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女性の性機能および性機能障害の概要

執筆者:

Allison Conn

, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women;


Kelly R. Hodges

, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women

レビュー/改訂 2021年 3月
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男性と女性は,性的興奮や身体的快感の共有,好意,愛,ロマンス,親密さなどの多くの理由から,性行為を始め,またこれに応じる。しかしながら女性は以下のような感情的動機を表現する可能性が高い:

  • 情緒的親密さを経験し,促進するため

  • 幸福感を増幅させるため

  • 自分の魅力を確認するため

  • パートナーを喜ばせたり,慰めたりするため

女性は性的刺激により興奮と喜び(主観的な興奮)および性器の充血(身体的な性的興奮)が呼び起こされれば,性欲(反応的な欲求)をもつようになる。性行為および親密性の継続に従い,性的満足(1回または複数回のオルガズムを伴うまたはそうでないこともある)に対する欲求は高まり,身体的かつ心理的に満足を味わう経験により,女性本来の欲求が満たされ,動機づけが強化される。

女性の性的反応の周期は,精神状態およびパートナーとの関係の質に強く影響される。初期欲求は加齢に伴って一般的に低下するが,どの年齢においてもパートナーが新しくなると増大する。

生理

性的反応には以下が含まれる:

  • 動機(欲求を含む)

  • 主観的興奮

  • 性器の充血

  • オルガズム

  • 消退

女性の性的反応についての生理は完全には分かっていないが,ホルモンおよび中枢神経系の因子が関与している。

エストロゲンが性的反応に影響を与える。証明されてはいないが,アンドロゲンが関与しアンドロゲン受容体とエストロゲン受容体の両方を介して作用する(テストステロンエストラジオールへ細胞内変換された後に)と推測されている。エストロゲンは,性器組織の感受性,腟pH,常在菌叢,弾性,潤滑,尿禁制,および骨盤底筋の緊張を維持するのに役立つ。

閉経後,卵巣でのエストロゲン産生は停止するが,卵巣でのアンドロゲン産生は様々である。しかしながら,末梢細胞でアンドロゲンとエストロゲン両方に変換されるプロホルモン(例,デヒドロエピアンドロステロン硫酸エステル[DHEAS])の副腎での産生は女性の30代から減少し始める。プロホルモンの卵巣での産生も閉経後に減少する。全体として,アンドロゲンの低下は60歳頃に止まる傾向がある。この性ホルモン産生の減少が性的な欲求,関心,または主観的興奮の低下に何らかの役割を果たしているかどうかは不明である。

脳ではコレステロールから性ホルモン(神経ステロイド)が産生されるが,閉経後にこの産生が亢進することがある。この産生増加が全ての女性で起きるのか,末梢での産生が減少している際に興奮を促進するのか,外因性ホルモン投与に影響を受けるのかどうかは,いずれも不明である。

動機

動機とは性行為をしたいという願望である。性的関心または性欲を含め,性行為への願望には多くの理由がある。性的関心または性欲は思考,言葉,視覚,におい,または触感により誘発されうる。最初から動機が明らかな場合もあれば,興奮が起きてから感じる場合もある。

興奮

認知,情動,動機,および性器の充血の機構に関わる脳部位が活性化される。特異的な受容体に作用する神経伝達物質が関わっている。既知の薬物作用および動物試験の結果に基づくと,いくつかの神経伝達物質は性的に正の作用をもつようである;例えばドパミンノルアドレナリン,およびメラノコルチンなどである。セロトニンはプロラクチンやγ-アミノ酪酸(GABA)のように,通常,性的に抑制作用を示す。

性器の充血

この反射的な自律反応は性的刺激の数秒以内に生じ,性器の膨張および潤滑液の漏出をもたらす。脳が刺激を生物学的に性的なものとして(必ずしも官能的なものであったり主観的に興奮をもたらすものである必要はない)評価することが,この反応の誘因となる。外陰,陰核,および腟細動脈にある血液腔周囲の平滑筋細胞が拡張し,血流量が増加し(充血),腟上皮全体で間質液の漏出が増加する(潤滑)。女性は充血にいつも気づいているわけではない;性器のピリピリ感や拍動感は若年女性でより多く報告される。女性では加齢に伴い,基礎的な性器血流量が減少するが,性的刺激(例,官能的なビデオ)に対する性器の充血は減少しないことがある。

オルガズム

興奮の絶頂が起こる;0.8秒毎の骨盤底筋の収縮に続き,性器の充血が緩やかに元に戻る。胸腰部の交感神経流出路が関与しているようであるが,完全な脊髄離断後であってもオルガズムを得ることが可能である(バイブレータを使用して子宮頸部を刺激する場合)。プロラクチン,抗利尿ホルモン(ADH),およびオキシトシン がオルガズム時に放出され,後に続く幸福感,弛緩,または疲労(消退)の一因となる。しかしながら,多くの女性が明らかなオルガズムを感じることなく,幸福感や弛緩を得ている。

消退

消退とは典型的にオルガズムの後に起こる幸福感,全身の筋肉の弛緩または疲労感である。しかしながらオルガズムがなくても,強い興奮をもたらす性行為の後では緩やかな消退が起こりうる。多くの女性は消退のほぼ直後からさらなる刺激に反応できる。

分類

女性の性機能障害は,以下のうち少なくとも1つを特徴とする:

  • 性行為中の痛み

  • 性欲の減退

  • 興奮障害

  • オルガズムに達することができない

女性の性機能障害は,これらのいずれかの症状が個人に苦痛をもたらす場合に診断される。

Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(Fifth Edition[DSM-5])には以下の種類の女性の性機能障害が提示されており,症状に基づいて分類されている:

女性オルガズム障害 女性オルガズム障害 女性オルガズム障害とは,主観的興奮が正常レベルであるにもかかわらず,オルガズムが欠如したり,まれであったり,強さが著しく低下したり,刺激に対する反応が著しく遅延したりすることである。 女性オルガズム障害は,原発性の場合と続発性の場合がある: 原発性:女性が過去に一度もオルガズムを得られたことがない。... さらに読む では,主観的興奮が高レベルであるにもかかわらず,オルガズムが欠如したり,強さが著しく低下したり,刺激に対する反応が著しく遅延したりする。症状はほぼ全ての性行為中に出現し,6カ月以上存在していなければならない。獲得性のオルガズム障害は,しばしば精神障害または行動障害などの新たな疾患と関連しているか,解剖学的変化(例,がんまたは手術による)と関連している。典型的には,オルガズム障害の女性の性欲レベルは正常である。

  • 挿入時の骨盤内深部の疼痛および緊張,またはわずかな接触によって生じる表在性の,灼熱感を伴う外陰腟痛

  • 挿入前,挿入中,または挿入後の恐怖または不安が,しばしば性欲の減退や性行為の回避につながる

  • 腟への挿入が試みられる際に腟筋が反射的に収縮し,挿入が困難または不可能になる

  • 性行為への関心

  • 性行為を開始すること,およびパートナーが始めた性行為に対する受容性

  • ほぼ全ての性行為における興奮または快感

  • 性的または官能的な空想や思考

  • 性行為中の性器または性器以外の感覚

  • 内的または外的な,性的または官能的な刺激(例,記述,言語,視覚による)への反応としての関心または興奮

物質・医薬品誘発性性機能不全では,性機能障害が物質または薬剤の開始,用量変更,中止に関係している。

他の特定される性機能不全および特定不能の性機能不全には,他のカテゴリーの基準を満たさない性機能障害が含まれる。

性機能障害は典型的に,症状が6カ月以上存在し,著しい苦痛を引き起こしている場合に診断される。性的な欲求,関心,興奮,またはオルガズムが減少,または欠如している場合でも,苦痛や苦悩を感じない女性もいる。

性機能障害のあるほぼ全ての女性が複数の障害の特徴を有する。例えば,性器骨盤痛・挿入障害は,しばしば性的関心・興奮障害を引き起こす;興奮障害によりセックスが楽しめないもの,あるいは苦痛なものとなり,オルガズムの可能性とその後の性的動機が減少する。しかしながら,強い性欲,関心,および主観的興奮を有する女性で,潤滑が損なわれていることによる性交痛が単独の症状として起こる場合がある。

女性の性的障害は補助的に;生来型または獲得型;状況に特異的または一般的;性的障害が女性にもたらしている苦痛の程度に基づき軽度,中等度,重度などに分類される。

研究は限られているが,これらの障害はおそらく,異性間および同性間の関係をもつ女性に同様に当てはまる。

病因

従来のように心理的病因と身体的病因に区別することは不自然であり,心理的苦痛がホルモンや神経生理に変化をもたらすこともあれば,身体的変化が機能障害につながる心理的反応を引き起こすこともある。機能障害の分類内および分類間毎に症状の原因が複数存在することが多く,原因はしばしば不明である。

主として心理的な因子

気分障害が関心および興奮の低下と密接に相関している。うつ病および性機能障害を有する女性の最大80%で,抗うつ薬によりうつ病が効果的に治療されると性機能障害の程度も軽減する。しかしながら,抗うつ薬が無効な場合,性機能障害が持続または悪化する。不安症を有する女性では,性的関心,興奮,オルガズム,および性器骨盤痛に関わる性機能障害がある可能性も高い。自己を解放する,無防備になる,拒絶される,自制心を失うなど様々な恐怖,および自尊心が低いことが寄与しうる。

以下のような過去の経験が女性の性心理的発達に影響を与えうる:

  • 過去の不愉快な性的経験や他の経験が,自尊心の低下,羞恥心,または罪悪感をもたらすことがある。

  • 小児期や青年期の心理的,身体的,または性的虐待により,小児は有用な防御機構として感情をコントロールし隠すことを学ぶ可能性があるが,このような抑制は後に性的感情の表現を困難にすることがある。

  • 親や他の愛する者の早期の衝撃的喪失が,同様の喪失の恐れからセックスパートナーとの親密な関係を妨げる場合がある。

否定的な結果に対する心配(例,望まない妊娠,性感染症[STD],オルガズムを得られないこと,パートナーの性機能障害)もまた性的反応を妨げることがある。

状況的原因(女性の現在の状況に特異的なもの)には以下のものがある:

  • 内面的状況:低い性的自己像(例,不妊,早発閉経,または乳房,子宮,または性に関連する他の部位の外科的切除による)

  • パートナーとの関係に関する状況:信頼の欠如,陰性感情,またはセックスパートナーに魅力を感じなくなる(例,パートナーの行動や,性的指向の変化に徐々に気づくなど)

  • 性的状況:例えば環境が,十分に性的,プライベート,または安全ではないこと

  • 文化的状況:例えば,性行為に対する文化的制約

気をそらすものおよび精神的ストレス(例,家族,仕事,または金銭)が興奮を妨げることがある。

主として身体的な因子

様々な性器病変,全身因子,ホルモン因子,および薬剤が機能障害の原因ないし要因となることがある(女性の性機能障害に寄与する身体因子 女性の性機能障害に寄与する身体因子 女性の性機能障害に寄与する身体因子 の表を参照)。

閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)は,エストロゲンおよびアンドロゲン欠乏による以下のような症状および徴候のことである:

  • 外陰・腟の萎縮

  • 性交時の腟の乾燥および潤滑の低下(痛みを引き起こす)

  • 泌尿器症状(例,尿意切迫,排尿困難,再発性尿路感染症)

閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)は閉経期の女性の約半数にみられる。エストロゲン値が低いと同様の症状を引き起こすことがあり,分娩後やアロマターゼ阻害薬などの特定の薬剤による治療中に生じる。

診断

  • 女性とそのパートナーを,個別にまた可能であれば一緒に面接する。

  • 内診

性機能障害の多くは,DSM-5に記述されている診断基準に基づいて診断される。これらの障害には,性器骨盤痛・挿入障害,女性オルガズム障害,女性の性的関心・興奮障害,および物質・医薬品誘発性性機能不全などがある。これら全ての疾患において診断には,症状に対する,より可能性の高い代わりの説明が存在してはならない;物質・医薬品誘発性性機能不全を除く全ての疾患について,症状が6カ月以上存在していなければならない。性機能障害がこれらの疾患のいずれの基準も満たさない場合,DSM-5に従って,他の特定される性機能不全または特定不能の性機能不全に分類される。

性機能障害およびその原因の診断は,病歴と身体診察に基づく。この状況が恥ずべきことであるという感覚を少なくするため,医師は性機能障害についてルーチンに尋ねるべきである。Female Sexual Function Index(FSFI)などの妥当性確認済みの質問票が,これを実践することの促進に役立つ可能性がある。

個別および一緒に面接を行い,病歴を女性とパートナー両方から聴取するのが理想的である;自分の言葉で問題を説明するよう女性に求めることから開始し,具体的な要素(女性の性機能障害を評価する際の性交歴に関する要素 女性の性機能障害を評価する際の性交歴に関する要素 女性の性機能障害を評価する際の性交歴に関する要素 の表を参照)を含めるべきである。詳細な性交歴も聴取すべきである。初診時に確認した問題点(例,過去の不愉快な性体験,否定的な性的自己像)を,フォローアップの来院時にさらに詳しく調査してもよい。

性機能障害を引き起こしている可能性のある婦人科的異常を同定するために,内診を含む身体診察を行う;この診察により,痛みの部位を特定できることが多い。その方法はルーチンの婦人科診察で用いるものとはわずかに異なることがある。診察中に何を行うか説明すると女性がリラックスできるため,診察中を通じて説明を続けるべきである。検者は診察時に,女性に上半身を起こして自分の性器を鏡で見たいか尋ねてもよい;それにより,コントロール感を与えられる可能性がある。

診察の際には,エストロゲン低下の徴候(特に小陰唇の菲薄化,陰唇の脂肪層の消失,腟粘膜の蒼白,および腟襞の消失)がないか調べるべきである。湿らせた綿棒を用いることで,外陰および腟前庭の痛点を同定できる。

女性の性機能障害の初期評価では,未診断の疾患が疑われない限り,一般的に臨床検査は必要ない。エストロゲンの低下は診察の際に臨床的に検出される。性機能は,測定法を問わずテストステロン値とは相関しない。なお,臨床的に高プロラクチン血症が疑われる場合には,プロラクチン濃度を測定する。臨床的に甲状腺疾患が疑われる場合は,適切な検査を行う; 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの欠乏である。診断は典型的な顔貌,嗄声および言語緩徐,乾燥皮膚などの臨床的特徴,ならびに甲状腺ホルモン低値による。サイロキシン投与などにより管理を行う。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能低下症は年齢を問わず生じるが,特に高齢者でよくみられ,その場合症状が軽微で認識しにくい可能性がある。甲状腺... さらに読む 甲状腺機能低下症 が疑われる場合は甲状腺刺激ホルモンを, 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類... さらに読む 甲状腺機能亢進症 が疑われる場合はサイロキシン(T4)のほか,ときに他の甲状腺機能検査を含める。

治療

  • 女性の性的反応についての説明

  • 原因の是正

  • 精神療法

  • 薬物

女性の性機能障害の治療は障害および原因により異なる;しばしば,障害の重複のため,複数の治療法が必要である。特定のDSM-5の疾患の基準を完全には満たしていない場合でも,治療が役立つことがある。

同情的理解および慎重な評価そのものが治療となることがある。女性の性的反応に何が関与するかを含め,性的な解剖および生理について教えることも役立つことがある。

治療には,セックス・カウンセラー,疼痛の専門医,精神療法士,および/または理学療法士などの集学的チームが必要になる可能性がある。

可能であれば以下のように原因を是正する:

  • 気分障害の治療

  • 女性がSSRIを服用している場合,性機能に対し有害作用のより少ない抗うつ薬(例,ブプロピオン,モクロベミド[moclobemide],ミルタザピン,デュロキセチン)への変更を考慮,またはSSRIにブプロピオンを追加

  • 物質・医薬品誘発性性機能障害には,乱用物質の中止または処方薬の変更

精神療法

認知行動療法では疾患(婦人科疾患を含む)または不妊に起因する,否定的かつしばしば悲惨な自己像を対象とする。

マインドフルネス(仏教の瞑想法が起源である東洋の療法)が役立つことがある。現在の瞬間への中立的な気づきに集中する。この方法は性的感覚への集中を阻害しているものから女性を解放するのに役立つ。マインドフルネスは健康な女性において,および骨盤内悪性腫瘍または誘発性腟前庭痛を有する女性において性機能障害を緩和する。マインドフルネスをどのように実践するか学ぶために地域やインターネットの情報源に紹介することができる。マインドフルネス認知療法(MBCT)は認知行動療法とマインドフルネスを組み合わせ,目的に応じた改変を行ったものである。認知行動療法でのように,女性には不適応な思考を同定するよう促すが,その後それらの存在をただ観察し,それらが単なる心理的な事象であり現実を反映したものではないことを理解させる。この手法により,不適応な思考による阻害の頻度が低減する。MBCTはうつ病の再発を予防するために用いられ, 誘発性腟前庭痛 病因 の慢性疼痛だけでなく,性的興奮障害および性的関心・興奮障害にも適応できる。

一部の女性(例,性的虐待の既往がある女性)では,より集中的な精神療法が必要となる。

薬物

エストロゲン療法は,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)の女性における性機能障害の治療に用いられることがある。外陰および腟の萎縮性変化は,低用量でのエストロゲンの腟内投与(腟錠,ゲル,クリーム,リング)で治療できる。閉経期の血管運動症状(例,ホットフラシュ)を併発している場合は,低用量エストロゲンの全身投与またはエストロゲン + プロゲステロン(子宮のある女性)を用いることができる。オスペミフェン(ospemifene)(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)の治療に有用となりうる。

性的関心・興奮障害を有する閉経後女性には,アンドロゲン療法を考慮してもよい。経皮テストステロン(300μg,1日1回)が用いられる。テストステロン値はベースライン時および3~6週後に測定すべきである。短期治療が推奨され,6カ月間使用しても反応がみられない場合はテストステロンを中止すべきである。ざ瘡,男性型多毛症,および男性化などの有害作用に対するモニタリングが適応となる。医師は,テストステロン療法に関するエビデンスは限られていることをはっきりと説明し,その有害な作用および有益性に関する詳細な情報を提供すべきである。テストステロン療法は,他の介入が不成功に終わった場合,および女性が全般的に健康で禁忌がない場合にのみ考慮すべきである。テストステロンの長期使用は性的関心・興奮障害の治療としては研究されておらず,デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の全身投与は無効であることが示されている。プラステロン(DHEA製剤)の腟内投与は,性交痛や 性器骨盤痛・挿入障害 性器骨盤痛・挿入障害 性器骨盤痛・挿入障害では,腟への挿入が試みられたときまたは完了したときの骨盤底筋の不随意収縮(肛門挙筋症候群,または腟痙),深部への挿入時に生じる痛み(性交痛)または腟前庭に限局する痛み(誘発性腟前庭痛),挿入の試みに対する不安,または性交困難などがみられる。 ( 女性の性機能および性機能障害の概要も参照のこと。)... さらに読む がある閉経後女性に使用できる。

女性の性的反応を高めるためのアンドロゲンの使用に関する現在のエビデンスは弱い。いくつかのエビデンスは,テストステロンの補充が,性的関心は低いが満足のいく性的経験をもてる女性にいくらか有益である可能性を示唆している。全体のアンドロゲン活性(代謝物として測定される)は性的関心がある女性でもない女性でも同様である。

セロトニン受容体作動薬/拮抗薬であるフリバンセリン(flibanserin)は,抑うつのない閉経前女性の治療に使用できるが,あるシステマティックレビューでは,有効性および安全性に関するエビデンスの質の評価は低く,有益な効果は最小限であった(1 治療に関する参考文献 男性と女性は,性的興奮や身体的快感の共有,好意,愛,ロマンス,親密さなどの多くの理由から,性行為を始め,またこれに応じる。しかしながら女性は以下のような感情的動機を表現する可能性が高い: 情緒的親密さを経験し,促進するため 幸福感を増幅させるため 自分の魅力を確認するため パートナーを喜ばせたり,慰めたりするため さらに読む )。フリバンセリン(flibanserin)の添付文書には黒枠警告があり,フリバンセリンとアルコールを短い間隔で一緒に摂取する,中程度または強力なCYP3A4阻害薬と一緒にフリバンセリンを服用する,または肝障害があると,低血圧および失神のリスクが上昇すると記載されている。

SSRIの使用による性的関心・興奮障害を有する女性では,ブプロピオン(ノルアドレナリン-ドパミン再取り込み阻害薬)の追加が有益となりうることを示唆するエビデンスもある。いくつかのエビデンスは,SSRIの服用を開始してからオルガズムを得られなくなった女性では,シルデナフィル(ホスホジエステラーゼ5阻害薬)がオルガズムの回復に役立つ可能性があることを示唆している。しかしながら,研究結果は一貫していない;ルーチンの診療においてこの薬剤をこの目的で使用することは推奨されない。

その他の治療法

性器骨盤痛・挿入障害を有する女性では,骨盤底の理学療法が治療の中心である。その目的は,骨盤底を弛緩させ,反射による収縮を減らすことを女性に教えることである。骨盤底の理学療法には,骨盤底筋トレーニング,軟部組織モビライゼーションおよび筋筋膜リリース,トリガーポイントの圧迫,電気刺激,バイオフィードバック,および超音波療法などがある。

性器骨盤痛・挿入障害における性交痛の一因となる,骨盤底筋の緊張がある女性では,処方および非処方により自分自身で使用するダイレーターが入手できる。

機能障害の種類に応じて,性的能力の訓練(例,自慰の指導)や,性的ニーズおよび性的好みに関するパートナーとのコミュニケーションを促進するための訓練を実施することができる。

様々な潤滑剤および保湿剤は,腟の乾燥(性交痛の原因となる)を軽減させることができる。そのような治療には,食物由来の油(例,ココナツ油),シリコン製の製品,および水性の製品などがある。食用油はコンドームとともに使用すべきではないが,シリコン製および水性の潤滑剤は使用できる。潤滑剤が必要な場合,医師と女性は使用すべき潤滑剤の種類について話し合うべきである。

小規模な予備研究を除いて,バイブレータや陰核吸引器などが性的関心・興奮障害またはオルガズム障害を有する女性に効果的であるというエビデンスは乏しい;しかしながら,これらの製品の一部は店頭で入手可能であり,試してもよい。

治療に関する参考文献

  • 1.Jaspers L, Feys F, Bramer VM, et al: Efficacy and safety of flibanserin for the treatment of hypoactive sexual desire disorder in women: A systematic review and meta-analysis.JAMA Intern Med 176(4):453–462, 2016.doi: 10.1001/jamainternmed.2015.8565

要点

  • 女性の性機能障害には,女性の性的関心・興奮障害,女性オルガズム障害,性器骨盤痛・挿入障害,物質・医薬品誘発性性機能障害,他の特定される性機能障害および特定不能の性機能障害などがある。

  • 心理因子および身体因子が女性の性機能障害に通常寄与している;それらが相互に作用し,機能障害を悪化させることがある。

  • 心理因子には気分障害,過去の経験の影響,否定的な結果に対する心配,その女性に特有の状況(例,低い性的自己像),および集中を阻害するものがある。

  • 身体因子には,性器の病態,全身因子およびホルモン因子,および薬物(特にSSRI)がある。

  • 女性とそのパートナー両方を個別に,また可能であれば一緒に面接する。

  • ほとんどの種類の女性の性機能障害の治療には精神療法(例,認知行動療法,マインドフルネス,2つの組合せ[MBCT])を組み込む。

  • 適応があれば,いくつかの種類の女性の性機能障害の治療には薬剤(例,エストロゲン)を使用する。

  • 性器骨盤痛・挿入障害に対する治療の中心である骨盤底の理学療法を推奨し,潤滑剤が必要な場合には女性が使用すべき潤滑剤の種類について話し合う。

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