子宮筋腫は最も頻度の高い骨盤内腫瘍であり,45歳までに女性の約70%に生じる。しかしながら,多くの筋腫は小さく無症候性である。白人女性の約25%,黒人女性の約50%において,最終的に症候性の筋腫が発生する。筋腫はBMIが高い女性でより多くみられる。防御因子としては,出産および喫煙などがある。
子宮のほとんどの筋腫は以下の部位に発生する:
漿膜下(最も頻度が高い)
筋層内
粘膜下(最も頻度が低い)
ときに筋腫が子宮広間膜(間膜内),卵管,または子宮頸部に生じる。
筋腫は有茎性のことがある。ほとんどの筋腫は多発性で,それぞれが1つの平滑筋細胞から発生するため,由来は単クローン性である。筋腫はエストロゲンに反応するため,妊娠可能年齢期に増大し,閉経後にサイズが縮小する傾向がある。
筋腫は血液供給が追いつかなくなり変性することがある。変性には,ヒアリン変性,粘液腫様変性,石灰化変性,嚢胞変性,脂肪変性,赤色変性(通常は妊娠中のみ),壊死変性などがある。患者は筋腫内での悪性腫瘍の発生をしばしば心配するが,肉腫変性が起こる頻度は1%未満である。
子宮筋腫の発生部位
子宮筋腫は以下の部位に発生しうる:
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症状と徴候
筋腫は異常子宮出血(例,過多月経,menometrorrhagia[過多月経・不正出血])を起こしうる。粘膜下出血は貧血を引き起こすほど重度のことがある。
筋腫が成長し変性したり,有茎性筋腫が捻転した場合には,重度で急性または慢性の圧迫感や痛みが起こりうる。泌尿器症状(例,頻尿や尿意切迫)が膀胱の圧迫により,腸管症状(例,便秘)が腸管の圧迫により起こる場合がある。
筋腫は不妊症のリスクを増加させる可能性がある。筋腫は妊娠中, 繰り返す自然流産 不育症 自然流産は,妊娠20週より前に起きる,誘発によらない胎芽もしくは胎児の死亡,または受胎産物の排出である。切迫流産は,この時期に起こる頸管開大を伴わない性器出血で,生存可能な胎児の子宮内妊娠が確認された女性において自然流産が起こる可能性を示唆するものである。診断は臨床基準および超音波検査による。治療は通常,切迫流産に対しては待機的観察であり... さらに読む , 早期の収縮 切迫早産 妊娠37週前に始まる陣痛(頸管の変化を起こす子宮収縮)は切迫早産とされる。危険因子には,前期破水,子宮異常,感染,子宮頸管無力症,早産既往,多胎妊娠,および胎児または胎盤の異常などがある。診断は臨床的に行う。原因を同定し,可能であれば治療を行う。管理は典型的には,床上安静,子宮収縮抑制薬(陣痛が持続する場合),コルチコステロイド(妊娠期間... さらに読む ,または 胎位異常 胎児が原因の難産 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡)... さらに読む を引き起こすことや,帝王切開分娩を必要とすることがある。また,筋腫は 分娩後出血 分娩後出血 分娩後出血は,1000mLを超える失血または分娩24時間以内の循環血液量減少の症状または徴候を伴う失血である。診断は臨床的に行う。治療は出血の病因により異なる。 分娩後出血の最も一般的な原因は以下のものである: 子宮弛緩 子宮弛緩の危険因子としては以下のものがある: 子宮の過度の伸展(... さらに読む を引き起こすことがある。
診断
画像検査(超音波検査,ソノヒステログラフィー,またはMRI)
双合診で可動性のある腫大して不整な子宮を触知する場合は,子宮筋腫である可能性が高い。確定診断には画像検査が必要であり,通常以下の場合に適応となる:
新たに見つかった筋腫。
サイズが増大している。
症状を引き起こしている。
画像検査が適応となる場合,超音波検査(通常は経腟超音波検査)またはソノヒステログラフィー(生理食塩水注入法による超音波検査)が一般的に行われる。ソノヒステログラフィーでは,生理食塩水を子宮に注入することにより,検者が子宮内における筋腫の位置をより正確に同定できる。
超音波検査(実施した場合はソノヒステログラフィーを含む)が確定的でない場合には,最も正確な画像検査であるMRIが通常行われる。子宮鏡検査は,疑われる粘膜下子宮筋腫を直接可視化し,必要に応じて小さな病変の生検または切除を行うために用いることができる。
治療
ときにゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト(アナログ)または他の薬剤:軽度の症状を一時的に緩和するため
筋腫核出術(妊孕性温存のため)または子宮摘出術:症候性の筋腫に対して
無症候性の筋腫は治療の必要はない。患者を定期的に(例,6~12カ月毎)に再評価すべきである。
症候性の筋腫に対する内科的治療には,出血を止めるための卵巣ホルモン抑制が含まれるが,それらは不十分であり限定される。しかしながら,医師は手術を行う前にまず内科的治療を考慮すべきである。GnRHアゴニストを,術前に筋腫組織を縮小させるために使用できる;これらの薬剤はしばしば月経を止め血球数を増加させる。閉経期の女性では,閉経後の筋腫縮小に伴い症状が解消する可能性があるため,通常は待機的管理を試すことができる。
子宮筋腫に対する薬剤
いくつかの薬剤が症状の緩和,筋腫発育の抑制,または両方のために用いられる。
GnRHアゴニスト*
プロゲスチン薬
抗プロゲスチン薬
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)
ダナゾール
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)
トラネキサム酸
GnRHアゴニストがしばしば第1選択薬である。GnRHアナログは筋腫のサイズおよび出血を減少しうる。以下のように投与する:
筋注または皮下注(例,リュープロレリン3.75mg,筋注,1カ月毎,ゴセレリン3.6mg,皮下注,28日毎)
皮下ペレット
鼻腔スプレー(例,ナファレリン)
GnRHアゴニストはエストロゲン産生を減少させる。GnRHアゴニストは筋腫および子宮容積を抑えるために術前に投与する場合に最も助けとなり,これにより手術が技術的に容易となり,術中の出血が少なくなる。一般的に,これら薬剤を長期間使用すべきでないが,それは,リバウンドにより6カ月以内に治療前のサイズまで増大することが多く,さらに骨の脱灰が生じうるためである。これらの薬剤を長期間使用する場合は骨の脱灰を防ぐため,低用量エストロゲン-プロゲスチン併用などの補充エストロゲンを患者に投与すべきである(add-back療法)。
プロゲスチン薬を投与すれば,子宮筋腫の発育を刺激するエストロゲンをある程度抑制できる。プロゲスチンは子宮出血を減少しうるが,GnRHアゴニストほど筋腫を縮小させない可能性がある。酢酸メドロキシプロゲステロン(5~10mg,1日1回)または酢酸メゲストロール(40mg,1日1回)を各月経周期に10~14日間経口内服することで,1~2治療サイクル後には重度の出血を抑制しうる。あるいは,これらの薬剤を毎日内服することがある(持続的投与);しばしば出血が減少し,避妊効果がある。酢酸メドロキシプロゲステロンデポ剤(150mg,筋注,3カ月毎)は継続的経口療法とほぼ同等の効果を示す。筋注療法を行う前に,患者が有害作用(例,体重増加,抑うつ,不正出血)に耐えられるか否かを判断するため,経口プロゲスチンを試すべきである。プロゲスチン療法により筋腫が発育する女性もいる。代わりに,子宮出血を減少させるためにレボノルゲストレル放出子宮内避妊器具(IUD)を使うこともある。
抗プロゲスチン薬(例,ミフェプリストン)の用量は5~50mg,1日1回,3~6カ月間である。この用量は中絶に用いられる200mgよりも低い;このためこの用量は薬剤師が特別に調合しなくてはならず,手に入らないこともある。
SERM(例,ラロキシフェン)は筋腫の発育を抑えることがあるが,他の薬剤と同様に症状を緩和できるかは不明である。
アンドロゲン作動薬のダナゾールは筋腫の発育を抑制するが,有害作用(例,体重増加,ざ瘡,多毛,浮腫,脱毛,声の低音化,紅潮,発汗,腟乾燥)の発生率が高いため,患者には受け入れられにくい。
NSAIDは痛みの治療に用いられるが,おそらく出血を減少させることはない。
トラネキサム酸(抗線溶薬の1つ)は最大40%まで子宮出血を減少させる。用量は1300mg,8時間毎,最大5日間である。その役割は大きくなってきている。
子宮筋腫に対する手術
手術は通常以下のいずれかを認める場合にのみ行われる:
急速に増大する骨盤内腫瘤
薬物療法に反応しない繰り返す子宮出血
重度または持続する痛みまたは圧迫感(例,コントロールのためにオピオイドが必要または患者にとって耐え難い)
大きな子宮により腹腔内に腫瘤効果(mass effect)が生じることで,泌尿器または腸管症状が引き起こされたり,他の臓器が圧排されて機能障害が生じたりする場合(例,水腎症,頻尿,性交痛)
不妊(妊娠を望む場合)
繰り返す自然流産(妊娠を望む場合)
手術療法を選ぶ他の要因は,出産が終了していることと,患者が根治的治療を望んでいることである。
筋腫核出術は通常腹腔鏡下または子宮鏡下で行われ(広角レンズとループ型電気メスを備えた機器を使用する),ロボット技術は用いることも用いないこともある。
子宮摘出術は,腹腔鏡下もしくは経腟的に行うか,開腹により行うことができる。
筋腫核出術および子宮摘出術の適応は,その多くが同じである。患者の選択は重要であるが,筋腫核出術と子宮摘出術それぞれについて予想される困難や後遺症(出血,疼痛,癒着,その後の妊娠中の子宮破裂など)に関して,患者には十分な情報を与えなければならない。
モルセレーション(細切除去術)がしばしば筋腫核出術や子宮摘出術の際に行われる。モルセレーションでは,筋腫または子宮内膜組織を小片に切断し,小さな切開創(例,腹腔鏡下)から除去できるようにする。非常にまれではあるが,子宮筋腫の手術を受ける女性が予想していなかった肉腫やその他の子宮体がんに罹患していることがある。モルセレーションを施行した場合,悪性細胞が腹膜内に播種する可能性がある。モルセレーションを用いる場合は,がん細胞の播種のリスクがごくわずかながらもあることを患者に説明すべきである。
妊娠希望,または子宮を温存したい女性には,筋腫核出術が行われる。筋腫のみが不妊の原因である女性の約55%で,筋腫核出術により妊孕性が回復し,約15カ月後には妊娠に至る。しかしながら,子宮摘出術がしばしば必要となるか,または患者がそれを希望することとなる。
子宮摘出術の方が望ましい要因には以下のものがある:
子宮摘出術はより根治的な治療である。筋腫核出術後,新たな筋腫が再び発育し始めることがあり,筋腫核出術を受けた約25%の女性が4~8年後に子宮摘出術を受ける。
複数回の筋腫核出術は子宮摘出術よりはるかに困難である。
他のより低侵襲の治療が無効であった場合。
手術をより複雑にする他の異常を認める場合(例,広範囲の癒着,子宮内膜症)。
子宮摘出術は他の疾患(例,子宮頸部上皮内腫瘍,子宮内膜増殖症,子宮内膜症,BRCA変異を有する女性での卵巣がん)のリスクを減少させることができる。
より新しい治療法は,症状を軽減しうるが,症状軽減の持続期間や妊孕性回復効果については評価が行われていない。このような治療法としては以下のものがある:
高密度焦点式超音波療法(強度集束超音波療法)
凍結療法
ラジオ波焼灼術
MRガイド下集束超音波手術
子宮動脈塞栓術
子宮動脈塞栓術は正常子宮組織を温存しながら子宮全体に存在する筋腫に梗塞を起こすことを目標としている。この手技後,患者は子宮摘出術や筋腫核出術後よりも早く回復するが,合併症(例,出血,子宮虚血)および再通院の割合は高くなる傾向がある。治療不成功率は20~23%である;このような場合には子宮摘出術による根治的治療が必要となる。
治療法の選択
子宮筋腫の治療は個別化して行われるべきであるが,いくつかの要因が治療法の決定に役立つ:
無症候性の筋腫:治療を必要としない
閉経後女性:待機的管理の試み(閉経後に筋腫のサイズが縮小するにつれ症状が軽快する傾向にあるため)
症候性の筋腫,特に妊娠を望む場合:子宮動脈塞栓術,他の新しい治療法(例,高密度焦点式超音波療法),または筋腫核出術
重度の症状で他の治療が無効な場合,特に妊娠を望まない場合:子宮摘出術,場合により薬物療法を先行させる(例,GnRHアゴニストによる)
要点
筋腫は45歳までに女性の約70%に発生するが,必ず症状を起こすわけではない。
必要であれば,画像検査で診断を確定し,通常は超音波検査(ときにソノヒステログラフィーを併用)またはMRIにより行う。
軽度の症状を一時的に緩和するために,薬剤(例,GnRHアゴニスト,プロゲスチン,SERM,ミフェプリストン,トラネキサム酸,ダナゾール)を考慮する。
より持続的な緩和のためには,手術(例,特に妊孕性温存希望の場合は新しい治療法または筋腫核出術;根治的治療のためには子宮摘出術)を考慮する。