小児の便秘

執筆者:Deborah M. Consolini, MD, Thomas Jefferson University Hospital
レビュー/改訂 2020年 6月
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便秘は小児科における受診理由の最大5%を占める。排便に遅延または困難がある状態と定義される。

正常な排便回数と便の硬さは小児の年齢,および食事によって様々であり,かなりの個人差がある。

正常な新生児の大半(90%)は生後24時間以内に胎便を排泄する。生後1週間は1日平均4~8回排便し,一般的に母乳栄養児は人工乳栄養児に比べ排便回数が多い。生後数カ月間においては,母乳栄養児の排便回数が1日平均3回であるのに対し人工乳栄養児では約2回である。2歳までに排便回数は減少し,1日2回をやや下回るようになる。4歳以降は,1日1回をやや超える程度である。

一般に,乳児期早期の乳児の排便努力(例,いきみ)の徴候は便秘を意味しない。排便を補助する筋肉は,乳児期には徐々にしか発達しない。

病因

小児の便秘は2つの主要な型に分類される:

  • 器質性(5%)

  • 機能性(95%)

器質性

便秘の器質的原因には,特異的な解剖学的異常,神経疾患,中毒/代謝性疾患,または腸疾患がある。これらはまれであるが,認識できることが重要である( see table 乳児および小児における便秘の器質的原因)。

最も多い器質的原因は:

新生児期またはその後に現れる他の器質的原因には以下のものがある:

機能性

機能性便秘とは,器質的原因以外の原因による排便困難をさす。

小児は3つの時期に機能性便秘を発症しやすい:

  • シリアルおよび固形食の開始後

  • トイレトレーニング実施中

  • 入園,入学の時期

これらのマイルストンでは,排便が不快な経験に変わる可能性がある。

小児は,便が硬いために排便が不快,あるいは遊びを中断したくないなどの理由で,排便を遅らせることがある。そして排便を避けるため,外括約筋を締めて便を直腸の内腔(rectal vault)の上部に押し上げることがある。この行動が繰り返されると直腸は便を貯留しておくために拡張する。その後便意は低下し便はさらに硬くなるため,排便痛および便秘の悪化という悪循環に陥る。ときに,詰まった便の周囲から軟便が排出され便失禁(遺糞症)を来す。

児童では,食物繊維が少なく乳製品の多い食事によって硬便が生じ,排便が不快になり裂肛を来しうる。裂肛により排便痛が起こり,排便を遅らせるとさらに便が硬くなり,排便痛が増すという同様の悪循環に陥る。

ストレス,コントロールしたいという欲求,および性的虐待も,便の貯留およびそれに続く便秘の機能的一因である。

表&コラム

評価

評価では器質的原因による便秘と機能性便秘との鑑別に焦点を置くべきである。

病歴

新生児の現病歴の聴取では,胎便が少量でも排出されたか,排出された場合はいつ排出されたかを明らかにすべきである。乳児期後期以降の小児における病歴聴取では,便秘の発症時期および持続期間,排便回数,便の硬さ,症状が出現するタイミング(つまり,ある特定の食物を摂取するようになった,または便の貯留をまねくストレス因子[例,トイレトレーニングの開始]など特定のイベント後に始まったかなど)に注意すべきである。重要な合併症状には,便失禁,排便時の不快感,および血液付着便または血便などがある。食事内容,特に水分量および食物繊維量に注意すべきである。

システムレビュー(review of systems)では,吸啜不良の新たな発症,筋緊張低下,生後12カ月より前での蜂蜜摂取歴(乳児ボツリヌス症);耐寒性低下,乾燥皮膚,疲労,筋緊張低下,遷延性の新生児高ビリルビン血症,頻尿,および過度の口渇(内分泌障害);歩行の変化,下肢痛または下肢の筋力低下,および尿失禁(脊髄の異常);盗汗,発熱,および体重減少(がん);ならびに嘔吐,腹痛,発育不良,および間欠的下痢(腸疾患)などの器質的原因を示唆する症状について尋ねるべきである。

既往歴の聴取では,嚢胞性線維症およびセリアック病など,便秘を引き起しうる既知の疾患について尋ねるべきである。便秘を起こす可能性のある薬物または含鉛塗料の粉塵への曝露に注意すべきである。生後24~48時間以内の胎便排泄遅延,ならびに過去の便秘エピソードおよび便秘の家族歴についても問診すべきである。

身体診察

身体診察は患児の機嫌や苦痛の程度,および全体的な外観(皮膚および毛髪の状態を含む)の全般的評価から始める。身長および体重を測定し成長曲線上にプロットする。

診察では,腹部および肛門,ならびに神経学的診察に焦点を置くべきである。

腹部については,視診で腹部膨隆,聴診で腸音,触診で腫瘤および圧痛の有無を調べる。肛門を視診して,裂肛の有無を調べる(殿部を強く広げ過ぎて裂肛を起こさないよう注意する)。直腸指診は愛護的に行い,便の硬さを調べ,便潜血検査の検体を採取する。直腸診では,直腸開口部の締まりおよび直腸膨大部の便の有無に注意すべきである。診察には肛門の位置および仙骨上部の多毛または小陥凹の有無の確認なども含める。

乳児では,筋緊張の程度および筋力に重点を置いて神経学的診察を行う。より年長の小児では,歩行,深部腱反射,および下肢の筋力低下徴候に注目する。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 胎便排泄遅延(> 生後24~48時間)

  • 筋緊張低下および吸啜不良(乳児ボツリヌス症を示唆)

  • 歩行および深部腱反射の異常(脊髄症を示唆)

所見の解釈

新生児で器質的原因を示唆する主要な所見は,出生後からの便秘である;正常な排便のある新生児では,意義のある解剖学的異常がある可能性は低い。

より年長の小児では,全身症状(特に体重減少,発熱,または嘔吐),発育不良(成長曲線上でパーセンタイルの低下),全身的な重症感(ill appearance),および診察の際に認められたあらゆる局所的な異常などが器質的原因の手がかりとなる( see table 乳児および小児における便秘の器質的原因)。健康そうに見える(well-appearing)小児で,便秘以外の愁訴はなく,便秘を起こす薬剤の使用もなく,診察所見も正常であれば,機能性便秘である可能性が高い。

便で充満した直腸の拡張や裂肛の存在は,便秘以外は正常な小児での機能性便秘と一致する所見である。便秘を起こす薬剤の開始後または食事の変化と同時に起こった便秘は,その薬剤または食品が原因である可能性がある。便秘を起こすことが知られている食品には,乳製品(例,牛乳,チーズ,ヨーグルト)および澱粉,ならびに食物繊維を含まない加工食品などがある。ただし,小麦の摂取後に便秘の訴えが始まった場合はセリアック病を考慮すべきである。新たなストレス(例,弟や妹の誕生)など,排便を意図的に我慢することにつながりうる要因が病歴聴取で判明し,かつ身体所見が正常の場合は機能性の病因が示唆される。

検査

病歴が機能性便秘と矛盾しない患者では,便秘に対する従来の治療で効果がない場合を除き,検査は必要ではない。治療が無効である場合または器質的原因が疑われる場合は,腹部X線を行うべきである。器質的原因の検査は,病歴および身体診察に基づいて行うべきである( see table 乳児および小児における便秘の器質的原因):

治療

便秘の具体的な器質的原因は,治療すべきである。

機能性便秘は,最初は以下の方法により治療するのが理想的である:

  • 食習慣の変更

  • 行動変容

食習慣の変更としては,乳児では人工乳へのプルーンジュースの添加;乳児期後期以降の小児では,果物,野菜,および他の食物繊維源の増量;水分摂取量の増量;および便秘を起こす食品(例,牛乳,チーズ)の減量などがある。

より年長の小児に対しては,行動変容として,トイレトレーニングを受けていれば食後の規則正しい排便を促したり,行動強化チャート(reinforcement chart)作成しそれを奨励するなどの方法がある。トイレトレーニングを実施中の場合,便秘の問題が解消するまでトレーニングを中止することもときに有用である。

治療に反応しない便秘は,便塞栓の解除ならびに規則正しい食事および排便習慣の維持により治療する。便塞栓は経口薬または経直腸薬により解除できる。経口薬では,多量の液体を摂取する必要がある。経直腸薬は侵襲感を起こしうるため投与が困難な場合がある。いずれの方法も医療従事者の監督下で親が行えるが,外来管理がうまくいかなかった場合,便塞栓の解除のため,ときに入院が必要である。通常,乳児では極端な処置は不要であり,介入が必要な場合は典型的にはグリセリン坐薬で十分である。腸管を健康に保つため,市販の食物繊維サプリメントを必要とする小児もいる。このようなサプリメントの有効性を引き出すためには,960~1920mL/日の水を摂取する必要がある( see table 便秘の治療)。

表&コラム

要点

  • 機能性便秘が症例の約95%を占める。

  • 器質的原因はまれであるが考慮に入れる必要がある。

  • 胎便の排泄が遅延し生後24~48時間以降にみられた場合は器質的疾患,特にヒルシュスプルング病が疑われる。

  • 食事の変更および行動変容による早期介入によって,機能性便秘は効果的に治療しうる。

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