骨盤内腫瘤がルーチンの婦人科診察で見つかることがある。骨盤内腫瘤は良性の場合も 悪性 婦人科腫瘍に関する序論 婦人科がんは 子宮, 卵巣, 子宮頸部, 外陰, 腟, 卵管,または腹膜に発生することが多い。米国で最も多くみられる婦人科がんは子宮内膜癌(子宮体癌)であり,卵巣がんがこれに続く。先進国では,パパニコロウ(Pap)検査およびヒトパピローマウイルス(HPV)検査によるスクリーニングが広く行われていて,効果を示していることから,子宮頸癌の頻度... さらに読む の場合もある。
病因
骨盤内腫瘤は,婦人科臓器(子宮頸部,子宮体部,子宮付属器)または他の骨盤内臓器(小腸,膀胱,尿管,骨格筋,骨)に起因する可能性がある。
腫瘤の種類は年齢層によって異なる傾向にある:
乳児では生後数カ月の間,子宮内での母体由来ホルモンが付属器嚢胞の発生を刺激することがある。この作用はまれである。
思春期では排出経路の閉塞により月経血が貯留して腟腫瘤を形成することがある(腟留血症)。原因は通常,処女膜閉鎖症である;その他の原因として子宮,子宮頸部,または腟の先天奇形がある。
妊娠可能年齢の女性では,対称性の子宮増大の最も一般的な原因は妊娠であり,本人が気づいていない場合がある。他の一般的な原因として 筋腫 子宮筋腫 子宮筋腫は平滑筋由来の良性子宮腫瘍である。筋腫は,異常子宮出血,骨盤痛や圧迫感,泌尿器や腸管の症状,および妊娠合併症を頻繁に引き起こす。診断は内診,超音波検査,または他の画像検査による。症状のある患者の治療は,患者の妊孕性および子宮温存の希望に基づく。治療法としては,経口避妊薬,筋腫を縮小させるための短期間の術前ゴナドトロピン放出ホルモン... さらに読む があり,これは外方へ突出することがある。よくみられる付属器腫瘤には,正常に成熟したが排卵しないグラーフ卵胞(通常5~8cm)がある(機能性卵巣嚢胞 機能性嚢胞 良性卵巣腫瘤には,機能性嚢胞と腫瘍が含まれる;ほとんどは無症状である。治療は患者の生殖に関する状況によって異なる。 機能性嚢胞には以下の2種類がある: 卵胞嚢胞:グラーフ卵胞から生じる。 黄体嚢胞:黄体から生じる。これらは嚢胞内腔に出血し,卵巣被膜を膨張させたり,腹膜腔内に破裂することがある。... さらに読む と呼ばれる)。このような嚢胞は数カ月以内に自然に消退することが多い。付属器腫瘤は, 異所性妊娠 異所性妊娠 異所性妊娠では,着床が子宮腔の子宮内膜以外の部位,すなわち卵管,子宮角,頸部,卵巣,腹腔または骨盤腔内に起こる。異所性妊娠では満期まで妊娠を継続できず,最終的には破裂または自然消失する。初期症状および徴候として骨盤痛,性器出血,および頸部移動痛がある。破裂に伴って失神または出血性ショックが起こりうる。診断はヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユ... さらに読む , 卵巣がん 卵巣がん 卵巣がんは通常,診断時には進行しているため,致死的となることが多い。通常,症状は早期にはなく,進行期にも非特異的である。評価として通常,超音波検査,CTまたはMRI,および腫瘍マーカー(例,CA125)の測定を行う。診断は組織学的分析による。進行期診断は外科的に行う。治療として,子宮摘出術,両側卵管卵巣摘出術,浸潤病変の可能な限りの切除(... さらに読む , 卵管癌 卵管癌 卵管癌は通常は腺癌であり,付属器腫瘤または非特異的症状として現れる。診断,進行期診断,および初回治療は外科的に行う。 高異型度漿液性上皮性 卵巣がん, 卵管癌,および腹膜癌は,それぞれ臨床像および治療法が共通している。 原発性卵管癌はまれである。通常は,患者は診断時点で閉経後である。... さらに読む ,良性腫瘍(例, 良性嚢胞性奇形腫 良性腫瘍 良性卵巣腫瘤には,機能性嚢胞と腫瘍が含まれる;ほとんどは無症状である。治療は患者の生殖に関する状況によって異なる。 機能性嚢胞には以下の2種類がある: 卵胞嚢胞:グラーフ卵胞から生じる。 黄体嚢胞:黄体から生じる。これらは嚢胞内腔に出血し,卵巣被膜を膨張させたり,腹膜腔内に破裂することがある。... さらに読む ),または卵管留水腫が原因である場合もある。 子宮内膜症 子宮内膜症 子宮内膜症では,骨盤内の子宮腔以外の部位に機能をもった子宮内膜組織が生着する。症状は生着の部位によって異なり,月経困難症,性交痛,不妊,排尿困難,排便時の痛みなどがみられる。症状の重症度は病期と無関係である。診断は直接観察のほか,ときに生検(通常は腹腔鏡下)による。治療法としては,抗炎症薬,卵巣機能と子宮内膜組織の増殖を抑制する薬剤,子宮... さらに読む では,骨盤内のあらゆる部位(通常卵巣)に,1個または複数の腫瘤が生じることがある。
閉経後女性では,腫瘤が悪性である可能性が高い。多くの良性卵巣腫瘤(例,子宮内膜症性嚢胞[endometrioma],筋腫)は卵巣ホルモン分泌に依存するため,閉経後にはあまりみられなくなる。
評価
病歴
一般的な病歴および完全な婦人科歴を得る。
所見から骨盤内腫瘤の原因が示唆されることがある:
性器出血および骨盤痛: 異所性妊娠 異所性妊娠 異所性妊娠では,着床が子宮腔の子宮内膜以外の部位,すなわち卵管,子宮角,頸部,卵巣,腹腔または骨盤腔内に起こる。異所性妊娠では満期まで妊娠を継続できず,最終的には破裂または自然消失する。初期症状および徴候として骨盤痛,性器出血,および頸部移動痛がある。破裂に伴って失神または出血性ショックが起こりうる。診断はヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユ... さらに読む またはまれに 妊娠性絨毛性疾患 妊娠性絨毛性疾患 妊娠性絨毛性疾患は,妊婦または最近まで妊娠していた女性におけるトロホブラストの増殖である。症状として,特に妊娠早期に,過度の子宮腫大,嘔吐,性器出血,および妊娠高血圧腎症が現れうる。診断には,ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定,骨盤内超音波検査を含み,生検による確定を行う。腫瘍は吸引掻爬により除去する。疾患が除去後も継続する場合... さらに読む
月経困難症: 子宮内膜症 子宮内膜症 子宮内膜症では,骨盤内の子宮腔以外の部位に機能をもった子宮内膜組織が生着する。症状は生着の部位によって異なり,月経困難症,性交痛,不妊,排尿困難,排便時の痛みなどがみられる。症状の重症度は病期と無関係である。診断は直接観察のほか,ときに生検(通常は腹腔鏡下)による。治療法としては,抗炎症薬,卵巣機能と子宮内膜組織の増殖を抑制する薬剤,子宮... さらに読む または 子宮筋腫 子宮筋腫 子宮筋腫は平滑筋由来の良性子宮腫瘍である。筋腫は,異常子宮出血,骨盤痛や圧迫感,泌尿器や腸管の症状,および妊娠合併症を頻繁に引き起こす。診断は内診,超音波検査,または他の画像検査による。症状のある患者の治療は,患者の妊孕性および子宮温存の希望に基づく。治療法としては,経口避妊薬,筋腫を縮小させるための短期間の術前ゴナドトロピン放出ホルモン... さらに読む
女児における早発思春期:卵巣の男性化腫瘍または女性化腫瘍
女性における男性化:卵巣の男性化腫瘍
過多月経・不正出血(menometrorrhagia)または閉経後出血:悪性の,ときに女性化腫瘍(最も一般的な原因ではない)のリスク上昇
診察
全身状態の観察では,婦人科以外の疾患(例,消化管疾患,内分泌疾患)の徴候および腹水がないかを調べるべきである。一通りの婦人科診察を行う。
子宮腫瘤を付属器腫瘤と鑑別するのは困難なことがある。子宮内膜症性嚢胞は通常,付属器腫瘤である。進行した子宮内膜症は,可動性のないダグラス窩腫瘤として顕在化する可能性がある。付属器がん,良性腫瘍(例,良性嚢胞性奇形腫)および異所性妊娠による付属器腫瘤はしばしば可動性である。卵管留水腫は通常波動性で,圧痛があり,可動性がなく,ときに両側性である。
女児では,骨盤内臓器の腫瘤が腹部から触知できる場合があるが,これは,大きな腫瘤に対して骨盤が小さすぎるためである。
検査
妊娠可能年齢の女性では,得られた病歴にかかわらず妊娠検査を行うべきである。妊娠検査の結果が陽性でも, 超音波検査 超音波検査 理想的には,妊娠を予定している女性は,受胎前に医師の診察を受けるべきである;これにより妊娠のリスクおよびそれらを減じる方策について学ぶことができる。受胎前のケアの一部として,プライマリケア医は妊娠可能年齢の全ての女性に葉酸400~800μg(0.4~0.8mg)を含むビタミンを1日1回服用するよう助言すべきである。葉酸は神経管閉鎖不全のリ... さらに読む やその他の画像検査は必ずしも必要ではない;画像検査は異所性妊娠が疑われる場合には必要である。
腫瘤の存在や由来(婦人科的 vs 婦人科以外)が臨床的に確定できない場合は,画像検査により通常確定できる。通常,まず骨盤内超音波検査を施行する。
妊娠可能年齢の女性における,単発性で嚢胞壁の薄い5~8cm大の嚢胞性付属器腫瘤(通常はグラーフ卵胞嚢胞)は,3回の月経周期を超えて持続するものや中等度から重度の疼痛を伴うものでない限り,さらに検査を行う必要はない。
International Ovarian Tumor Analysis(IOTA)グループは,手術が必要と考えられる卵巣腫瘍またはその他の付属器腫瘍を有する女性においてがんのリスクを術前に評価するためのSimple Rulesを開発した。分類は10項目の超音波所見の有無に基づき,他の分類スコアよりも感度および特異度が高い。2016年には,IOTAのSimple Rulesが更新され,iPhoneやAndroid端末で使用できる,リスク計算ツール(SRrisk)が追加された(1 評価に関する参考文献 骨盤内腫瘤がルーチンの婦人科診察で見つかることがある。骨盤内腫瘤は良性の場合も 悪性の場合もある。 骨盤内腫瘤は,婦人科臓器(子宮頸部,子宮体部,子宮付属器)または他の骨盤内臓器(小腸,膀胱,尿管,骨格筋,骨)に起因する可能性がある。 腫瘤の種類は年齢層によって異なる傾向にある:... さらに読む )。
超音波検査で腫瘤の大きさ,位置,硬さが明確に捉えられなければ,別の画像検査(例,CT,MRI)でそれができる可能性がある。
充実性成分,表面の突出物,および不整形(これらもがんを示唆する)など,画像上でがんの特徴を認める卵巣腫瘤については,穿刺吸引または生検が必要となる。 特定の腫瘍の診断 腫瘍の免疫診断 腫瘍関連抗原(TAA)は,様々な腫瘍の診断に役立つ可能性があり,ときに治療に対する反応または再発の判定に役立つこともある。理想的な腫瘍マーカーとは以下のようなものである: 腫瘍組織のみから放出される 特定の種類の腫瘍に特異的である 腫瘍細胞量が少なくても検出できる 腫瘍細胞量と直接相関する さらに読む に腫瘍マーカーが役立つことがある。
評価に関する参考文献
1.International Ovarian Tumor Analysis: IOTA Simple Rules and SRrisk calculator to diagnose ovarian cancer.Accessed 2/16/20.
要点
骨盤内腫瘤の種類は年齢層によって異なる傾向にある。
妊娠可能年齢の女性では,対称性の子宮増大の最も一般的な原因は妊娠であるが,それ以外で頻度の高い骨盤内腫瘤の原因は筋腫と機能性卵巣嚢胞である。
閉経後女性では,腫瘤が悪性である可能性が高い。
妊娠可能年齢の女性では,妊娠検査を行う。
臨床的評価で結論が出ない場合は,画像検査を行う;通常はまず骨盤内超音波検査を施行する。