妊娠初期における性器出血

執筆者:Emily E. Bunce, MD, Wake Forest School of Medicine;
Robert P. Heine, MD, Wake Forest School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 12月
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性器出血は,確認された妊娠の約20~30%において,最初の20週間に生じる;これらの症例の約半分が自然流産に終わる。

性器出血は,以下のような有害な妊娠転帰と関連することもある:

病因

産科的または非産科的疾患が妊娠初期の性器出血の原因となることがある(妊娠初期における性器出血の主な原因の表を参照)。

妊娠初期に生じる性器出血の原因で最も危険なものは以下の通りである:

黄体嚢胞の破裂は比較的まれではあるが,これも可能性はあり,場合によっては危険で,腹腔内出血およびショックを引き起こしうる。

最も一般的な原因は以下のものである:

  • 自然流産(切迫,進行,不全,完全,敗血症性または稽留)

表&コラム

評価

性器出血を認める妊婦は,速やかに評価を受けなければならない。

異所性妊娠または多量の性器出血を起こす他の原因(例,進行流産,出血性黄体嚢胞破裂)は出血性ショックをもたらすことがある。これらの合併症の発生に備えて評価中の早期に静脈ラインを確保すべきである。

病歴

現病歴には以下を含めるべきである:

  • 患者の経妊回数(確認された妊娠数),経産回数(20週以降の分娩数),流産回数(自然または人工),

  • ナプキンを何枚使用したか,凝血塊や組織が排出されたかを含めた出血の状態と量

  • 疼痛の有無

痛みが存在する場合は,発症,部位,持続時間および性質を特定すべきである。

症状把握(review of symptoms)では,発熱,悪寒,腹痛または骨盤痛,帯下,およびめまい,ふらつき,失神,失神様状態などの神経症状に注意すべきである。

既往歴には異所性妊娠の危険因子および自然流産の危険因子を含めるべきである。

身体診察

身体診察には,発熱および循環血液量減少の徴候(頻脈,低血圧)を調べるためのバイタルサインの評価を含める。

評価は腹部の診察および内診に焦点を置く。腹部を触診して,圧痛,腹膜刺激徴候(反跳痛,筋硬直,筋性防御)および子宮の大きさを確認する。ドプラ超音波検査用のプローブを用いて胎児心音を確認すべきである。

内診には外性器の視診,腟鏡診,および双合診を含める。腟円蓋に血液や受胎産物が存在する場合,取り除く;受胎産物は確認のために検査室に送る。

頸部を視診して,分泌物,開大,病変,ポリープがないか,および子宮口に組織がないか確認すべきである。妊娠14週未満であれば,内子宮口の状態を把握するために胎盤鉗子を使用し,子宮口を愛護的に検索する場合がある(指頭以上に深くは行わない)。妊娠14週以降の場合は,特に胎盤が内子宮口を覆っている場合(前置胎盤),血管豊富な胎盤が傷つくことがあるため,頸部を探るべきではない。

双合診では頸部移動痛,付属器の腫瘤または圧痛,および子宮の大きさを確認すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 血行動態不安定(低血圧,頻脈,または両方)

  • 脈拍または血圧の起立性変化

  • 失神または失神様の状態

  • 腹膜刺激徴候(反跳痛,筋硬直,筋性防御)

  • 発熱,悪寒,および粘液膿性の帯下

所見の解釈

臨床所見が原因の推定に役立つが,診断に至ることはまれである(性器出血の主な原因の表を参照)。しかしながら開大した頸管に加えて胎児組織の排出および痙攣性の腹痛がみられる場合は自然流産が強く示唆され,敗血症性流産は通常,患者の置かれた状況と重度の感染症の徴候(発熱,重症感[toxic appearance],膿性または血性分泌物)より明らかである。これらの典型的な症状を認めない場合でも,切迫または稽留流産の可能性があり,最も重篤な原因(異所性妊娠の破裂)を除外しなければならない。異所性妊娠の古典的な徴候には重度の痛み,腹膜刺激徴候,および圧痛のある付属器腫瘤が含まれるが,異所性妊娠の症状は様々であるため,出血が少量にみえたり,痛みがわずかにみえる場合でも常に考慮すべきである。

検査

自己診断の妊娠は尿検査で確認する。妊娠が確定された女性にはいくつかの検査を実施する:

  • 定量的β-hCG値

  • 血液型およびRh検査

  • 通常は超音波検査

Rh検査は母体感作を防ぐためのRho(D)免疫グロブリンの必要性を決定するために行われる。出血が著明な場合は,検査に血算およびタイプアンドスクリーン(異常な抗体を調べる)または交差適合試験も含めるべきである。大量出血またはショックの場合はプロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間(PT/PTT)も検査する。

受胎産物が完全な状態で得られる場合(完全流産を示す)を除き,骨盤内の経腟超音波検査を行い,子宮内妊娠を確定する。患者がショック状態または出血が著明な場合は,超音波検査はベッドサイドで行うべきである。

定量的β-hCG値は超音波検査の結果を解釈するのに役立つ。β-hCG値 1000~2000mIU/mLがdiscriminatory levelとして一般的に用いられる;値がdiscriminatory levelを超える場合,子宮内での妊娠であれば胎嚢が見える可能性がある。しかしながら,経腟超音波検査では認められなくとも,子宮内妊娠の可能性は依然として残る。子宮内妊娠を除外できるβ-hCG値は確立されていない。臨床管理の指針としては,検査を実施した施設のdiscriminatory levelを用いるべきである。(1).安定している患者においては,β-hCG値がこのdiscriminatory levelに近い場合には,連続的な超音波検査が管理方針の決定に役立つ可能性がある。

超音波検査は,黄体嚢胞破裂および妊娠性絨毛性疾患の同定にも役立つことがある。不全,敗血症性,または稽留流産患者にみられる子宮内の受胎産物を描出することができる。

患者の状態が安定し,臨床的に異所性妊娠の疑いが低い場合,外来でβ-hCG値を連続的に測定してもよい。正常では,値は妊娠41日まで1.4~2.1日毎に2倍となる;異所性妊娠(および流産)における値は期日から予想されるよりも低く,通常はそれほど速く倍増しない。異所性妊娠の臨床的疑いが中等度または高度の場合(例,著明な失血,付属器圧痛,または両方による),診断的子宮内容除去術もしくは頸管拡張・内膜掻爬(D & C)または診断的腹腔鏡検査を考慮すべきである。

診断に関する参考文献

  1. 1.Doubilet PM, Benson CB: Further evidence against the reliability of the human chorionic gonadotropin discriminatory level.J Ultrasound Med 30 (12):1637–1642, 2011.doi:10.7863/jum.2011.30.12.1637

治療

妊娠初期における性器出血の治療は基礎疾患に対して行う:

  • 異所性妊娠の破裂:直ちに腹腔鏡下または開腹手術

  • 未破裂の異所性妊娠:メトトレキサート,または腹腔鏡下もしくは開腹下での卵管切開もしくは卵管切除

  • 切迫流産:血行動態が安定している患者では保存的管理

  • 進行,不全または稽留流産:D&Cまたは子宮内容除去術

  • 敗血症性流産:抗菌薬の経静脈的投与および超音波検査中に遺残受胎産物が確認される場合は緊急の子宮内容除去術

  • 完全流産:産科的フォローアップ

要点

  • 妊娠初期に性器出血がある患者では,常に異所性妊娠に注意すべきである;症状は軽度のことも重度のこともある。

  • 自然流産は妊娠初期における出血の最も一般的な原因である。

  • Rho(D)免疫グロブリンが必要かどうかの決定のため,妊娠初期に性器出血を認める全ての女性に対して必ずRh検査を行う。

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