周産期の生理

執筆者:Arcangela Lattari Balest, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 5月
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    子宮内での生活から子宮外での生活への移行には,生理および機能に多種多様な変化を伴う。また see chapter 周産期における問題を参照のこと。

    新生児のビリルビン代謝

    肝臓の構造および機能新生児高ビリルビン血症も参照のこと。)

    老化または損傷した胎児赤血球は網内系細胞によって循環血中から除去され,ヘムがビリルビンに変換される(ヘモグロビン1gからビリルビン35mgが生成される)。このビリルビンは肝臓へと輸送され,そこでさらに肝細胞内へ運ばれる。次にグルクロン酸転移酵素がビリルビンをウリジン二リン酸グルクロン酸(UDPGA)と抱合させてビリルビンジグルクロニド(抱合型ビリルビン)を生成し,これが胆管内に活発に分泌される。ビリルビンジグルクロニドは消化管内で胎便中に移行するが,胎児は正常では排便しないため,体外への排出は生じない。胎児小腸の管腔刷子縁に存在する酵素,βグルクロニダーゼが腸管内腔に放出されることにより,ビリルビンジグルクロニドの脱抱合が起こり,遊離(非抱合型)ビリルビンが腸管から再吸収されて再び胎児循環系に入る。胎児のビリルビンは,濃度勾配により胎盤経由で母体血漿中へ移行することによって胎児循環から取り除かれる。そして母体の肝臓が胎児のビリルビンを抱合して排泄する。

    出生時に経胎盤移行が終了すると,新生児の肝臓はビリルビンを便中に排泄すべくビリルビンの取り込み,抱合,および胆汁への排出を続けるが,新生児には腸でビリルビンをウロビリノーゲンに酸化させるための適当な腸内細菌が存在していないため,結果として,そのままのビリルビンが便中に残ることにより,便が典型的な明るい黄色を呈する。さらに,新生児の消化管には(胎児の消化管と同じように)βグルクロニダーゼが存在しており,これがビリルビンの一部を脱抱合する。授乳により胃結腸反射が生じるようになるため,ビリルビンは,その大部分が脱抱合および再吸収される前に便中へと排泄される。しかしながら,新生児の多くでは,非抱合型ビリルビンが再吸収されて腸管内腔から循環に戻され(ビリルビンの腸肝循環),生理的高ビリルビン血症および黄疸の一因となる。

    新生児の心血管機能

    胎児循環は,開いている動脈管(肺動脈を大動脈に連結)と卵円孔(右房と左房を連結)を介した血液の右左短絡が,換気されていない肺を迂回しているのが特徴的である。この短絡は,肺細動脈抵抗が大きく,体循環(胎盤循環を含む)の血流への抵抗が比較的小さいことによって促進されている。右心からの拍出量の約90~95%が,肺を迂回して直接体循環へ流れる。胎児の動脈管は,胎児の全身PaO2が低く(約25mmHg),プロスタグランジンの局所産生があることによって開存が維持される。卵円孔は,心房圧の差によって開存が維持される:肺からの血液環流がほとんどないため左房圧は相対的に低いが,胎盤からの大量の血液還流のために右房圧は相対的に高い。

    胎児の正常循環

    胎児では,心臓の右側に入る血液はすでに胎盤を介して酸素化されている。肺は換気されていないため,肺動脈を通過しなければならない血液は少量である。心臓の右側から出る血液は,ほとんどが以下を介して肺を迂回する:

    • 卵円孔

    • 動脈管

    正常であれば,この2つの構造は出生後まもなく閉鎖する。

    最初の数回の呼吸後にこの系に著しい変化が生じ,それにより肺血流量の増大と卵円孔の機能的閉鎖が起こる。肺の拡張,PaO2の上昇,およびPaCO2の低下による血管拡張の結果,肺細動脈抵抗が急激に低下する。肋骨および胸壁の弾性力は肺の間質圧を低下させ,肺毛細血管の血流量をさらに増大させる。肺からの静脈還流量の増大によって左房圧が上昇し,左房と右房との圧力差が減少する;この作用が卵円孔の機能的閉鎖の一因である。

    肺循環が確立すると,肺からの静脈還流量が増大して左房圧を上昇させる。空気呼吸はPaO2を増大させ,これにより臍動脈は収縮する。胎盤の血流が減少または途絶し,右房への血液還流を減少させる。こうして右房圧が低下し左房圧が上昇する結果,心房中隔の2つの胎児期構成要素(一次中隔および二次中隔)が共に押され卵円孔を通る血流が止まる。ほとんどの人でこの2つの中隔は最終的に融合し卵円孔は消滅する。

    出生後まもなく,胎児の状態から反転して,体血管抵抗が肺血管抵抗より大きい状態へと移行する。これにより,開いている動脈管の血流方向が逆転し,血液の左右短絡が形成される(移行循環と呼ばれる)。この状態は,出生直後(肺血流量の増大および卵円孔の機能的閉鎖が起こる時点)から,動脈管が収縮する約24~72時間後まで持続する。大動脈から動脈管およびその栄養血管へ流入する血液はPO2が高く,このことがプロスタグランジン代謝の変化とともに,動脈管の収縮および閉鎖をもたらす。動脈管が閉鎖すると,成人型循環となる。この時点で,2つの心室は直列ポンプとして働くようになり,肺循環と体循環との間の大きな短絡は存在しない。

    出生直後の数日間,ストレスを受けた新生児では胎児循環に戻ることがある。低酸素症および高炭酸ガス血症を伴う仮死は,肺細動脈の収縮および動脈管の拡張を引き起こし,上述の過程を逆行させ,今や開いている動脈管,再開通した卵円孔,またはその両方を介した右左短絡を生じさせる。その結果,このような新生児は,遷延性肺高血圧症 または胎児循環遺残(臍帯循環は存在しないが)と呼ばれる重度の低酸素状態に陥る。治療の目標は,肺血管収縮の原因となった状態を元に戻すことである。

    新生児の内分泌機能

    内分泌系の概要も参照のこと。)

    胎児は母体からの胎盤経由のブドウ糖供給に完全に依存しており,自らはブドウ糖産生には関与しない。胎児は妊娠早期に肝臓へのグリコーゲンの貯蔵を開始し,第3トリメスター後半にグリコーゲン貯蔵の大半を蓄積する。新生児のブドウ糖供給は臍帯が切断される時点で終了し,これと同時に循環アドレナリン,ノルアドレナリン,およびグルカゴンの値が急激に上昇する一方で,インスリン値は低下する。このような変化が,糖新生および肝臓の貯蔵グリコーゲンの動員を刺激する。

    健康な正期産児では生後30~90分に血糖レベルが最下点に達し,典型的にはその後,正常な血糖の恒常性を維持できる。新生児低血糖のリスクが最も高いものとしては,グリコーゲン貯蔵量が少ない新生児(在胎不当過小児および早産児),ブドウ糖異化反応が亢進した重症(critically ill)の新生児,および糖尿病母体児(胎児の一過性高インスリン血症に続発)などが挙げられる。

    新生児の造血機能

    周産期貧血も参照のこと。)

    子宮内では,赤血球産生は専ら,胎児の肝臓で産生されるエリスロポエチンによって調節されており,母体のエリスロポエチンは胎盤を通過しない。胎児赤血球に含まれるヘモグロビンの約55~90%が,酸素親和性の高い胎児ヘモグロビン(ヘモグロビンFまたはHbF)である。その結果,胎盤をまたいで高い酸素濃度差が維持され,豊富な酸素が母体循環から胎児循環に受け渡されることとなる。胎児ヘモグロビンの酸素に対する高親和性は,組織への酸素受け渡しがより迅速ではないという点で,出生後はもはや有用ではなくなり,低酸素血症を伴う重度の肺または心疾患がある場合は,むしろ有害となりうる。

    胎児ヘモグロビンから成人ヘモグロビンへの移行は出生前から始まっており,さらに出生時には,機序は不明であるがエリスロポエチンの産生部位が肝臓から腎臓のより感受性の高い傍尿細管細胞へと移行する。出生直後,PaO2が胎児の約25~30mmHgから新生児の90~95mmHgへと急激に上昇するが,これにより血清エリスロポエチンの低下が引き起こされ,生後6~8週頃まで赤血球産生が停止することで生理的貧血が生じ,また未熟児貧血の一因ともなる。この循環血中の赤血球の生理的減少は骨髄での赤血球産生を刺激し,通常は治療を必要としない。

    新生児の免疫機能

    免疫系を構成する細胞および免疫系を構成する分子も参照のこと。)

    満期時点でも,ほとんどの免疫機構が十分に機能しておらず,未熟性が増すにつれ,なおさら十分ではなくなる。このため,全ての新生児および幼若乳児は成人と比較して免疫機能が低い状態にあり,重症感染症のリスクが増大している。このリスクは未熟性,母体疾患,新生児のストレス,ならびに薬剤(例,免疫抑制薬および抗てんかん薬)によってさらに高められる。新生児では感染時に発熱や局所の臨床徴候(例,髄膜症)がみられないことは,免疫応答の弱さで説明することができる。

    胎児においては,発生における卵黄嚢の段階で存在する食細胞が,細菌および真菌に対する感染防御としての炎症反応に重要となる。顆粒球は在胎2カ月に同定され,単球は在胎4カ月に同定される。その機能レベルは在胎期間とともに高くなるが,満期でも依然として低い。

    出生時には,好中球の超微細構造は正常であるが,ほとんどの新生児で,細胞運動能および表面接着能の内因的異常のため,好中球および単球の走化性は低下している。このような機能障害は,早産児でさらに著明である。

    在胎約14週までに胸腺が機能し,造血幹細胞が産生したリンパ球が成熟のため胸腺に集積する。同じく14週までに胎児の肝臓および脾臓にT細胞が現れ,この段階までに末梢の二次リンパ器官においてT細胞の成熟が確立されていることを意味している。胸腺は胎児の発育中および出生後早期に最も活発に働く。胸腺は子宮内で急速に成長し,健康な新生児では胸部X線で容易に確認され,10歳で最大に達した後は何年もかけて徐々に退縮する。

    胎児循環血液中のT細胞数は第2トリメスターに徐々に増加し,在胎30~32週までにほぼ正常レベルに達する。出生時,新生児は成人と比較すると相対的なTリンパ球増多状態にある。しかしながら,新生児のT細胞は成人のT細胞ほど効果的に機能しない。例えば,新生児のT細胞は抗原に十分反応せず,サイトカインを産生しないこともある。

    B細胞は在胎12週までに胎児の骨髄,血液,肝臓,および脾臓でみられるようになる。20週までには微量のIgMおよびIgGが検出され,30週までには微量のIgAが検出される;正常では,胎児は抗原の存在しない環境に置かれているため,子宮内では少量の免疫グロブリン(主にIgM)が産生されるにとどまる。臍帯血清中のIgM濃度の上昇は子宮内での抗原刺激を示し,通常は先天的感染によるものである。ほぼ全てのIgGは胎盤を通じて母体から獲得される。在胎22週以降,胎盤経由で移行するIgG濃度は上昇し,満期には母体と同レベルか,それを超えるレベルに達する。早産児の出生時IgG値は在胎期間に比例して低くなる。

    胎盤経由のIgGおよび分泌型IgA,ならびに母乳中の抗菌因子(例,IgG,分泌型IgA,白血球,補体タンパク質,リゾチーム,ラクトフェリン)からの母体免疫の受動的移行は,新生児の未熟な免疫系を補い,多くの細菌およびウイルスに対する免疫を与える。母乳中の免疫因子は粘膜関連リンパ組織を介して消化管および上気道を覆い,呼吸器および腸管内の病原体の粘膜への侵入の可能性を低下させる。

    時間とともに受動免疫は減退し始め,生後3~6カ月頃に最下点に達する。早産児は特に,生後6カ月間は重度の低ガンマグロブリン血症になる可能性がある。1歳までに,IgGレベルは成人平均値の約60%に上昇する。IgA,IgM,IgD,およびIgEは胎盤を通過しないため出生時には微量が検出されるだけであり,小児期を通じて徐々に増加する。IgG,IgM,およびIgAは,10歳頃までに成人のレベルに達する。

    早産児ではワクチンの初回接種に対する抗体反応が正期産児よりも低いことがあるが,それでも早産児はほとんどのワクチンに対して防御反応を起こすことができ,正期産児と同じスケジュールで予防接種を行うべきである。しかしながら,B型肝炎ワクチンの1回目の接種を受ける際の体重が2kg未満の乳児では,1回目の接種が生後1カ月未満であった場合,さらに3回の接種を行うべきである(抗体反応が低下しているため;1)。

    新生児の免疫機能に関する参考文献

    1. 1.Gagneur A, Pinquier D, Quach C: Immunization of preterm infants.Hum Vaccin Immunother 11(11):2556–2563, 2015.doi: 10.1080/21645515.2015.1074358.

    新生児の肺機能

    胎児肺の発育は,器官形成および分化の段階を通して進行する。相当発達した肺胞およびサーファクタント産生を担うII型肺胞上皮細胞が在胎25週頃には存在し,在胎期間を通して成熟しつづける。胎児の肺は,肺毛細血管からの漏出液およびII型肺胞上皮細胞が分泌するサーファクタントから成る液体を継続的に産生する。出生時に正常なガス交換が行われるためには,肺胞液および間質液が速やかに除去されなければならない。この除去の過程は主に,上皮型ナトリウムチャネルの活性化を介した肺細胞への液体吸収によって生じる。分娩中の胎児の胸郭の圧迫は,肺の水分(肺胞液および間質液)の除去にほとんど寄与しない(1)。新生児一過性多呼吸は,この除去過程に遅延が生じることによるものと考えられる。

    分娩時には,肋骨の弾性収縮力および強い吸気努力によって肺に空気が引き入れられる際に,肺胞内に気液界面が形成される。第1呼吸時に,サーファクタントが気液界面に放出される。サーファクタントは,全てII型肺胞上皮細胞の層状封入体に貯蔵されているリン脂質(ホスファチジルコリン,ホスファチジルグリセロール,ホスファチジルイノシトール),中性脂質,および4種の表面活性タンパク質の混合物であり,無気肺および呼吸仕事量増大の原因となりうる高い表面張力を低下させる。サーファクタントは大きい肺胞より小さい肺胞でより効果的に作用し,これにより小さい肺胞が虚脱し大きい肺胞に吸収されるという正常な傾向(ラプラスの法則によると,弾性腔では,容積が増加するにつれ圧が低下する)に対抗している。

    一部の新生児では,広範な無気肺の予防に十分な量のサーファクタントが産生されていない場合があり,呼吸窮迫症候群が発生する。サーファクタントの産生および機能は,母体の糖尿病新生児の胎便吸引,および新生児敗血症によって低下する可能性がある。早産児のサーファクタント産生は,分娩前の24~48時間の間に,母体にコルチコステロイドを投与することによって増加しうる。分娩後,新生児に対するサーファクタントの気管内投与も可能である。

    新生児の肺機能に関する参考文献

    1. 1.Ramachandrappa A, Jain L: Elective cesarean section: Its impact on neonatal respiratory outcome.Clin Perinatol 35(2):373–393, vii, 2008.doi: 10.1016/j.clp.2008.03.006.

    新生児の腎機能

    出生時には一般に腎機能は低く,早産児においては特に顕著である。糸球体濾過量(GFR)は在胎期間中,特に第3トリメスターに漸次上昇する。GFRは生後数カ月で急速に上昇するものの,GFR,尿素クリアランス,および最大尿細管クリアランスは1~2歳まで成人レベルには達しない。

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