腟のかゆみ(そう痒)や分泌物(帯下)は,腟粘膜の感染性または非感染性の炎症(腟炎 腟炎の概要 腟炎は,腟粘膜の感染性または非感染性の炎症であり,ときに外陰の炎症を伴う。症状としては,帯下,刺激症状,そう痒,発赤などがある。診断は,腟分泌物の検査による。治療は原因に対して,また重度の症状があればそれに対して行う。 腟炎の最も頻度の高い原因は患者の年齢によって異なる。外陰炎と外陰腟炎の原因には重複がみられる。... さらに読む )により生じ,しばしば外陰の炎症(外陰腟炎)を伴う。症状としては,過敏性,灼熱感,発赤,ときに排尿困難や性交痛などがある。腟炎の症状は最も頻度の高い婦人科的愁訴の1つである。
病態生理
腟分泌物(帯下)は正常である場合もある(特にエストロゲン値が高い場合)。エストロゲン値は以下の状況で高値となる:
排卵の数日前
生後2週間(出生前に母体のエストロゲンが移行するため)
初経の数カ月前と妊娠中(エストロゲン産生が増加する)
エストロゲンを含有する薬剤またはエストロゲン産生を増加させる薬剤(例,一部の排卵誘発薬)の使用時
しかしながら,過敏性,灼熱感,およびそう痒が正常であることはない。
妊娠可能年齢の女性では一般に,乳酸桿菌(Lactobacillus)属が正常な腟内細菌叢の主たる構成菌である。これら細菌の常在により腟内のpHが正常範囲(3.8~4.2)に保たれることで,病原性細菌の過剰増殖が阻止される。さらに,高濃度のエストロゲンにより腟の厚さが維持され,局所的防御機構が強化される。
腟内の病原細菌が過剰に増殖しやすくなる要因として以下のものがある:
抗菌薬の使用(乳酸桿菌を減少させることがある)
月経血,精液,または乳酸桿菌の減少による腟pHのアルカリ化
衛生状態の不良
頻繁な腟洗浄
妊娠
糖尿病
腟内異物(例,取り忘れたタンポンまたはペッサリー)
病因
腟のかゆみおよび分泌物の最も一般的な原因は患者の年齢によって異なる(腟のそう痒および分泌物の主な原因 腟のそう痒および分泌物の主な原因 の表を参照)。
小児
小児では,一般的な原因に 腟炎 腟炎の概要 腟炎は,腟粘膜の感染性または非感染性の炎症であり,ときに外陰の炎症を伴う。症状としては,帯下,刺激症状,そう痒,発赤などがある。診断は,腟分泌物の検査による。治療は原因に対して,また重度の症状があればそれに対して行う。 腟炎の最も頻度の高い原因は患者の年齢によって異なる。外陰炎と外陰腟炎の原因には重複がみられる。... さらに読む があり,通常は腸内細菌叢による感染症による(非特異的な外陰腟炎)。2~6歳の女児における一般的な寄与因子として,会陰部の不衛生が挙げられる(例,排便後に後ろから前へ拭く,排便後に手を洗わない)。
入浴剤や石鹸の化学物質が外陰の炎症やそう痒を引き起こすことがあり,しばしば再発する。
異物が非特異的腟炎を引き起こすことがあり,しばしば少量の血性分泌物を伴う。
妊娠可能年齢の女性
妊娠可能年齢の女性では腟炎も一般的な原因である;通常は感染性である。最も頻度の高い病型は以下のものである:
他の感染(例, 淋菌感染症 淋菌感染症 淋菌感染症は,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)と呼ばれる細菌によって引き起こされる。典型的には,尿道,子宮頸部,直腸,咽頭の上皮,または結膜に感染し,刺激感または疼痛および膿性分泌物を生じさせる。皮膚および関節への播種はまれであるが,皮膚のただれ,発熱,および移動性の多関節炎または少関節型の化膿性関節炎を引き起こす。診断は鏡検,培養,または核酸増幅検査による。いくつかの経口または注射用抗菌薬が使用できるが... さらに読む , クラミジア感染症 クラミジア,マイコプラズマ,およびウレアプラズマによる粘膜感染症 非淋菌性STDとしての尿道炎,子宮頸管炎,直腸炎,および咽頭炎は,主にクラミジアが原因であるが,まれにマイコプラズマまたはUreaplasma属細菌によることもある。クラミジアは,卵管炎,精巣上体炎,肝周囲炎,新生児結膜炎,および乳児肺炎も引き起こすことがある。未治療のクラミジア卵管炎は慢性化し,引き起こす症状は最小限であるが,重篤な転帰を招く。診断は培養,抗原の免疫測定法,または核酸検査による。治療はアジスロマイシンの単... さらに読む )により分泌物が生じることもある。これらの感染症はしばしば 骨盤内炎症性疾患 骨盤内炎症性疾患 (PID) 骨盤内炎症性疾患(PID)は,上部女性生殖器(子宮頸部,子宮,卵管,および卵巣)の複数菌感染症である;膿瘍が生じることがある。骨盤内炎症性疾患は性行為により感染することがある。一般的な症状および徴候として,下腹部痛,頸管分泌物,および不正性器出血がある。長期合併症には,不妊,慢性骨盤痛,および異所性妊娠がある。診断には,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)とクラミジアに関する子宮頸部検体のポリメラーゼ連鎖反応... さらに読む も起こす。
性器ヘルペス 性器ヘルペス 性器ヘルペスは,ヒトヘルペスウイルス1型または2型によって引き起こされる性感染症である。潰瘍性の性器病変が生じる。診断は臨床的に行い,培養,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査,または血清学的検査により確定する。治療は抗ウイルス薬による。 性器ヘルペスは,先進国において最も頻度の高い潰瘍性の 性感染症である。ヒトに感染する8種類のヘルペスウイルスのうちの2種類,ヒトヘルペスウイルス1型(HSV-1)または2型(HSV-2)によって引き起こ... さらに読む はときに腟のかゆみを引き起こすが,典型的には疼痛と潰瘍で発症する。
腟炎は異物(例,タンポンの取り忘れ)により起こる場合もある。炎症性の非感染性腟炎はまれである。
閉経後女性
閉経後女性 老年医学的重要事項 腟のかゆみ(そう痒)や分泌物(帯下)は,腟粘膜の感染性または非感染性の炎症( 腟炎)により生じ,しばしば外陰の炎症(外陰腟炎)を伴う。症状としては,過敏性,灼熱感,発赤,ときに排尿困難や性交痛などがある。腟炎の症状は最も頻度の高い婦人科的愁訴の1つである。 腟分泌物(帯下)は正常である場合もある(特にエストロゲン値が高い場合)。エストロゲン値は以下の状況で高値となる: 排卵の数日前... さらに読む では,萎縮性腟炎が一般的な原因である。
帯下が生じる他の原因としては, 腟がん 腟がん 腟がんは通常は扁平上皮癌であり,60歳以上の女性に最も多く発症する。最も頻度の高い症状は異常性器出血である。診断は生検による。多くの小さな限局がんに対する治療は,子宮摘出および腟切除とリンパ節郭清であり,残りの大半には放射線療法を用いる。 原発性腟がんはまれであり,米国において婦人科がんの1%を占める。腟原発の腫瘍よりも,腟への遠隔転移や隣接する婦人科臓器からの局所進展の方が頻度が高い。診断時の平均年齢は60~65歳である。... さらに読む , 子宮頸癌 子宮頸癌 子宮頸癌は,多くは扁平上皮癌であり,ヒトパピローマウイルス感染により引き起こされる;頻度は低いが腺癌であることもある。子宮頸部腫瘍は無症状である;早期子宮頸癌の最初の症状は通常,不正性器出血,しばしば性交後の性器出血である。診断は,頸部パパニコロウ検査および生検による。進行期診断は臨床所見のほか,利用可能であれば画像検査および病理検査の結果も踏まえて行う。治療は通常,早期疾患に対しては外科的切除,局所進行例には放射線療法に加え化学療法が... さらに読む , 子宮内膜癌 子宮内膜癌(子宮体がん) 子宮内膜癌(子宮体癌)の大部分は類内膜腺癌である。典型的には,閉経後に性器出血が起こる。診断は生検による。進行期診断は手術進行期分類である。治療には,子宮摘出術,両側卵管卵巣摘出術が必要であり,高リスクの患者では通常,骨盤および傍大動脈リンパ節郭清術を必要とする。進行例には通常,放射線療法,ホルモン療法または化学療法が適応となる。 子宮内膜癌は,脂肪の多い食事を摂る先進国においてより頻度が高く,... さらに読む のほか,失禁のある女性や寝たきりの女性でみられる化学性の外陰炎などがある。
全年齢の女性
年齢を問わず腟または外陰感染の素因となる状態としては以下のものがある:
腸管と性器の間の瘻孔(これにより腸内細菌叢が性器に播種される)
骨盤照射または骨盤内腫瘍(組織を破壊して正常な宿主防御機構を破綻させる)
瘻孔は通常産科的原因(経腟分娩時の外傷または会陰切開後の感染合併症)によるが,ときに炎症性腸疾患または骨盤内腫瘍によるものや,骨盤内手術(例,子宮摘出術,肛門手術)の合併症として生じることもある。
非感染性外陰炎は外陰腟炎症例の最大30%を占める。女性用衛生スプレーや香水,生理用ナプキン,洗濯洗剤,漂白剤,衣類の柔軟剤,およびときに,殺精子剤,腟クリームや潤滑剤,ラテックス製コンドーム,腟内避妊リングやペッサリーなど様々な物質への過敏性または刺激反応により生じることがある。
評価
病歴
現病歴には症状の性質(例,そう痒,灼熱感,痛み,分泌物),期間,強さを含める。帯下がみられる場合は,分泌物の色と臭い,増悪および軽減する因子(特に月経と性交に関係するもの)について尋ねるべきである。女性用衛生スプレーや香水,殺精子剤,腟クリームや潤滑剤,ラテックス性コンドーム,腟用避妊リングおよびペッサリーの使用についても尋ねるべきである。
システムレビュー(review of systems)では,以下のような可能性のある原因を示唆する症状がないか検討すべきである:
発熱または悪寒と腹痛または恥骨上部痛:骨盤内炎症性疾患(PID)または膀胱炎
多尿および多飲:初発の糖尿病
既往歴の聴取では,以下の危険因子に注意すべきである:
カンジダ感染症(例,最近の抗菌薬の使用,糖尿病,HIV感染,他の免疫抑制疾患)
瘻孔(例,クローン病,泌尿生殖器癌または消化器癌,骨盤または直腸手術,分娩中の裂傷)
性感染症(例,無防備な性交,複数のパートナー)
小児の性的虐待が疑われる場合には,National Institute of Child Health and Human Development (NICHD) Protocolに基づく法医学的な構造化面接を用いることができる。これは経験した出来事に関する情報を小児が報告する助けとなり,得られる情報の質を改善する。
身体診察
身体診察は内診に焦点を置く。
外性器を診察して,発赤,表皮剥離,および腫脹がないか確認する。水で滑りやすくした腟鏡を用いて腟壁を観察し,発赤,分泌物,瘻孔がないか確認する。子宮頸部を視診して,炎症(例,トリコモナス症)および分泌物がないか確認する。腟pHを測定し,検査のために分泌物の検体を採取する。双合診を行い,頸部移動痛および付属器,子宮の圧痛(骨盤内炎症性疾患を示唆する)を調べる。
警戒すべき事項(Red Flag)
以下の所見は特に注意が必要である:
小児でのトリコモナス腟炎(性的虐待を示唆する)
便の排出(見えなくても瘻孔を示唆する)
発熱または骨盤痛
閉経後女性の血性分泌物
所見の解釈
しばしば,病歴と身体診察が診断に役立つ(腟のそう痒および分泌物の主な原因 腟のそう痒および分泌物の主な原因 の表を参照)が,重複する部分が多いことがある。
小児では,帯下の存在は腟内の異物を示唆する。小児で異物が存在せず,トリコモナス腟炎を認める場合,性的虐待の可能性が高い。原因不明の帯下がみられる場合には,性感染症により生じることがある 子宮頸管炎 子宮頸管炎 子宮頸管炎は,頸管に生じる感染性または非感染性の炎症である。所見としては,腟分泌物,性器出血,および頸管の発赤と脆弱性などがみられる。腟炎および骨盤内炎症性疾患の感染性の原因がないか検査し,通常経験的にクラミジアおよび淋菌感染症に対する治療を行う。 急性子宮頸管炎は通常,感染が原因である;慢性子宮頸管炎は通常,感染が原因ではない。子宮頸管炎が上行し,子宮内膜炎および 骨盤内炎症性疾患(PID)の原因となることがある。... さらに読む を考えるべきである。非特異的な外陰腟炎は除外診断である。
妊娠可能年齢の女性では,腟炎による分泌物を正常な分泌物と識別する必要がある:
正常な腟分泌物は一般的に乳白色または粘液様で,無臭,非刺激性である;下着を湿らせるほど腟を湿潤させることもある。
接触による刺激やアレルギー反応は著明な過敏と炎症をもたらし,分泌物は比較的少量である。
子宮頸管炎 子宮頸管炎 子宮頸管炎は,頸管に生じる感染性または非感染性の炎症である。所見としては,腟分泌物,性器出血,および頸管の発赤と脆弱性などがみられる。腟炎および骨盤内炎症性疾患の感染性の原因がないか検査し,通常経験的にクラミジアおよび淋菌感染症に対する治療を行う。 急性子宮頸管炎は通常,感染が原因である;慢性子宮頸管炎は通常,感染が原因ではない。子宮頸管炎が上行し,子宮内膜炎および 骨盤内炎症性疾患(PID)の原因となることがある。... さらに読む による分泌物(例,骨盤内炎症性疾患による)は腟炎によるものと似ていることがある。腹痛,頸部移動痛,または頸部の炎症は骨盤内炎症性疾患を示唆する。
全年齢の女性において,腟のそう痒および分泌物は,皮膚疾患(例, 乾癬 乾癬 乾癬は,銀白色の鱗屑で覆われた境界明瞭な紅色の丘疹および局面として生じることが最も多い炎症性疾患である。遺伝因子を含めて,複数の因子が寄与する。よくみられる誘因として,外傷,感染,特定の薬剤などがある。症状は通常軽微であるが,軽度から重度のそう痒が生じることがある。整容的な面で重大となることがある。疼痛を伴う関節炎を合併する重症例もある(... さらに読む , 硬化性苔癬 硬化性苔癬 硬化性苔癬は,原因不明であるが,おそらく自己免疫によるものと考えられている炎症性皮膚疾患で,通常は肛門性器部を侵す。 最も早期に認められる徴候は,皮膚の脆弱化と皮下出血であり,ときに水疱形成もみられる。典型的には,病変により軽度から重度のそう痒が引き起こされる。硬化性苔癬が小児に発生すると,その外観から,性的虐待と混同されることがある。時間とともに患部の組織は萎縮して菲薄化し,色素減少がみられ(炎症後色素沈着による色素斑がみられることも... さらに読む , 癜風 癜風 癜風は癜風菌(Malassezia furfur)による皮膚感染症で,無症状の鱗屑を伴う斑が多発し,色調は白色から淡黄褐色,褐色,ピンク色まで様々である。診断は臨床的な外観と皮膚擦過物のKOH直接鏡検に基づく。治療は抗真菌薬の外用またはときに内服による。再発がよくみられる。 癜風菌(Malassezia furfur)は,酵母と糸状菌の両方として存在できる真菌(二相性真菌)である。皮膚の常在菌であり,通常は無... さらに読む )により起こる場合があり,通常病歴や皮膚所見により鑑別しうる。
水様性,血性,またはその両方が混在する分泌物は, 外陰がん 外陰がん 外陰がんは通常,皮膚の扁平上皮癌(有棘細胞癌)であり,高齢女性に最も多く発症する。通常は触知可能な病変として現れる。診断は生検による。治療として一般に,切除およびリンパ節郭清またはセンチネルリンパ節マッピングを行う。 外陰がんは米国で4番目に多い婦人科がんであり,女性の生殖器癌の5%を占める。米国において2020年には推定6120例の外陰がんの新規症例が発生し,推定1350人が死亡した。... さらに読む , 腟がん 腟がん 腟がんは通常は扁平上皮癌であり,60歳以上の女性に最も多く発症する。最も頻度の高い症状は異常性器出血である。診断は生検による。多くの小さな限局がんに対する治療は,子宮摘出および腟切除とリンパ節郭清であり,残りの大半には放射線療法を用いる。 原発性腟がんはまれであり,米国において婦人科がんの1%を占める。腟原発の腫瘍よりも,腟への遠隔転移や隣接する婦人科臓器からの局所進展の方が頻度が高い。診断時の平均年齢は60~65歳である。... さらに読む ,または 子宮頸癌 子宮頸癌 子宮頸癌は,多くは扁平上皮癌であり,ヒトパピローマウイルス感染により引き起こされる;頻度は低いが腺癌であることもある。子宮頸部腫瘍は無症状である;早期子宮頸癌の最初の症状は通常,不正性器出血,しばしば性交後の性器出血である。診断は,頸部パパニコロウ検査および生検による。進行期診断は臨床所見のほか,利用可能であれば画像検査および病理検査の結果も踏まえて行う。治療は通常,早期疾患に対しては外科的切除,局所進行例には放射線療法に加え化学療法が... さらに読む に起因する可能性があり,がんは診察と生検で腟炎と鑑別できる。
萎縮性腟炎では,分泌物の量は少なく,その性状は水様性のことがあり,粘稠度は低い場合もあれば高い場合もあり,色は黄色調のことがある。性交痛がよくみられ,腟組織は外観上菲薄化し,乾燥している。
検査
全ての患者で以下の院内検査が必要である:
pH
ウェットマウント
KOH(水酸化カリウム)法
淋菌 診断 淋菌感染症は,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)と呼ばれる細菌によって引き起こされる。典型的には,尿道,子宮頸部,直腸,咽頭の上皮,または結膜に感染し,刺激感または疼痛および膿性分泌物を生じさせる。皮膚および関節への播種はまれであるが,皮膚のただれ,発熱,および移動性の多関節炎または少関節型の化膿性関節炎を引き起こす。診断は鏡検,培養,または核酸増幅検査による。いくつかの経口または注射用抗菌薬が使用できるが... さらに読む および クラミジア感染症 診断 非淋菌性STDとしての尿道炎,子宮頸管炎,直腸炎,および咽頭炎は,主にクラミジアが原因であるが,まれにマイコプラズマまたはUreaplasma属細菌によることもある。クラミジアは,卵管炎,精巣上体炎,肝周囲炎,新生児結膜炎,および乳児肺炎も引き起こすことがある。未治療のクラミジア卵管炎は慢性化し,引き起こす症状は最小限であるが,重篤な転帰を招く。診断は培養,抗原の免疫測定法,または核酸検査による。治療はアジスロマイシンの単... さらに読む の検査は非感染性の原因(例,アレルギー,異物)が明らかな場合を除いて,一般的に行われる。
腟分泌物はpH紙を使用してpHを4.0~6.0まで0.2間隔で検査する。次に,綿棒を用いて2枚のスライドガラスに分泌物を塗布し,1枚は0.9%塩化ナトリウム溶液で分泌物を希釈し(生理食塩水のウェットマウント),もう1枚は10% KOH溶液で希釈する(KOH法)。
KOH標本では,トリコモナス腟炎や細菌性腟症で産生されるアミンから生じる魚のような臭いを調べる(臭気テスト)。スライドガラスは顕微鏡を用いて検査する;KOHは酵母菌糸を除くほとんどの細胞物質を溶解し,同定を容易にする。
運動するトリコモナス原虫を検出するため,生理食塩水を滴下したらできるだけ早急に顕微鏡を用いて調べる(トリコモナス原虫はスライドガラス作成後数分以内に運動を停止する可能性があり,そうなると確認はより困難になる)。
臨床基準および院内検査結果が確定的ではない場合には,分泌物の真菌およびトリコモナド培養を行うことがある。
治療
かゆみまたは分泌物に具体的な原因があれば治療する。
外陰はできる限り清潔に保つべきである。石鹸および不必要な局所製剤(例,女性用衛生スプレー)は避けるべきである。石鹸が必要な場合は,低アレルギー性の石鹸を用いるべきである。氷嚢や坐浴(重曹を入れてもよい)の間欠的使用により,痛みやそう痒が軽減することがある。陰部をぬるま湯で洗い流すことで,症状を緩和できることもある。慢性的な外陰の炎症が寝たきりまたは失禁によるものである場合,外陰をより清潔にすることが有用である。
女性には腟洗浄器を使用しないよう助言すべきである。
症状が中等度または重度である場合,もしくは他の治療に反応しない場合には,薬物が必要なことがある。そう痒に対しては,外用コルチコステロイド(例,外用1%ヒドロコルチゾン,1日2回,必要時)を外陰に塗布してもよいが,腟内には使用しない。経口の抗ヒスタミン薬はそう痒を減らし眠気を催すため,患者の睡眠を助ける。
思春期前の女児には,望ましい会陰部の衛生について教えるべきである(例,排便および排尿後は前から後ろへ拭くこと,手を洗うこと,会陰部を指で触らないこと)。
老年医学的重要事項
閉経後女性では,エストロゲンが著明に低下することにより腟は薄くなり(萎縮性腟炎),感染および炎症への脆弱性が高まる。高齢女性におけるエストロゲン 減少の他の一般的な原因としては,卵巣摘出術,骨盤への放射線照射,特定の化学療法薬などがある。
萎縮性腟炎では,炎症により異常な分泌物が生じるが,その量は少なく,性状は水様性のことがあり,粘稠度は低い場合もあれば高い場合もあり,色は黄色調のことがある。性交痛がよくみられ,腟組織は外観上菲薄化し,乾燥している。
不衛生(例,失禁や寝たきりの患者における)は,尿もしくは便による化学刺激により,慢性的な外陰の炎症を引き起こしうる。
細菌性腟症,カンジダ腟炎,およびトリコモナス腟炎は閉経後女性ではまれであるが,危険因子を有する女性で生じることがある。
閉経後はがんリスクが上昇し,血性または水様性帯下はがんが原因である可能性がより高くなる;そのため閉経後女性にみられる帯下は全て速やかに評価すべきである。
要点
かゆみおよび/または分泌物に関連する腟の症状はしばしば非特異的である。
腟のかゆみの原因は患者の年齢に応じて様々である。
大半の患者では腟pHを測定し,顕微鏡による観察および検査のために分泌物を採取する;必要に応じて,性行為で感染する微生物の培養を行う。
閉経後女性では,いかなる帯下も速やかに評価すべきである。