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羊水塞栓症

執筆者:

Julie S. Moldenhauer

, MD, Children's Hospital of Philadelphia

レビュー/改訂 2020年 1月
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羊水塞栓症は胎児抗原の母体循環への侵入に起因する低酸素症,低血圧,および凝固障害の臨床症候群である。

羊水塞栓症はまれな産科的緊急事態で,妊娠100,000件当たり2~6件の割合で発生すると推定される。通常,妊娠後期に起こるが,第1または第2トリメスターの妊娠中絶の際に起こることもある。

総論の参考文献

  • 1.Clark SL: Amniotic fluid embolism.Obstet Gynecol 123:337-348, 2014.doi: 10.1097/AOG.0000000000000107.

病態生理

長期にわたり使用されてきた羊水「塞栓症」という用語は,血栓塞栓症や空気塞栓で起こるような,主として機械的な閉塞性疾患を示唆する。しかし,羊水は血液に完全に溶解するため,閉塞を起こすことは不可能である。さらに,母体循環に入る羊水中に含まれる可能性のある少量の胎児の細胞や組織片は,この症候群でみられる著明な血行動態変化を引き起こすほどに肺の血管を機械的に閉塞するには小さすぎる。

母体の胎児抗原への曝露は陣痛および分娩中にかなり高頻度で起こっている可能性が高いため,なぜ少数の女性のみに羊水塞栓症が発生するのかは明らかではない。様々な量の様々な胎児抗原が未知の母体の感受性因子とおそらく相互作用を起こすと考えられている。

危険因子

多くの因子が羊水塞栓症のリスク上昇と関連づけられているが,エビデンスは一貫していない。胎児抗原への曝露と同様に,多くの危険因子が一般的なものであるか,少なくとも羊水塞栓症よりはるかに可能性の高いものであり,なぜ危険因子を有する女性のうち少数だけがこの症候群を発症するのか,病態生理学的によく理解されていない。しかしながら,リスクは一般的に以下により上昇すると考えられている:

症状と徴候

凝固障害が子宮および/または切開部位および静脈穿刺部位からの出血として現れる。

子宮の血流低下が子宮弛緩症および胎児ジストレスを引き起こす。

診断

  • 臨床的評価

  • 他の原因の除外

診断は分娩中または分娩直後に以下の古典的三徴が生じた場合に疑われる:

  • 突然の低酸素症

  • 低血圧

  • 凝固障害

診断は,以下について他の原因を除外することにより臨床的に行う:

剖検において,肺循環中に胎児の扁平上皮細胞および毛髪を検出する場合があるが,この所見は診断を確定しない。羊水塞栓症ではない患者から胎児の細胞が検出されることがある。

治療

  • 支持療法

羊水塞栓症の治療は支持療法である。治療には,赤血球(失血の補充に必要な分),新鮮凍結血漿および凝固因子(凝固障害の回復に必要な分)の輸血に加え,換気および循環の補助,必要に応じて強心薬を含む。遺伝子組換え第VII因子はルーチンに使用すべきではないが,他の凝固因子の使用にもかかわらず多量の出血が続く女性には投与してもよい。

即時の鉗子・吸引分娩は母体の転帰を改善できる可能性があり,在胎期間から胎児が生存可能である場合には,胎児の生存のために重要となりうる可能性がある。

要点

  • 羊水塞栓症は,典型的に分娩中に起こり,低酸素症,低血圧,凝固障害の三徴が生じる。

  • この疾患は機械的な塞栓の現象ではないが,おそらく胎児抗原への曝露が母体の激しい炎症反応を引き起こす生化学的反応である。

  • 死亡率は高く,患者は即時の積極的な呼吸および血行動態的補助ならびに凝固因子の補充を必要とする。

  • 在胎期間から胎児が生存可能である場合,急墜分娩は胎児の生存に必要であり,母体の転帰も改善しうる。

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