腸管虚血,および心筋梗塞を引き起こすことがある。中毒の管理は,(激越,高血圧,および痙攣発作に対する)静注ベンゾジアゼピン系薬剤や(高体温に対する)冷却法などの支持療法により行う。離脱症状は,主に抑うつ,集中困難,および傾眠(コカインウォッシュアウト症候群)として現れる。... さらに読む , アンフェタミン アンフェタミン アンフェタミンは中枢刺激作用と多幸作用がある交感神経刺激薬であり,その中毒性有害作用には,せん妄,高血圧,痙攣発作,および高体温がある(これらは横紋筋融解症や腎不全を引き起こすことがある)。中毒の管理は,静注ベンゾジアゼピン系薬剤(激越,高血圧,および痙攣発作)や冷却法(高体温)などの支持療法により行う。典型的な離脱症候群は存在しない。 このクラスの元となった薬物であるアンフェタミンは,そのフェニル環上の様々な置換によって修飾された結果... さらに読む , フェンシクリジン ケタミンおよびフェンシクリジン(PCP) ケタミンとフェンシクリジンは解離性麻酔薬であり,中毒をもたらし,ときに錯乱または緊張病状態を伴う。過剰摂取は昏睡を引き起こし,まれに死亡することがある。 ケタミンとフェンシクリジン(PCP)は化学的に関連した麻酔薬である。これらの薬剤は,リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)などの他の 幻覚剤の混ぜ物または偽物として用いられることがしばしばある。 ケタミンは液体または粉末の剤形で入手可能である。違法使用される場合,粉末剤は一般に鼻から吸引さ... さらに読む ,特定の抗うつ薬)および環境有害物質(例,鉛)もまた,本障害を増悪させるか,この障害と類似の病態を引き起こす可能性がある。特定の疾患(例,甲状腺疾患)も同様の症状を引き起こす可能性がある。
症状と徴候
双極性障害の特徴は躁病エピソードである。躁病エピソードと抑うつエピソードが交互に現れるが,後者の方が頻度が高いことがある。青年における躁病エピソードの間は,気分は非常にポジティブか過敏かのどちらかであり,しばしば社会環境に依存して交互に2つの気分が出現する。発話が速くかつ圧迫されており,睡眠時間は減少し,自尊心が高揚する。躁病は精神病的領域に達することもある(例,「私は神とともにある」)。判断機能が重度に障害され,危険な行動(例,見境のない性交,無謀運転)をとることがある。
思春期前の小児は劇的な気分状態を経験するものの,そうした気分状態の持続時間は青年と比べてはるかに短い(わずかの間しか継続しないことが多い)。
発症が潜行性であるのが特徴的であり,その典型的な病歴は,常に極めて気まぐれで扱いづらいというものである。
診断
臨床的評価
原因となる有害物質の検査
双極性障害の診断は,上述の躁病の症状の同定に加えて,寛解および再発の既往に基づく。
薬物乱用および環境有害物質の薬毒物スクリーニングなど適切な評価により,いくつかの疾患(例,甲状腺疾患,脳の感染症または腫瘍)および薬物中毒を除外しなければならない。面接者はまた,重度の精神的ストレス(例,性的虐待,近親相姦)など,誘因となる出来事の検索も行うべきである。
予後
青年期発症の双極性障害の予後は多様である。軽度から中等度の症状をもつ患者,治療反応の良好な患者,治療を遵守し協力的であり続ける患者では,予後は非常に良好である。しかし,治療に対する反応はしばしば不完全であり,また青年が服薬に関して遵守不良であることは周知の事実である。そのような青年では,長期予後はあまり良好ではない。
高度に不安定で強烈な気分に基づき双極性障害の診断を受けた思春期前の小児の長期予後については,ほとんど知られていない。
治療
気分安定薬および抗うつ薬
精神療法
青年と思春期前の小児の場合,本障害の躁病または興奮エピソードの治療には気分安定薬が使用される一方で,抑うつエピソードの治療には精神療法と抗うつ薬が使用される。
気分安定薬(双極性障害に対する主な薬剤 双極性障害に対する主な薬剤* の表を参照)は大きく3つのカテゴリーに分類される:
気分安定作用のある抗てんかん薬
気分安定作用のある抗精神病薬
リチウム
いずれの気分安定薬も,問題となる危険な有害作用を引き起こす可能性を秘めている。したがって,治療は個別化しなければならない。さらに,体重増加が最も顕著であるが,有害作用のために最初の安定期には著効した薬剤が維持期には認容されないということもある。
抗うつ薬はうつ病から躁病への変換を誘発する可能性があるため,通常気分安定薬を併用する。
要点
双極性障害は,躁状態,抑うつ状態,正常な気分状態の期間が交互に出現することによって特徴づけられ,さらにそれぞれが1回につき数週間から数カ月間継続する障害である。
双極性障害は,典型的には青年期中期から20代中盤にかけて発症する;小児ではまれである。
一般的に,発症は潜行性であり,患児は極めて気まぐれで扱いづらいという病歴を有する。
青年と思春期前の小児では,躁病または興奮エピソードの治療は気分安定薬により,抑うつエピソードは精神療法と抗うつ薬(通常は気分安定薬を併用する)により治療する。