米国では避妊法を用いる女性の12%が子宮内避妊器具(IUD)を使用しており,IUDは経口避妊薬と比べて以下の利点があることから,より普及してきている:
IUDは効果が非常に高い。
IUDは全身作用が最小限である。
避妊の決断が3年,5年,または10年に1回のみでよい。
米国では,現在5種類のIUDが入手可能である。4種類のレボノルゲストレル放出IUDがある:
13.5mgのIUDは3年間有効で,3年間の累積妊娠率は0.9%である。
19.5mgのIUDは5年間有効で,5年間の累積妊娠率は1.5%である。
52mgを含有する2種類のIUDは,5年間以上有効で,5年間の妊娠率は0.7~0.9%である。
52mg IUDの8年間の使用における効力が評価中である。
5つ目は銅付加IUDのT380Aである。効果は10年間持続し,12年間の累積妊娠率は2%未満である(子宮内避妊器具の比較 子宮内避妊器具の比較 の表を参照)。
IUDの挿入
医師は頸部病変の存在が疑われる場合を除いて,IUD挿入前にパパニコロウ(Pap)検査を行う必要はない。頸部病変の存在が疑われる場合,Pap検査または頸部生検を行うべきである。また,医師はIUD挿入前に性感染症(STD)検査(淋菌感染症およびクラミジア感染)の結果を待つ必要はない。しかしながら,IUD挿入の直前にSTD検査を行うべきであり,結果が陽性であれば適切な抗菌薬で治療すべきである;IUDは挿入したままにする。IUD挿入時に膿性の分泌物がみられる場合は,IUDを挿入せずにSTD検査を行い,検査結果が出る前に抗菌薬による経験的治療を始める。
IUDを挿入する際には可能な限り無菌操作により行う。子宮の位置を同定するために双合診を行うべきであり,子宮を安定させるために,頸部前唇に支持鉗子で把持し,子宮軸を真直ぐにし,IUDを正しく留置できるようにすべきである。IUD挿入前に子宮腔の長さを測定するために,ゾンデまたは子宮内膜吸引用の器具(生検に用いられる)がしばしば使用される。5つのタイプのIUDは挿入方法が異なるため,挿入前に使用するIUDの添付文書を確認すべきである。
IUD挿入後のルーチンのフォローアップは必要ない。患者には,症状や合併症(例,痛み,多量の出血,異常な腟分泌物,発熱)を来した場合や,避妊法に不満がある場合には,評価のため再受診するよう指導すべきである(1 挿入に関する参考文献 米国では避妊法を用いる女性の12%が子宮内避妊器具(IUD)を使用しており,IUDは経口避妊薬と比べて以下の利点があることから,より普及してきている: IUDは効果が非常に高い。 IUDは全身作用が最小限である。 避妊の決断が3年,5年,または10年に1回のみでよい。 米国では,現在5種類のIUDが入手可能である。4種類のレボノルゲストレル放出IUDがある: さらに読む )。
過去1カ月間に避妊なしの性交がなければ,IUDは月経周期のいつでも挿入することができる。
第1または第2トリメスター中の中絶または自然流産の直後,および帝王切開または経腟分娩で胎盤娩出直後に,IUDを挿入することができる。
挿入に関する参考文献
1.Curtis KM, Jatlaoui TC, Tepper NK, et al: U.S. Selected Practice Recommendations for Contraceptive Use, 2016.MMWR Recomm Rep 65 (4):1–66, 2016.doi: 10.15585/mmwr.rr6504a1.
禁忌
大部分の女性はIUDを使うことができる。禁忌としては以下のものがある:
骨盤内感染症(通常は 骨盤内炎症性疾患 骨盤内炎症性疾患 (PID) 骨盤内炎症性疾患(PID)は,上部女性生殖器(子宮頸部,子宮,卵管,および卵巣)の複数菌感染症である;膿瘍が生じることがある。骨盤内炎症性疾患は性行為により感染することがある。一般的な症状および徴候として,下腹部痛,頸管分泌物,および不正性器出血がある。長期合併症には,不妊,慢性骨盤痛,および異所性妊娠がある。診断には,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)とクラミジアに関する子宮頸部検体のポリメラーゼ連鎖反応... さらに読む [PID]),STDの疑いを伴う粘液膿性 子宮頸管炎 子宮頸管炎 子宮頸管炎は,頸管に生じる感染性または非感染性の炎症である。所見としては,腟分泌物,性器出血,および頸管の発赤と脆弱性などがみられる。腟炎および骨盤内炎症性疾患の感染性の原因がないか検査し,通常経験的にクラミジアおよび淋菌感染症に対する治療を行う。 急性子宮頸管炎は通常,感染が原因である;慢性子宮頸管炎は通常,感染が原因ではない。子宮頸管炎が上行し,子宮内膜炎および 骨盤内炎症性疾患(PID)の原因となることがある。... さらに読む , 骨盤結核 泌尿生殖器結核 肺以外の結核は通常,血行性播種によって発生する。感染はときに隣接臓器から直接広がる。症状は部位によって異なるが,一般には発熱,倦怠感,体重減少などがみられる。診断は喀痰の塗抹および培養によることが最も多いが,分子生物学に基づく迅速診断検査の利用も増えてきている。治療では複数の抗菌薬を少なくとも6カ月間投与する。 血行性全身性結核としても知られる粟粒結核は,結核病変が血管を侵して何百万もの結核菌が血流に入り全身に播種される場合に発生する。... さらに読む , 敗血症性流産 敗血症性流産 敗血症性流産は,流産直前,流産中,流産直後における重篤な子宮感染症である。 敗血症性流産は通常,未熟な医療従事者の無菌的でない手技による人工妊娠中絶に起因する;中絶が違法である場合,頻度はより高くなる。感染は, 自然流産後では比較的まれである。 典型的な原因菌として,大腸菌(Escherichia coli),Enterobacter aerogenes,Proteus... さらに読む ,または過去3カ月以内の 産褥子宮内膜炎 産褥子宮内膜炎 産褥子宮内膜炎は子宮の感染症であり,通常は下部性器や消化管から上行してくる細菌によって引き起こされる。症状として,子宮の圧痛,腹痛または骨盤痛,発熱,倦怠感,ときに分泌物がみられる。診断は臨床的に行うが,まれに培養を要する。治療は広域抗菌薬(例,クリンダマイシンとゲンタマイシンの併用)による。 産褥子宮内膜炎の発生率は主に分娩様式により異なる: 経腟分娩:1~3% 予定帝王切開(陣痛開始前に施行):5~15%... さらに読む や 敗血症 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む
解剖学的異常による子宮腔の変形
血清β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)値の上昇が持続する 妊娠性絨毛性疾患 妊娠性絨毛性疾患 妊娠性絨毛性疾患は,妊婦または最近まで妊娠していた女性におけるトロホブラストの増殖である。症状として,特に妊娠早期に,過度の子宮腫大,嘔吐,性器出血,および妊娠高血圧腎症が現れうる。診断には,ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定,骨盤内超音波検査を含み,生検による確定を行う。腫瘍は吸引掻爬により除去する。疾患が除去後も継続する場合には,化学療法の適応となる。 妊娠性絨毛性疾患は,胚盤胞を取り囲み絨毛膜および羊膜へと発達する細胞で... さらに読む (これを支持するデータがないため相対的禁忌)
既知の 子宮頸癌 子宮頸癌 子宮頸癌は,多くは扁平上皮癌であり,ヒトパピローマウイルス感染により引き起こされる;頻度は低いが腺癌であることもある。子宮頸部腫瘍は無症状である;早期子宮頸癌の最初の症状は通常,不正性器出血,しばしば性交後の性器出血である。診断は,頸部パパニコロウ検査および生検による。進行期診断は臨床所見のほか,利用可能であれば画像検査および病理検査の結果も踏まえて行う。治療は通常,早期疾患に対しては外科的切除,局所進行例には放射線療法に加え化学療法が... さらに読む または 子宮内膜癌 子宮内膜癌(子宮体がん) 子宮内膜癌(子宮体癌)の大部分は類内膜腺癌である。典型的には,閉経後に性器出血が起こる。診断は生検による。進行期診断は手術進行期分類である。治療には,子宮摘出術,両側卵管卵巣摘出術が必要であり,高リスクの患者では通常,骨盤および傍大動脈リンパ節郭清術を必要とする。進行例には通常,放射線療法,ホルモン療法または化学療法が適応となる。 子宮内膜癌は,脂肪の多い食事を摂る先進国においてより頻度が高く,... さらに読む
妊娠
IUDの禁忌とならない条件としては以下のものがある:
IUDは人工妊娠中絶器具でないため,中絶を禁止する信仰(ただし緊急避妊に用いられる銅IUDは胚盤胞の着床を妨げる可能性がある)
骨盤内炎症性疾患,STD,または異所性妊娠の既往
エストロゲン含有の避妊薬に対する禁忌(例,静脈血栓塞栓症の既往,35歳以上の女性で15本/日を超える喫煙,前兆のある片頭痛,35歳以上の女性でのあらゆる病型の片頭痛)
母乳栄養
青年期の女性
有害作用
3年用IUDを使用している女性の6%および5年用IUDを使用している女性の20%で1年以内に性器出血が完全に停止する。銅付加IUD T380Aでは月経血が増え,より重度の痙攣性の痛みが起こることがあり,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID;例,イブプロフェン)で緩和できる。この情報がどのタイプのIUDを選択するかの判断に役立つことがあるため,IUD挿入前にこれらの影響について女性に伝えるべきである。
想定される便益
過去7日以内に避妊なしの性交があった場合は,銅付加IUD T380Aを緊急避妊として挿入することがある。この銅付加IUDは女性が望む場合は長期的な避妊のために挿入したままにしておくことができる。月経の再開および妊娠検査陰性により妊娠を確実に除外する;挿入後2~3週間後に妊娠検査を行い,挿入前に意図しない妊娠が起こらなかったことを確認する。
IUDは子宮体がんのリスクを上昇させることはなく,低下させる可能性がある。
合併症
挿入後1年以内のIUDの平均排出率は通常5%未満である;しかしながらIUDが分娩直後(10分未満)に挿入された場合には排出率が高くなる。挿入後6週間時点で医師はIUDの尾(典型的には外子宮口から3cmのところで切る)を確認することで,正しく留置されていることを確認する。
IUD挿入の約1/1000で子宮穿孔が起こる。穿孔はIUD挿入時に起こる。ときに,IUDの遠位部分だけが貫通する;その後数カ月間で子宮収縮によりIUDが腹腔に押し出される。内診中に尾が見えない場合は,医師が以下の1つ以上を行うことがある:
サイトブラシを用いて尾を子宮外にさっと出すことを試みる
ゾンデや生検器具を用いて,子宮腔を愛護的に検索する(妊娠が疑われる場合を除く)
超音波検査を行う
IUDを認めない場合はIUDの腹腔内迷入を除外するため,腹部X線撮影を行う。腹腔内のIUDは腸管癒着の原因となることがある。子宮を穿孔したIUDは腹腔鏡にて除去する。
排出または穿孔が疑われる場合は,他の避妊法を用いるべきである。
まれではあるが,挿入時に細菌が子宮腔に入ることにより挿入後1カ月の間に卵管炎(骨盤内炎症性疾患[PID])が起こる;しかしながら,そのリスクは低く,ルーチンの予防的抗菌薬投与の適応とはならない。骨盤内炎症性疾患が発生した場合は,抗菌薬を投与すべきである。抗菌薬投与にかかわらず感染が持続する場合を除いて,IUDを抜去する必要はない。IUDの尾により,細菌感染が起きやすくなることはない。挿入後1カ月の間を除いて,IUDが骨盤内炎症性疾患のリスクを上昇させることはない。
IUDは効果的に妊娠を予防するため,IUD使用者では避妊手段を用いない女性に比べ, 異所性妊娠 異所性妊娠 異所性妊娠では,着床が子宮腔の子宮内膜以外の部位,すなわち卵管,子宮角,頸部,卵巣,腹腔または骨盤腔内に起こる。異所性妊娠では満期まで妊娠を継続できず,最終的には破裂または自然消失する。初期症状および徴候として骨盤痛,性器出血,および頸部移動痛がある。破裂に伴って失神または出血性ショックが起こりうる。診断はヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定および超音波検査による。治療は腹腔鏡や開腹での外科的切除,またはメトトレキサート筋注によ... さらに読む の発生率がはるかに低い。しかしながら,IUD挿入中に女性が妊娠した場合,異所性妊娠のリスクが高く,速やかに評価を受けるべきであることを女性に伝えるべきである。
要点
IUDは非常に効果的で,最小限の全身作用のみを有し,選ぶIUDの種類によって,避妊の決断を3,5,10年毎に1度のみ行う。
種類としては,レボノルゲストレル放出IUD(効果の持続期間は種類に応じて3年間または5年間)や銅付加IUD(効果の持続期間は10年間で,12年間の妊娠率は2%未満)などがある。
医師が子宮頸部病変の存在を疑う場合を除き,IUD挿入前にPap検査は必要ない。
いずれの種類のIUDも月経出血に影響を与えうること(3年用IUDを使用している女性の6%および5年用IUDを使用している女性の20%に1年以内に無月経が起こり,銅付加IUD T380A使用の女性では月経血が増える可能性があり,より重度の痙攣性の痛みが起こることがある)を女性に知らせる。
IUDの留置後に合併症(例,痛み,多量の出血,異常な腟分泌物,または発熱)を来した場合には評価のため再受診するよう患者を指導する。
内診時に尾を認めない場合は,サイトブラシを用いて尾を子宮外にさっと出すことを試みるか,ゾンデや生検器具で愛護的に子宮腔を検索し(妊娠が疑われる場合を除く),必要であれば超音波検査または腹部X線撮影を行って,IUDが腹腔内に迷入していないか調べる。