性器出血

執筆者:David H. Barad, MD, MS, Center for Human Reproduction
レビュー/改訂 2020年 3月
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異常性器出血としては以下のものがある:

  • 月経の量が非常に多い(過多月経)または頻度が多い(頻発月経)

  • 月経に関連のない出血が,月経と月経の間に不規則に起こる(不正子宮出血)

  • 月経中の量が非常に多く,月経と月経の間に不規則に起こる(過多月経・不正出血[menometrorrhagia])

  • 初経前の出血

  • 閉経後出血(すなわち,最終の正常月経後6カ月以降に生じる)

妊娠初期または妊娠後期に性器出血が起こることもある。

性器出血の出血源は,外陰,腟,子宮頸部,子宮体部を含めた生殖器のあらゆる部位が考えられる。性器出血の出血源が子宮内にある場合は,異常子宮出血(AUB)と呼ぶ。

病態生理

大部分の異常性器出血には以下が関与する:

  • 視床下部-下垂体-卵巣系のホルモン異常(最も一般的)

  • 構造的,炎症性,または他の婦人科疾患(例,腫瘍)

  • 出血性疾患(まれ)

ホルモンが原因の場合,排卵は起こらないか,またはまれである。無排卵周期では,黄体が形成されず,そのためプロゲステロンの正常な周期的分泌が生じない。プロゲステロンがない状態では,エストロゲンにより子宮内膜が増殖し続け,最終的には血液供給を上回る。子宮内膜はその後,不完全に,不規則に脱落および出血し,ときとして多量出血や長期出血を起こす。

病因

成人(成人女性における性器出血の主な原因の表を参照)および小児(小児における性器出血の一般的な原因の表を参照)における性器出血の原因は様々である。

妊娠していない妊娠可能年齢の女性における性器出血の最も一般的な原因としては,以下のものがある:

妊娠可能年齢において,排卵障害による異常子宮出血が,異常性器出血の最も一般的な原因である。

妊娠していない妊娠可能年齢の女性におけるAUBの原因は,PALM-COEIN分類(1, 2)において,構造的原因と非構造的原因に分類されている。PALM-COEINとは,構造的原因(PALM)と非構造的原因(COEIN)それぞれの頭文字を並べたものである。

初経前では,腟炎,異物,および外傷が性器出血の一般的な原因である。性的虐待およびがんは比較的まれな原因であるが,これらの病態を除外するために迅速な評価が必要である。

PALM-COEIN分類

表&コラム
表&コラム

病因論に関する参考文献

  1. 1.Practice bulletin no. 128: Diagnosis of abnormal uterine bleeding in reproductive-aged women.Obstet Gynecol 120 (1):197-206, 2012.doi: 10.1097/AOG.0b013e318262e320.

  2. 2.Practice bulletin no. 136: Management of abnormal uterine bleeding associated with ovulatory dysfunction.Obstet Gynecol 122 (1):176-185, 2013.doi: 10.1097/01.AOG.0000431815.52679.bb.

評価

最優先すべきことは,患者に持続性の大出血またはそのリスク(例,異所性妊娠による)があるかどうかを判断することである。

妊娠中の出血原因のなかには生命を脅かすもの(例,異所性妊娠)もあるため,妊娠可能年齢の女性では気づいていない妊娠を疑い診断すべきである。

病歴

現病歴には出血の量(例,1日または1時間に使う生理用ナプキンの数),期間,月経および性交と出血の関係を含めるべきである。医師は以下について尋ねるべきである:

  • 月経歴:正常な最終月経の日付,初経および閉経の年齢(該当する場合),月経周期の長さおよび規則性,典型的な月経出血の量と期間など

  • 過去の異常出血のエピソード:出血の頻度,期間,量,パターン(周期性)など

  • 性交歴:可能であればレイプまたは性的暴行の経歴を含む

システムレビュー(review of systems)では,以下のような可能性のある原因の症状がないか検討すべきである:

既往歴の聴取では最近の自然または治療的流産および器質的疾患(例,子宮筋腫,卵巣嚢胞)を含む,性器出血の原因として知られている疾患を同定すべきである。医師は,肥満,糖尿病,高血圧,エストロゲン単独(すなわちプロゲステロンを併用しない)の長期使用,および多嚢胞性卵巣症候群を含む子宮内膜癌の危険因子を同定すべきである。薬歴にはホルモン使用に関する具体的な質問を含めるべきである。

小児の性的虐待が疑われる場合には,National Institute of Child Health and Human Development (NICHD) Protocolに基づく法医学的な構造化面接を用いることができる。これは経験した出来事に関する情報を小児が報告する助けとなり,得られる情報の質を改善する。

身体診察

バイタルサインを評価して,循環血液量減少の徴候(例,頻脈,頻呼吸,低血圧)がないか確認する。

全身状態を観察する際に,貧血の徴候(例,結膜蒼白)および可能性のある出血の原因についての所見を確認すべきであり,以下を含む:

  • 温かく湿ったまたは乾燥した皮膚,眼の異常,振戦,反射異常,または甲状腺腫:甲状腺疾患

  • 肝腫大,黄疸,手首の羽ばたき振戦,または脾腫:肝疾患

  • 乳頭分泌物:高プロラクチン血症

  • BMI低値および皮下脂肪減少:無排卵の可能性

  • BMI高値および皮下脂肪過剰:アンドロゲンまたはエストロゲン過剰,もしくは多嚢胞性卵巣症候群

  • 男性型多毛症,ざ瘡,肥満,および卵巣腫大:多嚢胞性卵巣症候群

  • 紫斑ができやすい,点状出血,紫斑または粘膜(例,歯肉)出血が起きやすい:出血性疾患

  • 小児における乳房の発達および陰毛や腋毛の存在:思春期

  • 小児における歩行もしくは座位の困難;性器,肛門,もしくは口の周辺の挫傷または裂傷;および/または腟分泌物もしくはそう痒:性的虐待

腹部を診察して,膨隆,圧痛,腫瘤(特に増大した子宮)がないか確認する。子宮が増大していれば胎児心音聴取を行う。

腹部診察で妊娠後期であることが示唆される場合を除いて,完全な婦人科診察を行う;妊娠後期では指による内診は胎盤の位置が確定するまでは禁忌である。全ての場合において,腟鏡診は尿道,腟,および子宮頸部の病変の同定に役立つ。子宮の大きさと卵巣腫大を評価するために双合診を行う。腟に血液を認めなければ直腸診を行い,出血が消化管由来のものか否かを確認する。

小児が診察を望まない場合,または小児の出血源が不明な場合は,腟と子宮頸部を診察するために,検査前に小児に麻酔薬を投与した後,vaginoscopyを行うことがある。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 出血性ショック(頻脈,低血圧)

  • 初経前および閉経後の性器出血

  • 妊婦の性器出血

  • 多量出血

  • 小児における歩行もしくは座位の困難;性器,肛門,もしくは口の周辺の挫傷または裂傷;および/または腟分泌物もしくはそう痒

所見の解釈

異所性妊娠または,まれに卵巣嚢胞(特に圧痛のある骨盤内腫瘤がある場合)の破裂を除いて,著明な循環血液量減少または出血性ショックの可能性は低い。

小児における乳房の発達,および陰毛や腋毛は,早発思春期および早発月経を示唆する。これらの所見を認めない場合は,説明のつく病変や異物が明らかではない限り,性的虐待の可能性を調べるべきである。

妊娠可能年齢の女性では,診察によって原因となる婦人科病変や原因を示唆する他の所見が明らかになることがある。ホルモン療法を受けている若年患者で,診察中に明らかな異常がなく出血が少量である場合は,出血はおそらくホルモン療法によるものである。月経過多だけが問題である場合,子宮の疾患や出血性素因を考慮すべきである。遺伝性出血性疾患は,初経開始時や青年期に月経過多として初めて明らかになる場合がある。

閉経後女性では,婦人科がんを疑うべきである。

異常出血が一般的な原因のいずれによるものでない場合は,月経周期のホルモン調節の変化が関係している可能性がある。

検査

妊娠可能年齢の全ての女性で以下の検査が必要である:

  • 尿妊娠検査

妊娠初期(5週未満)では,尿妊娠検査は感度が不十分なことがある。尿が血液で汚染されている場合は誤った結果になることがある。尿検体での妊娠検査は陰性ながら妊娠が疑われる場合は,血清検体でのヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(β-hCG)の定性検査を行うべきである。妊娠中の性器出血には特有のアプローチが必要となる(妊娠初期における性器出血および妊娠後期における性器出血を参照)。

血液検査では,出血が異常に多い(例,1時間に1個を超えるナプキンまたはタンポン)か,少なくとも数日間持続している場合,または貧血や循環血液量減少を示唆する所見がある場合に血算も行う。貧血が確認され,鉄欠乏症(例,小球性,低色素性を示す赤血球検査値に基づく)によるものか明らかでない場合には,鉄の検査を実施する。

甲状腺刺激ホルモンおよびプロラクチンの値は,乳汁漏出がない場合でも,通常測定する。

出血性疾患が疑われる場合には,フォン・ヴィレブランド因子,血小板数,プロトロンビン時間(PT)および部分トロンボプラスチン時間(PTT)を測定する。

多嚢胞性卵巣症候群が疑われる場合は,テストステロンおよびデヒドロエピアンドロステロン硫酸エステル(DHEAS)の値を測定する。

画像検査には,以下のいずれかの場合には経腟超音波検査を含める:

超音波検査によるスクリーニングで検出された子宮内膜の限局性肥厚は,小さな子宮内腫瘤(例,子宮内膜ポリープ,粘膜下筋腫)を同定するために,子宮鏡検査または生理食塩水を注入して行うソノヒステログラフィーを必要とする可能性がある。

その他の検査として,以下のいずれかに該当する女性において診察と超音波検査で診断を確定できない場合に行う子宮内膜採取がある:

  • 年齢35歳以上

  • がんの危険因子

  • 4mmを超える子宮内膜肥厚

検体の採取は吸引または,子宮口の拡張が必要な場合には頸管拡張・内膜掻爬(D&C)を行う。閉経後女性では,子宮腔全体を評価できるようにD&Cによる子宮鏡検査が推奨される。

治療

出血性ショックを治療する。鉄欠乏性貧血には経口による鉄補充が必要なことがある。

性器出血の根治的治療は原因に対して行う。典型的には,ホルモン製剤(通常は経口避妊薬)が排卵障害による異常子宮出血に対する一次治療となる。

老年医学的重要事項

大部分の女性において閉経後出血(閉経後6カ月以上経過してからの出血)は異常であり,外因性ホルモンの投与中止によって生じていることが明らかな場合を除いて,がんを除外するためにさらなる評価が必要である。

外因性ホルモンを投与されていない女性において,閉経後の出血の原因で最も頻度が高いものは,子宮内膜および腟の萎縮である。

一部の高齢女性では,エストロゲン減少により腟粘膜の脆弱性が高まったり,腟狭窄や,ときに腟の癒着がおこるため,腟の物理的診察が困難な場合がある。これらの患者では,小児用の腟鏡を用いることで,苦痛が少なくなることがある。

要点

  • 妊娠可能年齢の女性では,病歴から示唆されなくても妊娠を除外しなければならない。

  • 妊娠可能年齢でみられる異常性器出血の最も一般的な原因は,無排卵性子宮出血である。

  • 初経前では,腟炎,異物,および外傷が性器出血の一般的な原因である;性的虐待は比較的まれな原因であるが,疑われる場合には迅速な評価が必要である。

  • 閉経後の性器出血は,原因としてがんを除外するために,さらなる評価が必要である。

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