妊娠性絨毛性疾患

執筆者:Pedro T. Ramirez, MD, Houston Methodist Hospital;
Gloria Salvo, MD, MD Anderson Cancer Center
レビュー/改訂 2020年 9月
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妊娠性絨毛性疾患は,妊婦または最近まで妊娠していた女性におけるトロホブラストの増殖である。症状として,特に妊娠早期に,過度の子宮腫大,嘔吐,性器出血,および妊娠高血圧腎症が現れうる。診断には,ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定,骨盤内超音波検査を含み,生検による確定を行う。腫瘍は吸引掻爬により除去する。疾患が除去後も継続する場合には,化学療法の適応となる。

妊娠性絨毛性疾患は,胚盤胞を取り囲み絨毛膜および羊膜へと発達する細胞であるトロホブラストから発生する腫瘍である(在胎約11週4日の胎盤および胎芽のページを参照)。

妊娠性絨毛性疾患は,子宮内妊娠中や異所性妊娠中またはそれらの後に生じうる。本疾患が妊娠中に起こると,典型的に自然流産,子癇,または胎児死亡が起こる;胎児が生存するのはまれである。

妊娠性絨毛性疾患には以下の可能性がある:

  • 良性:該当する腫瘍としては,着床部結節や胞状奇胎などがある。

  • 妊娠性絨毛性腫瘍:該当する悪性腫瘍としては,胎盤部トロホブラスト腫瘍,類上皮性トロホブラスト腫瘍,絨毛癌,侵入奇胎などがある。

胞状奇胎は17歳未満または35歳以上の女性および妊娠性絨毛性疾患の既往がある女性に最も多くみられる。米国では,妊娠約2000件当たり1件発生する。理由は不明であるが,アジア諸国での発生は200件当たり1件近くとなっている。

大部分(> 80%)の胞状奇胎は良性である。残りは存続し,浸潤する傾向がある;胞状奇胎の2~3%に絨毛癌が続発する。

妊娠性絨毛性腫瘍の全発生率は妊娠約40,000件あたり1件である(1, 2)。

妊娠性絨毛性腫瘍の半数は胞状奇胎妊娠から発生し,25%は流産または卵管妊娠から,25%は正期産または早期産の妊娠から発生する(3)。胞状奇胎妊娠の後,絨毛性腫瘍は通常,胞状奇胎組織もしくは絨毛癌,またはまれに胎盤部トロホブラスト腫瘍もしくは類上皮性トロホブラスト腫瘍として発生する。

胞状奇胎妊娠には以下の2つのタイプがある:

  • 全奇胎:胎盤組織に異常がみられ,胎児組織は形成されない。

  • 部分奇胎:部分胞状奇胎妊娠では,異常な胎盤組織を伴う正常な胎盤組織がみられることがある。胎児が発達する場合があるが生存できず,通常は妊娠初期に流産となる。

全胞状奇胎後,15%の症例で局所浸潤が起こり,5%で転移が起こる。部分奇胎後,最大3~5%の患者で局所浸潤が起こり,転移はまれである(3)。

総論の参考文献

  1. 1.Smith HO: Gestational trophoblastic disease epidemiology and trends.Clin Obstet Gynecol (3):541–556, 2003.doi: 10.1097/00003081-200309000-00006.

  2. 2.Ngan S, Seckl MJ: Gestational trophoblastic neoplasia management: an update.Curr Opin Oncol 19 (5):486–491, 2007.doi: 10.1097/CCO.0b013e3282dc94e5.

  3. 3.Goldstein DP, Berkowitz RS: Current management of gestational trophoblastic neoplasia.Hematol Oncol Clin North Am 26 (1):111–131, 2012.doi: 10.1016/j.hoc.2011.10.007.

症状と徴候

胞状奇胎の最初の症状は妊娠初期を示唆するものであるが,妊娠10~16週以内に子宮が通常より大きくなることが多い。一般的に,妊娠検査陽性の女性に性器出血と重度の嘔吐を認め,胎児の動きおよび胎児心音が欠如している。ブドウ状組織の排出は診断を強く示唆する。

合併症としては以下のものがあり,妊娠初期に起こることがある:

胎盤部トロホブラスト腫瘍は出血を起こしやすい。

絨毛癌は通常,転移による症状で明らかとなる。

甲状腺機能亢進症は,妊娠性絨毛性疾患がない女性よりある女性でより頻度が高い。症状としては,頻脈,皮膚の熱感,発汗,耐暑性低下(heat intolerance),軽度の振戦などがある。

妊娠性絨毛性疾患は妊孕性を損なったり,以降の妊娠における出生前または周産期の合併症(例,先天奇形,自然流産)の素因となったりはしない。

診断

  • 血清ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(β-hCG)測定

  • 骨盤内超音波検査

  • 生検

妊娠性絨毛性疾患は妊娠検査陽性で以下のいずれかを認める女性で疑われる:

  • 妊娠週数に比してはるかに大きな子宮

  • 妊娠高血圧腎症の症状または徴候

  • ブドウ状組織の排出

  • 妊娠評価のための超音波検査中にみられる本疾患を示唆する所見(例,複数の嚢胞を有する腫瘤,胎児および羊水の欠如)

  • 生殖年齢の女性における原因不明の転移

  • 予想外に高いβ-hCG値が妊娠検査中に検出される(胎盤部トロホブラスト腫瘍および類上皮性トロホブラスト腫瘍ではβ-hCGが低値となり,これらは例外である)

  • 原因不明の妊娠合併症

パール&ピットフォール

  • 子宮が妊娠週数に比してはるかに大きい場合,妊娠高血圧腎症の症状や徴候を認める場合,またはβ-hCG値が予想外に高い場合には妊娠初期に超音波検査を行う。

妊娠性絨毛性疾患が疑われる場合には,検査として血清β-hCG値の測定を含み,過去に行われていなければ,骨盤内超音波検査を行う。何らかの所見(例,非常に高いβ-hCG値,古典的な超音波検査所見)により本疾患の診断が示唆されることがあるが,確定には生検が必要である。典型的には,β-hCG値は侵入奇胎または絨毛癌の患者で高く,胎盤部トロホブラスト腫瘍または類上皮性トロホブラスト腫瘍の患者で低い。

生検所見から侵襲的疾患が示唆される場合や,胞状奇胎の治療後にβ-hCG値が予想より高い水準にとどまる場合は,侵入奇胎または絨毛癌が疑われる(以下参照)。

β-hCG値が100,000mIU/mL(100,000IU/L)を超える場合には,甲状腺機能亢進症の可能性を調べるために甲状腺機能検査を行う。

進行期分類

妊娠性絨毛性疾患を治療する前に進行期およびリスクスコアを判定する。

International Federation of Gynecology and Obstetrics(FIGO)が妊娠性絨毛性腫瘍の進行期分類を開発している(妊娠性絨毛性腫瘍のFIGO解剖学的進行期分類の表を参照)。

表&コラム

予後

転移例については,転移性妊娠性絨毛性疾患に関する世界保健機関(World Health Organization:WHO)の予後スコアリングシステムが,死亡リスクを含む予後予測に役立つ可能性がある(転移性妊娠性絨毛性疾患に関するWHOスコアリングシステムの表を参照)。

表&コラム

予後不良は以下によっても示唆される(米国国立衛生研究所[National Institutes of Health:NIH]基準):

  • hCGの24時間尿中排泄 >100,000IU

  • 潜伏期 > 4カ月(前の妊娠からの間隔)

  • 脳または肝への転移

  • 満期妊娠後に発症

  • 血清hCG > 40,000mIU/mL

  • 以前の化学療法が無効

  • WHOスコア 7

治療

  • 吸引掻爬による腫瘍除去または子宮摘出術

  • 存続絨毛症および腫瘍の拡がりについてのさらなる評価

  • 存続絨毛症に対して化学療法

  • 存続絨毛症に対して治療後の避妊

National Comprehensive Cancer Network (NCCN): NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Gestational Trophoblastic Neoplasia[NCCN腫瘍学臨床診療ガイドライン:妊娠性絨毛性腫瘍]も参照のこと。)

胞状奇胎,侵入奇胎,胎盤部トロホブラスト腫瘍,および類上皮性トロホブラスト腫瘍は吸引掻爬により除去する。出産の予定がない場合には,代わりに子宮摘出術を実施することがある。

腫瘍を除去した後,妊娠性絨毛性疾患を臨床的に分類し,さらなる治療が必要か否かを判断する。臨床分類のシステムは形態学的分類と一致するものではない。侵入奇胎および絨毛癌は存続絨毛症に臨床的に分類される。侵入奇胎と絨毛癌の治療は同様であり,正確な組織学的診断には子宮摘出術が必要であることがあるためこの臨床分類が用いられる。

胸部X線撮影を行い,血清β-hCGを測定する。β-hCGレベルが10週間以内に正常に戻らない場合には,疾患は存続性と分類される。存続絨毛症の場合,頭部,胸部,腹部,および骨盤CTが必要である。結果によって,その疾患が非転移性か転移性かの分類が決まる。

存続絨毛症には通常,化学療法による治療を行う。血清β-hCGを1週間間隔で測定し,少なくとも連続3回正常であれば,治療は奏効していると判断する。妊娠はβ-hCG値を上昇させ,治療が奏効したかどうかの判断を困難にするため,治療後6カ月間,妊娠を防ぐべきである。典型的には,経口避妊薬(どのタイプの薬剤でも使用可能)を6カ月間投与する;または,効果的な避妊法を用いる。

非転移性疾患は,単剤の化学療法薬(メトトレキサートまたはアクチノマイシンD)により治療できる。代わりに,40歳以上または不妊手術を望む患者には子宮摘出術が考慮され,重度の感染症や出血が止まらない患者においては,子宮摘出術が必要になる場合がある。単剤化学療法が無効の場合,子宮摘出術または多剤併用化学療法の適応となる。非転移性疾患患者のほぼ100%が治癒しうる。

低リスクの転移性疾患の治療としては単剤(例,メトトレキサート,アクチノマイシンD)化学療法が望ましく,あるいは多剤併用化学療法を行う。高リスクの転移例では,単剤使用では耐性が生じる可能性が高いため,積極的な多剤併用化学療法が必要である。EMA-COが最も広く用いられているレジメンである。このレジメンではエトポシド,メトトレキサート,およびアクチノマイシンD(EMA)と,シクロホスファミド + ビンクリスチン(CO)を交互に併用する。

治癒率は以下の通りである:

  • 低リスク例:90~95%

  • 高リスク例:60~80%

進行のリスクと単剤化学療法に対する抵抗性は,FIGO進行期分類とWHOリスクスコアにより判定する。

以下のいずれかに該当する場合,妊娠性絨毛性疾患が低リスクと考えられる:

  • FIGO I期(β-hCG高値が持続する,および/または腫瘍が子宮に限局している)

  • FIGO II期またはIII期でWHOリスクスコアが6以下

以下のいずれかに該当する場合,妊娠性絨毛性疾患が高リスクと考えられる:

  • FIGO II期およびIII期でWHOリスクスコアが7以上

  • FIGO IV期

胞状奇胎は次の妊娠の約1%で再発する。奇胎の既往がある患者では次の妊娠初期に超音波検査が必要であり,胎盤の病理学的評価を行うべきである。

要点

  • 子宮が妊娠週数に比してはるかに大きい場合,女性が妊娠高血圧腎症の症状や徴候を有する場合,β-hCG値が妊娠初期に予想外に高い場合,または超音波検査所見で示唆される場合,妊娠性絨毛性疾患を疑う。

  • β-hCG値測定,骨盤内超音波検査を行い,所見から妊娠性絨毛性疾患が示唆される場合は,生検により診断を確定する。

  • 腫瘍を除去し(例,吸引掻破による),臨床基準に基づき分類する。

  • 疾患が存続性であれば化学療法で治療を行い,治療後6カ月間,避妊法を処方する。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Cancer Institute: Gestational Trophoblastic Disease Treatment: This web site provides information about gestational trophoblastic disease, its classification, staging, and treatment of each type of gestational trophoblastic disease.

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